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オミナス・ワールド  作者: ひとやま あてる
第3章 第2幕 Variation in Corruption
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第59話 魔導具の作用

「《改定リビジョン》」


 ハジメは部屋で一人、腕輪の構造解析に移っている。


 《改定》にはマナが関与するあらゆる場面に作用させることのできる特性がある。 ハジメはこれまで魔石探査のために用いていたことを思い出し、そこから腕輪を解析しようと考えたわけだ。


「えーっと……まじか、こんなに入ってるのか」


 ハジメの魔法は、腕輪に内蔵された複数の魔石に触れている。 しかし分かるのは個数だけで、そこに込められた魔法までは掴み取ることはできない。


「そもそも管理されてるって言われてるだけで、どんな魔法が詰められてるのか知らないんだよなぁ。 爆発する場面も見たことないし、その原理すら分かんねぇし。 そんなものに身を預けてる時点で頭おかしいっつの!」


 あれこれ試行錯誤しながら腕輪に刻まれた魔法陣を見出そうとするが、爆発の危険性を考えると迂闊には魔法を作用させられない。 なおかつ魔石は継ぎ目のない金属製の腕輪の内部に埋め込まれているため、物理的に取り出すことも困難だ。 もし爆発の話が事実だとすれば、物理的な解除に対応していないはずがない。


「この町で魔石が大量に回収されてるところから考えるべきだったんだよな。 魔石自体にどんな作用があって、どんな風に魔導具を成立させるかってところを知らない限り、解除なんて無理だろうな。 そう考えると、失踪事件ってどうなってるんだ? 厳重に管理されてるはずの腕輪を外せる手段があるのか? あるとすればあの場所だけど……」


 町への出入りに使用される城門、その内側にある施設でハジメは両腕に魔導具を装着させられた。


 ハジメはまだ行っていないが、町の住民は定期的にあの場所に訪れて魔導具を交換する必要があるようで、その正確な理由は明らかにされていないという。 話に聞くのはメンテナンスのためという理由だが、一度完全に取り外した上で再度装着するということなので、どうにも違和感のある説明だ。


「あの施設がグルになってる、とか? いや、あんな大型の魔導具を移動させられないし無理か」


 大型魔導具の設置場所は、奴隷区画以外の3区画だ。


「奴隷が平民区画に入ること自体できないんだから──って、どういう原理で入れないのかも俺は知らないな。 でも、あれ……? 大型魔導具が奴隷区画には無いんだから、奴隷は奴隷区画以外で魔導具を装着させられてるはずだよな? ってことは、奴隷も物理的な区画移動自体はできてるってことか? やべぇ、分からなくなってきた……」


 物理的な移動が可能だというのなら、魔導具は何を制限しているのだろうという疑問がハジメの中に湧いてくる。


「奴隷が区画越えして魔導具が爆発するのなら、装着した時点で起こってるよな? それが起こらないのは、この腕輪の機能は外部からオン・オフ切り替えできて、それを可能にする魔法ないし魔導具とかがどこかに存在するってことだよな? いや、でもなぁ……。 こんなもん、情報がない状態でパッと考えただけの仮説だしなぁ。 実際にどうなのかなんて確認のしようがないもんな。 いずれにしても情報が必要か。 さて、誰に……え!?」


 考えも煮詰まってきたので、一旦休憩しようとハジメは伸びをした。 すると視界の端に映る人物がいて、思わずギョッとした。


「ハジメ君、面白いことしてるわね?」

「う、あ、え……っと、ドミナさん? ど、どうして居るんですか……?」


 本来なら仕事に向かっているはずのドミナがいたことにハジメは動揺し、分かりやすく言葉が上擦ってしまう。 しかし何もおかしなことなどない。 ここはドミナの部屋で、ハジメが居着いてしまっているだけなのだから。


(や、っべ……。 何を聞かれた? どこから聞かれた? これは非常にマズい……。 ドミナさんは町の職員だし、今の俺の独り言は反抗勢力の一員と考えられてもおかしくない。 町に対して好ましくない考えを持った人間として、今度こそ牢屋に入れられるか殺されてしまう……。 ど、どうする……!?)


