第70話 第二波
魔法を構成する要素は多岐にわたる。 その中でも強度と規模の二つの要素が非常に重要で、それらを両立させた魔法は基本的に存在しない。 実際そのような魔法も存在しないわけではないが、実戦使用を考えた場合にそれは到底実現不可能なシロモノだ。 そのため魔法使いは状況に応じてその二つにリソースを割り振りながら魔法を発動することになる。
「対応が早いわね。 平民区画は捨てて、商業区画から上を隔離する気かしらね」
ドミナは平民区画の外壁上を走り、商業区画へ至ろうとしていた。
商業区画の検問所には多数の衛兵が動員され、ドミナの見知った連中も多い。 そのうち三名は魔法使いで、ドミナとは魔法の実力が同程度の者もいる。
「エスナには各所の風通しを良くしろって言われてるけど、バレないで全員殺るのは不可能ね。 町を全部敵に回すくらいの覚悟が無いと目的を完遂するのは無理かしら」
今回の騒動は、ドミナが自ら蒔いた種が発芽した結果だ。 それにしてもドミナの想定以上に突発的で大規模な事象へと発展してしまったため、すでに荷が勝ち過ぎている状況だと言える。
「広範囲の毒殺をしようとすると事前に見つかるのは明白だし、かと言って一人一人殺すのは非効率だし確実性に欠けるのよね。 自分で言うのもなんだけど、使い勝手が悪い魔法だわ」
派生属性の魔法使いはピーキーな性能を発揮させられることが多い反面、日常使いには勝手が悪いという欠点もある。 そのため、どうせなら基本属性に適性を得たかったという魔法使いも少なくない。
毒属性などという異端は、その用途を攻撃方面に使用することが大半だ。 使い方によっては薬にも転じることもある毒だが、使用者が慈愛の方面に性格が寄っていなければならないという前提があるため、ドミナやリセスのような殺し屋家系では他者を傷つけることでしか魔法を使用できない。
「エスナのことだから、この雨が何の意味も持たないなんて考えづらい。 エスナのサポートがあると思って動いた方がいいのかしらね。 問題は、この雨が私にも影響している可能性だけれど……仕方ないわね」
考えていても状況が好転する気配は無いため、ドミナはリスクを受け入れることとした。
ドミナは魔導書を展開し、マナを注ぐ。 魔導書は身体の延長として認識されるため、マナを注ぎ込む作業自体は他者から感知されづらい。 それでも発動を早めようとすればマナの高まりは感知される。 高度な魔法ほど相手にバレることが前提のような隠密性の低さなので、どうしても限界はある。
「言っても空間型魔法なんて習得していないし、設置型魔法が限界何だけどね──《毒沼》」
最も人数の集まっている方面、その足元にドミナは魔法を展開した。 瞬間、その範囲内に待機していた魔法使いは全員もれなくその場から飛び退った。 彼らは何が起こったのかと動揺する集団にいて、それでも魔法使いたちは全員ドミナのことを視線で射抜いていた。
「まぁ、バレるわよね。 知ってたけど」
平民区画から商業区画に入ってすぐの一帯──交差路を分断するように、黒い染みが濃度を増し始めている。
空間型魔法はその規模と拘束性を実現するための発動条件が煩雑で、完成した際の見返りが非常に大きい。 一方で、設置型魔法は強度を重視しており、発動が容易なぶん規模や拘束性は高が知れている。
《毒沼》はリソースを規模と強度に割り振っているため、拘束性は皆無と言える。 しかしながら目視で回避可能な魔法というのは視覚的な印象が非常に大きく、実際、敵集団を二つに分断することに成功していた。 また、強度を高めた《毒沼》は破壊困難なオブジェクトとしてその場に留まり、高濃度の毒性を周囲に振り撒いている。
「展開前に処理されなかっただけ運が良かったけど……」
ドミナを敵と認識した魔法使いが何やら叫んでいる。 するとそのうちの一人が魔導書を手にドミナ目指して動き始めた。
