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オミナス・ワールド  作者: ひとやま あてる
第3章 第2幕 Variation in Corruption
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第68話 平民区画戦域

「魔人……」

「「「え、っ……!?」」」


 カチュアの呟きに衛兵たちが反応した。 視線を追う彼らの狼狽具合が顕著になる。 ただでさえ狂乱状態の住民を抑えるだけで精一杯なのに、それ以上の問題が出現しては思考が混乱するのも仕方がないだろう。


「恐らく、この雨もあの魔人が原因でしょうね」


 魔人と思しき存在から立ち昇るマナは天高く吸い込まれ、モルテヴァ全土を覆えるほどに存在感を密にしている。 一介の魔法使いでは到底困難な芸当のため、カチュアは魔人の出現を確信している。


「カ、カチュア様……。 我々はどうすれば……?」


 わなわなと震えながら声を発せたのは、平民区画城門を纏める衛兵長カライツただ一人。 下っ端の衛兵たちは今にも逃げ出さんと魔人ばかりに気が向いている。


「住民を煽動して操っているのも魔人でしょう。 彼らの狙いは私たちですし、とりわけ魔人の注目は私個人へ真っ直ぐと向いています。 これは相手をしないわけにはいきません。 ですので、あなたたちは暴動に対応しつつこの場を離れてください」


 住民たちが衛兵やその詰所を狙って動いていることはすでに周知の事実として受け入れられている。 ただその数が余りにも多いため、カチュアたちは城門付近から動けないでいるわけだ。


「わ、分かりました……」

「正気を確認できた住民は町の外へ逃すように。 しかしここもすぐに戦場になるため、商業区画へ向かうのが最善でしょう。 では、急ぎ行動を」

「聞いたかお前たち! 我々は市民の対応と救難を行ないつつ商業区画へ向かう! 付いてこい!」


 カライツの指示によって衛兵たちは半ば正気を取り戻し、おぼつかない足取りで長の背を追いかける。


「……やはり、知性の高い魔人ですね」


 足音が一つ。 カチュアが一人になったタイミングで、敵が優雅に地面に降り立った。 両者の間には50メートルほど隔たりがあるが、魔法使い同士であれば大した距離ではない。


 冷や汗を雨水に含ませつつ、カチュアが声を掛ける。


「標的は私ですね?」

「……」


 カチュアの言葉を受けても、敵は微動だにしない。 数秒待っても返答が得られないので、彼女は続ける。


「できれば穏便に済ませたかったのですが、人間の言葉を解さないのであれば手順に沿って処理するしかありません」

「……黙っているのも面倒ね」


 返事がくるとは思っていなかったカチュアは驚く。 更には敵の姿にも。


「え……?」


 捲り上げられたフードからエスナの姿が露わになっていた。


「こんにちは、カチュア=テザー。 町へ入る時に一度だけ会っているわね」

「その腕は……。 いえ、でも、そのような人間など……」

「私のことは知っているでしょ?」

「……名はエスナ。 ある日、魔導具だけを残して町から忽然と姿を消した魔法使い。 あなたに魔導具を一方的に解除されたことで、領主様はひどく焦りを見せたと聞いています」

「そうね。 必死に捜索しているのが滑稽だったのを覚えているわ」

「そんなあなたが町中にいたどころか、あまつさえ異形化までしているとは思いませんでした。 ここ最近人間をやめたのですか? 思えばあなたの失踪からモルテヴァには厄介な問題が……と、そのような些事は良いでしょう。 わざわざ姿を晒して私の目の前に現れたのですから、目的は一つですね」

「ついさっきまではそう思っていたのだけどね。 いざ目の前にしたら気が変わったわ。 少しお話をしない?」


 エスナはそう言って軽く笑い掛けた。 しかしカチュアの緊張は解けない。 エスナの外見的な人間部分は優しく微笑んでいるのに、右手は常に禍々しいマナを放出してエスナの周囲を漂わせているからだ。 いつでも強力な魔法を撃てる準備をされていては、カチュアも二つ返事で了承することはできない。


