第89話 下剋上
章割りをさらに幕割りしてもなお、ボリューム壮大すぎる第3章です。
「とりあえずゴレグからじゃね?」
「だってさ。 行ってきたら?」
「おうよ!」
ゴレグは2メートルを超える大剣を片手で軽々と支えながら高所から落下。 残りの二人はニヤニヤとその様子を眺めている。
(一人で十分だと判断してるってことは、コイツらはどう考えても自信のある奴らだよな……)
「やる気かよ……」
(怖いけど、化け物連中に対する恐怖感とはちょっと違う気がする。 未知の気持ち悪さみたいなものは無い感じだ。 あとはナール様が付いてるってのもあるか。 それでも面倒なことは変わらない。 ああもう、なんでこうも立て続けに問題が起こるんだよ、クソが)
ゴレグが地面に着地し、石畳がその重量によって大きく砕けた。
(ただの落下でこれか? どんだけ重いんだ?)
ゴレグは着地の動きに乗せて膝を屈め、身体を丸く縮める。
(来──)
「ハァッ!!!」
気づけばゴレグの影が覆い被さり、振り下ろした刃がハジメの頭部ギリギリで止まっていた。
「ぅおッ!?」
ハジメは思わず仰け反った。
直後、刃が大きく跳ね上げられた。 大剣は遥か後方へ弾き飛ばされている。
「「……え?」」
お互いに困惑し、二人してその軌道を見つめる。
一瞬先にゴレグが正気に戻り、大剣のある後方へ飛び退った。
「えっと、何が起こった……?」
ハジメが半ば呆けていると、上からヤジのような声が降り注ぐ。
「何してんだゴレグ。 てめぇが決めれねーなら誰が決めるんだよ!」
「ほら、そいつ鈍いじゃん。 さっさと剣拾って殺しちゃいなって」
「黙っていろ!」
(仲が悪いのか? そこが付け入る隙か?)
「っで!?」
ハジメがゴレグに視線を移した瞬間、投擲物が視界に入った。 これはマリビが放ったもので、これもまたハジメの眼前で停止した。
ハジメは反射的に身構えたが、どうにも反応が間に合っていない。 そんな彼の目の前で短剣は歪に折り曲げられ、弾けた破片すらも超圧力で圧壊。
(……あ、あぶねぇ。 《強化》を噛ましてなかったら終わってたぞ……)
「この俺の邪魔をするんじゃない!」
「マリビ、なにやってんだ?」
「あっれー? どう考えても初心者の動きなのに、ゴレグもアタイも届いてないね。 多分あの表面の魔法かな」
「全然中級の雑魚じゃねぇじゃん。 お前ら判断間違ってんぞ」
「何もしないで口だけとかキモすぎ。 総合的には雑魚でしょ。 そんなに気になるなら、あなたが一発入れてきなよ」
「いや、あの防御力は面倒だろ。 素手だとキツそうじゃん」
「じゃあそこで黙って見てなよ。 ゴレグもあの調子じゃどうせ無理でしょ」
「馬鹿にするな!」
(コイツらに強調とかは無いのか? 仲間連中だと思ってたけど違うっぽい?)
未だ高い拍動を続ける心臓に停止命令を下しながら、ハジメは敵の考察を行う。 とはいえ、相手はハジメの能力を一つ一つ丸裸にしようとしており、一方ハジメは思考しているだけだ。 どこかで動かなければ、魔法によるリードを守れなくなってしまう。
(コイツらが魔法使いじゃ無いことは分かった。 いや、隠してるだけかもしれないけど、そこまで考えたら動きが鈍る。 そもそも《歪虚》のせいでスムーズな動きが難しいのに、これ以上足を止める要素は省くべきだ。 まずはコイツらが魔法使い相手に強く出られる要因を探す……)
「《過重弾》」
ハジメが魔弾を準備していると、剣を拾い上げたゴレグが動き出しつつあった。
(マリビって女が後衛として厄介だな。 あの痩せ男は慎重を期すタイプだから、時間をかけてると色々バレていくだろう。 目の前の巨漢は、なぜか《歪虚》を貫通してくるから意味わからん。 上に行っても使徒がいるだけだし、コイツらを処理しないことにはエマは探せない。 多少痛めつけるくらいは覚悟しないといけないな……)
「《過重弾》……ッ!」
ハジメは人間相手に魔弾を向けることに抵抗を覚えながら、魔弾の一つを抱えたまま二発目を投射。
ゴレグはハジメの魔弾を見ても、大剣を眼前に構えて走り出した。
(単純脳筋かよ。 それで勝てるつもりか!?)
