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オミナス・ワールド  作者: ひとやま あてる
第3章 第3幕 Apostles in Corruption
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第88話 下層民の台頭

「父上、探したぞ」


 ロドリゲスはユハンの隣のモノを一瞥すると、そのまま話し始めた。


「ユハン、よく来た。 これより罪人どもを処分する。 我を補助せよ」

「説明してくれ。 父上、これは一体どういうことだ」

「後にしろ。 まずは事態の収拾が先決だ」

「誰がこれをやったと聞いている」

「奴らが暴れ回った結果だ」


 ロドリゲスのさも鬱陶しそうな表情は、これ以上の追求はやめろと言っているようだ。


「奴らとは誰だ?」

「ゼラを中心とした魔法使い連中のことだ。 町の職員も含め、相当数が反旗を翻している。 アンドレイ以外の魔法使いは基本的に全員敵と判断して処理に回れ」

「町に蔓延る存在の処理が先ではないのか?」

「そちらは我とアンドレイに任せろ。 お前は黙って我の言う通りに動け。 全てが終われば満足のいく説明をしてやる」

「……了解した」

「町に重大な問題が生じた際の対応は覚えているな?」

「ああ。 だが──」


 ユハンは一度嘆息し、語気強めに質問を投げかけた。


「──住民を異形化させるとは聞いていないぞ? これも対応の一環なのか?」

「……」


 ロドリゲスは一瞬言葉に詰まった。


 ユハン同様、モノも次の言葉を求めている。


「……まず、平民区画の連中が狂い始めた。 これが始まりだ」

「それは父上が何かしらの魔法を行使した結果ではないのか?」

「それに関しては全くもって覚えがない。 きっかけはそれだ。 そこからゼラ、町の魔法使い、外部の人間などが好き放題に暴れて今に至る」

「では、人間の死体がほとんど皆無で異形が犇いているのはどう説明する?」

「ゼラなどが町の根幹を攻撃したことに起因する。 現に町での魔法出力が著しく低下しているし、そこは我も未知の部分が多い。 少なくとも、町の存続が危ぶまれる程度には被害が生じているのは事実だし、敵が何らかの魔法を起動させたことは間違いない」

「魔法でそのようなことが起こりうるか?」

「……因果関係は不明だが、実際に起こってしまったのだから考えても無駄だ。 先代は謎多き人物だった。王との密約が複数交わされていたと聞いているし、この町に我も関与せぬ事実が未だ隠されているのは明らか。 ユハン、ここまで我の話にどこかおかしな部分でもあったか? 我の対応は正しかったな?」


 ロドリゲスは眼力強く、説得するようにユハンを睨みつけた。


「…………そうだ、父上の対応に問題は無かった。 ところで、ゼラの手勢が父上を殺すことを私に打診してきたが、どうする?」


 メイからの説明は無かったが、ゼラを含めた複数がロドリゲスを殺そうと躍起になっているのは事実。 ユハンはそこに特段疑問を持たない。


 ユハンはロドリゲスが周辺の領地から反感を買っているのは知っているし、この町も完全に統治できているとは言い切れない。 しかしながら、新しい要素を導入しつつも市井の反応はそれほど悪いものではなく、むしろ良い方だ。 町の意見を代表してゼラが行動していることは考えづらい。


 ユハンはここに来てゼラについて思考する。


(ゼラはなぜ父上を殺す必要がある? 父上の反感を買って町を追い出されたからか? いや、元々父上を殺す計画があったのか?)


