④考えうる選択肢
「………先日の報告と概ね同じですな」
騎士団『魔』の団長レジハーザが硬い皮膚と白い無精ひげの生えた顎をさすりながら溜息をついた。
「とはいえ、具体的な報告はヴァルト卿のみ。後方支援を担当していた両団長が、実際に見た訳でもない」
『牙』の団長ジェールがついに腕を組む。先日ヴァルトが報告した内容も突拍子もないものばかりだったが、デルの報告もそれに負けずに、想像できない世界でもあった。
「正直な話、二人が嘘をついているとも思えない。だが、俺の人生の中では経験した事も想像した事もないものばかり。判断しかねるというのが俺自身の感想だ」
言葉を選びながらジェールが腕を組んだまま、指を額に当てる。
「ええ、私も戦うまでは同じ考えを持っていました」
デルは彼の悩みに同情した言葉を送る。
「ですが、これが現実です」
続いた言葉に、ヴァルトだけが小さく頷く。
会議室の空気が静かになる。今まで蛮族の事を蔑んでいただけに、誰も積極的な発言や意見を出せなくなっていた。
そこに王女の隣に立っていたクライルが一歩踏み出し、口を開ける。
「デル団長。戦ってきた者として、今後どのような対応が求められると思うか? 率直な意見を述べて欲しい」
彼の鋭い眼光を浴びつつ、デルは再び立ち上がった。
「単純に言えば、戦うか交渉するかの二つです」
提案された選択肢に、王都に残っていた者達が騒めく。
デルは雑音を気にする事なく、話を続けた。
「戦うのならば、シモノフの大関所跡を再び関所として修繕し、魔王軍の侵攻を止める橋頭堡とします。こちらが有利であればそのまま進軍し、ブレイダス、ゲンテの奪還へと進めます」
一方、と付け加える。
「魔王軍を名乗る蛮族達は明確な目的をもち、非常に組織化された集団でした。また77柱と呼ばれる幹部級の魔物達は、言葉が通じるだけの知性があり、話し合う事も不可能ではありません」
「話し合う? 馬鹿馬鹿しい、相手は蛮族だ。生の肉を食らい、臭い布を纏い、欠けた剣で我々から文明と命を奪う忌避すべき奴らだ」
イーチャウが話にならないと鼻で笑い、さらに両手を天井に向けた。
「王都の民達の姿を見たか? 蛮族に負けて情けないと、恥ずかしいと我々を見る目を。蛮族に大切な者を奪われた悲しみと憎しみを!」
イーチャウは拳を机を叩きつけ、国民に何と説明すればよいのかと、感情を剥き出しにして声をあげる。
「王国騎士団始まって以来の大失態だ!」
そんな事はここにいる全員が分かっていた。ただ一人、彼だけが声に出して騒いでいる。
『剣』か『翼』の団長辺りで、小さな溜息が聞こえてきた。