ハジメの脳裏に、ゴレグがぐちゃりと崩れる様が浮かぶ。
「おい、お前! 避け──」
ゴレグは刀身の面を身体の前に構え、どっしりと攻撃を受ける態勢を取った。
魔弾が刀身に触れ、着弾とともに一瞬で起動する。
「フゥンンンンッ!!!」
「──なに……!?」
爆発的な広がりを見せる魔弾。 しかしその広がりは刀身を飲み込まず、表面を押さえつけられた風船が膨張する様な動きを見せた。
「ぐぬ、ぬ……ッハァ!!!」
ゴレグが魔弾の拡散波動を膂力で押さえつけ、なおかつ大剣を大きく振るうことでこれを弾き飛ばした。
「はぁ!?」
「この俺に魔弾など……効かぬ! 死ねええええ!」
魔弾が最大効力を発揮する直前、膨張の最中に差し込まれた異物に抗うことができなかった。
ゴレグの踏み込みにより石畳が砕け、またもや彼はハジメの眼前に一瞬で移動。
ハジメは急いで地面を蹴った。 しかしゴレグはそれさえも読んだ上で、移動先のハジメの目の前にいた。
あまりにも接近したゴレグの重圧に、ハジメは気圧された。 すでに心の戦いで負け始めている。
「こい、つ……!」
「ハァッ!!!」
(逃げ──)
ゴレグは大剣を真っ直ぐ頭上に振り上げている。 繰り出されるのは、後先を考えない縦一文字。
(──るのは無理だ……!それなら──)
ハジメは両手を眼前に突き出した。 これはゴレグを信頼した上での行動。 彼が小細工を仕掛けてこないだろうという絶対的な期待からの対応だ。
ハジメは、全身を覆う空間リソースを一旦頭部と腕のみに集中。 振り下ろされるであろう大剣をそのまま包み込むような形で空間を置いた。
案の定、大剣はハジメの望んだ通りの軌道を描いた。
極限に遅延された時間経過の中、ハジメは刀身を受け止めた。 そして抵抗を感じた時点で思い切り圧縮。
ガ、ギッ──!
これまで全てに耐えてきた刀身の内側から異音が。
(よし……! これなら何とか──)
「あ、ぐっ……!?」
突如、激烈な痛みがハジメを襲った。 痛みの発生源は右の脇腹。 鋭く突き刺さる何かから、ハジメは全てを理解した。
「お、今度は刺さった!」
ハジメは痛みによって乱されそうになる思考をギリギリで維持し、手元の魔法が解除されないように心掛ける。 今ここで集中を欠けば、受け止めたはずの刀身がハジメの頭部を砕くこととなる。
「……お、ッラァ……っァぐ!」
逃がさないように抱えた刀身を斜め下へ投げ捨てるように、ハジメは腕を大きく振るった。 動きに合わせて捻られた腰部から再び疼痛が激しく頭をもたげるが、これでまだ終わりではない。
ゴレグは大剣を握ったままだったので、大きく態勢を崩している。
「がァああ!」
ハジメは手元の空間リソースを全身周囲へ均等に行き渡らせると、痛みを無視して乱暴に拳をぶん回した。
拳の狙いはゴレグの右肩口あたり。
まともな防御姿勢すら取れていないゴレグに対し、ハジメの拳は真っ直ぐに吸い込まれた。
ぐちゃり──。
拳に纏わせている《歪虚》効果がゴレグの肩の皮膚や筋肉の一部を巻き込む。 どうしてか、そこには人間の肉体では無いような抵抗はあった。 それでも圧縮された空間影響は、圧力で肉を粉砕しながらその部分を大きくこそげ取った。
「ぐああああッ……!!!???」
ゴレグは大剣を取りこぼし、大きくステップを踏んでハジメから距離を取った。 これ以上攻撃を受けてはならないという判断だろう。
同時に、ハジメも片膝を突く。
「う、ぐゥッ……! クッソ……」
(畜生、目の前に集中するあまり油断した……。 ゴレグだけじゃなくて、マリビも同様に要注意人物だっただろ……!?)
