第81話 悪神
「──です……」
「ん……?」
「姉さん、集中してください」
聞き覚えのある声に、ドミナは気を取られた。
「ハジメさん、あっちは比較的安全そうっす……!」
やはりエマの声だ。 そこに登場したハジメの名前も気になるところ。
「リセス、ハジメ君とエマが来るわ。 抗体準備」
「……分かりました。 《抗体生成》」
リセスのマナがその手元に集まり、細かく黒い粒子が形を成してゆく。
「リセスさぁ、新手が来たから一旦攻撃受けてよ」
ここでゼラが新手を引き連れて戻ってきた。 どうやら彼とは相性が悪かったらしい。 見れば、精神操作の効かなさそうな巨体がドシンドシンと音を立てて迫ってきている。
ロドリゲスの魔法によって生み出された──というより変質させられた住民の姿形は多種多様で、魔導書を展開する存在もいれば魔法を使用しない首無しまで、一つとして同一の個体は存在しない。
「無理を言わないでください。 ポーションも尽きかけていますので、別の作戦立案を推奨します」
リセスは何らかのダメージを受けると、その者からの攻撃を軽減できる抗体を生成することができる。 一度攻撃を受ける都合上、攻撃の付加的な効果も引き受けてしまい、リセスが耐えられる程度のものに限られるため使い勝手は悪い。 それでも機能さえすれば状況を一変させられるほどの効果を秘めているため、積極的に使用すべき魔法であることは確かだ。 しかし《抗体生成》が真価を発揮するのはタイマンの場合であり、今回のような複数の敵に対する使用は想定されていない。
「姉さん、アレには霧が効いていませんよ?」
体長4メートルにも近い新手の化け物は、ドミナが防壁として敷いていた《毒霧》を悠然と超えてきた。 これまでであれば広範にばら撒いた霧の設置箇所を避けるように敵は動いてきたが、今回のデカブツはどうやらそうではないらしい。
「言われなくても分かってるわよ! あいつらも対策してきてるようね……《毒弾》!」
ノロマなデカブツに魔弾がぶつかり、その肉体を軽く揺らした。
「……マズいかも」
遠隔であっても、ドミナは毒がどの程度効果を発揮しているかは理解できる。 そしてその判断力が彼女に告げている。 こいつには毒が無効だ、と。
「言ってる場合ですか……! ゼラも姉さんも役立たずなら、誰が処理できるのですか?」
「そ、そんなに言うならあんたが倒しなさいよ!」
「注文が多すぎます。 抗体を作れと言ったり倒せと言ったり、無理なことばかり言わないでください。 それなら、あそこの彼らにお願いするべきだと愚考します」
ちょうど、倒壊した建物の向こう側にハジメの姿が見えた。 ハジメはエマの手を引き、背後に視線を送って何かから逃げるように走っている。
「彼ら? ……あ、ハジメ君いいところに!」
「……!?」
「とりあえず何も考えずにこっち来てッ!」
デカブツから完全にヘイトを買っているドミナだったが、それを無視してハジメに救援要請を投げた。 ハジメも目を凝らしてドミナの存在に気が付いた。
「ドミナさん、ここで何してる……ん──」
ハジメが唐突に動きを止め、異様な雰囲気を醸し出した。
ハジメも含め、この場にいるエマ以外は全員《夜目》が使用できる。 だからだろうか。 ハジメの目にはゼラの姿がしっかりと映っていたし、逆同様だった。
何かに対して睨みを効かせるハジメに対し、エマはただ怯えるしかない。
「ハジメさん……? え、と……後ろに……」
エマは背後を何度も確認しながら、縋るようにハジメに問いかけた。 エマの目には重い足音を響かせながら接近する黒いモヤが見えているため、このまま逃げていいものか決めあぐねている。 しかしハジメが手をぎゅっと握っているので動くに動けない。
「──エマ、じっとしてろ」
「え、あ、はい……」
ハジメはゼラを見据えたまま魔導書を具現化し、膨大なマナを放出させた。 途端、ハジメの左目から血液が溢れた。