「奴らはちょうど今こちらに向かっているようだ。 我はこれよりアンドレイと協力して異形どもの対処にあたる。 ユハン、あとはお前に任せたぞ」

「……ああ、任せておけ」


 ユハンの返答を受け、ロドリゲスは西に走り去っていった。


「あの、ユハン様……ロドリゲス様を追いかけるべきでは?」

「その必要は無い」

「上層へ向かったはずのリヒト様が戻らないのも気になります。 向かうとしても方面としては同じですし……」


 言い淀んだモノは南西の方面から近づく存在に気がついた。


「父上の言葉通り、奴らだな」

「あ……そう、ですね」


 二人は口論に近い言い合いは一旦止め、敵を薙ぎ倒しながら接近する二人に目を向けた。


「やっぱり。 ユハンじゃないか」


 ゼラとメイがゆっくりと足を止めた。


 ユハンとゼラは実に数時間ぶりの邂逅だ。 しかし即座に戦闘とはならない。 前回とは少々状況が変化してしまっている。


「ゼラ、父上を探しているのか?」

「そうだね。 さっきまでここに居たって聞いたけど?」


 誰から、と言えば隣のメイからだろう。 ユハンはそれに関しては追求しない。


「それに答える前に、こちらから聞きたいことがある」

「急いでるんだけどね。 まぁいいや、何?」

「貴様は町の根幹を揺るがす何かをしでかしたか?」

「根幹? 根幹と言えば、町の地下で悪さをしてた大魔石は頂戴したかな。 あとはえっと……質問が抽象的すぎるし、色々心当たりがありすぎて分からないな」

「町の人間についてはどう思う?」

「死体が化け物に変わっちゃうんだから凄まじいよね。 元々狂ってたっぽいけど、その辺は詳細不明だね」

「……」


 ゼラがモルテヴァに転移したタイミングは、ドミナとリセスが行動してから。 彼女らの行動に関してはゼラも聞き及んでいない。


 ロドリゲスが《人魔混成ヒューズ・ウォーロック》を発動させた時点で、生き残っている住民はほぼ皆無だった。 狂った者が正常な者を襲う形で多くの住民が死に絶え、狂った者も同志撃ちや魔法使い連中によって処理されていった。 逃げ出せたのは商業区画以上の僅かな住民だけであり、モルテヴァの実に八割以上が命を散らせていた。


 転がった死体と共に、ごく一部の正常な住民は《人魔混成》の餌食となっていた。 結果的に、生きて逃げ出せた平民区画の住民は百名にも満たないだろう。 奴隷区画の住民は脱走が不可能な制限を受けているため、逃げ出すという選択肢はそもそも存在していなかった。


「何故貴様は父上を狙う?」

「単なる仕事の一環だね。 色々引き出してから殺せって指令を受けてるから、その通りに動いてるだけだよ」

「父上に恨みがある陣営が貴様を雇ったのか?」

「うーん……どうしよっかなぁ」


 ゼラは急に悩む素振りを見せ始めた。


「何をしている?」

「僕の活動を邪魔しないなら色々教えてあげるんだけど」

「貴様の話には気になる点が多すぎるし、父上は魔法使いとしても為政者としても早々に失って良い人物ではない。 邪魔をしないと確約はできない」

「ありゃ、それはどういった思考の結果かな? あんなの、生きてたって仕方ないでしょ?」

「罪があるのなら償えば良いだけのこと。 父上は統治者としてはあまりにも優秀だ。 父上が残ればモルテヴァが再興する可能性も見えてくる」

「ロドリゲスは奴隷をゴミのように扱って平民も漏れなく化け物に変えたのに、それでも生きてていいわけ?」

「奴隷は唾棄すべき存在だ。 死体であれば平民をどう扱おうと知ったことではない。 それに、悪事に関して貴様がどうこう言うべきではない」


 ゼラはユハンの様子に違和感を覚えた。


(ユハンってこんなだっけ? 裏の仕事は全部僕とオリガが済ませてたから、汚い仕事を知らないのは分かるんだけど。 でも確かに、元々悪人と非悪人で随分と極端な線引きをする男ではあったよね。 歪な育ち方をしたもんだと馬鹿にしてたけど、それにしてはちょっと変だな)


「君の言う悪事の定義がどんなものかは知らないけどね。 でもまぁ、その全てはロドリゲスの指示によるものだよ。 王道を歩む君には分からないだろうけどさ」

「良い加減、無駄な問答は終わりだ。 ゼラ、貴様の所属を言え」

「話も進まないし、仕方ないか。 僕は帝国の人間だ。 途中で誰かに雇われたわけじゃない。 ここにやってきた時点から、計画は始まってたんだよ」

「敵国の人間か」

「敵国って……まぁ、そうなるけどさ」

「であれば、処理する以外の選択肢は無い」

「なんでそうなっちゃうかなぁ。 モノも同じ考え?」


 ゼラは不安そうな様子を見せているモノに話を振った。


「わ、私は……いえ、敵国の間者を逃すことは、モルテヴァだけでなくエーデルグライト王国への叛逆行為となります。 ですので私は、ユハン様のお考えを支持します」


(ロドリゲス様が住民に何もしていないなど到底信じられません。 ですが、どうしてかユハン様はロドリゲス様の肩を持つ様子……。 ここでリヒト様が居れば少しは話も変わりそうなのですが、困りました)