ハジメはその姿勢のまま、空間を纏った腕で大剣に触れた。
バギギッ──。
大剣は、触れた先から容易に砕けてゆく。
「……!?」
(え、どういうことだ……? まるで金属強度が違うぞ)
「チッ……またかよクソが……」
ハジメが目の前の状況に驚いていると、またもや短剣が投擲されていた。
「やっぱ、あの魔法効果があいつのキモかな。 ゴレグも反撃喰らってるし、アタイがいなかったら喰らい損じゃん」
「黙れ黙れ黙れ……!」
ハジメは何とか立ち上がり、マリビに最大限の警戒心を向けながらゴレグの様子も窺う。
ゴレグは左手で右肩の大量出血を押さえつけながら、青筋を立てて怒りを撒き散らしている。
「許さん許さん! マリビもファバイも許さんぞ……!」
「あーあ、もうだめだありゃ。 武器も取られちまったし、戦力激減じゃねーかよ」
(コイツらやっぱり魔法使いか……? 少なくとも、ゴレグは身体強化系の魔法使い、ないしはそれに類する魔法効果を受けたハンターってとこだろう。 情報が足りないけど、他にも魔法使いが隠れてる可能性が消せなくなった……。 さっきマリビにフイを突かれたこともあるし、魔法使い相手なら尚更、一瞬でも防御を欠かすのは致命的な結果を生む……)
「ゴレグ、替わるか?」
ファバイはゴレグを心配してか、それとも煽ってなのか、野次を飛ばしている。
「黙ってそこで眺めていろ!」
ゴレグは唾を吐き散らしてファバイに返す。 どうやら継戦は諦めていないようだ。
「あーらら。 あの調子じゃ、俺が入っても先に殺されちまうな」
「ほんっと、役立たず。 さっきのゴレグみたいに、あんたも隙を作ってきなよ」
「やだね、痛いのはごめんだ」
(コイツらは能天気なようで手札を晒さないのがあまりにも厄介だ。 敵の主力にダメージを入れられたのはいいけど、俺も相応の傷を負っちまった……。 クッソ、痛てぇ……!)
ファバイは様子見の構えらしい。 それ自体はハジメにとって朗報だが、特段状況が変化したわけではない。 ゴレグとマリビの脅威は依然残されたままだ。
(とにかく、早いところ止血しないとマズいな……。 地球にいた頃なら卒倒ものだったけど、色々傷ついたせいか少しマシか。 思考できるだけの余裕は残ってる)
「んじゃゴレグ。 アタイが先に仕留めるから、あんたはそこで腐ってな」
「何を……!?」
「そんじゃ、再開ってことで」
マリビの姿が消えた。
「ぅえ!?」
ハジメは後頭部付近に異物感を覚えた。
(また遠距離……!)
マリビの姿が見えた。 しかしそれも一瞬で、すぐに身を隠してしまったためハジメは彼女を追うことができない。 高所を取られているために、攻撃の瞬間くらいしか姿が見えないのだ。
マリビは地の利を生かして複数の建物上を素早く飛び回り、瓦礫や金属片、武器などを立て続けに投擲し続ける。
「どんな魔法だって限界がある。 こうやって続けたら防御もいずれ剥げるでしょ」
(ああそうだよ、クソッタレ。 よく知ってるじゃねぇかよ……!)
