地の咆哮
ギルド主催の武技大会、第一戦。
舞台は南方の都市、巨大な闘技場に人々の熱狂が渦巻く。
オシャルたち《星風の剣》は、注目の対戦カードとして紹介されていた。
「うわー、なんか注目されてない? 私たち、そんな有名だったっけ?」
「……試合が始まれば、黙るさ」
ゼイドが落ち着いた様子で目を細める。
「ま、こっちの力を見せるにはちょうどいいかもな」
オシャルは腰の剣に手をかけ、静かに気を整える。
⸻
対戦相手の名前が呼ばれる。
「出場者、《星風の剣》オシャル、対するは――《ガンロック・グランベル》。剣士ランキング、十九位!」
観客がざわつく。
「グランベル……! あの“地割の鉄壁”か!」
「真正面からの剣圧だけで岩盤を割ったって奴だろ? クレイジーだな……」
現れたのは、全身を岩鉄のような鎧で覆った巨漢の男。
頭には角付きの兜、背中には大剣ではなく巨大な金属製のハンマー。
「ほう。これが話題の新星、オシャルってやつか」
男の声は低く、地響きのようだった。
「悪いがな、お前みたいな小僧、ここで壁にぶつかっとけ」
「試してみるか。その壁、俺の剣が貫けるかどうか」
ふっと笑って、オシャルが剣を抜く。
⸻
試合開始の合図とともに、グランベルは地面を強く踏み込む。
「《土襲・陣踏》!」
バシュウッ!
周囲の地面が波打ち、衝撃で地形が歪む。オシャルは瞬時に跳び退き、空中で体勢を整える。
「重い一撃……じゃない。地形ごと殺す気かよ」
「剣気なんて軽いもんで俺を倒せると思うな!」
グランベルのハンマーが唸りを上げる。
「《大地の号砕》ッ!!」
ドガァァァン!!
振り下ろされたハンマーが地面に直撃し、爆煙と瓦礫が舞い上がる!
だが――
「……浅いな」
煙の外から聞こえた声に、グランベルが目を見開く。
「なに……っ!?」
風を纏った一閃が、煙を割ってグランベルの胸元に到達していた。
「《風牙・穿鋼》」
ギュオッ!!
渦を巻く風の刃が鎧の継ぎ目を突き、内部の肉体に衝撃を与える。
「ぐ、あぁぁっ!!」
グランベルが後方に吹き飛ばされた。受け身を取ったが、膝が地に沈む。
観客席がざわめく。
「まさか、あの《ガンロック》が……!? 一撃で……」
「いや、直撃はしてない。でもあいつ、確実に中身に届かせてた……!」
⸻
オシャルは、肩で息をしながら剣を構える。
「悪いな。軽い剣でも、届けば倒せるんだ」
「くっ、面白ぇ……! これだからガキの突き上げは油断ならねぇ……!」
グランベルはハンマーを地面に突き刺し、敗北を認めたように立ち上がる。
「勝負あり! 勝者、《星風の剣》――オシャル!」
どよめきと拍手が広がり、オシャルは剣を収める。
「……ふう」
そう呟き髪をかきあげる。
「カッコつけてないで、水飲みなよ。あれ、顔に砂ついてるし」
エムルが観客席から声を掛ける。
「マジで?どのタイミングで気づいてた」
「最初から」
「もっと早く言えよ!!」
「……うるさい」
ゼイドがいつも通りの無表情で割り込むと、エムルはクスクスと笑った。
⸻
控え室へと戻る途中、一人の女性が話しかけてきた。
「ふーん、なるほど。新星にしちゃ、やるじゃん?」
オシャルが振り返ると、そこには見慣れない女剣士の姿。
黒髪をツインテールに結び、くわえタバコで片目を隠したその少女の名は、まだ誰も知らない。
だが、彼女の背にある《十字型の太刀》は、ある噂の証拠だった。
――「剣士ランキング12位、《双閃のキリカ》じゃねえか……!」