 未だにモノは逡巡を見せている。 しかしここでゼラに好き放題させるわけにもいかない。 彼が町に対して不利益をもたらしていないという可能性も否定しきれないのだから。


「あれま。 君たちを引き込めば問題解決も早かったんだけど、無理なものは仕方ないね。 敢えてこっちにやってきたわけだけど、でもここであまり消費はしたくないから……」

「貴様、また──」

「正解。 頑張って追いかけてきなよ」

「《転換シフト》」

「──あいつら、一度ならず二度までも……」


 ゼラとメイは魔物を残して忽然と姿を消した。


 ユハンは気づいたのも空しく、再びゼラを取り逃がしてしまった。


「ユハン様……」

「父上を追う。 ゼラは父上の居場所を当然把握しているだろうし、上層へ急ぐぞ」

「……畏まりました」


 翻弄されるユハンとモノ。


 メイの転移能力はモルテヴァという広い環境においては万能に等しい能力であり、味方にすれば心強いが敵にすれば非常に厄介だ。


「ユハン様、ゼラは本当にここまでやってのけるでしょうか?」

「知っているだろう、奴の残虐性を。 他国からの間者であれば、未知の魔法を持ち込んでいても不思議ではない。 それに、父上が領民を無碍に扱うはずがない。 信頼度でゼラが父上に勝ることはあり得ない」

「それはそうなのですが……」

「先にあの娘を潰す。 父上と合流しさえすれば敵連中を鎮圧するのも容易いだろう。 現状、面倒なのはゼラ陣営だけだ。 その他は奴らの後で順次処理してゆく。 なに、心配するな。 アンドレイの魔法で誰も逃げ場は無いのだから」

「そう、ですね……」


 モノはリヒトの不在をひしひしと痛感する。 彼がいればユハンに思考の余裕を与えられたかと考えると、モノがただユハンに追随しているだけの存在だと思い知らされる。


(何が本当に正しいのか。 それを見極めなくてはいけない……)


 モノはユハンの背を見つめつつ、思考は揺れ続ける。



          ▽



「ハジメ君、生きてたのね」


 ハジメは奴隷区画へ向かう道すがら、ドミナの姿を見かけた。


 ドミナの足元ではリセスが息荒く壁を背にしており、ギリギリ意識が保てているような朦朧状態で譫言を呟いている。


「あ、ドミナさん……。 その、えっと、リセスさんは大丈夫なんですか?」


 リセスは腹部に派手な傷を作っており、傷口周囲は毒々しい紫色で塗られている。


「止血処理は済んでるわ。 ただ、血を流しすぎたせいで状態はあんまりよくないわね。 ハジメ君は無事みたいで良かったわ」

「ドミナさんもかなり負傷してるみたいですけど……?」

「私は大丈夫。 今は薬を生成してるところだから動けないけど、リセスをどうにかしたら動くわ」

「動くって、何するんですか?」

「領主ロドリゲスを殺すのよ。 あれは放置してちゃいけない害悪だからね」

「……殺さないと駄目なんですか?」

「仕事だからね」


(また殺しか。 さっき頭に血が昇ってた俺が言うのもなんだけど、殺す以外の選択肢はないのか? 誰かを殺せる奴が偉いのかよ)


「どうかした?」

「いえ。 ……とにかく、俺は行くところがあるので」

「この状況で向かう場所なんてある?」

「エマを探しに行かないといけないんです」

「彼女まだ生きてたのね、驚き」

「……じゃあ俺はこれで」

「そ。 死なないでね」


(なんか冷たいな。 いや、こんなもんか……)


 ハジメはドミナとリセスを残して目的の場所へ。


 道中は敵の数も少なく、ハジメは最小限の労力で退治することすら可能となっている。


(核になる魔石を処理した後から化け物の動きも鈍ってるし、アンドレイさんの魔法も鳴りを潜めてるから二人とも大丈夫なはずだ。 俺の目的はエマを連れて脱出するだけ。 他のことは考えなくていい。 それにしても──)


 奴隷区画に向かうにつれて、化け物とは異なる謎の物体が散見され始めている。 ぐずぐずに腐った肉塊のようなそれは、濃いマナを放出しながら各所に転がされている。


(ドミナさんの毒魔法の影響か? でもなんか違うような?)


