星風、注目される
ギルド本部は朝からざわついていた。
「おい見ろよ、オシャルってやつがランキング三十二位になってるぞ!」
「昨日のディムロスを倒したって話、マジだったのか……!」
人だかりの中心で、オシャルは苦笑いを浮かべていた。
「目立ちすぎて落ち着かねぇ……」
「昨日の戦い、目撃者もいたみたいだしな」
ゼイドがいつもの低い声でぼそっとつぶやく。
「オシャルー!」
甲高い声が響き、栗色の髪を揺らしてエムルが駆けてきた。
「すごいじゃん、ランキング三十二位って! 一気に有名人だよ、オシャル!」
「ありがたいけど、これじゃ気軽にギルド来れなくなりそうだな」
「それもスターの宿命ってやつだよ! ふふん、あたしってば見る目ある~?」
「調子乗るの早すぎるな、おい」
わいわいと話す二人の間に、ひんやりとした風が吹いた。
「オシャルさーん! 祝福に来たのです!」
振り返ると、ギルドの入り口から一人の少女が歩いてきた。
年は十三ほど。白銀の髪が朝日を受けてきらめいている。赤い瞳に、上品なドレス風の服装。どこか高貴な雰囲気すら漂わせる。
その小さな体には似合わない堂々たる足取りで、彼女はオシャルたちの元へと歩いてきた。
「久しぶりなのです、オシャルさん!」
「……あれ? お前は……」
「ミルル、なのです。十剣の一人にして、剣士ランキング八位! 今日は、お祝いに来てあげたのです!」
周囲のギルド員たちがどよめく。
「じゅ、十剣の……!?」「あの白銀の霧使い、ミルルか……!」
「なんか、えらい子来たぞ……」
オシャルはやや顔を引きつらせながら苦笑い。
「わざわざありがとな、でも何で俺なんかに?」
「オシャルさん、凄いのです! 悪名高いあのディムロスを倒すなんて、ただの新人じゃできないのですよ!」
「……あの、オシャル。さっきからこの子なに?」
エムルが耳元で小声で尋ねてくる。
「えっと……ちょっと前に一度会った。なぜか気に入られたらしい」
「ふーん……」
エムルがミルルをじっと見つめる。
「オシャルさん、この人は……?」
「エムル。俺の幼なじみだ」
「なるほど、つまり家庭的な関係、もしくは恋人的な距離感なのですね?」
「どこからその推測出てくんの!?」
「むぅぅ……なるほど、これは手ごわいライバルなのです」
「ライバルって何の!? 勝手にバトル始めるな!」
「えっ、何この子……!?」
エムルが思わず後ずさる。
「……よくしゃべるな」
ゼイドがぽつりと感想を漏らす。
「むっ、そちらの人は?」
「ゼイド。仲間で、剣の腕は確かだ」
「ふーむ……今の《星風の剣》、なかなか良いメンバーなのです。ミルルも入ってみたくなってきたのですよ?」
「今、ちょっとギルドに入りたがる発言したな……?」
「だって、オシャルさんと一緒にいると、面白そうなのです!」
「やばい……この子のテンション、読めない……」
エムルはオシャルの影にそっと隠れるように立った。
すると、奥からギルド職員が書簡を手に駆けてきた。
「《星風の剣》の皆様に、本部からの通達です!」
オシャルが受け取って封を開けると、そこには重々しい筆跡でこう書かれていた。
⸻
『剣士オシャル、および星風の剣一同に告ぐ。
汝らは“統一武技戦”の予備選抜対象者として、正式に認定された。
詳細は追って通達する。準備の上、出頭されたし。』
⸻
「……来たな」
「統一武技戦!? マジか!」
エムルが思わず声を上げる。
「各国の精鋭が出てくる大規模な大会だよ、あれ!」
「予備選抜ってことは……参加するチャンスがあるってことか」
オシャルはその手紙を見つめたまま、静かに拳を握った。
「ふふん、やっぱりオシャルさんはただ者じゃなかったのです。ミルル、ますます気に入ってしまったのですよ!」
「だから、変なテンションやめてくれ!」
「でもさ」
エムルがぽつりと、オシャルの隣でつぶやいた。
「なんか……ワクワクしてきたね」
オシャルは、横でにやっと笑う彼女を見て、ふっと肩の力を抜いた。
「ま、どうせ行くなら一番上を狙うさ」
「へへっ、頼りにしてるよ、リーダー!」
ミルルも笑って手を振る。
「それじゃあ、また会うのです! 次はミルルも、本戦で待ってるのですよー!」
白銀の髪が、霧のようにふわりと宙を舞う。
その背中を見送りながら、オシャルたちは、これから始まる大きな舞台の気配を、ひしひしと感じていた――。