「バズが釣れるのは聞いてないわね」
空中を蹴ってドミナに迫るのは、機動力に長けた風属性のバズ。 ドミナと同様にギルド運営に関わる職員だ。
「ドミナ貴様、一体どういうつもりだッ!? 説明しなければ殺すぞ!」
「いつも通りの脳筋ね。 だから女性が寄り付かないのよ」
「黙れ!」
バズは遠隔攻撃を得意としないインファイターの魔法使い。 近接戦しか取り柄のない彼だが、魔法の全てを身体強化に割り振っているため、戦士系のハンターで彼を止められる者は居ない。
「《毒弾》」
「フゥンッ!!!」
バズは一直線にドミナへ突撃しながら腕を振るった。
毒弾はバズの手の甲に触れ、バラバラに霧散した。 彼の肉体に毒影響は至らない。
「ま、そうよね。 効くわけないか」
バズは全身を《魔鎧》で覆っている。 《魔鎧》は各属性に存在する魔法で、風属性の特性を得たこれは反射装甲の役割を担うこととなる。
「貴様は昔から気に入らなかった! 俺をいつもいつもいつも馬鹿にして……!」
バズの蹴撃。
「っ……!」
ドミナは放たれた攻撃をヒョイと躱した。 が、ドミナの太腿に数条の切り傷が刻まれている。
「近接では俺に勝てんぞ!?」
「単純な力比べでは、ね。 《毒鎧》。 これで──」
ドミナの体表が一瞬だけ黒紫に鈍く色付いた。
「俺にそんなもの効かん!」
「──が、はッ……!?」
バズの拳がドミナの腹に突き刺さった。 浮かされた彼女の身体は、平民区画上空数十メートルの位置へ放り出されている。
(チッ、底抜けの馬鹿とはこいつのことね……)
ドミナはバズのことを馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、想定を上回る馬鹿だった。 バズの近接攻撃を鈍らせるための防御策も、無視して殴られれば意味をなさない。
「ぐぅぅ……潰れて死ね!」
バズの呻きが響く。 拳が毒に侵されている。 毒の装甲に触れたのだから、そうなるのは当然だ。
ドミナは落下予測地点を見遣った。 そこは相変わらずリセスに操作された狂人たちが徘徊しているだけで、クッションとなる構造物は少ない。
ドミナは不意に圧を感じた。
バズが宙を蹴ってドミナに迫り、腕を振りかぶらんとしている。 一瞬意識を外した間に、バズが追撃の打って出ていた。
バズはドミナの落下死を安直に望むような思考回路は持ち合わせていない。 殺すと言ったからには、自らの手で始末しなければ気が済まない性質だ。
「しまっ──」
回避不能と判断して防御行動に移ったドミナ。 しかしここで予期しないものが目に入る。
「──え?」
「貴様はここで確実に──は?」
バズはドミナの驚愕反応が自然なものだったので、彼女の視線を追って背後を見た。
「やぁドミナ。 見ない間に随分と衰えたようだね」
それは数十メートルの上空に突如現れていた。 尚且つモルテヴァにいるはずのない犯罪者とあって、ドミナとバズの思考が乱れる。
「ゼラ!?」
「貴様ここで何ぅぎッ!!」
背に少女を背負ったゼラが、空中の構造物──魔物を踏んでバズの頭上にいた。
バズが認識した瞬間にはすでに、ゼラの踵落としがバズの脳天に直撃していた。
凄まじい勢いで真っ直ぐ地面に吸い込まれていくバズ。
ゼラはすぐにバズから意識を外して、早口に捲し立てる。
「メイ、ドミナにいくつか足場を用意してあげな」
「うい。 《魔物生成》」
ドミナの落下軌道上に数匹の魔物が生み出された。
「一体なんのつもりよ!?」
「これは君らがおっ始めたんでしょ?」
ゼラは平民区画ざっと見渡しながら言う。 そして続ける。
「負力を拝借してるから、これで貸し借りなしだ。 じゃあ僕もやることがあるから、邪魔しないでくれよね」
「待──」
落下するドミナと対照的に、ゼラは魔物を踏んでどんどんと上空へ飛び上がっていく。