『止まれ』


 ハジメが進行方向の謎の物体を観察していると、ツォヴィナールからの声が脳内に響いた。


『え、ナール様?』

『瘴気を吸うな。 毒されるぞ』

『瘴気?』

『悪神の残滓を含んだマナ凝集素のことだ。 残滓濃度の高い瘴気を“穢れ”と呼び、これは生物を使徒化させる』

『こわ……。 これってそんなヤバいものだったんですか』

『マナが肉眼で確認できる時点で異常以外のなにものでもないわ。 大量のマナを浴びれば人間を含めた全生物が狂うのは必定。 高濃度であればより短期間で異常が生じる。 教会で散々説明を聞いたであろう?』

『実際目にしたことがなかったもので……』

『ならば見て感じ取れ。 瘴気こそ、世界を侵そうとする悪神の意思そのものだ。 瘴気が穢れを纏う前に浄化しなければ、奴のような存在が出現することとなる。 だから人間どもは必死で瘴気を撲滅しようと色々画策しておるのだ。 到底間に合ってはおらんがな』


 ツォヴィナールが奴と呼ぶそれは、未だハジメの視界の端に映り込み続けている。


『使徒は今回の騒動とは別に、偶然生まれたんですかね?』

『知らん。 だが、存在している以上は消さねばならん』


 ハジメはツォヴィナールによる説明を聞きながら、根による外壁ギリギリを伝うように進む。 視界に色濃く映る強敵を大回りで回避しながら、時には化け物連中にもバレないように瓦礫を使って。


『ゼラはあれの出現を喜んでいたようですけど、左道としては歓迎すべき存在じゃないんですか?』

『極端な左道者であれば珍しくもない反応だが、使徒はナースティカでさえ手に余る厄介者だ。 コントロールできない強者など、基本的に誰も欲さん。 あれが齎す結果は混沌だけだ』

『混沌がナースティカの悲願では?』

『まさか。 あれらの願望はアースティカの打倒および彼の者の排除。 もし悲願が達成せしめられたとして、使徒しか残らんようであれば、そこは野生環境としか言えぬからな。 そのようなもの、人間としては望むべくもない結果よのう』

『あれ……? でも、各陣営は使徒を欲しているんですよね? なんか矛盾してないですか?』

『使命を帯びさせ、限界まで酷使して自滅させる。 それこそが使徒の正しい使い道だ。 つまり、欲しはするが抱えはしない。 あれは恐らく自然発生の使徒であろうし、力を付ける前に処理するのが妥当だろう』

『それができればいいんですけどね……』


 ハジメは平民・奴隷区画境界に辿り着いた。


 平民区画から見える奴隷区画にはそれほど破壊の爪痕は刻まれていないが、それにしてはやけに静かだ。


「なんか不気味だな……」


(メイちゃんはエマを連れた女が逃げ込んだみたいなこと言ってたけど、本当にここにいるのか?)


 静寂はハジメを不安にさせ、殊更孤独を強調させる。


 ツォヴィナールとの接続リンクも永遠に可能というわけではない。 続けるほどにハジメの精神力は消費されるし、現実世界への警戒も薄弱になってしまう。


「マジで町の人はどこ行ったんだ……? エマはみんな逃げたって言ってたけど」


 ハジメが奴隷区画に下ると、ちらほら人間の存在を知覚できた。 誰も彼も家屋の中に隠れているようで、怯えたような息遣いを微かに聞き取ることができる。


「でもここには結構いるっぽい……って、当然か。 奴隷って身分は町から逃げられないんだから……」


 ハジメは彼らの境遇を憂う。 もしかしたら彼らと同じ立場にあったかもしれないことにゾッとしつつ、エマを探す。


(こっちはどういうわけか化け物が少ないけど、何か理由があるのか?)


