受け継がれし剣、継承試練。そして《十剣》の影
ズン――ッ!!
大地を砕くような衝撃とともに、巨大な石像が腕を振り下ろす。
「こっち来るぞッ! 全員、散開ッ!」
オシャルの叫びに反応し、仲間たちは素早く周囲へ飛び退く。
「“防壁・重層展開”!」
ゼイドが構えた杖から、三重の魔法障壁が張り巡らされた。
ドォン!
その上から振り下ろされた拳が、障壁ごと地面を叩き割る。
「ぐっ……重い……ッ!」
「ゼイド!? 大丈夫!?」
「問題ない。だが、あれ……通常のゴーレムとは構造が違う」
エルシアが、低く構えながら言った。
「中心に魔核があるわ。見える? 胸部の奥……」
「魔核を破壊すれば止まるってことか?」
「ああ、ただし問題がひとつある」
「なんだ?」
「当たらないと意味がない」
「根本的ッ!!」
⸻
ギュオォォォ――!
石像が両腕を振り回すたびに、空間ごと削れるような轟音が響く。
そのたびにオシャルたちはギリギリで回避を続ける。
「私の火球でどうにか……!」
エムルが詠唱を始める。
「火よ、怒れ、“烈焔の咆哮”!」
――が、飛び出した火球は、石像の肩にかすっただけで、ほとんど効いていない。
「うわああぁぁ!? 全然きかないっ!!」
「火力はあるけど当たらなきゃ意味がねぇよ!」
「うぅ……次こそは……!」
その横で、エルシアが高速で走り出す。
魔力の刃を両手に、足元に魔法陣を転写することで加速。
「《双月斬・裂空》――!」
空気ごと裂くような斬撃が、石像の右腕に走る。
キィィン――!
だが、石の表面は固く、わずかなヒビが入っただけだった。
「耐久値、異常……。通常兵器ではダメ」
「となると……やっぱり俺がやるしかねぇか」
オシャルが、手にした“黒鉄の剣”を強く握った。
剣は静かに蒼く輝き、オシャルの手に心地よく馴染む。
(継承された……この剣には、父の力が眠ってる)
「来いよ、ゴーレム!」
⸻
石像がオシャルに狙いを定める。
左拳を振り下ろし――
だが次の瞬間。
ギンッ!
「“閃鎖・零ノ太刀”」
――一閃。
オシャルが抜き放った剣が、石像の左腕を根元から断ち切った。
「なっ……!」
「切れた!? あれを一撃で!?」
ゼイドの目が見開かれる。
「お前……その剣……まさか、黒鉄の“型”まで……!」
「わからねぇ。でも、これが……“父の剣”なら」
「――俺は、それを超えてみせる」
瞬間、蒼い残光が遺跡の闇を切り裂いた。
二撃目――三撃目。
オシャルの動きはまるで空を飛ぶような軽さと速度で、ついに石像の胸部、魔核の位置へ斬りつける!
「“閃鎖・二ノ太刀――穿閃”!」
ズドォォォン!!
魔核が砕け、石像がバランスを崩して倒れ込む。
重々しい轟音と共に、遺跡内が静寂に包まれた。
⸻
「やった……!」
「本当に、倒しちゃった……」
エムルとエルシアが駆け寄る。
ゼイドも静かに頷きながら言った。
「剣の動き……あれは、“黒鉄流”の奥義の一部だ。君の父、ガレン・ファルクの技術が……確かに宿っている」
「そうか……」
オシャルは剣を静かに鞘に納めた。
その瞬間、遺跡の奥が光り、宝箱がひとつ出現した。
「お、ついにお宝か!」
「中身、開けていいのかな?」
「オープン、オープン!」
パカッ。
中には――古びた巻物と、王国の紋章が彫られた徽章がひとつ。
「これは……“王家直属の証”……?」
「そんなのがなぜ遺跡に……?」
そして巻物には、こう書かれていた。
《黒鉄の剣の継承者へ》
「王国の剣が、闇に染まりつつある。かつての仲間たち――《十剣》を見よ。
その中には、すでに“真実”を見失った者もいる」
――《ヴァロル=リーグス》を、警戒せよ。
「……十剣?」
オシャルが眉をひそめた。
「名前、聞いたことあるわ……。王国直属の、最強の剣士集団」
「その中でも、ヴァロルは“最強中の最強”と呼ばれてる。魔物すら恐れて近寄らないって噂もあるくらいだ」
ゼイドの言葉に、空気が一瞬張り詰める。
「つまりその最強が、“敵かもしれない”ってこと?」
「ああ。……面白くなってきたな」
オシャルが不敵に笑ったその瞬間。
――遺跡の外。王都の離宮。
「……ほう。ついに“継承者”が現れたか」
その声は、鋭く、冷たい。そして美しかった。
銀の髪、整いすぎた顔立ち。
纏う剣気は、ただ立っているだけで空間を歪ませる。
男は壁にもたれながら、小さく呟いた。
「オシャル・リヴァンス。君が、どこまで辿り着けるか見せてもらおう」
――《十剣》・第三位。
ヴァロル=リーグス。
彼が動くとき――王国の運命が、大きく揺れる。
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