「忘れ物があってね。 そしたらハジメ君が熱心に何かやってるから、お姉さん気になって覗いちゃってた」


 そう楽しそうに言うドミナにハジメは戦慄し、考えが纏まらなくなってしまう。


 ドミナはハジメの反応を愉しむかのようにニコニコとしており、何が彼女の逆鱗に触れるか分からない以上ハジメは下手に何かを言い出すことができない。


「びっくりして言葉も出ないか。 別にいいのよ、続けてもらっても」

「いや、えっと……」

「怖がらないでよ、言葉通りの意味だから。 私もコレの解析をしなくちゃならないから、ハジメ君がどうアプローチしてるか気になるのよね」


 ドミナは腕の魔導具を指で弄んでいるだけで、ハジメを追求するような印象を受けない。


 ハジメはドミナに尋問される未来を想像していたため、さらに頭が混乱する。


「……? 俺は非常にマズいことをしてる自覚があるんですが……。 ドミナさんは俺の行動をどうお考えで?」

「これを町に報告したらハジメ君は当然逮捕されるけど、私はそんなことするつもりはないわ。 私もこの魔導具に対して違和感しか持っていないから、ハジメ君が何を目的にそうしているのか興味があるのは本当よ」

「見逃してくれるんですか?」

「見逃すもなにも、むしろ応援したいくらい」

「……本当に?」

「一回牢屋に入れられて疑り深くなっちゃった? 誓ってハジメ君の不利になるようなことはしないわ。 本当よ?」


 じっと考え込むハジメ。


(マズいな、まだドミナさんを完全には信用し切れない俺がいる。 散々身体を重ねたからといって、結局は互いに気持ち良くなりたいだけで心まで通じ合ってるとは言い難いしな……。 ここで俺が捕まるようなことがあった場合、ドミナさんが敵に回ったということで釈放は難しくなる。 リスクが残ってる限りは安心できないし、ここでドミナさんを殺す必要があるか……? いや、倫理的にも気持ち的にもそんなことは無理だし、それならさっさとこの町から逃げ出したほうがいい。 町で指名手配されることが今後どう影響するか分からないけど、捕まるよりは遥かにマシなはずだ。 くそ、こんな中途半端な状態で動けってのか? 実力もついていなければ金もなく、武器もなければ仲間もいない。 何が正しい?)


 ドミナは興味深くハジメを観察する。


(まさかハジメ君が私と同じようなことをしてるとは思わなかったわね。 私の知らない魔法も使ってたし、もしかしたら腕輪を壊す糸口が見つかるかもしれないわ。 任務のことは当然隠すとして、何をしてあげたらハジメ君は信用してくれるかしら? ここまで心も身体も籠絡してきたつもりだけど、結局根っこ部分までは見せてくれてないのよね。 さっきの魔法も私の知らないものだったし、まだまだハジメ君が隠してることは多そうね。 どうやったらハジメ君の全部を引き出せるかしらね)


 ハジメは何かあった時のために、こっそり背後で魔導書を展開させた。


(一応警戒はしておくべきだな。 ドミナさんの魔法は分からないけど、先制すれば逃げる隙くらいは作れるはずだ。武器とか装備は部屋の入り口付近に置いてあるし、魔法だけの戦闘でどれだけ抵抗できるか分からないけど……)


「俺が無事にいられる保証はありますか?」

「私がハジメ君を害するってこと? それとも町がハジメ君を許さないってこと?」

「どちらもですけど、どちらかと言えば前者で……」

「安心してよ、私がハジメ君に危害を加えるわけないじゃない。 って言っても、言葉だけじゃ信用できないか。 何をすればハジメ君は私を心から信頼できる?」

「ドミナさんを疑ってるわけじゃないんですけど、それでも僅かに裏切り……というか安心できない部分がありますね」

「うーん、どうしようかな。 それじゃあまず、私の魔法を教えてあげる。 そうしたら、ハジメ君がいつでも魔法を打てるようにしないで済むでしょ?」

「え……ああ、はい……」


(バレてたか……。 やっぱドミナさんは普通の女の人じゃないな。 俺より強いって言ってたのも事実だな)


「私は闇の派生で毒属性の魔法使い。 今ここで魔法を使っても即座にハジメ君を殺すことなんてできないし、そのつもりもない。 他に何が知りたいかな?」

「毒、ですか……。 例えば毒を霧状に散布して、こうやって話しているふりして俺の体内に忍び込ませるとか……」

「疑り深すぎね。 どうしてハジメ君が毒魔法に詳しいのか今は置いておいて。 私の毒は強力でね、無色・無臭の隠密性に特化した毒は作れないのよ」

「毒は強力なのに俺を殺せないんですか?」

「すぐには死なないってこと。 浴びせたら多少のダメージはあるし、そこからジワジワ侵蝕させていくことは可能よ。 私がハジメ君に対して害意があったならもうやってるはずだし、毒の効果も出現してるはず。 これで信用できないかな?」


