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オミナス・ワールド  作者: ひとやま あてる
第3章 第2幕 Variation in Corruption
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第66話 空間型魔法

 鮮血が舞う。


 ユハンが剣を振り抜いた瞬間、彼の身に傷が刻まれていた。 斬撃を飛ばす度に傷は増すばかりだが、ユハンはお構いなしに攻撃を続ける。


「流石に鬱陶しいな」


 ユハンの表情が歪む。 痛みよりも、ちょこまかと回避され続けることが何よりも不愉快なようだ。


 ユハンの使用した《犠牲剣サクリファイスソード》は、武器の性能を極限まで引き上げる代わりに使用者へ負傷を強いる。 本来剣を振るうだけでは斬撃など飛ぶはずもないが、この魔法はそれを可能とする。


「わっ! わわっ!?」


 逃げ回る敵からは、相変わらず真剣味に欠ける声が上がっている。 ユハンから放たれる攻撃が激しさを増し、環境は著しく書き換えられるためだ。 木々が次々に倒れ、敵は回避に専念するほかなくなり魔物召喚頻度は激減している。


 そしてついに、斬撃が敵の該当の一部を切り裂いた。


「……!」


 フードが捲れ、幼い少女の顔が顕になった。 慌てつつもあどけなさを残した表情は、彼女が10歳前後の年齢だということを想像させる。


「やはり子供か」


 ユハンに驚きはない。 驚きがあるとすれば、年齢の割に高すぎる魔法力くらいなものだ。 少女はここまで耐えることなく魔法を使い続けているはずなのに未だガス欠する様子はなく、なおかつ高い精度で魔法を使用できている。 ユハンとしても敵ながら天晴れといったところだ。 だからと言って手を緩めるユハンではない。


 ユハンの斬撃、退路の限定、ハジメの魔弾。 様々な要素が確実に少女を追い詰めている。 少女はそれを肌で感じ取ったのか、ここでようやくユハンをしっかりと見据えた。


 ユハンと少女の視線のやり取りが一瞬行われた後、


「《強制召集フォースド・サモン》っ!」


 少女が動いた。


 ざわり──。


 ユハンやハジメの頭上を影が覆っている。


「……数か。 面倒だな」


 そこには、夥しい数の魔物の姿が。


「ちょ……!?」


 ユハンとは対照的に、木の上を移動していたハジメはひどく狼狽した。 なにせ、高所にいるハジメの頭上数メートルの位置に無数の魔物が出現したからだ。


 魔物は少女によって召喚された以上、おそらく本物でないことは分かっている。 それでもハジメは突然の襲撃に身体が硬直し、反撃の隙を逃した。


「……ッくそ!」


 なんとか正気を取り戻したハジメは膝を屈めて身を投げ出すと、地面へ向けて枝を蹴った。 その時すでに少女は脱兎の如く逃走を開始しており、ユハンさえも一瞬彼女を見失っていた。


「ユハンさん、北西です……!」


 ユハンはハジメの声で意図を理解し、即座に動き出した。


 こんなに多数の敵が迫ってきているはずなのに、ハジメは自分のことよりも敵を始末することを優先してしまっている。 これはユハンの《君臨レイン》によって無意識に操作されたことが原因なのだが、ハジメがそれを知る由もない。


 ハジメは落下するなか、自分の声でハッとした。


(え……。 なんで俺はあんなことを……?)


 などと考えるが、地面がすぐそこまで近づいていたためハジメは一旦思考を放棄した。


 ハジメは《重量操作コントロール・ウェイト》によって体重を限界まで軽くして身を翻すと、負担をほぼ感じぬまま器用に地面に降り立った。 そうして魔物たちの眼前から一瞬でも退避できたとはいえ、自由落下するそれらがハジメに至るまでに残された時間はたったの数秒だ。


 魔物の数はゆうに百を超えている。 そんな数を一手に抱えようなど到底無理な話だが、ハジメが引き受けてしまった以上対応しなければならない。 というより対応できなければ死ぬ。


