冷たい息吹3ー3
堀澤さんが身を乗り出して尋ねました。
「いるってどういう意味ですか?」
「数が多いってことです」
「何人いるんですか?」
「隣の部屋には1人ですが、こっちの部屋には3人います」
「……うわぁ」
先ほどまで意地の悪い笑みを溢していた先輩の顔から、見る見るうちに余裕がなくなっていきました。
堀澤さんは抑えた声で畳み掛けるように尋ねます。
「いま、どこにいるんですか?」
黒部さんはほんの少し間を開け、後ろを指差しました。
私にはその間が、黒部さんが言い淀んだように見えました。
「あの窓の隅に2人」
黒部さんが指を指した先は、出入口から対角線の位置で、部屋全体が見渡せる場所でした。
「あそこから部屋にいる人たちをずっと見てる。だからぼくはこの部屋に入ってから顔を上げないようにしてる」
そういえば黒部さんはこの会話をしているときでさえ、弁当から1度も目を離していません。
「やばぁ……」
先輩は食欲を失ったらしく、箸を置いてしまいました。
私も全身に鳥肌が立っていて、食事どころではありません。
「あと、1人は?」
堀澤さん、それ以上は聞かないでください。
そう思いながらも私もあとのもう1人が気になっていました。
「ずっとうろうろしてる」
「「「え?」」」
みんなが一様に疑問符を浮かべました。
「なんで俺の方見るんですか?」
顔を上げないと言っていた黒部さんが私の目を見ていました。
「いや……別に」
黒部さんは私から目をそっと外し、食事を再開しました。
「いやいや……えぇ……」
誰に言うわけでもなく、その事態に思わず声を出していました。
いまのどういう意味?
「あの、黒部さ……」
そのとき、うなじをひんやりとした風が吹き抜けるのを感じました。
私の後ろには窓はありませんでした。
おわり