(確かに、俺が気付かず色々やってる間に毒を散布させたりすることは可能なはずだな。 ドミナさんの言葉が全部真実なら、だけど。 うーん、どうにも疑心暗鬼になりすぎているな)


「もう少し教えてください。 どうして腕輪を解析することに興味があるんですか?」

「私は元々外部の人間だからね。 この町の人間ほど安心してこれを装着していないのよ。 こんなもの、別になくてもいいじゃない?」

「これがなければ、奴隷制なんかも撤廃されるんですかね?」

「それは話が別ね。 身分制度なんてずっとあるものだから無くなることなんてないし、あるとすれば町による都合の良い管理が消えるくらい。 とはいえ、失踪事件を見てると管理体制がなくなるのも時間の問題だと思うけどね」

「それはそう、ですね。 じゃあ最後に、俺のやりたいことを手伝ってくれると言うのならドミナさんを信じます」

「ほんと? それは嬉しいわ。 それで、どんな内容?」

「俺は助けてあげたい人がいます。 俺は被虐民と言うものがどうしても見過ごせないので、助けられる方法を一緒に考えてください」


 ハジメは先日の一件で、被虐民が無惨な扱いをされる現場を見てしまった。 あの場では見捨てるほかなかったが、以降ずっと心に蟠りを残していた。


「随分と難しいことを言うのね。 あの場ではエマって子を見捨てたのに、それでも助けたいって言うの?」


 ハジメは事のあらましを全てドミナに伝えてある。 非公式にはハジメが被虐民に施しを行って、それを注意した衛兵に攻撃したことが原因とされているが、そんなものはでっちあげだ。 非公式というのも、ハジメが金貨40枚を支払ったことによって揉み消された結果であり、事実ですらすでに存在しないことになっている。


「色々考えました。 それで出た結論は、“俺の手の届く範囲の人は助ける”でした。 聞けば、被虐民は身分とは関係なく独自に作られた立場ってことらしいし、俺と関わりがあるんで見過ごせないです」

「相手が女の子だから?」

「そういうわけでもないんですけど……」

「自分から面倒事を抱え込むってことよね?」

「まぁ、はい、そうですね」


(目の前で誰か困ってたら助ける。 これを信条に俺は生きていくんだ。 そう定めたからには、エマはなんとしても救い出してやりたい。 でもこれは困ってそうな人を全て助けに行くんじゃなくて、俺の視界に入った限りってだけだ。 奴隷ってのは借金や犯罪で堕とされる身分っぽいし、今のところそこまで助けるべき連中だとは思わない。 もしかしたら親の借金によって奴隷になった人もいるかも知れないけど、その辺は追々話を聞いてみてから考えるかな)


「分かったわ。 私が全力でハジメ君をサポートしてあげる」

「ほんとですか……!? じゃあ、ってわけでもないんですけど……ドミナさんを信用します」


(ドミナさんには申し訳ないけど、共犯という立場なら俺も信頼できる。 同じ目的で動いてる限りは色々情報を出してもらうこともできるしな。 現状では多分これが最適な気がする)


「ありがとう、そう言ってくれると嬉しいわ」


(共犯にして裏切らないように、って考えかな? むしろこっちは大歓迎だし、これまで以上に信頼を得られたみたいだからハジメ君の魔法も知ることができるかもしれないわね)


「それなら、えっと、よろしくお願いします」

「こちらこそ。 私は仕事に戻らないといけないから、続きは夜にね」


 ドミナと別れ、ハジメは作業に一旦区切りをつけた。 情報が得られるというのであれば、夜にドミナと一緒に行えば良いからだ。


「これからどうするかな……。 ああ言った手前心苦しいけど、ドミナさんを監視するか? 夜までの間に俺が捕まるようなことも無いとも言えないし。 いや、そんなことすると信頼関係が……? ああくそ、俺の陰湿さが気持ち悪い……!」