「ハジメ君!? ど、どうしたの?」
「へぇ。 これは面白くなってきたね」
ドミナの驚きと疑問をよそに、ゼラはハジメを見て怪しく嗤う。
「《歪虚》」
ハジメの手元には、渦巻く黒い球体が。
ブゥゥ──ン……。
球体は膜状に広がってハジメとエマを覆った。 そのタイミングで首の無い化け物が彼らに肉薄。
「ハ、ハジメさん!?」
「心配するな」
ハジメは抱きつくエマを更に抱き寄せながら、しかし視線はゼラから外さない。 そこへ化け物が飛び込んだ。
ぐしゃり。
「ひぇ……」
エマの目の前で化け物の肉体が細く小さく潰れ始めた。 その過程で全身の各所から骨や血肉が無理矢理に吐き出され、それさえも一瞬で圧縮されてゆく。
《歪虚》は中心に近づくほどに重力圧を増す。 一度飛び出した化け物は空中で停止することを許されず、ハジメに到達する前に塵にまで大きさを減じて消失した。
「エマ、ここにいてろ」
「は、はいっす……!」
エマを歪虚空間を残したまま、ハジメはゼラに向けて歩き出した。
「……ゼラ=ヴェスパだな?」
「えーっと。 場所は忘れたけど、君はどこかで見た顔だね」
「ハジメ君もゼラも何するつもり? 敵が来てるのよ!?」
「ドミナさんは黙っててくれ」
いつもとは違うハジメの様子にドミナは戸惑う。
「二人とも急にどうしたっていうのよ!? リセス、ちょっと面倒なことになってるから、敵を何とかしといて!」
ドミナを無視するようにハジメとゼラが互いの世界に入り込む。
「レスカを傷つけたお前を、俺は絶対に許さない」
「レスカ? 知らない名前だね。 でも、どこかで君のお友達を傷つけたのなら謝るよ」
それを聞いて、ハジメは思わず足を止めた。
「は? 謝る、だと……? あんなに酷いことをしておいて、どうしてそう言えるんだ……!?」
ハジメの口調が徐々に荒々しいものへ。
「僕も好き好んでいっぱい殺してきたわけじゃないんだって。 やるべきことがあって、必要な行程として誰かを傷つけただけなんだ。 だから多少なり、申し訳なさを感じているってわけさ」
「何を……何を言ってる……?」
「君だってそうだろ? やるべきことのために誰かを傷つけて、時には殺してきたはずだ。 同じ魔法使いの君なら分かってくれると思うんだけどなぁ」
「ふざけるな! 俺は殺しなんか──」
「いや、してるさ。 してるに決まってる。 してなきゃおかしいんだよね」
ハジメの発言を制したゼラは、少し雰囲気が変わっていた。 弛緩した空気が一気に締められ、ゼラの表現も真面目なものに変化している。
「は?」
怒りと呆れを含んだハジメの背後を、轟音と塵芥が舞う。
ハジメとゼラのやり取りの裏でデカブツが暴れ、ドミナとリセスが引き受ける形で逃げ回っている。 それでもハジメとゼラは周囲の騒動を無視して言葉をぶつけ合う。
「だって君、」
ゼラは徐に、手で左目を隠して見せた。
「僕のお仲間だろう?」
スッと外された手の下、ゼラの左目の網膜に見たことのない形の魔法陣がマナを帯びて光った。 その瞬間、ハジメの目にはゼラの姿が際立って映り始めた。
「ッ……!」
ハジメの視界にはクッキリと浮かぶ存在が一つ。 そこにゼラの姿が加わった。
「お前もかよ……!」
「お前、も? ああ、君にも見えてるんだね。 新しい左道の可能性が」
ゼラがチラリと背後を見遣った。 周囲の人間にしてみれば何でもない仕草だが、ハジメにとっては違っている。
二人は同じく、遠くに際立つ強大な存在を見ていた。 ハジメとゼラはその存在の感知範囲内にいないのか、未だにそいつからのアプローチを受けていない。
ゼラは一度目を伏せ、次に目を開いた時には網膜の魔法陣は見えなくなっていた。 同時に、ハジメの目に映るゼラの存在感が希薄になった。 これこそがツォヴィナールの言っていた、“右道者は右道者を、左道者は左道者を互いを認識できる”ということなのだろう。 ハジメはそう理解した。