 ユハンは超速で魔物の雨をすでに抜けつつある。 援護の期待はできない。


(圧死。 そうじゃなくても蹂躙されるのは確実。 現状俺の手札じゃあ──)


 無数の手段を模索しながら、ハジメは無意識に魔導書を捲っていた。


 ハジメの指が止まり、開かれているのは特殊な魔法陣が描かれたページ。 ハジメが当初から持ち合わせていた二つの魔法のうちの一つ。


『もう一つの魔法に関しては試さないことを忠告しておく』


 ハジメの頭に、ふとツォヴィナールの言葉が思い出された。 あの意味は何だったのか。 しかし魔導書を開いてマナを注ぎ込んでいる今、そんなことを考えている暇はない。


 一瞬躊躇うも、ハジメはその魔法を唱えた。


「《転変ヴィスィシテュード》──……ッ!?」


 魔導書がハジメから強制的にマナを徴収し始めた。 本来、魔導書にそのような機能は備わっていない。 必要量のマナが充填されなければ、魔法はそもそも起動しない。


 マナ喪失による目眩がハジメを襲い、同時に魔導書がパラパラと捲れる。 それは新たに追加されたページで止まった。


 敵はハジメの直上。 魔法を発動する以外の選択肢は無い。


「《歪虚アンチゴドゥリン》」


 ブゥゥ……ン。


 突如ハジメの頭上に渦巻く黒い球体が出現。 かと思えば、球体を中心に球状の膜が広がった。 最終的に出来上がる大きさは直径3メートルほど。


 魔物は広がりを見せる膜に触れ、


「……!」


 グシャリと潰れた。


 魔物を襲うのは、全方面から押し寄せる圧力。


 圧壊した魔物から撒き散らされる血液も悲鳴も、纏めて一点に凝縮される動きが見られている。


 圧壊する魔物とは別に、黒い塵を残して粉々になる魔物も多数。 本物と偽物が無数に入り混じった集団ということだろう。


 設置型魔法──《歪虚》。 極限まで高められた過重効果を歪ませ、入り込んだ存在に押し付ける重力空間。


 魔物たちは《歪虚》の膜に触れ、次々に形を変えてゆく。 それは紙をぐしゃぐしゃに丸める過程のようで、数メートルあった大きさの魔物は拳大の肉塊にまで圧せられている。


「あ、がァ……」


 頭上で超常が巻き起こる最中、ハジメが膝を屈した。 しかし攻撃を受けたわけではない。


 蹲って顔面を覆うハジメの手の間から血液が漏れ出している。


「ぐ……ぅああ゛……」


 ハジメは《歪虚》空間内にいるが、自身には効果がない。 そんなハジメを殺そうと魔物が飛びかかってくるが、その尽くが無惨な末路を迎えた。


 理性的な魔物の一部は、目の前の光景を見て動きを止めて様子を見ている。


 夥しい量の血液がハジメの左目から滴り続けていた。



          ▽



「がぁぁああ、あ゛あ゛ッ……!」


 ゼラは嬉々とした表情でラフィアンの胸部を踏み砕き、悲鳴を上げさせた。


「ははっ、ざまぁ無──ん、ぎッ!?」


 なぜかゼラからも予想外の声が漏れていた。


「こ、こいつ……!」


 ゼラの顔が苦痛に歪む。


 ラフィアンを潰したはずのゼラの右下腿がポッキリと折られている。 そこには乱暴に振り翳されたラフィアンの拳が刺さっている。 モノはその隙を見逃さず、一直線にゼラに向かった。


(《幻覚世界サイケデリア》で空間把握は困難なはずだけど、痛みで無理やり位置感覚を取り戻したか……。 脳筋の癖に生意気だね)


 ゼラはラフィアンを確殺する案は捨て、目の前に迫るモノに集中することとした。


 ゼラは左足だけで地面を蹴り、その直後をモノの剣閃が通過した。


「ダルすぎだよね、君もラフィアンも」

「これで、終わりです!」


 身体能力を向上しているだけあって、ゼラは片足のステップだけでモノの追撃をヒョイと躱す。 一連の流れが続くにつれ、攻めているはずのモノが疲れ、ゼラは飄々とした雰囲気を崩さない。