 自己嫌悪に陥りながら、ハジメは頭を悩ませる。


「俺が信頼するって決めたんだ。 それで裏切られたら諦めよう。 その場合は仕方ないけど、考えを改めないといけない。 目の前の誰かは助けるとして、意図して裏切るような奴が居れば……──」



          ▽



「すいません、通ります……」


 ハジメは通行証を見せながら、奴隷・平民区画間の検問所を通過する。


「おいおい、もう出所か? 早えぇな、オイ」

「あんな惨めな女に欲情するゴミ野郎。 テメェもさっさと奴隷に堕ちちまえよ!」

「いい人気取りの偽善野郎! どうした? 何か言い返せよ!?」


 ハジメを馬鹿にするような声が多数投げかけられる。 やはり先日の一件は衛兵の話のネタになっているらしい。 そこには身に覚えのない内容が追加されているが、相手をするだけ勢いづかせるだけなのは分かっているため、ハジメは全てを無視して階段を下っていく。


(全員の顔は覚えた。 あとは、あいつらをじわじわと苦しめる魔法が欲しいな。 《改定》で他人の魔法まで使えるようになるか分からないけど、ドミナさんの毒魔法は入手したいな)


 そんなことを考えながら、向かうのはとある人物の居所。 奴隷区画は何度も通っている場所のため、見知った面々に話を聞きつつ目的地を目指す。 すると、暗い壁の端で身体を丸めてしゃがみ込む青年を見つけた。 薄汚れて痩せこけてはいるが、彼こそハジメが探している人物──オースティンである。


「なぁ、あんた。 オースティンで間違いないか?」

「……そ、そうだけど。 な、何か用でも?」


 見窄らしい姿を晒しながら、オースティンは恨みがましい視線だけをハジメに向ける。


「俺はハジメ。 あんたに話を聞きたい。 隣いいか?」

「す、好きにしろよ……。 話すことなんて、な、ないけどな」


 どもりながら話すオースティンの口調からはあまり正気が感じられない。


 奴隷という身分ではこうも鬱屈としてしまうのかと、ハジメは悲しい気持ちになってしまう。


「俺の質問に答えてくれたら回復ポーションを譲るが」

「物で買収、か。 た、大した話なんて、ないぞ」


 不満な様子にも関わらず、話してくれはするらしい。


 ハジメは安心して質問を投げかける。 その際日本人よろしく丁寧な口調を使う必要はない。 多少無理があっても語気強めにしたほうが相手にナメられなくて済む。


「あんたは一度被虐民ってのになったって聞いたんだけど、その経緯を教えてもらえないか?」

「お、お前も僕をコケにしに来たのか……?」

「いいや、そうじゃない。 俺は町にやってきたのが最近で、知らないことが多すぎるんだよ。 そしたらこの間、被虐民の人が酷い目に遭ってるのを見て助けようとしたら俺が攻撃されてな。 そこであんたの名前を聞いて、気になって話を聞きにきたんだ」

「ははっ……。 ひ、被虐民を助けようとするから、バチが当たる」

「あんたもそうしたんだろ?」

「ああ、馬鹿、馬鹿だったよ。 ぼ、僕が間違ってた。 被虐民になれば救われるって言われて、信じた、僕が……。 なんであの時、僕は、くそ……」


 ハジメがオースティンの苦い記憶を呼び覚ましたせいで要領の得られない回答が続いたが、最終的には大まかな経緯を知ることができた。


 オースティンはブルーム領の村に住む、ごく普通の青年だった。 両親が健在で弟がいて、妻との家庭があって、一人の子供も授かっていた。


 ある時オースティンはモルテヴァで農作物が高く売れるという話を聞きつけた。 子供が生まれたということと家計が苦しいというのもあって、ものは試しにとモルテヴァの平民区画を訪れた。 そこでオースティンは被虐民の扱いを目にし、攻撃を受けていたのが青年にも満たない少年だったので、思わず助けに入った。 オースティンは周囲の人間と言い争い、暴力さえ振るわれてしまう。


 被虐民になれば少年は助けてやると言われたオースティンは、激昂する中で安易にその提案を受け入れた。 被虐民というのはモルテヴァで独自に生まれたものであり、ブルーム領在住のオースティンには当然聞きなれない言葉だったからだ。 そうして流されるままに魔法による契約を結ぶこととなり、被虐民に仕立て上げられてしまったようだ。