「どうかした?」

「その右手は殺意を振り撒いているようですが?」

「ああ、これね。 嘘偽りなく私の質問に答えてくれたら何も起こらないはずよ」

「脅しですか?」

「さぁ? 私も私の魔人部分に関しては詳しくないから。 それじゃあ、お話ししましょうか。 町の人間もこちらには寄ってこないだろうから」

「……」


 逡巡するカチュア。


(失態ですね。 情報を持ち帰る人員として、一人は衛兵を残しておくべきでした……。 狂った町の住民も本能的にエスナを恐れてか、こちらに近づこうともしない。 孤立無援とはまさにこのことですね。 さて、この状況をどうやって切り抜けましょうか……)


「抵抗したいのなら、いつでもお好きに。 じゃあ一つ目の質問ね」

「……どうぞ」


 カチュアは魔導書を閉じ、具現化を解いた。 これで少なくとも攻撃の意思は汲み取られないだろう。


(エスナが異形化した腕を見せつけていることで、私は彼女の力量を見極めるのが難しく、判断を鈍らされている。 この時点ですでに敗色濃厚ですね……)


 カチュアが思考している間にも状況は進行してゆく。


「町全体を覆っている結界……と言えばいいのかしら。 これを維持するための魔導具ないしは魔石がどこかにあると思うのだけれど。 知っていたらその全貌を教えてもらえる?」

「私の所属とは別の部門が担当する領域ですので、詳細は不明です。 ただ、その存在自体は聞き及んでいます」


 嘘は無い。 カチュアは真実を語る。


(さっきの発言がハッタリかもしれないから、あまりペラペラと話すのは良くないですね。 ですがエスナの自信満々な様子に偽りはなさそうなので、情報の無い中で下手な行動も慎むべきです。 なにより、彼女の土俵で戦わされているこの状況が口惜しい……)


「ふーん、そう」


 興味なさげな声。 エスナからカチュアへの攻撃は無かった。 これは事実が認められたからなのか、それとも元々攻撃の意思がないからなのか。 今のカチュアには判断材料が無い。 それでもカチュアは思考を続けるしかない。


(エスナの腕から漏れるマナも本物で、この雨も間違いなく彼女の魔法によるものだと理解できますね。 町で起きている全ての事象が彼女の仕業とは考えにくいですが、彼女一人で行動している可能性も限りなく低い。 姿を消していたのですから、その間に手札を揃えていたと見るのが自然でしょう。 誰が協力者なのかをここで考えるのは無駄ですから、動機や目的から探っていくしかないですね)


「今度はこちらの番ですね」

「許可したかしら?」

「会話と聞いているので問題ないかと」

「まぁ……それもそうね。 それではどうぞ?」


 カチュアは状況を好転させるための一歩を踏み出せたことに内心安堵する。 もしこれでエスナの機嫌を損ねれば、即戦闘開始だったはずだ。 カチュアはエスナの魔法使いとしての力量を知らないどころか、もしかしたら自身の魔法を一方的に知られている可能性もある。 そのため、このまま戦いの火蓋が切られるのはカチュアにとって不利となる。 力量で劣るにしても、逃げ出した際の最低限の手土産は必要だろう。


(どうして姿を消したのかは聞くまでもなさそうですね。 今この瞬間が理由のはずですから。 わざわざ私を狙いにくるあたり、外から何者かを招き入れようとしている……?)


「何が目的ですか?」


 考えても埒が開かないので、カチュアは直球で尋ねた。


「思いがけなく派手な状況になってしまっているし、あれからかなりの時間が経過しているわけだけれど」

「……?」

「ゼラ=ヴェスパの殺害。 これが私の目的」

「なぜ、ゼラの名が?」

「彼ね、私の大切な人を傷つけたの」

「それだけ? その目的のために私を殺そうとしているのですか?」

「そう。 あなたも目的を邪魔する人間がいれば殺すでしょ? 殺すことはないにしても、力で制圧するとは思うの。 さっきだって、襲いかかってくる住民を魔法で攻撃していたじゃない。 だから、邪魔するのであれば私も相応の対応をするわ」


 いつでもどこからでもかかってこい。 暗にそう言っているエスナの雰囲気にカチュアは気圧される。


(ゼラ個人を殺すためだけにこのような騒動を? いえ、でも、魔人の力を得たのなら大きく出ても不思議ではありませんね。 しかしそれだと、私のエスナに対するイメージと乖離がある。 この乖離の原因は、協力者の存在証明? その可能性を聞き出したところで今の私に何ができる? 駄目、思考が煮詰まってきていますね……)