 サッ──。


「……ん?」


 ハジメは視界の端で何らかの動きを捉えた。


 ここは奴隷区画の中心にあたる広場。 周囲は高さの異なった建物群が乱立しているせいで、どうにも死角が多い。 後先考えず縦に横に追加拡充された結果、異様な外観を構えた構造物が犇めいている。


「……」


 ハジメはゆっくりと魔導書を展開。 意識を多方面に向ける。


「《歪虚アンチゴドゥリン》……そんでもって、《強化リィンフォース》」


 展開された空間は直径3メートルほど。 これは強化効果を受け、ハジメの身体表面十数センチを覆う程に凝集。 外観はさながらマナで形作られた鎧のよう。


「これなら何とか、動かせそうだな……」


 ハジメはエマを守る過程で何度も《歪虚》を使用しただけあって、ある程度応用の幅が広がっている。 今回は《強化》を用いて空間を圧縮し、身体表面に張り付かせる形で自在な操作を可能にしてみせた。 モルテヴァの地下空間で受けた反撃魔法ほどの攻撃であればハジメの肉体に届きそうではあるが、それでも圧縮成形したおかげで強度は段違いに上がっているはずだ。


(明らかに待ち構えてる風な展開方法だと、あの低脳な化け物連中にしか通じないだろう。 今後敵に追い付かれないためには、常に応用を繰り返していかないとな)


 魔法は身体に近しいほど操作性が向上する。 ハジメはこれを実戦から掴み取る。


 出たとこ勝負の魔法発動だったが、思いの外想像通りに事が進んだことでハジメの心に余裕が生まれる。 それはまた、魔法操作性の安定化につながる。


「魔法使いサマが生意気にも紛れ込んでるな」

「あーらら、これ見よがしに魔法なんか使っちゃって。 見せつけてんのかねぇ?」


 男二人の声。


「上じゃ勝てなくて、逃げ込んできたクチじゃなーい? あー、アタイこいつのこと知ってるわ」


 そこに女の声が続く。


 複数の声はハジメの頭上から。


「……なんだお前ら?」

「きも。 強気なの笑えるんだけど」


 見上げると、三名の男女がハジメを俯瞰している。 大剣を担いだ大柄な男と、無手の痩身の男。 そして短剣を構えたガラの悪い女。


「んで、マリビ。 こいつ誰よ?」


 ファバイという名の痩身の男が女に問う。


「ドミナのクソと連んでる闇属性。 中級だから力量はイマイチって話」

「闇ってことは俺らのことは見えてんのか。 ちょい面倒かもな」

「中級程度なら雑魚だろう。 先程、ワソラも一人殺したと言っていた」

「ちっとは頭使えよゴレグ」

「ファバイ、この俺を愚弄しているのか?」

「てめぇは考えりゃできんだから、もっと上手くやれって意味だ。 その肉体に思考が伴ったら最強だって言ってんだよ」

「なるほど、そういうことか」

「あんたらのしょーもない話、早く終わんない? 誰がこいつ殺すか決めてないでしょ」


 無警戒であれこれ言い合っている三人組をよそに、ハジメは彼らの出自を考察する。


(俺のことを知ってるってことはハンター連中か? それにしては腕輪をしてないし、外部の人間かもしれない。 つか、俺を殺すとか言ってる時点で意味が分からん。 コイツらはどう見ても魔法使いじゃないんだけど、かといって一般人には見えないんだよな。 どうにもコイツらに対する印象がチグハグだ)


「なんかあいつ気持ち悪くね? 渋い顔してんよ」


(コイツらのバカにした態度は死ぬほど腹立つけど、まだ攻撃されてもないし、されたからといって殺せるか? くそ……人間相手にどう動けって言うんだよ)


 ここでゼラの言葉が思い出される。


『──誰かを生かすことも殺すこともできない君が、ましてや自らを殺すなんてことはできやしないんだよ』


(誰かを殺せば、誰かを生かせるってのか? 意識して誰かを殺すなんて無理だろそんなの。 一度殺しを覚えたら、畜生に成り下がるのは目に見えてる。 俺は自分が低い方に流れる人間って分かってるからな……。 堕ちれば、戻ることは絶対にない)


 考えを巡らせるほどにハジメの顔色は悪くなる。


(殺さずに場を納めるには、まず俺が強くならないといけない。 コイツらの戦意を喪失させるだけの何かを、ここから見つけねぇとな……)


 ハジメは心を決めたように口を真一文字に結んだ。

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