「どうしたのかな? 随分とお疲れみたいだけど?」

「う、うるさい……!」

「……さてはモノ、君のそれって魔法完全無効化じゃないな?」

「さっさと斬られなさい……!」


 モノの攻撃は紙一重で届かない。 モノにはそれがゼラの挑発に感じられ、尚更彼女の剣閃を乱させる。


(これだとレイシとゲニウスを殺すのは難しいね。 ラフィアンも確殺できていない以上、ゲニウスに治癒されて生存する可能性は高い。 モノは制限付きの能力っぽいけど、この空間に沈めるのは無理かな。 だから総合的に判断すると──)


「そろそろ潮時かな」

「逃げるつもり……?」

「まぁね。 今回は僕の負けだから退くとするよ」

「そう、ですか……」


 モノの口元が少し緩んでいる。 それを隠すように剣を激しく振るう。


「一つ忠告……っと、危ないなぁ。 君は僕の魔法解除による弊害を、狙ってるみたいだけどねっ」

「空間型魔法を解除すれば、魔法使いは機能停止します。 これだけ分かれば十分です」

「魔法を無効化できればそう考えるのも仕方ないか。 非魔法使いこそ知識が必要だってことを思い知ると良いよ……《悪足掻ストラグル》」


 《幻覚世界》を形作る空間が狭まりを見せ始めた。 これは《悪足掻》を用いた空間破壊の過程。 イタチの最後っ屁として空間強度を暴走させ、極限まで高める方式だ。


 モノも急速に収束する空間変化を感じ取り、思わず身構える。


「何をしたのですか……?」

「無知は罪だよね」

「は?」


 バギバギ──ッ。


 聞こえるのは樹木がへし折れる音。


 ラフィアンらの居る場所を中心として空間が収束するとともに、周囲の木々も物凄い勢いで倒れ込んできた。 というより、撃ち出されたような速度で全員を押し潰そうとしている。


「なッ……!?」

「ほら、対応しなきゃ全員死ぬよ?」

「チッ!」


 ゼラが中心から離れるのをモノは追えなかった。


 モノは憎々しげな視線をゼラに一度だけ向けると、高速でラフィアンらの所まで行き着いた。 そこから剣を構えて頭上を見上げ、居合のように構える。


「最後に面倒なことを……!」


 三筋の剣閃が飛んだ。


 モノたちの頭上を覆う木々が時間を止めた。 かと思えば瞬時にバラバラに切断され、軽い衝撃を放ちながらモノの周辺に散らばる。 そのまた外側では、ズシンと大きな音を立てて倒れ伏す樹木が多数。


「……」


 モノは意識の朧げなラフィアンたち三人を見つめた。 それから思い出したかのように歩き出すと、運よく破壊を逃れた兜を拾い上げた。


「ユハン様に面目が立ちませんね……。 ゼラを取り逃がしたとなれば、叱責は免れないでしょう」


 モノは兜を被り直し、三人の元へ戻った。 そして言い放つ。


「さぁ、ゼラについて確保している情報を出してもらいます。 時間は有限ですから、動けるのならすぐに立ち上がってください」


 モノは憂鬱な感情を隠しながら、自身を律してラフィアンたちの尋問に取り掛かった。



          ▽



 リヒトの空間型魔法である《業火ブリムストウン》は、生物の出入りを禁じると同時に空間内の熱も逃さない。 これによってリヒトは炎熱リソースを回収して魔法を循環させる。


「──《分子凍結ゼロ・ランダムウォーク》」


 空間内の熱は全てリヒトに集約された。 つまり、この空間内において熱を運動エネルギーに変えられる存在はリヒトただ一人。


 魔人とウルは凍り付いたかのように動きを停止している。 ただし死んだわけではない。 熱エネルギーを奪い去られただけで、それ以降の発熱機構までも失ったわけではないからだ。 あくまで一時的に動きを封じるだけ。 それでも魔法戦闘において動きを止めるのは致命的で、リヒトはこの隙を有効に使用する。


