眼鏡で世界を斬る男、上位剣士ポッケル登場
王都・白銀騎士団訓練場――。
今日は、王立の剣士ランク登録者を対象とした「模擬戦評価日」。
「なんか、変なやつ来る気がする……」
エムルがふと呟いたそのとき、突如現れた声が場を割った。
「やあやあやあ~~! キミが黒鉄の子かい!? おっしゃるくん!!」
「名前違うわ! オシャルだわ!」
風を切って現れたのは、派手な白マントを翻し、メガネをピカピカに磨きながら登場した細身の青年。
登場からすでに全力のボケをぶちかましてくる。
「失敬失敬、私は《メガネ剣士》こと、ポッケル=グリムナイン! 王国剣士ランキング第十五位だよ!」
「思ったより順位上でビビるわ!」
「キミと戦いたくて、朝からメガネ磨いて待ってたのさ!」
「他にやることあっただろ!?」
「いや、メガネは戦友だからな!」
(この人ずっとこんなテンションなのか……)
⸻
◆◇◆
こうして、模擬戦カードは
《第十五位:ポッケル》 vs 《新規登録:オシャル》
観客たちがざわつく。
「ポッケルって“あの”メガネの人か!?」
「前回、あの人、メガネで岩砕いたって噂だぞ……」
「本当は普通の剣使えばAランク以上って言われてるらしいけど、“自分はメガネでいい”って言って拒否してるらしい」
「なんだその哲学……」
⸻
◆◇◆
試合開始の号令と同時に――
「“眼鏡剣技・一ノ式《視界斬》!!”」
光速で投擲されたメガネが地面を削り、風を裂く!
「ちょっと待てやっぱり強いじゃん!!」
「ふふん、これはあくまで“前菜”さ!」
そう言ってポッケルは、予備のメガネを次々とポケットから取り出す。
「“二ノ式・乱視乱舞!”」
大量のメガネを空中で回転させ、ブーメランのように飛ばしてくる!
「メガネの雨ってなんだよ!!」
「これが“視力の暴力”だッ!」
(セリフの意味は訳わからんのに、攻撃精度が高すぎる……!)
⸻
◆◇◆
「じゃあ、そろそろ本気出すよ!」
ポッケルが最後のメガネ――“勝負用”の黒縁眼鏡を取り出すと、空気が一変する。
「“三ノ式・多焦点閃破!!”」
ドオオオン!!
地面が抉れ、衝撃波が走る!
「魔法属性も乗ってる!? 眼鏡ってなんなんだよ!」
だが、オシャルは前を見据えたまま、剣を握る。
「“閃鎖・三ノ太刀――瞬破!”」
ビシィィィン!!
一閃。空気を切り裂く斬撃が、ポッケルの眼鏡を正確に割った。
メガネは砕け、ポッケルは吹き飛ぶ――かに見えたが。
「すばらしい! すばらしいよオシャルくん!!」
ポッケルはふらふらと立ち上がり、ニッコリ。
「メガネ、割れたの何本目だっけ? 今日は6本目か~」
「なんでそんなに持ってきてんの!?」
「やっぱり君、強いな! でも次は“老眼鏡”モードも試してみたいな~!」
「やめとけもう!!」
観客たちは唖然としていたが――
「おい、あいつ……すげぇよ」
「ギャグみたいな戦い方してるけど、本当に強いじゃねぇか……」
「十五位って、あのノリで本当にそこなのかよ……」
⸻
◆◇◆
試合終了。
勝敗はオシャルの勝ち。だが――
「ポッケル、絶対まだ本気じゃなかったな……」
「あの人、“強くなるとバカが悪化する”って言われてるからね」
「何その成長代償システム!?」
ポッケルはメガネを直しながら言う。
「また会おう、オシャルくん! そのときは“遠視モード”で君を倒す!」
「いや、まずまともな剣持てや!!」
⸻
そしてその戦いの後、王都の高台にて。
「ふふ……面白い男が増えたものだな」
その言葉とともに、銀髪の剣士・ヴァロル=リーグスが静かにオシャルの名を口にした。
「剣士ランキングは――近く、荒れるぞ」
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