「お前は、何者だ……?」
「あれ? もしかして君って、フリーの左道者? それなら勧誘活動をしないとね」
「何を言ってる?」
「まぁ聞きなって。 左道者は……えっと、左目に魔法陣を顕現させた人間のことなんだけど。 そんな僕らは、ナースティカという組織に属して悪と戦う運命を背負ってるんだよ。 左目の魔法陣が仲間の証になっていて、仲間同士をこれによって認識してるんだ。 だから君も漏れなくナースティカの一員で、宿命を受け入れないといけないんだよね」
「……仲間だとかどうかは関係無い。 お前はレスカを傷つけた人間で、俺の敵だ……!」
ハジメはゼラの説明に対して何も言及はせず、あくまで姿勢を崩さない。 どうやらゼラは完全に左道へ傾倒した魔法使いで、ハジメがナールから聞いた情報の全てを知っているわけではないからだ。
「だからそれはゴメンって言ってるじゃん。 どこで巻き込んだかは知らないけどさ、僕が左道に入るには仕方の無いことだったんだよね」
「はぁ!? 仕方ないわけねぇだろッ! お前がベルナルダンを壊した所為で、どれだけの人間が不幸に……! 」
「じゃあ君は、自分自身にもそう憤ることができるのかな? 君も左道者なら、相当数の人間を葬ってきたはずだ。 左道に入ったもの同士、状況は同じだと思うんだけど?」
「一緒にすんな! なんで俺がお前なんかと……! 俺は自分の意思で誰かを殺したことなんかねぇんだよ!」
ハジメは叫んだ。
ラクラ村からクレメント村を経てベルナルダンに至り、教会からモルテヴァでの生活を続けて現在まで、殺したい人間は居てもそれを実際に行動へ移したことはないからだ。
「そこに意思とかは関係無いかな。 君の身体がどれだけの魂を救済したか、ただそれだけなんだからさ」
「救済……?」
「これも知らないのか。 ってことは、偶発的な左道発現者なのかな。 ちなみに君って、ベルナルダンが終わった時どこに居たかな?」
「ッ、だからお前が……!」
ゼラがベルナルダンを破壊した張本人なのに、どうしてこうも他人事のように言えるのか。 尚且つレスカもそこで傷つけられた。 それらに対する怒りが頂点を超えた結果、ハジメは魔導書を展開しながらゼラに向けて走り出した。
「お前が全部悪いんだろうが!!! 《過重弾》──」
「争いたくはないんだけど、負の感情はありがたいかな」
《歪虚》はエマのもとで展開したままのため、使用できない。 頭に血が昇ったハジメはゼラ力量を把握しないまま攻撃を開始。
ゼラは高速で接近する魔弾とハジメの視線を一瞬で確認し、身体を傾けた。
「──《拡散》!」
魔弾が炸裂する瞬間、ゼラは最低限の動きだけで側方へ移動。 髪を掠めながら拡散波動をぶち撒ける魔弾を回避しつつ、視線だけはハジメを常に補足している。
「チッ……!」
「この程度の指向性変化か。 力量は中級に上がったばかりの雑魚だね」
「うるせぇ、《過重弾》!」
「何やってるの!? 二人ともあとにしなさいよ!」
未だ打開策を見出せないデカブツに苦戦するドミナだが、流石にゼラとハジメの喧嘩は見過ごせない。 ただでさえ敵に囲まれて不利な状況なのに、味方同士で殺し合いをされては本来の目的すら達成できなくなってしまう。
エマもどうすればいいか分からない状態が続いているが、ハジメに不動の指示を受けているため動くに動けない。 ハジメの魔法に守られている現在は安全なので、今は少なくとも動くべきではないとの判断を下している。 しかしながらハジメが怒り狂っているという状況は不安ばかりで、エマはソワソワと挙動不審な動きで成り行きを見守るほかない。
「魔弾の使い方がなってないね。 これは先輩として教育の必要があるかな」
ゼラが降り注ぐ魔弾を紙一重で躱し続け、また小馬鹿にした表情さえも向けてくる。
ハジメはフラストレーションが溜まり続け、魔法がより単調なものとなる。