「《炎熱解放リリース・ブレイズエナジー》」


 前回の《炎熱解放》は範囲攻撃を意図したもの。 しかし今回は違う


 リヒトの魔導書を持たない右手は魔人へ向けている。 手掌には圧縮に圧縮を重ねた熱球が魔法発動後も射出されず維持されており、なおも縮小を続けてピンポン球ほどの大きさへ。


「結果を確認できぬのが痛いが、仕方あるまい。 《空間解除ウィズドロー》」


 《業火》空間を区切る境界断面に亀裂が入り、その全てが粉々に砕け散った。


「リ、ヒ……ト……」


 早々にウルはぎこちなく動きを取り戻し始めている。 一般的な人間であれば動き出しまでこうも早くはないが、すでに人間を辞めた彼に常識は通じない。


「ここは一旦お別れじゃのう。 お主を捕まえられないのは非常に残念じゃが……ハッ!」


 リヒトは自身にのしかかる魔法解除の反動、および身体的負担を押して熱球を撃ち出した。


 熱球は熱線の軌道を描いて魔人の頭部を貫通し、周辺組織をごっそりと蒸発させている。


 熱線が魔人を越えて地面に着弾。 その際に生じたエネルギー波はウルや魔人だけでなくリヒトさえも吹き飛ばした。


 リヒトによって放出されたそれは空間内の全エネルギーと同義。 空間型魔法によって境されないエネルギーは、《業火》で区切った範囲を越えて更に広大な一帯を灼熱地獄へ変貌させた。


「リヒ、ト……! リヒトぉおおおお!!!」


 爆炎の中にウルの叫び声が飲まれてゆく。 これは耐性を得ていたウルが熱によって身体の動きを取り戻した結果だが、流石に放出される衝撃波までは打ち消すことができずに彼方へ消えていった。


「魔人の核も消滅させられれば良かったが、存在確認が成っただけでも収穫ありと判断するか。 そろそろ体力もマナも限界じゃったしのう」


 空中に投げ出されたリヒトは爆風を上手に利用して脱出することに成功した。


 ウルと魔人を確実に滅ぼすという最大限の目標は達成できなかったが、情報を得て生きて戻るだけでも十分な収穫と言える。


 惜しむらくは人質に取られていたホンの命だが、人質の価値を取り入れてしまうと動きに支障が出るため、リヒトは彼女を切って捨てた。 人質が魔法使いであればリヒトの動きも多少変わっただろうが、敵の強さを図りかねた自身の落ち度というところで今回はケリをつけた。


「儂同様、若とモノの向かった先にも魔人がおるとなると非常に厄介じゃな……。 かといって儂は暫く魔法が使えん。 困った、が……若のご助力には向かわんとな」


 リヒトは手持ちのマナポーションを全て飲み干しながら、燃え盛る密林をひた走る。


 リヒトとユハンが別れたのがここから南東あたりだったので、大きく移動していなければ互いのマナを頼りに出会うことができるだろう。 それが叶わなくとも、信号弾を打ち上げれば集合は可能。 危機的状況に陥っていればこちらも信号弾が打ち上がるので、現状誰も窮地には立たされていないとリヒトは判断した。


「……なんじゃ、あれは」


 目的の現場に辿り着いたリヒトは妙な光景を目にした。


 球状の空間内で苦しむ青年と、それを取り囲む魔物の群れ。 どう考えても青年は無防備なのに、何かを警戒するように魔物は動きを止めていた。 獲物が出てくるのを今か今かと待ち侘びるように。