「……もうゼラはいませんよ?」

「町中には、ね。 まだゼラが町の者と通じていることは知っているし、彼の関わった計画は生きているみたいだから、根から叩かないといけないの。 その過程で彼の殺害が叶えば上々かな……って、あ」

「本当の目的は?」

「あらら、余計な事まで話してしまったみたい。 まぁ、正直に言うとゼラの殺害も本当はどうでもいいんだけどね。 初めに抱いた感情だからそれに従っているだけで、無理して叶えないといけない目的でもない」

「それなら考え直してはいかがですか?」

「でもね、腐敗っていうのは許せないじゃない?」

「腐敗?」


 カチュアはエスナとの会話が続いていることに違和感を覚える。 エスナの饒舌な語りは、そのまま悪い結末への滑り出しではないのかと。


(さっきの失言も恐らくわざとですね。 のらくらと中身のあるかないか分からない会話を続けてくる以上、私の話術でエスナをコントロールすることも難しいでしょう。 エスナをモルテヴァの騒動に介入させるわけにもいかないので、彼女をここに縛りつけた上で情報収集が最善と判断します。 応援が来てくれる可能性も低くはないですしね。 ですが、彼女の目的が時間稼ぎだったり、増援をここに集めることであれば厄介ですね。 むしろその可能性の方が高そうです)


「この世界って、根っから腐っているでしょ? 貴族がいて、彼ら専用の社会が基盤にあって。 あなたはどうかしらないけど、私たち平民は彼らを肥やす道具でしかない。 彼らがいるから腐敗は腐敗のまま存在し続けて、誰もそれを正すことさえできない。 こんなの許せないじゃない?」

「それがこの世界の基本原則なのであれば、従うことが当たり前だと思いますよ。 あなたも魔法使いであれば、むしろ彼らに寄った考えではないのですか?」

「カチュア、あなたは特権階級に浸かってしまっているから分からないのよ。 思考を放棄するから腐敗は消えはしない。 腐敗を撲滅しようとする行為さえ悪だなんて間違ってる。 せめて選択肢が残されていないとね?」

「その選択すら間違っているものとして廃されてきたからこそ、このような社会が確立したのでは? 秩序を乱す存在を除外することが、安全な社会を維持する基本原則かと」

「そうね。 特権階級はみんな、自身を脅かす存在の出現を恐れてる。だからイレギュラーを排除して問題が起こる前に対処しようとする。 でもそれで根本的な問題が解決できているかしら? 対症療法でしか存続できない社会って、本当に十分かしら?」

「何が言いたいのですか?」

「イレギュラーが必ずしも悪か、ってこと。 社会を良好にする因子さえ除外してしまっているんじゃない?」

「あなたがそうだとでも? 社会原則に当てはめれば、今のあなたは基盤を壊して混沌を生み出す悪でしかありません。 現にモルテヴァには混乱が渦巻いていますよ」

「完成された社会じゃないから、こうやって問題が起きるんでしょ? 間違った説を唱え続けた結果と思えば、何ら違和感はないでしょ」

「詭弁ですね。 愚か者の戯言にも聞こえます」


 この問答に意味はない。 カチュアはそう思い始めている。 それなのに、エスナの発言一つ一つに何故か引っ張られる。


「でもあなた言ったじゃない? 秩序を乱す存在は除外される、って」

「言いましたが、それが?」

「私とあなたは見ているスケールが違う。 私が変えたいのは世界そのもの。 世界という尺度で見た時にイレギュラーなのは腐敗した社会であって、とりわけエーデルグライトという劣等国家は真っ先に滅ばされなければならない」

「何を言っているのですか……?」

「だから私はあの人の──あの人の属する組織の考えに傾倒した。 この国を牛耳る汚染源を肥やす働きをしているモルテヴァは、今日この日に消えてもらおうとたった今思い至ったわ。 カチュア、あなたのおかげで決心がついたわ。 有益な時間をありがとう」