 被虐民は奴隷区画と平民区画の間の物資運搬が主な仕事で、最低限生きていけるだけの給金が発生する。 しかし彼らは公に攻撃しても良い対象として認識されてしまっており、食事以外にも回復剤に資金を回さなければ生きていけないため、正直言って生活は地獄そのものだ。 奴隷は外部任務で死の危険が大きいが、日常的に一方的な攻撃を受けないだけ被虐民よりもマシだろう。


 町の人間も被虐民の扱いは心得ていて、ギリギリ生きていられる境界で暴言や暴力をぶつけてストレスを発散している。 そうやって少数を犠牲にすることで、大多数の心の平穏を守っているのがモルテヴァという町だ。


「──限界がきて、奴隷になるしか……ああ、僕はなんてことを……」

「そうだったのか……」


 ハジメはかけてやれる言葉が見つからなかった。


(あそこで俺を小馬鹿にして攻撃してきた衛兵は、むしろ俺を助けることになってたってわけか。 俺もオースティンみたいにキレてたら、もしかしたら……)


 ハジメもオースティンと同じことになっていたかと思うと、今になっても怖気がする。 安易な判断をしなかった自分を褒めてやりたいほどだ。


「被虐民はどうして町から出られないんだ?」

「そ、外に出ようとすると、とんでもない頭痛と吐き気が、するんだ……。 その場で倒れ込んで、しまうほどの」


(これも腕輪の効果か? どういう仕組みだ?)


「自殺もできないって聞いたけど、本当なのか?」

「あ、ああ、そうだ……。 できるなら、こ、ここ、こんな地獄すぐにだって……!」

「どうして自殺できない?」

「で、できないものはできないんだよォ……! そ、そんなことッ、考えるだけで全身に激しい、いィ痛みがぁああああッ!!!」

「うぉッ!?」


 唾液を撒き散らして叫ぶオースティンは、突如全身を硬直させて白目を剥いた。 そのまま泡を吹いて呻きを漏らし、失禁しながら呻いて痙攣すらし始めている。


「大丈──ってコレ、魔導具が作用してるのか……! 《改定》!」


 ハジメは慌てて魔導書を出現させ、オースティンの全身に魔法を巡らせる。


(あった、これか! 両腕の魔導具が同時に……えっと、機能してるのはそれぞれ一箇所か。 これを掴んで……)


 発動している魔法が何なのかは不明だが、少なくとも爆発に関するものではないと確信できる。 そのためハジメは心置きなく術式を掴み取る。


「あとはどう処理するか、だけど……。 ずっと保持し続けるのも難しいし、俺に付与するのも気が引けるから……すまん、オースティン」


 ハジメは持て余した術式をオースティンに投げつけた。


「……ァが、ああああ……!」


 さらにオースティンの呻きが強くなったことで、ハジメは魔法がしっかりと機能したことを認識した。


「痙攣させる感じの魔法か、えげつないな……。 効果から判断すると、これも闇属性に含まれそうだな。 とりあえずどの術式が動いているかは分かった。 多分この感じで装着者に罰則を与える魔法が大量に込められてるんだろうな」


 数分が経過し、オースティンが目を覚ました。 彼は全身痙攣によってエネルギーを無理やりに消費させられ、息も絶え絶えといった様子だ。


「大丈夫か?」


 オースティンの疲労の一部にハジメの発動させた魔法があることなど忘れて、心配の声を掛ける。


「……く、くそ、なんで、こんな……。 お前の、お前のせいで、また……」

「おい、どうした?」

「ちく、しょう……」

「とりあえずポーションを置いておくからな? 使ってくれよ?」


 オースティンは気を失った。 それほどの疲労が彼を襲っていたようだ。


 ハジメは厳重に布で巻いたポーション瓶をオースティンの懐に忍ばせると、その場を後にした。


(あいつのおかげで魔導具の機能が見えてきたな。 でもこれで色々できそうだ。 魔法を入手するための魔導具を探してたけど、まさか手元に転がってるとは思わなかったからな。 あとは《夜目(ナイトアイ)》とかと同様に、俺の魔法にすべく反復練習するだけだな。 人間相手に使用してどうなるかが分からないから、しばらくは魔物相手に使ってみるか。 使えるようになったら、あの衛兵どもに浴びせてやる)


 ひょんなところから次の指針を得たハジメ。


 動機は悪意であるが、明確な目標によって修練の速度は加速していく。

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