「──何なのよ、もう!」
ドミナは仕方なく魔物の一匹を踏んで空中姿勢を立て直した。 すると、魔物は役目を終えたと言わんばかりに粉々に砕け散った。 ドミナはメイと呼ばれた少女の考察もそこそこに、ひとまず安全に着地することを最優先に魔物を踏む動くを繰り返した。
「貴様らァ! 許さん、許さんぞ!」
地面に降り立ったドミナだったが、すぐ近くで突如瓦礫が吹き散らされた。 その中から怒りを全身に込めたバズが息荒く姿を現している。
「あれま、あれでまだ生きてるの? そのしぶとさだけは尊敬に値するわね」
モルテヴァに向けて役者が続々と集結を始めている。
これはドミナの引き起こした騒動だが、元はと言えばゼラが根本の引き金を引いている。 つまりこれはゼラ主催の出来事であると言える。
「私なりに動いたつもりだったけど、実際ゼラに踊らされてるだけなのかもね。 目的を達せられるなら手段は何でもいいんだけど、他人の手のひらの上っていうのは気分が悪いわね。 だからどこかで流れをこっちに引き寄せないとね。 そのためにまずは……」
ドミナ目の前の駆除対象に集中することとした。
▽
『エスナ様、それではお気をつけて』
『ええ、あなたたちもね。 お膳立てはしてあげたから、あとのことは自分たちで何とかしなさい』
『はい、お世話になりました』
ニナはエスナを見送ると、奴隷区画の面々を招集した。 それは奴隷区画の全勢力とも言える軍勢で、普段無気力な雰囲気を醸している奴隷区画には見られない熱気が立ち込めている。
「ここからはあたしたちの戦いよ。 今後恐らくこんな好機は訪れないはずだから、最初で最後と思って働いてください」
集まった面々は静かに、それでも意志固く頷いた。 その誰もがモルテヴァ民に課せられた魔導具を装着していない。 尚且つ彼らは行方不明として処理された、存在するはずのない人間だ。
「では、ご武運を」
全員の足が、外壁に隣接した民家群に向かっていった。 そこには収まるはずもない人数が扉を潜り、そのまま消えていく。
モルテヴァを覆う外壁は、厚さが10メートルを優に超える。 外壁は分厚いただの壁だと思われがちだが、城門付近は外壁内部に通路が通されていたり部屋が設置されていたり、空間が有効活用されている。 ただ、そのような設備が充実しているのは城門の周辺だけだ。 その他の大半の外壁は外敵からの防備が意識されていて、壁としての役割を失わないように、下手な工夫は施されていない。
フエンは日夜外壁の構造把握に努め、エスナはそこを利用する手立てを思いついた。 奴隷区画の外壁部分だけでも区画の半数を収容できるほどには外壁内部改築が進められていて、行方不明とされていた者たちはそこで牙を研いでいた。 またそういった改築は奴隷区画を超えて平民区画、商業区画まで行われている。
今まさに、壁の内部をニナたち──モルテヴァへの反乱勢力が突き進んでいる。 ここは彼女らが侵入した民家から続いていて、エスナの魔法によってこれまで巧妙に隠匿されていた。 それが今まさに、最大の意味を発揮しようとしている。
「ニナ、配置が完了したようだぞ」
息を潜めて待つニナのもとに、一人の男が駆け寄った。
「了解。 じゃあ時間通り同時にやるから、最後に装備の確認だけ徹底させておいて」
「ああ、任せろ」
男が去り、ニナの中に再び緊張の時間が帰ってきた。
(あたしたちにこの機会がやってきただけでも十分幸運なのに、数パーセントであっても可能性があるのは奇跡に近い。 様々な人の助けがあって、あたしたちはここにいる。 今まで不当に扱われてきた仲間に報いるためにも、一度モルテヴァを破壊しなくちゃならない)
当初ニナはロドリゲス=ヒースコートの殺害を成せば問題が解決すると思っていた。 問題とは、身分に関わることに他ならない。 しかしそれでは何も解決できないことが分かった。 エスナの話を聞いて、それが分かってしまった。