ハジメに向けて高所から煽り文句が投げかけられるが、マリビは常に移動しているため居場所を特定できない。
「く、っそ……」
投擲物自体に危険性は少ない。 しかし問題はそこではない。
ゴレグはハジメの魔法を肉体だけで受け止めてみせた。 本来なら肩ごと全て消し去るはずの《歪虚》が肉を一部削ぐだけに留まった。 武器を用いた防御に関しては、空間ごと弾き飛ばされてしまった。 故に最も厄介なのは彼だ。
「ほらゴレグ。 今度はこいつを使え」
ファバイがゴレグに武器を投げて寄越した。 形の悪い長剣のようだが、ゴレグに持たせるだけで危険性は数段上がる。
「あいつ、余計なことを……」
(痩せ男は観測者としてだけではなく補助的な動きをすることから最初に潰すべきではある。 だけど能力を全部は見せてないし、マリビが常に邪魔してくる……。 ゴレグが動き出すならそっちをメインに処理しないといけないし、そうするとマリビすら放置せざるを得ない。 コイツらに協調性が無いのは明らかだけど、結果的に噛み合ってるのがウザいったらない……)
ここでゴレグが動き出した。 武器があれば勝てるということなのか、それとも単に馬鹿なだけなのか。
これはハジメとしては望むべくもない展開。 ハジメは負傷というリミットを背負った上で、敵は動ける数を増やして襲いかかってきているのだから。
(来る……)
ゴレグの足元が砕けた。 これは攻撃開始の合図。
(やっぱ、一人じゃ限界が──)
結局ハジメは考えがまとまらないまま、行き当たりばったりの対応を迫られることとなった。
▽
フエンはカチュアを自身の魔導書に載せて運ぶ。
二人は根による町の覆いを越えて、貴族区画よりも高い上空から町を俯瞰する。
「随分と、荒れているようですね……。 モルテヴァの上層区すら見る影もありません」
「なおかつ下は暗闇です。 それでも行くですか?」
「ええ、勿論。 索敵は私が行なうので、移動はお任せします」
「お前が操るのは雷です。 そんなことができるです?」
「短時間ですが……。 《磁覚》」
第六感にも近い知覚能力を生み出す《磁覚》。 これにより、カチュアは生物が発する僅かな磁場を検知する。
「それほど生物は……多くないようです」
「それなら状況も佳境ってやつです。 どこへ向かうです?」
「領主様が秘密裏に出入りしていた施設を知っています。 平民区画の北側あたりから侵入が可能なはずです」
フエンは魔導書を急降下させた。
降下するほどに町の各所での戦闘音が明瞭になる。
「誰がいるか分かるです?」
「特定の個人までは判別困難ですね……。 あまりに対象が多すぎると大した機能はありませんが、今は人が少ないだけあって存在把握が──フエンッ……!」
カチュアは突如ハッとした。 磁場の変化から、自分たちに何かが向けられていることを知覚したのだ。
「わっ、何──」
カチュアは驚くフエンを半ば強引に魔導書ごと傾けた。
思わずバランスを崩してしまいそうになるフエンだが、文句を言う前に謎の白い光線が頭上を通過したことでその口を閉じた。
「次、来ます……!」
「チッ、どこからです……!?」
フエンは斜めに下降しながら光線の放たれたであろう方向を見た。
一瞬、光が瞬いたかのように見えた。
「あぶなッ……!」
またもや光線が超速で通過。 今度の攻撃はフエンの鼻先を掠める勢いだった。
「さっきよりも精度を上げてやがるです!」
「西に人間は多く、それらが敵の場合挟撃を受ける可能性が高まります。 ひとまず奴隷区画の方面へ……!」
「……了解したです」
フエンは地面スレスレまで下降。
「しつこい奴、です……。 あれは人です?」
障害物を盾にしながら謎の砲台からの攻撃を逃れ続ける。
「生物であることは確かですね……。 私たちに楯突くのはフエン、あなた方だけだと思っていたのですが」
「町の魔法使いは評判悪いって聞いてるです。 狙われてるのはお前では?」
「心外ですね」
「じゃあ試して──」
「置いていったら怒りますよ? ほら、もっと上手く操作してください」
「チッ、運ばれてるくせに生意気です」
フエンは不規則な動きで魔導書を手繰って光線の乱打を避け、急ぎ東へ。
途中で現れた化け物はカチュアが適宜対処しながら、徒歩では考えられない速度で平民区画を駆けた。
「あんなの居たです?」
「私も初見ですが、恐らくは領主様が召喚した何かでしょう」
「ふーん。 ま、さっきの砲台野郎よりは雑魚っぽいからどうでもいいです。 エスナを探すついでに奴隷区画の物資も回収するです」
「こちらを優先して欲しいのですが」
「さっきの見てないです? 光線が触れた部分の根が瘴気を放ってたです。 あんなの食らうのはゴメンです。 あれを始末するにも、まずは物資回収が優先です」
「それなら……仕方ありませんね」
▽
カッ──。
轟く雷鳴と閃光。
光がゴレグを飲む。
「ッ……!?」
一瞬で晴れた光の先には、全身を痙攣させて動きを止めているゴレグの姿が。
「お前、こんなとこにいるとか意味わからんです!」
ハジメの頭上からは、聞き覚えのある声。
「……え?」
降り立つ二つの影。 ハジメは思わず二度見をしてしまう。
「フエン、ちゃん……?」
「お前は北域に向かったはずです。 何してるですか」
「えっと、あれ、なんでここに……っていうか、今まで何してたんだよ! 町にいるなら声かけろよ……!?」
「相変わらず状況変化に弱い木偶の坊です。 会話は後にして、今はこの状況をどうにかするほうが先です」
「え、あ、うん……わかった。 そっちはカチュアさん、だっけ?」
「ご無沙汰を」
「こんな危ないやつと何してんです?」
「それも後にしましょう。 これらは全てあなたの敵で間違いないですか? 見たところ奴隷区画の住民のようですが」
「コイツらが奴隷……?」
ハジメが見上げると、マリビとファバイが動きを止めて警戒心を露わにしていた。
「お前たち、魔法使い相手に喧嘩売るとか大したもんです。 良いことでもあったです?」
(フエンちゃんの知り合いなのか? 姿を見なかったってことは、フエンちゃんもエスナも奴隷区画に身を潜めてたってこと……?)