 にっこりと微笑むエスナ。 カチュアはぞわりとした嫌な感覚を覚えた。


(交渉は……というより、会話に応じたのは失敗でしたね。 どこで間違えたのかは分かりませんが、少なくともエスナをその気にさせてしまったことは事実として受け入れましょう。 あとは未知の魔法使いにどこまで対応できるか、といったところですね)


「エスナ、あなたは邪悪そのもの。 ここで処理させていただきます」


 カチュアは魔導書を具現化させた。 同時にエスナからも莫大な量のマナが放出され始める。


 魔法使いの戦いは情報が全て。 そのアドバンテージを失っている状況で戦いに挑むのは自殺行為でしかないが、逃げるにしてもカチュアが得られた情報はあまりにも少なすぎた。 唯一分かっているのは、身体の一部を魔人化させたエスナという魔法使いが脅威であるという一点のみ。 これだけで町中の騒動を上回る重要情報だが、カチュアが逃げ出すことで引き起こされる二次災害を考えれば、ここでの対応が賢明だと言える。


「できるの?」

「あなたが属性的に私の完全上位互換でもなければ、結果は必ずしも一定とは言えませんので」


(マナの行き先からして雨を降らせているのはエスナであることは間違い無いので、彼女が水属性ということは確定的。 それよりも問題は、雨が黒いという点。 今のところ私の身に何らかの異常は見受けられませんが、この雨が他の属性──魔人の得意とする闇属性を付与されたものであれば、すでに負けている可能性が高い。 二重属性なんて見たことも聞いたこともありませんが……)


「それもそうね。 私もそこそこやれるようになってきたとは思うけど、全部を全部自分の力だけでやってきたわけじゃないしね。 個人で上級まで上り詰めたあなたの方が自力は高いかもしれない」

「この町から手を引くのであれば見逃しますよ?」

「急に強気なのね。 まぁ、お互い無駄な争いを望んで──って、なに?」


 カチュアが疑問を浮かべたのとほぼ同時に、エスナのそばで水飛沫が上がった。


「……!?」


 飛沫が明けると、そこには新たな人物の姿があった。


(増援……ッ。 よりによってあの娘なんて……)


 カチュアは彼女──フエンを知っている。 採取や調査任務で平民区画城門から出入りする彼女の姿を何度か見たことがあるからだ。


「エスナ、緊急事態です」

「随分慌ててるのね。 何があったの?」


 フエンがカチュアを警戒しつつエスナの耳元で何かを囁いた。 途端、エスナ周囲のマナに乱れがあった。 カチュアに緊張が走る。


「……なるほど。 教えてくれてありがとう、フエンちゃん」


(協力者には風属性魔法使いのフエン。 姿を隠す気が見受けられないことから、彼女らが派手な活動を意図しているのは明らかですね。 さて、困りましたね……。 風属性とは直接的な優劣関係にありませんが、私が水の派生属性である以上、何らかの影響はありそうです。 両者とも性格的に攻撃面に寄ってはいなさそうですが、数的不利はどうしようもない)


 カチュアはエスナだけなら対処のしようもあった。 曲がりなりにもカチュアは上級魔法使いで、彼女はその自負と自信がある。 しかし敵が魔法使い二人となれば話は変わってくる。


「それでエスナ、あの女はどうするです?」


 フエンからも明確な敵意を向けられたことで、カチュアはいつでも逃げられる体勢にシフトした。


「フエンちゃんに任せてもいい?」


 しかしエスナから発せられた言葉が予想外だったため、カチュアの思考に再び乱れが生じる。


(私を殺すよりも重要な事態が生じた? まさか……。 え……? さっきの話を信じるならゼラの出現が最も可能性は高そうですが、そんな偶然……? もしかしたら住民の暴動はゼラが原因だった? ……いえ、駄目です。 まばらな情報を繋ぎ合わせて都合の良い解釈をしてはいけません)


「殺すですか?」

「できれば殺してくれってことだったから、邪魔できないようにするだけでも構わないと思うわ。 これを持ってて」


 カチュアはエスナの言葉を耳聡く拾う。


(何気なく話していますが、あの口ぶりだと協力者はフエン以外にも存在するようですね……)


