⑩人形の紐は誰の手に
「面白い展開になったじゃないか。でも、私はどちらにも味方しないよ? 私は個人ではなく、王国騎士団そのものに忠誠を誓っているからね………こいつもいつも通り、どっちにもつかない」
マイヤーが目を輝かせながら笑みを浮かべ、デルとイーチャウの二人を見つめる。こいつ扱いされた騎士団『翼』の団長も、静かに首を縦に動かしただけだった。
「………バイオレット殿はどう考える?」
苛立ちを抑えようと、顔に手を当てるイーチャウが、最後の一人を指名する。
新任でありながら、騎士団『盾』の団長だったタイサを陥れて追放し、かつイーチャウの息のかかった人間である彼女に全てが委ねられた。
思わず立ち上がっていたデルも、沈黙を続けていた彼女を凝視する。
バイオレットが手を上げれば全てが終わる。
そして彼女は無言のまま腕を高く掲げた。
「そう。それでいい」
イーチャウは額の汗を拭い、大きく息を吐いて勝者の顔に戻った。
力が及ばなかった。
自分の中にある正義は、世の中を穿つ雫の一滴には至らなかった。デルは無念の中、静かに視線を落とし、テーブルの下で拳を握り締める。
最大の脅威が諦めた姿を見たイーチャウは安堵し、敗者から視線を外した。
「では、デル殿の弾劾発議は不成立に。王女殿下への責任追及は過半数で通過する事に―――」
「待ってください」
イーチャウの言葉が再度遮られる。
言葉を放ったのは他でもない、手を上げたままのバイオレットだった。
「………何かな、バイオレット殿」
早く決議を取りたかっただけに、イーチャウは明らかに不愉快な表情になる。
「私が手を上げたのは、王女殿下への責任追及に賛成する為ではありません」
そしてバイオレットはデルの顔を見た。
「………私はデル団長の弾劾決議に賛同を示します」
「バイオレット! 貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
思わずイーチャウが我を忘れて立ち上がり、彼女を指さして激しく声を上げていた。
「バイオレット………君は一体」
突然の福音にデルは目を大きくして驚き、彼女を見つめる。
彼女は姿勢を崩さずに淡々と、しかし力強く声を張り上げた。
「茶番はもう沢山です。王女殿下やタイサ団長………いえ、隊長だけでなく、正しくあろうと意思を貫く人達を偽り、騙す事には、これ以上耐えられません」
バイオレットは座ったままイーチャウを睨みつけた。
「我が家に対しての個人的なご厚意には感謝致しますが、私は隊長からお預りした騎士団『盾』の団長として、その責務を果たさせていただきます」
バイオレットの言葉に、イーチャウは息を吸うように何度も声にならない高い音を上げていた。




