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魔界に咲く花

作者: 昼月キオリ

〜魔界に咲く花〜

シア

魔界でも名の知れた盗賊


ダン

シアの仲間


ガラム

シアの仲間だった男


クラナ

魔力は弱いが治癒能力を持つ



ー魔界ー


盗みにおいて価値が高いものほど血が騒ぐものだ。


ダン「おいシア、今日は豊作だな」

走りながらダンが話しかけてきた。

シア「いつもだ」

ダン「フン」


俺はこのまま死ぬまで盗賊として暴れ続けるだろうとそう思っていた。

あの日、クラナと言う女に会うまでは・・・。


ある日、俺は珍しく傷を負い、団員と別れた後に

洞窟で休もうとしていた時の事。

入口に入ってすぐに誰かがいる事に気付いた。

シア「誰だ!」

暗闇から顔を出してきたのは一人の女。

クラナ「!あなたは・・・」

シア「俺を知ってるのか?」

俺は怪訝そうな顔をしていたと思う。

こいつちっとも妖力を感じない。殺気も感じないし

まぁそれならわざわざ手にかける事もない。

クラナ「あなたは有名だから」

シア「そうか」

クラナ「あ、怪我・・・」

クラナはシアの脇腹から血が出ている事に気付く。

その女が触れようとした瞬間俺はその手を振り払った。

シア「俺に触るな!」

クラナ「ごめんなさい、でもあまりにも酷い傷だから・・・」

シア「これくらいなんとも・・う"・・・」

クラナ「お願い、直接触らなくても治せるから・・治療させて」

その女が手をかざすと傷ひとつ残さず完治した。

治癒能力が相当高いらしい。

クラナ「これでもう大丈夫ね」

その直後に気付いた。女の腕から血が滲んでいた。

シア「おい、お前こそその怪我とっとと治したらどうだ?」

俺より先に自分の傷を治せばいいものを。

俺がそう言うと自分の傷にさっきと同じ力を使った。

だが傷は一向に治る気配がない。

シア「どう言う事だ」

クラナ「私の持っている力は自分には使えないのよ」

それを聞いた俺は洞窟を出る時に持っていた笛をその女に渡した。

クラナ「これは?」

シア「何かあったらその笛で俺を呼べ

仮は返す」

シアはそれだけ言うと去っていった。



彼の事はずいぶん前から知っていた。

自由に大地を駆けていくあなたの姿を私はずっと見ていたから。

この笛を吹いたらあの人は・・・来ないわきっと

だってあの冷徹で有名な"シア"なのよ?

私なんかの為に来てはくれない。

それに、仮に来てくれるとしても吹けないわ。

だってあの人が危険な目に合うと分かっていて

呼べるはずがない。



「お嬢ちゃんこんなとこで何してるのかなぁ?」

1人でいるところに声をかけてきたのはいかにも柄の悪そうな妖怪。

「退屈してたんだ、ちょっと付き合えよ」

強引に腕を掴まれ必死で抵抗する。

クラナ「嫌よ離して!」

「大人しくしろよ」

私は覚悟を決めてぎゅっと目を瞑った次の瞬間。

「いだだだ‼︎何だテメェ!」

後ろからその妖怪の腕を掴んでいるのは・・・。

クラナ「シア・・・」

嘘、だって笛を吹いていないのにどうして?

シア「とっとと失せろ」

シアは睨みを効かせて言い放った。

「わ、分かったよ‼︎」

相手の男は血相を変えて逃げ出す。

シア「おい女、何故笛を吹かなかった

俺が来ないとでも思ったか?」

シアは怒り混じりの声で聞いた。

クラナ「正直、来ないと思ったわ

何より危険だと分かっているのにあなたを呼びたくなかった」

シア「はぁ・・・お前は俺の心配をする暇があったら自分の心配をしろ

妖力だってほとんどない上に傷もまともに治せんのだろう」

意外だわ。シアが私の心配をしてくれているなんて。

クラナ「・・・」

シア「たまたま近くを俺が通ったから良かったが

次からはちゃんと吹け」

クラナ「え、次って・・・」

シア「!?」

何を言ってるんだ俺は...もう今ので一度助けたんだ

仮は返した。

それで終わりにすれば二度と会う事もないだろうに。

シア「・・・その笛はお前にやる、俺にはもう必要ないからな」

クラナ「じゃあお守り代わりに持っている事にするわ」

シア「ああ」



あれから何日か経った。

私は1人で食料を取りに森の中に来ていた。

ガラム「あれー?その笛、ひょっとしてシアのじゃん、俺あいつに恨みあんだよねぇ

だからお前には囮になってもらうわ」

私はあっという間に気絶させられた。


クラナ「う・・ここは・・・」

ガラム「よう、目が覚めたか、ここは俺達のアジトってとこかな」

周りには数人の妖怪がいた。

クラナ「!」

笛がない・・・。

ガラム「お探しの物はこれかなぁ?」

ニヤニヤしながら質問された。

クラナ「返して!」

ガラム「へっへっへ、これ吹いたらあいつ来るかなぁ?なんてったっていつも持ち歩いてたしなぁ」

いつも...?だってあの時もう必要ないからって・・そんな大事なものだったの?

