⑩彼の仕業か、それとも………
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「一体どういうことか説明してもらえるかしら」
いつもと同じ服装で、同じ場所で食事を進めていたギュードの隣に、フードを被ったクロムが勢い良く座ってくる。彼女の表情はフードで上半分が隠れているものの、唇を噛んで震えを抑えていた。
「は? 何の事か分からないね」
それでも彼は彼女の感情的な言葉を流そうと、そのまま塩のかかった生野菜の葉を頬張る。
「くっ」
顎を引き、大声を出す事に耐えるクロム。そして額の汗で絡み付いた髪を捲し上げると、大きく息を吐いて思考を回し直す。
「………街で広まっている噂の事よ」
「王国騎士団が蛮族に惨敗したって話か? 悪いがそれは無関係だ。俺の仕事じゃぁない」
いくら何でも東部方面から逃げてきた人間全員の口を塞ぐ事など、出来るはずもない。事実はいずれ漏れると、ギュードはフォークを持つ手を止めた。
「違うわ。王国騎士団や王女殿………むむぅ!」
声が大きくなった彼女の口に、ギュードは酒の入ったジョッキを当てで言葉を封じる。
「阿呆か。ここをどこだと思っている? やっぱりお前は口も三流だ………ったく、それでも隠密の端くれかよ」
格上のギュードの監視役を務めて十日以上。何度もギュードの姿を見失いながらも、努力と拙い技術によって彼女なりの仕事を果たしてきたようだが、感情的な所は相変わらずだとギュードが溜息をつく。
「………王都に王国騎士団への不満や、王女殿下への批判的な風潮を広めたのはあなたでしょう?」
王国騎士団が蛮族に負け、街を失ったという不安とは別に、王都に漂い広まる不穏な空気がもう一つ存在していた。
格下の蛮族に負けた王国騎士団への無能さ。それを放置し、かつ今回の遠征を実行に移した王女への不満の声が確実に広まっていたのである。
その声は住民だけでなく、騎士の家族もまたその中に含まれている。
「………俺だけじゃない、とまでは答えておこう」
ギュードはソーセージが刺さったままのフォークを口の手前で止めると、クロムの前で頬を緩ませた。
だがすぐに食事を続ける。
「それで? むぐ、何しに来た」
「あなたの行動は、私の依頼主の意思から外れています」
クロムは後ろに座っている冒険者の顔を確認してからギュードに顔を近づけ、小声の中では最も強い口調で警告した。
「このままでは住民達の不満の矛先が、王国そのものへと向けられてしまいます」
「それは俺の知った事ではないな」
ギュードは王国騎士団や王女、そしてこの国の未来に興味がまったくなかった。
「俺の行動は理解しているのだろう? ならば俺が基本どんな依頼でも受ける事は知っているはずだ」
「………それは」
ナプキンで口を拭くギュードの言葉に、クロムは何も言えなかった。
「それと、今のお前の言動や行動は、依頼主から命じられた事か?」
その問いにもクロムは視線をずらし、沈黙という肯定で返す。
「なら、依頼は継続中だ。もしも俺の行動を見極めたいのなら、自分で調べたらどうだ? それこそお前の仕事だろう」
ギュードはズボンのポケットから食事の代金をカウンターの上に置くと、そのままギルドを後にしていった。