 辟易とした様子を悟られぬよう、無言に徹するカチュア。


「了解したです」

「じゃあお願いね」


 エスナは一瞬だけカチュアへ視線を向けたのち、どこかへ走り去っていった。 カチュアはそれを制止することをしなかった──いや、できなかった。 魔導書を開いたフエンが睨みを利かせていたからだ。


 その場にはカチュアとフエンだけが残された。 しかしカチュアに安寧の時間は未だやってこない。


(エスナが去ったことを幸運と感じるべきか、それとも……。 彼女がエサを見つけて向かっていっただけなら良いのですが、魔人の力を有した彼女が環境を破壊しないという保証はないですからね。 あと、フエンが一人で残ったことも気になりますね。 彼女一人で私を御し切れるとは思えませんが、絶対は無いのが魔法の世界)


 カチュアはエスナの場合と同様に、まずは対話を試みることとした。 情報収集は必須の作業だ。


「フエン、あなたは──」

「《爆歩バースト・ステップ》」


 フエンの姿がカチュアの視界から消える。


「──ぅぐ……!?」

「《浮遊フロート》」


 カチュアがフエンの声を脳で理解するよりも、腹部を襲う痛みと衝撃の方が速かった。 カチュアの身体は軽々と宙に浮かされ、眼下には腕を振り抜いた後に次なる魔法を唱え切ったフエンの姿がある。


(速……っ!? まず、い、空間型魔法に取り込みを──)


 対応に走ったカチュアの身体がぐいと引かれた。 フエンがカチュアの背を掴み、凄まじい勢いで上昇を始めている。


 カチュアは咄嗟の事態に魔導書の操作が遅れた。 それでも体周囲にマナを集約させて無理矢理に魔法の発動準備を整えた頃には、すでに彼女の身体はモルテヴァの外壁よりも高く舞い上げられていた。


(速度に、追いつけない……!)


 フエンを空間に捉え損ねたカチュアは後手に回り、対応を誤った。


 みるみるうちに高度は上昇し、モルテヴァが遠く小さくなる。


 カチュアは魔導書を乱暴に捲った。


「ぅ……《避雷針(ライトニング・ロッド)》──」

「チッ……」


 カチュアが魔法を発動したとほぼ同時、急な浮遊感が彼女を襲った。


「──えっ……?」


 カチュアの上空にフエンの姿が見える。


「潰れてろ、です」


 放り投げられた。 そう理解した時、カチュアは落下死の恐怖に見舞われた。


(単純な物理攻撃……! 地面に叩きつけようとするとはこの娘、分かっていますね……)


 カチュアは自身の落下予測地点を見た。 そこはモルテヴァの西へ約1キロメートル進んだ場所にある狭い森林地帯。 一瞬でここまで運ばれたことに驚くとともに、クッションになるであろう木々の存在に安堵する。


(だからといってこのまま無事でいられるはずはないですね……。 何かしら手を打たなければ、死は免れない)


 カチュアはウエストバッグから試験管を取り出し、中に込められた回復ポーションを口に含んだ。


 カチュアの身体が木々の茂みの中に消えてゆく。 フエンはその様子を魔導書に掴まりながら眺め、ゆっくりと降下を開始した。


「あれで死ぬとも思えないですが、町から引き離せただけじゅうぶンッ!?」


 一瞬の閃光に続き、衝撃にフエンの視界が明滅した。 皮膚が焼けるような感覚とともに、全身の痺れも彼女を襲っている。


(……光? な、なにが起こったです……?)


 フエンは《浮遊》が解除され、急転直下地面に吸い込まれる。 そんななか、フエンは森林地帯を見遣った。 濃いマナの発生源からカチュアの居場所を特定することはさほど難しくはない。


「生き残るとは、しぶといやつです……」


 カチュアは傷だらけで横たわったまま、フエンに腕を向けていた。 直前に含んだポーションの作用により、瀕死のダメージから徐々に立ち直りつつある。


「《雷撃ライトニング》」


 今度はカチュアの口の動きまでハッキリと見えた。 フエンh自身のそばにマナの高まりを感じ取った。


「やっぱり引き受けるんじゃ──」


 閃光が煌めき、二度目の衝撃がフエンを貫いた。

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