(ロドリゲスを殺しても、新たな頭が擁立されるだけ。 体制を変えるにはまず全部を更地にしなくちゃ。 そこでようやく新緑が芽吹くんだから)
「そこにはあたしたちの命も含まれるかもしれないけど、まぁそれは仕方ないかな」
ニナの小さな呟きは周囲の人間には届かなかった。
そこからニナはこっそり息を吐いて意識を新たにする。 それとともに、完全に不安を吐き出せていないことに当惑を覚える。
今回の作戦は全てエスナに頼り切ったものだ。 当初エスナは別の目的で外壁の精査を行なっていた。 その過程の副産物として彼女はニナたちを利用している。 ニナ自身もそれが分かっているが、エスナの提示した内容がニナにとって流涎ものの出来だったので争うことはできなかった。
「エスナ様を従えるトンプソンって、どんな人なんだろう。 これが終わったら聞かせてもらおうかな」
ニナの周囲に動きは無くなった。 いつでも動けると言うことだろう。
「そろそろ時間ですね。 じゃあ、モルテヴァの外壁にサヨナラを告げましょうか」
指定の時刻。 リセスの活動開始から1時間強が経過した頃、騒動に更なる油が注ぎ込まれた。
外壁の内面にあたる各所が爆ぜ、内側から大量の人間が躍り出た。
「魔導具を確認できる人間は全部殺しなさい!」
第二波とも呼べる奴隷区画勢力の出現だ。
リセスによる住民の狂人化影響──つまり第一波は、平民区画に押し留める形で何とか収まりを見せつつあった。 しかしそれ以上に面倒な事態が上位区画で進行していた。
現在激戦区となっているのは主に貴族区画と商業区画。 一部の魔法使いたちが高度な魔法をぶつけ合って暴れている。
余波を恐れた上位区画の住民たちは壁外へ退避するか、平民区画区画へ下った。 その際後者が圧倒的に多いこともあって、そこに帯同する魔法使いも少なからずいた。
「くそ、安全に処理する手段は無いのか!?」
土属性魔法使いのギレンが叫ぶ。
「馬鹿言え! ただでさえ普通じゃなく強化されてるし、何より伝染性の何かだった場合に責任取れるわけないんだから、殺してでも止めるしかない!」
火属性のククバも半狂乱に叫んでいる。
彼らは北部未開域の対応に向かわなかった町の職員。 魔法使いの中でも戦闘に能力を発揮できなかった者たちが、現在最前線で戦うことを余儀なくされている。
「くそ、せめてドミナあたりの攻撃寄りの魔法使いがいれば良かったんだが」
「あいつは駄目だ! 敵側に回ったって聞いてる」
「敵って誰だよ!?」
「これを引き起こしてる奴らのことだよ! 」
「魔人か? ゼラか? それとも奴隷の連中か!?」
「知るかっ! 敵が誰とかどうでもいい! 《炎弾》! お前もさっさと俺と変われ! もうマナが保たん」
ギレンやククバ、その他数名の必死の抵抗もあって、狂人たちは徐々に処理できている。 しかし現在、次なる問題が浮上している。
衝撃が駆け抜けた。
職員たちの背後で何かが爆ぜ、彼らが守っていたはずの上位区画住民が数人吹き飛ばされた。
「くそッ……! どこからだ!?」
「あそこだ! また奴隷の連中だ!」
ククバが指差した先、建物の上に一瞬だけ人影が見えた。 しかしそれも一瞬だけだったので、魔法で対応するまでには至らなかった。
「やっぱりあいつら、魔導具を付けて無いぞ!?」
「見れば分かる! お前は喋ってないで後ろの連中を守ってろ!」
そんなやりとりが暫く続き、今度はけたたましい轟音が町中に響き渡った。
「うぉ!?」
「なんだ!?」
ギレンとククバは一瞬目を疑った。 あまりの異常事態に、自分たちが何かしらの攻撃を受けたとさえ錯覚するほどだった。
「有り得、ない……だろ?」
ククバは眩暈を覚えながら、何とか平衡感覚を保ってみせた。 片やギレンは身体が傾きつつある。
