剣士ランク
ナイール遺跡――。
石像との死闘を終えたオシャルたちは、遺跡からの帰路についていた。
剣を背に、オシャルは時折振り返りながらつぶやく。
「……終わった、のか?」
「んー、もうちょっと宝とかあってもよかった気がするね」
「お前、戦闘中に三回くらい死にかけてたくせによく言うな……」
「いやだって、あれは事故というか~魔法の暴発というか~?」
「それを“事故”って言うんだよ!!」
エムルのドジっぷりに、思わずオシャルが全力ツッコミ。
その横で、エルシアがクスッと笑う。
「でも……この感じ、悪くないわね」
「ん?」
「こうして仲間と笑い合いながら生き延びる。昔は、なかったから」
少しだけ陰のあるその言葉に、エムルがパッと笑顔で返す。
「じゃあこれからたくさん笑っていこう!ね、エルシア!」
「……ふふ、そうね」
ゼイドは黙っていたが、歩幅を合わせるように少しだけオシャルたちの前に出る。
「この空気……何かくるな」
「え、何が?」
「……“報せ”だ」
⸻
◆◇◆
王都・白銀の騎士団本部。
冒険者や騎士の情報が集まる中央機関《戦歴評価局》にて。
「確認されたのか? 本当に“黒鉄の剣”を継承した者が?」
「はい。ナイール遺跡において、討伐済みの記録があります。映像記録石も残されています」
数人の文官たちがざわつく。
「これは、久々の“ランキング登録”案件だな」
「現場の報告書によると……名前は、オシャル・リヴァンス」
「リヴァンス? あのガレン・リヴァンスの……!」
「親子か……面白い。すぐに“剣士ランキング”への仮登録を申請しろ!」
「はい!」
こうして、オシャルの名は――静かに、そして確実に、王国中に響き渡り始める。
⸻
◆◇◆
数日後――。
「……ってことで!」
酒場の掲示板前、エムルが自慢げにオシャルの背中を叩く。
「オシャル、ついに載ったよー!! 剣士ランキング!」
「……載ったって言っても、仮登録枠だろ?」
「それでもすごいじゃん! 普通、訓練学校をトップで出ても届かない世界なんだよ!?」
掲示板には確かに、こう書かれていた。
⸻
【剣士ランキング 仮登録者一覧(更新)】
・オシャル=リヴァンス(新規登録)
分類:C+ランク剣士
詳細:黒鉄の剣の継承者。ナイール遺跡の攻略者。
備考:実戦能力は未評価。今後の観察対象。
⸻
「“観察対象”ってなんだよ……俺、実験動物か?」
「まぁ、言い換えれば注目株ってことじゃない?」
「エルシア、さらっとフォローが上手い」
「……私はBランク剣士だから、あんまり他人事でもないのよ」
「お前、そんなに高かったのかよ!?」
「暗殺者時代の経歴、なめないで」
「こえぇ!」
その様子を横で見ていたゼイドが、ふと口を開いた。
「……この件で、上層部が動く」
「上層部……?」
「“十剣”。奴らが無関心で済ませるとは思えない」
その名が出た瞬間、一同の表情が少し引き締まる。
「ヴァロル=リーグス……あの名前、遺跡の巻物にも出てきたよね」
「最強剣士……今、王国の軍部の実質No.1って噂の人」
「……敵になるとしたら、最悪の部類だな」
「でも俺は――」
オシャルが背中の剣に手を添える。
「俺は、俺の剣を貫くだけだ」
⸻
◆◇◆
その夜。王都のとある高層塔。
「……剣士ランキング、か。やはり現れたな、“継承者”」
窓辺に立つ男――《十剣》第三位、ヴァロル=リーグス。
その姿は影のように静かで、それでいて月光すら避けるような存在感を放っていた。
「父と同じ名を継ぎ、黒鉄の剣を手に入れたか。だが……」
彼が腰に手を当てると、そこには漆黒の刀身を持つ、禍々しい剣がぶら下がっていた。
「“その程度の輝き”で、俺に届くと思うなよ――ガレンの小僧が」
その瞳に、微かに宿る“殺意”と“興味”。
ヴァロルは、ただの敵ではない。
やがて世界が揺れるとき――
この男が、鍵を握る存在となる。




