③依頼
「良く分かったな」
ギュードは右隣の席を手で誘う。
女性が静かに指定された席に腰掛ける。
「悪いけれど、冗談は余り好きではないわ。黒髪でいつもカウンター席の端に座り、目立つ服を毎日身に纏っているのは誰にでも気付けるようにする為ではないの? 今時田舎の不良でもそんな恰好はしないわね」
「成程。確かに冗談は好きではないようだ。第一印象は最悪だから割引は効かないぜ」
ギュードが目を合わせないまま鼻で笑う。そしてオーナーに視線を送ると、彼は慣れたようにその場を離れていく。
「何か飲むかい?」
「結構よ。話を済ませたらすぐに戻るように言われているの」
故意かどうか、女は随分と素っ気なかった。だがこの時点で、彼女は依頼主ではない事を自白している。使いの者としては三流以下という情報が付加する。既にギュードの中では、依頼主が彼女と同程度の人間か、敢えてそう言った人間を派遣した人間かの二択に絞られていた。
「単刀直入に伝えるわ」
「どうぞ」
ギュードも興味がなさそうに食事を続ける。
「今夜、この指定された場所に来なさい。依頼はそこで話すわ」
女性は袖の下から小さな紙きれを取り出し、ギュードの食器の下に挟ませた。
「ここで言えない話か? 冗談じゃない。そんな危ない話に俺が行くとでも?」
誰がどう聞いても、まともな話ではない。依頼に見合った金額であれば基本的に引き受けるが、自分の命に関わる話であれば別である。ギュードは再び鼻で笑ってみせた。
「帰りな。お前さんじゃ役不足だ………恐らく依頼主も上手く俺を呼べるとは思ってないだろうさ」
「………何の事か分からないわ」
「んじゃ、後ろの男達にでも聞いてみるかい?」
ギュードは親指を右後方の席で食事をしている三人の冒険者達に向けた。
「一体何の話をしているのかしら?」
「お前さんの交渉が上手くいくか、しっかりと見張っているよ。体格の割に酒も食事の進みが遅すぎる。冒険者の身なりにしては会話も少ない。ここじゃぁ異質の奴らさ」
「そんなはずは―――むぐっ」
後ろを振り返ろうとした女性に、ギュードは女性の口に酒の入った木製のジョッキを無理矢理当てがった。
女性がギュードからジョッキを奪うと、それを口から離して前屈みになる。
「………私は一人で来たわ」
「んじゃ、あんたが知らないだけだ」
ギュードはカウンター前で皿を拭いているオーナーに、同じ酒を二人分注文した。
そして彼が酒の入ったジョッキを持ってくると、ギュードは何気ない顔で尋ねる。
「オーナー、最近新しい顔が増えてきたって聞いたぜ。商売繁盛だな」
そう言ってギュードはもう一度親指で後ろの三人組を指す。
「―――そうだな。増えてきたのは良い事だが、商売としちゃぁイマイチだな。また良い情報があったら教えてくれ」
「ああ、任せてくれ」
話が終わり、オーナーは元の位置に戻ると拭き終えた皿を片付け始めた。
「………一体何の話?」
「俺の話が間違っていなかったという話だ」
本当にこの女性は何も知らないらしい。ただの使い捨てか、ギュードは女性に尋ねてみる。
「一つだけ聞きたい。依頼主は俺の事を恨んでいる人種か?」
「どういうこと?」
「そのままの意味だ」
女性は数秒程黙ると、首を小さく左右に振った。
「そうか………」
ギュードは少し間を置いて情報を整理する。
「分かった。その依頼を受けよう………依頼主には俺が会いに行くとだけ伝えてくれ」
「分かったわ」
女性は口を付けた酒代だけ置いていくと、店を後にしていった。
「さてさて、どうしたものかな」
面倒な事は間違いないと確信したギュードは、新しく出された二人分の酒を一気に飲み干すと、溜息をついて二階の宿部屋へ戻る事にした。
「で? ギュード、どうするんだ?」
すれ違いざまにオーナーが茶化してくる。
「女に恨まれるのは怖いから、受ける事にしたさ」
ギュードは片手を左右に振って笑い返した。