「あ、れ……? 防壁、が」
「ギレンしっかりしろ!」
モルテヴァをモルテヴァたらしめる絶対の外壁。 土属性魔法の集大成かつ、数十年ここの住民を守り続けてきた安全の象徴。 それが全て、外側に向けてグラリと傾き始めた。
外壁の根本あたりは、破砕音と粉々になった岩石を撒き散らしている。 ゆっくりと、それでも確実に、外壁は地面に向けて角度を小さくしてゆく。
響く破壊の重低音は、それを見ていた者たちには非常に馬鹿らしく聞こえた。 破壊の光景は、それ以上に滑稽だった。
▽
癖のあるウェーブヘアを垂らした中年男性が一人、エスナの行手を阻んでいる。 無精髭で丸い背中の彼は、だらしなさを隠そうともしていない。
「外見もさることながら、魔法も面妖だな」
「デミタス、あなたじゃ私に勝てないわ。 この雨であなたの催涙攻撃が無意味なものに成り下がっているのが分からない?」
エスナの言葉を受けても、デミタスは飄々とした様子を崩さない。
「そう結果を急ぐな。 己れが負ける道理がどこにある? 現に己れは元気にしておるぞ?」
「逃げるのが得意だからでしょ? 隠れ潜んで状態異常を振り撒くなんて、性格の悪さが滲んでるわ」
「そう褒められても困るな」
「あなたとこれ以上言い合っても楽しくなさそうね。 そろそろお互い面倒になってきた頃だろうし、もういいんじゃない?」
「根を上げたか。 己れに拘っているのはお前だろうに」
「私が?」
「ゼラを追っていたのだろう? それならなぜそちらを優先しない? 明確な目的があるのなら、一顧だにしないはずの己れなど無視するのが当然だが?」
エスナはゼラ出現の報せを受けて商業区画へ至り、デミタスとの遅々とした攻防を続けさせられている。 押せば引き、引けば押してくる彼は非常に厄介で、エスナには僅かながらフラストレーションが溜まりつつある。
「あら、案外聡いのね。 あなたの方がエクセス=ナクロより面倒だったりするんじゃない?」
「さてな。 実際、直接的な戦闘力で己れはあの男に遠く及ばんよ」
「そうでしょうね。 力自慢のお馬鹿さんなら御し易さもあったのだけれど、そうじゃないから嫌だわ」
「そこまで己れに感情を向けるな。 思考が透けるぞ?」
「気持ち悪い目で見ないでくれる?」
デミタスが直接的な攻撃だけでなく搦め手も使用してくるために、エスナは常に戦いづらさを感じている。
勝ち負けの明確な勝負であれば決着を付けるのは容易だが、エスナの目の前の男は勝とうとも負けようともしていない。 ただただ嫌がらせの如く付き纏ってくるせいで、エスナの当初の目的は宙に浮いている。 その間に奴隷区画の反抗勢力が行動を開始してしまい、彼らを確実に止めてくるであろうデミタスの処理を第一目標に掲げる羽目になっている。
(デミタスを惹きつけられている状況は悪くないけど、この男はこの男で何かしらの優位性を確保しているはずなのよね。 それを知るか、この男を始末できれば楽なのに。 それにまだ、この男は上級魔法使いである一面を見せてすらいない。 これを加味すると、私が管理している今が、最善の状況なんじゃないかしら)
「考えは済んだか?」
言葉通りエスナの脳内を覗いているような発言をこぼすデミタス。 その彼の様子に、エスナは言い知れぬ危機感に襲われる。
(デミタスは今は勝ち負けを意識していない。 だけどこの男が勝ちを求めて動いた時、私はそれを止められる?)
上級魔法使いデミタス=ラクリマ。 彼が魔法力以前に洞察力・観察力に優れた厄介者であることを、エスナはその身でひしひしと感じていた。
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作者の執筆力に繋がりますので、ギモン・シツモン・イチャモンなど、良いものも悪いものもどうかご意見よろしくお願いします。