「君の魔弾は拡散の指向性変化に留まってるんだよね。 だから魔弾の軌道上から離れさえすれば──」
「《拡散》……!」
素早い側方への移動により、ゼラは拡散範囲を避けている。
「──この通り。 危険性は皆無だよね」
「逃げんな! 戦え!」
「戦えとか、脳筋なだけじゃ生きてけないよ? いつもいつも相手が同じ土俵で相手してくれるわけないんだからさ。 君の魔弾は、当たりさえすればかなりの効力を発揮できそうな印象があるけど、そのぶんスピードも無ければ範囲も狭いよね。 あまり強度と規模のバランスとか考えてないってのが透けて見えるよ」
「……うるせぇって言ってんだろ!」
怒りに任せた単調な攻撃は、ゼラでなくても回避は容易だろう。
もはやゼラは歩きながら、ハジメに説教を続ける。 魔弾はもう当たらない。
「お仲間には死んでほしくないんだよ。 だから一旦手を止めなって。 話せば分かり合えることもあると思うんだよね」
「……ハァ、ハァ。 何が、分かり合える、だ……?」
ハジメとしても今の行動が無意味なものに成り果てていることは理解できるため、マナ温存のためと自分を騙して攻撃の手を止めた。
「僕らが殺し合ったら、右道の奴ら──アースティカがのさばる世界に逆戻りしちゃうんだよ。 そうならないために、僕らは手を取り合うべきなんだよね」
ゼラの発言は、自らの陣営が正しいと信じ切った者のそれだ。 ハジメはゼラから、狂信者と言っても差し支えないような印象を受ける。
「それはお前らの都合だろうが……」
「僕ら皆の都合だよ。 僕らの神“ダヴス”も言ってる。 神界に至り、悪神アラマズドを殺せってね。 そのためには大勢の仲間が必要だから、こうやって勧誘してるわけ」
「悪神、だって……?」
「滅ぼすべき宿敵だよ。 そのためにナースティカという組織があって、僕らがいる。 君がどう思うとかは関係なく、実際に大きな流れが僕らを引き合わせてる。 これが証拠さ。 そして新たな左道の息吹もここに。 感じるだろう? 運命の導きってやつを」
「ンなもんはねぇよ……!」
「そう考えるとさ──」
ゼラは相変わらず自分勝手に喋り続ける。
「──僕がベルナルダンで散々殺し回ったのに左道に入れなかった意味も分かるんだよ。 僕が左道に入ったのもついこの間だしね。 見たところ君は左目の証を隠せてはいないみたいだから、本当にごく最近左道に入ったというのが分かるよ」
「最近だったらどうって言うんだよ! さっきから意味の分からない話をするな!」
「意味は分かるよ、すぐにね。 もう一度聞くけどさ、君ってあの時ベルナルダンに居たんだよね?」
「ああ、居たよ! 居たからレスカがあんな目に……!」
「それなら納得だ。 ベルナルダンで僕が大量の魂を救済したのは、君のためだったんだから」
「は? な、なんでそうなるんだよ……!?」
「アースティカもナースティカも世界中を駆け回って勧誘活動に勤しんでるんだよ? それだけ必死になっても、各陣営は年間で一人の仲間が見つかれば良い方だった。 それがどうだ。 こんな辺鄙な場所に三人も──それこそ新規の左道覚醒者が揃ってる。 これって本当に偶然起こることなのかな?」
ゼラの思考プロセスは本当に都合の良いものだと言えるが、それを違うと断言できないハジメもここにいる。 ハジメがモルテヴァ内に居るのは自らの意思ではなく、ユハンがここに運んできたことが原因だ。 左道に入ったのはツォヴィナールの思惑が機能したからで、元を辿ればアラマズド神の意思が全ての元凶。 あらゆる事態に繋がりを持たせようと思えば何とでもできるが、それにしては神に関わる事件がハジメには多すぎる。 これを運命と言わずして何と言うのだろうか。
「……偶然に決まってる」
「偶然じゃない、運命だよ。 こうやってロドリゲスが騒動を引き起こしたのも──っと、残念。 話はここまでかな」
