⑤細腕の一撃
撃ち出す事二つ名の如く、七連撃。だが、その全てがクライルの障壁の前で威力を減衰させ、悉くデルの剣は何もない空間で動きを止められていた。
「マスター、二十枚の障壁を失いました」
「―――だ、そうですよ?」
「くっ!」
クライルは未だ一歩も動いていない。悔しさと焦りを抑えつつ、デルは一度後ろへと飛ぶ。
飛び下がるデルの足元からイリーナが低空でクライルに飛び込み、借り物の長剣を両手で握ると、それを背中に張り付けるように反り上げ、大きく振りかぶった。
「せぇぇのぉっ!」
イリーナが一気に長剣を振り下ろす。自分の身長に近い剣が円に近い弧を描き、クライルの障壁をまとめて粉砕する。余りの衝撃の大きさは空気を振動させ、地面の埃や塵、石片が二人を中心に一気に舞い上がった。
「予想以上の一撃です。障壁を全て破壊されたのは初めてですよ」
全ての守りを突破されたにも関わらず、イリーナの剣は地面に届いていなかった。
「………う、うそ」
イリーナが唖然として自分の剣の先を見つめる。
重装オークを両断出来る彼女の長剣は、魔法使いの細腕の先についている細い手の平に収まっていた。
「イリーナの一撃を素手で受け止めるなんて………」
フォースィが息を飲む。
クライルは右膝を上げてイリーナの手首を打ち込み、剣を持つ手を強制的に開かせると、絨毯の上に長剣が落下する。
「エクセル、一番から二番を解放」
「了解です。マスター」
クライルの声に合わせ、彼の両手の空間が僅かに歪む。
「イリーナ、離れなさい!」
フォースィが叫び、咄嗟に詠唱に入る。
イリーナは踵で床を蹴って離れようとするが、既にクライルは彼女の横に追いついていた。
「お願いですから、死なないで下さいね」
彼女の耳元でそう呟くと、クライルは右手を振り上げてイリーナを床に叩きつける。イリーナは彼の拳が当たる前に何かにぶつかったのか、体を床に押し込まれ、複数のガラスが割れる音と共に体を床に弾ませた。
「子供は軽くてよく浮き上がる」
「ハイプロテクション!」「間にいませんよ」
フォースィが咄嗟にイリーナに障壁を展開させるが、彼の握られた左手が障壁ごと直線上に撃ち抜く。
先程と同様に、クライルの左手では高い音と共に空間が砕け、そのままイリーナの横腹に拳が深く沈んだ。
イリーナはバイオレットが隠されている石柱に背中を叩きつけられ、そのまま力なく落下。呻き声を数度吐くと、ゆっくりと気を失った。
「終わりです」
「馬鹿野郎、まだだ」
デルがクライルの背後に回っていた。