クラナ「吹いてもあの人は私なんかの為に来ないわ」

ガラム「ケッ、そんなの吹いてみなきゃ分かんねーよ」

ピィーーーと笛の音が鳴り響く。

シア、来てはダメよ。来たら殺されるわ...。


笛の音だ。

だがあいつはきっと吹いていない。

お前に何かあったな。

シアは猛スピードで笛の音が鳴った方角へ走った。


ガラム「ようシア、やっぱ来たな」

シア「ガラム、どう言うつもりだ?」

ちらっとクラナの方を見る。

クラナ「シア、どうして・・・」

シア「お前は大人しくしてろ、心配はいらない」

私は小さく頷いた。

ガラム「つっても女はこっち側にいんだぜ〜?しかもこの人数でお前一人...」

男が最後まで言い終わる前にシアは一瞬のうちに数人の妖怪をすり抜け斬撃で倒すとガラムの懐へと飛んだ。

周りにいた妖怪は次々と倒れていく。

ガラム「な⁉︎」

シア「お前は自分の力と計画を過信し過ぎている

だから俺は切り捨てたんだ」

そう言うと同時にガラムを倒した。


シアはクラナの元へ近付く。

シア「怪我は?」

クラナ「大丈夫よ」

シア「すまない」

クラナ「どうしてあなたが謝るの?あなたは私を助けてくれたわ」

シア「笛が俺のものだとガラムが気付いたから狙われたのだろう?軽率だった」

クラナ「私が弱いのがいけないのよ、笛がなくても狙われていたわきっと

それよりも・・ねぇ、シアこの笛本当は大事なものなのでしょう?それなのに何故私にこの笛を・・・」

シア「何故大事だと」

クラナ「あのガラムって人が言っていたのよ、シアがいつも持ち歩いてたって」

シア「フン、あのお喋り」

不貞腐れた様子でシアは言った。

シア「それより、お前だけ俺の名前を知ってるのは気に食わん、お前の名は?」

クラナ「クラナです」

シア「クラナか」

そして彼はまた私の前から消えた。



シア「今回はかなり危険を伴うだろう、覚悟しておけ」

今日盗みに行く場所には妖力が強い連中が沢山いる。

闇雲に盗みに行けばこちらが痛手を追う事になる。

盗んだ後、最短距離で逃げれる通路へ。

だがおかしい。追っ手が来ない。

ダン「どうしたシア」

シア「おかしいと思わないか?追っ手が1人も来ない」

ダン「確かに妙だな」

団員「あぁそれならさっき女...」

その言葉を聞いた直後に立ち止まり俺は胸ぐらを掴んだ。

シア「今何て言った!貴様、クラナに何をした!」

団員「いや、最近シアの近くをうろちょろしてる女を利用すれば今回の盗みは上手くいくと思ってよ・・」

シア「あいつに何て言った?言え!!」

物凄い剣幕のシアに団員は素直に白状した。

団員「シアがこの場所に来るようにって・・・」

胸ぐらを掴んでいた手をシアは離した。

シア「おいダン、そいつを始末しておけ」

ダン「了解」

シアはクラナがいるであろう場所へと向かった。


お前はまた俺のせいで・・・頼む、無事でいてくれ。


たどり着いた時には遅かった。

クラナは血だらけで倒れていた。その周りにはまだ俺達を襲うはずだった連中がいる。

シア「貴様らぁ‼︎!」

シアは怒りのままにその場にいた連中を皆殺しにした。

シア「クラナ!しっかりしろ!」

クラナ「う...シ、ア...」

致命傷にはなんとかならずに済んでいたようだ。

シア「ホッ...すまない、また俺のせいで...」

クラナ「私、分かっていたの...あなたは来ないって

あの男は嘘をついていると・・」

シア「それなら何故来た⁉︎こうなる事くらい容易に分かっただろう?」

クラナ「あなたに危険が迫っていると分かって、居ても立っても居られなくなくて・・

あなたの役に立ちたかったの」

シア「何故、そこまで俺にこだわる?」

さっきまでとは違い優しい口調でシアは聞いた。

クラナ「あなたを・・好きでいたから

あなたは知らないでしょうけど、私、ずっとあなたの事を見ていたの

自由に大地を駆けていくあなたを遠目で見ては憧れてたわ

だからあの日あなたに会えて嬉しかった

ずっと話したいと思ってた人に会えたんだもの」

シア「お前・・・」