ハジメの思考はよそに、彼女らの会話は進む。
「チッ……なーんで邪魔するかなぁ。 せっかく楽しんでたのにさぁ」
マリビの顔面は不快感に塗られている。
「楽しむ余裕があるのが驚きです。 そこまでイキリ散らかせるのには、何か理由があるです?」
「さーぁ? なんだろうね」
「マリビ。 魔法使い三人相手は、ちぃーっとマズいんじゃねぇか?」
苦い表情を見せるファバイ。
「ぐ、が……ァああああ!」
痙攣から解き放たれたゴレグは、獣のような叫びを上げた。彼にとっては敵が何人いようと関係なかった。 獲得した肉体能力はそれほどまでに彼に自信を与えていた。
「この俺には増援なぞ関係、ッ無──」
「《雷撃》」
「──ア゛、ぁ……」
カチュアの指先から迸る稲光。
ゴレグは再度動きが停止し、焦げた皮膚から煙が上がっている。
「動く限り何度でも止めますよ? 力の差が分からないのですか?」
「そういうことです。 奴隷風情が生意気にも程があるです」
「あ゛ー、マジでそーいうとこ。 魔法使いの何がキモいって、アタイら非魔法使いをハナから下に見すぎ。 今じゃ魔法っていう絶対的優位も揺らいでんのにさぁ」
「なに言ってるです?」
「何って──」
(消え……!?)
マリビの姿が掻き消えた。 少なくとも、ハジメは彼女の動きを目で追えなかった。
「──こういうこと」
声はハジメの側、フエンの背後から。
ハジメの眼前を風が横切った。 マリビの蹴りがフエンの首を切断する軌道を描いている。
「……っぐゥ!?」
直後、苦悶の声を漏らしていたのはマリビだった。
マリビは軽く身体が浮かび上がり、その直下にはアッパーカットばりに腕を振り上げたフエンの姿があった。
フエンはマリビの速度よりも早く屈んで攻撃を回避しただけでなく、反撃の腹パンをお見舞いしていた。
「速度で勝負を挑むとか百年早いです。 《風爆》」
「くっそ……」
浮いたマリビなど、フエンにとっては格好の狙いの的でしかない。
マリビの腹部付近で膨らみを見せた風の塊は、彼女が回避動作に移行するよりも早く爆ぜた。
「が、はッ……!」
爆発により弾き飛ばされたマリビは、十数メートル先の壁面に激突。 人型のクレーターを壁に刻む。
驚くハジメの隣で、カチュアが人差し指を頭上に掲げていた。
「《雷撃》」
「あが……ッ」
(後ろ!?)
ハジメの背後、建物に隠れて見えない位置で悲鳴が聞こえた。 急いで背後を振り向く。
「見えてんの……かよ……」
断末魔を吐きながらドサリと倒れたファバイの姿が壁向こうから覗いた。
「《雷撃》」
「ぐァあああッ!?」
ついでと言わんばかりに、ゴレグにも攻撃が降り注いでいた。
(か、かわいそすぎる……)
「生物である時点で、私の知覚能力からは逃れられませんので」
「ぱっつん眼鏡のくせに攻撃志向のイジメっ子とか、お前はギャップが激しすぎです」
「……さてフエン。 少し気になる内容が聞こえたので、彼らから話を聞きましょうか」
「そうするです」
応援に駆けつけた二人の魔法使いの所業は、ハジメにとってあまりにも鮮烈だった。
本作を読んで「面白い」「続きが気になる」と思われましたら是非ブックマークをお願いします。
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作者の執筆力に繋がりますので、ギモン・シツモン・イチャモンなど、良いものも悪いものもどうかご意見よろしくお願いします。