デカブツ以外にも複数の化け物をドミナは引き回しており、ついに限界を迎えた。 ハジメとゼラのごく近くまで敵は迫っていた。
「チッ……! 邪魔すんな……よ……」
ハジメは背後のエマを見た。 この瞬間、ハジメは自身が怒りで何も見えていなかったことを思い知った。 エマは指示通り《歪虚》空間からは出ていないようだが、不安そうに震えている。
「もう無理! 散々引っ張り回したんだから、あとは二人で何とかして!」
ドミナは敵の大半を押し付けると、リセスを伴って走り去った。
「僕も一旦退くとするよ。 君は何かと僕に恨みがあるみたいだしね。 じゃあ、また会おう」
「ちょ、待──ええい、くっそ! デカいのは俺かよ!」
ハジメは遠くへ逃げ去るゼラや姉妹へ怨嗟の視線を送りながら敵を見た。 ズシンズシンと地響きを響かせて迫る化け物は、近づくほどに迫力を増している。
「《過重弾》!」
鈍重な敵なら魔弾で余裕だろう。 そう思ったハジメの予想は軽く裏切られた。 ドミナの魔弾と同様、ハジメのそれも効果を発揮しなかった。 一瞬仰け反っただけで歩みを止めないのが良い証拠だ。
「物理しか効かないってか!? 面倒な……!」
結局ゼラから齎された情報の精査はままならず、ハジメは目の前の諸問題の解決を余儀なくされた。
騒動は治るどころか、終わりに向けて各所で活性化を続ける。
▽
「はぁ……はぁ……終わり、です……」
フエンは震えるてで風刀をカチュアの首元に押し付け、勝ちを宣言する。
「果たして、そうでしょうか……?」
地面に座り込んだカチュアは、右手を銃のようにしてフエンに突きつけている。
フエンもカチュアも全身をボロボロに負傷している。 フエンは雷撃を浴びて筋痙攣が激しく、立っているのもやっとなほどだ。 一方のカチュアは関節可動域の限界を超えた動きを余儀なくされたため、両脚は使用不可能なほどに変形し、筋線維もズタズタだ。
「少し手を動かせば……はぁ……お前の首は飛んでいく、です」
「私の攻撃の方が、速いですよ……?」
「お前のそれは攻撃力以外の部分に特化してるです。 負傷はあっても死亡はない、です」
「それはここまでの話……ですね。 私が死ぬ時、私の魔法は制限の壁を越えるでしょう。 それこそあなたを容易に殺しうる程度には」
「何を言ってるです?」
「事実を、お話ししています。 その武器を収めるのなら、あなたの知らない魔法の世界を一部お伝えしましょう。 いかがですか?」
「……お前が逃げ出さない確証がないのです」
「まさか、この負傷具合でそのようなことはしません。 ただ、あなたが私を即座に殺さなかったのは、私に有用性を見出していたからでは?」
「それは……」
「それに、エスナの目的は私個人ではなく別のところにあった。 私を街から引き離して戦闘不能に追いやった時点で、エスナの目的は一部達せられていると思うのですが?」
(確かに、カチュアを追い詰められたことは僥倖以上の何ものでもないのです。 エスナの補助があった上での成果ですけど、短期決戦を推し進めたのは英断だったです。 おかげで、上級魔法使いから情報を引き出せそうなのです)
「さっさと話すです」
「では、上級魔法使いとは一体どのようなものかを。 そして、私たち魔法使いと魔人の決定的な違いをお教えしましょう。 上級魔法使いに近しいあなたになら、無関係な話とは言えないでしょうから」
突風が吹き、モルテヴァの町に向けて駆け抜けた。
根に覆い尽くされた町はまさに、魔法の可能性が分岐する未来図だった。
本作を読んで「面白い」「続きが気になる」と思われましたら是非ブックマークをお願いします。
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作者の執筆力に繋がりますので、ギモン・シツモン・イチャモンなど、良いものも悪いものもどうかご意見よろしくお願いします。