そこまで聞いたシアは倒れていたクラナを抱き抱えた。

クラナ「シア?」

シア「大人しくしていろ」

シアに運ばれている途中、私は意識を失った。



クラナ「ん...」

目が覚めた私にシアが声をかけた。

シア「安心しろ、ここは俺の家だ」

クラナ「ありがとう・・」

すぐに家を出ようとする私をシアは引き止めた。

シア「おい、どこへ行く」

クラナ「もう手当ては済んでるのでしょう?これ以上迷惑はかけられないわ」

シア「ダメだ、そんな状態で行かせる訳にいかん

傷が治るまでここでじっとしていろ」

傷が治るまでってだいぶかかると思うんだけど...。

シア「お前、家は?」

クラナ「ないわ、いつも木の上で寝てるから」

シア「そんなんでよく今まで生きてたな」

シアは呆れ顔で言った。

クラナ「自分でも不思議よ」

シア「それなら傷が治った後もここにいればいい」

クラナ「え?」

シア「お前はすぐ訳のわからん奴に狙われるからな」

クラナ「でも、さすがに恋人でもないのに同じ家に住むなんて・・・」

シア「なら俺の女になれ」

クラナ「え」

シア「まさか好きだと言っておいて嫌だとは言わんだろう?」

クラナ「わ、私は嬉しいけれど、本当にいいの?」

シア「俺が良いと言ってるんだ」

クラナ「じゃあ...これからよろしくお願いします」

シア「フッ、なんだそれは」

シアってこんな風に笑うのね・・。

ギシッとクラナが横になっているベッドへシアが近づく。

シア「怪我が治ったら抱いてやるからとっとと元気になれ」

頬にシアの手が触れる。

クラナ「え、ちょっとシア?」

クラナは顔を真っ赤にしながらぎゅっと目を瞑った。

するとおでこを指で弾かれた。

クラナ「いった・・・」

シア「おい、そんな死にそうな顔をするな冗談だ

しばらくは手を出さないから安心しろ」

シアはそう言ってすぐそばに座った。

あら、シアって冗談も言うのね・・。

話せば話さすほど新たな一面が見つかる。

シア「何笑ってる」

クラナ「シアは冷徹で恐ろしい盗賊だなんて言われているけれど

本当はこんなにも優しいのね」

シア「優しくしてるつもりはないがな」

クラナ「いいのよ」



俺はその日から盗賊をあっさりと辞めた。

周りは皆反対したがダンだけはこうなる事を予想していたようですぐに納得した。

あいつは昔から妙に察しが良かったな。


俺はクラナを連れて魔界の中でも争いが極力少ない場所へと移った。

魔界の中でも花が沢山咲いている場所。

クラナは花を見ては嬉しそうにしている。

俺がクラナの方を見ている事に気付くと振り返ってニコッと笑った。

魔界でこんな穏やかな日を過ごせるなんて思わなかった。

案外悪くないかもな。

クラナははしゃぎ過ぎて足をつまづいて転びそうになっていた。

クラナ「きゃ!?」

シア「おい、大丈夫か?」

ガシッとシアの腕に包まれる。

クラナ「ええ、ありがとう、少しはしゃぎ過ぎたわね

シア「全くだ、花ごときでよくそんなはしゃげるな」

クラナ「だって好きなんだもの」

シア「とにかく、怪我をしないように加減してくれ」

クラナ「シアって意外と過保護なのね」

シア「かほ、ご・・だと?」

クラナ「そうよ、私だって妖怪よ?少し転ぶくらい平気よ」

シア「ほう?この前、寝起きで転んで足を擦りむいていたくせにか?」

クラナ「ギクリ」

シア「その前は階段から」

クラナ「もう、シアってば意地悪ね・・・」

シア「意地悪ではなく事実だろう・・・頼むから俺の側から離れないでくれ」

クラナ「ふふ、分かったわ」


心配しているからなどただの口実だ。

本当は俺が離れたくないだけなんて口が裂けても言えない。


シア「じっ・・・」

クラナ「?どうしたのシア」

シア「俺には花を愛でる趣味はなかったはずだったんだがな」

クラナ「あら、シアも花に興味があるの?シアはどの花が好きなの?」

シア「さあな」











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