 リヒトの接近を感じ、魔物たちが彼に顔を向けた。 かと思えば、魔物の本能に従ってリヒトを標的に走り出している。


「まったく此奴らめ。 魔法制限下にある老人を少しは労わらんか」


 リヒトは迫る数十匹の魔物にも対して驚かず、ゆっくりと息を吐いた。


 一斉に飛びかかる魔物たち。 手負いの老人を見れば、物量で簡単に押し潰せるという判断なのだろう。


 空間型魔法解除に伴う弊害──それは、魔導書を具現化できなくなること。 これは魔法を使用できないことと同義であり、一般的には魔法使いが存在価値を失うことに他ならない。 しかしそこは上級魔法使いのリヒト。 魔法に関する知識は誰よりも心得ている。


 リヒトは全身を覆うようにマナを帯びさせた。


 魔物たちは急速に高まるリヒトの圧に違和感を覚えたが、それが何を意図するものかまでは理解できなかった。


 リヒトは限界まで魔物の接近を待つ。


 そうして魔物の牙が届く直前、リヒトは帯びさせた大量のマナを爆発的に周囲へ放出した。


 マナとは、世界中に溢れる超常のエネルギー源。 魔法使いは無色の液体である自然のマナを取り込み、自身で使用可能な属性の色に染め上げる。 一度染まったマナは脱色困難であり、同属性の魔法使いであっても混じり合うことが稀だと言われている。


 長期的にマナを触れ合わせれば異なる属性同士でも混じり合うことがある。 それを接続(リンク)と呼び、これが可能になった者の魔法は大きく可能性を増すこととなる。 しかし他者のマナなど基本的には毒であり、魔法使いといえど非魔法使いがマナを取り込んだ場合と同様の反応を生じることとなる。


 リヒトのマナを浴びた魔物の群れが無意識的にブルリと震えた。 眼球は半ば反転しており、全身を痙攣させながらその身はあらぬ方向へ。


 一拍置いて、群れを構成していた約半数の魔物が砕け散った。


「……ぬ?」


 一方、残りの魔物は放物線を描いたまま地面に叩きつけられた。 それらはガクガクと震えながら短い断末魔を上げ、数秒のうちに全てが息絶えた。 非常に濃度の高いリヒトのマナを至近距離で浴びれば、低級の魔物などこの通りだ。


 魔物は大勢で向かったにも関わらず、。リヒトを傷つけることは叶わなかった。 それどころか全ての構成員を失い、空間に静寂を届けるという演出までして見せた。


「なるほど、魔法的に生み出した魔物じゃな。 どうりで脆い」


 リヒトのそれは砕け散った魔物に向けられている。 しかしすぐに興味を失い、視線は謎の球状空間へ。


「ウルに巻き込まれた者の一人じゃとは思うが、話を聞いてやるか。 若の動向を知っているやもしれんのう」


 厄介な事象が過ぎ去ったことで、リヒトの口ぶりは軽くなる。


「やはり此奴の魔法じゃな」


 ハジメを覆う空間に接近したことで、リヒトはそう確信した。 未だそこに存在しているということは魔法が機動状態だからであり、密度の高い空間がマナの匂いを漏出させることからもそれは明らかだった。


「ほれ坊主、魔物は処理したぞ。 引きこもってないで出てこんか」


 リヒトは肩で息をするハジメに声を掛けたが、返答は無い。


「襲われたことによる緊急的な防御魔法かのう。 仕方が無い」


 リヒトは先ほどよろしく右手にマナを集中させた。 そのまま右手を魔法空間に接近させ、一気にマナを注ぎ込んだ。


「ぅぐッ……!?」


 ハジメは心臓発作を起こしたかのように仰け反り、苦しみながら地面に倒れ伏した。


「……しまった、空間解除の副作用を忘れておったわい。 おい坊主、無事か?」


 やはり返事は無い。 というより、リヒトの行動によって完全に動きを失わせてしまった。 しかし未だ浅く息があることから、殺してしまったわけではないようだ。


「若のことを聞こうと思ったが、これでは難しいな。 かといって一連の放出でマナ残量も心許ない。 まったく、ウルは本当に面倒ごとばかり抱え込ませてくれるのう」


 リヒトの嘆息は密林の中でやけに大きく響いた。

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