①失意からの救済
「そうか………」
フォースィから全てを聞かされたデルの言葉は短かった。
揺れる馬車、静かな場所で正面から登り始めた朝日が幌の隙間をぬって入り込んでくる。デルの顔が半分程照らされると、目を細めながら太陽を睨みつけた。
眩しさで影の背中になっているが、馬車を白凰騎士団のシエンが引き、馬車の周囲ではゲンテの街ではぐれ、独自に王都へと辿り着いたシュベットら銀龍騎士団の生き残りとデルの志に惹かれた者や、貴族へ反感を持つ白凰騎士団の有志達、総勢三十名程が、ある者が用意した食糧、医薬品、騎士団で使われている装備、当面の資金が積まれた複数の馬車、そして荷台に乗る重要人物を警護していた。
その馬車を先導しているのが、かつての騎士団『盾』で副長を務めていた小柄な少年風の騎士だというのが、デルを驚かせた。
彼はデル自身が試験監督として、他の騎士団へと異動させたはずだったが、どこから話を聞いてきたのか、ギュードと共に、この大移動に一役買ってくれたらしい。
時折、聞き覚えのある鳴き声がデルの耳に入ってくる。彼はデルの妻エルザと二匹の愛犬も逃げ遅れないよう手配し、今はデル達が乗る馬車の後方の馬車に乗っている。
「私達は結局、宰相の手のひらの上に乗っていただけなのでしょうか?」
デルの正面に座るバイオレットは、彼よりも先に目を覚ましていたため、フォースィから既に話を聞き終えていた。
それぞれの信念で立ち上がった事までもがクライルに利用され、バイオレットは随分と気を落としていた。
気持ちは分からなくもない。デルはすぐに彼女の言葉を否定できず、また励ます言葉も見つからずに唇を噛んで下を向く。
「それは違います」
短く否定したのは、太陽の光を背中に浴び、金色の髪が輝く女性だった。彼女は普段左右に結んでいた髪を下ろし、汚れてはいるが純白のドレスに身を包んで座っていた。
王女アイナだった。
彼女は酒場の看板娘と同じ色のまま髪を降ろし、寒さの厳しい朝にも関わらず外套を一枚肩にかけるだけで、それでも自然と気風ある姿勢を保ち続けていた。
彼女は落ち込むバイオレットと複雑な表情をつくるデル達を一瞥すると、二人の意思が決して無駄ではない事を力強く唱えた。
「私は貴方達が国を憂いる気持ちで、そして今の貴族のあり方について疑問をもって立ち上がった事を知っています。失敗すれば全てを失う覚悟をもち、自ら挑んだ者達を、どうして誰かの手によって仕組まれたと決めつけられるでしょうか」
アイナは小さな手を握り、自分の胸に当てる。
「もしも、今回の事についてその責を問うのならば、王族の身でありながら現状を打破できず、貴方達に負担と覚悟を強いらせてしまった父と私が負うべき事です。貴方達が気に病む必要は全くありません」
デルからすれば自分よりも一回り近い歳下の、バイオレットからすればほぼ同い年の人間に背中を押される形であった。だが、王族としての言葉はこれ以上になく重く、心強く、彼女の言葉通り自分が間違っていなかったと思える不思議な何かを感じさせる。
「ありがとうございます」
デルもバイオレットも小さく頭を下げた。




