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オミナス・ワールド  作者: ひとやま あてる
第3章 第1幕 Intervention in Corruption
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第53話 相次ぐ失踪

 ハジメとジギスが騒ぎの渦中に到達すると、悲鳴から予想された通りの状況が繰り広げられていた。 逃げ遅れたであろう老人が狼型の魔物に頸部を噛み千切られそうになっている。 その他されるがままになっている者や、懸命に戦おうとする者もいるが、それらはあまり効果を発揮していない。 せめてもの救いは、彼らが囮になって魔物が散開していないことだろうか。


「どうなってる!? 多すぎだろ!」

「あー、やけに多いな。 ま、あんたなら大丈夫だろ」

「は?」

「いや、見りゃわかんだろ? 俺は今丸腰だっての!」

「……えっと、それなのになんで来たんだ?」

「あんたがいるだろ」

「マジか」

「ほら来たぞ!」

「くっそ!」


 魔物たちは次の獲物としてハジメとジギスを見据えてきた。 それらは統率が取れた様子で一目散に駆け出してくる。


 ハジメは右手で武器を握り、左手に魔導書を具現化させた。


「あんた、魔法使いだったのか」

「邪魔になるから離れてろ!」

「へいへい。 お手並み拝見だぜ」


 ジギスはおどけた口調でそう返すと、面倒臭そうにハジメの背後へと下がった。


「《改定リビジョン》」


 初弾の《改定》は、武器に宿った“強化”の効果をハジメ自身に転写するため。 そして次弾は魔物を混乱させるため。


「《改定》」


 魔物たちの動きが途端に乱れ、壁に激突する個体までいる。


「な、なんだ……!?」


 背後から聞こえるジギスの声は無視しつつ、ハジメは魔導書を一旦解除して武器を片手に走り出す。


 ザン──!


 ハジメの斬り上げによって一匹目の魔物の首が落ちた。 続く振り下ろしにより、二匹目の魔物の頭部が砕けて中身をぶち撒けた。


 ハジメが打ち込んだマナにより、魔物たちは一時的に思考回路に混乱が生じている。 マナを応用して生きる魔物だからこそ他人のマナを混入されたことによる違和感は顕著で、正常な思考を取り戻すまでに幾分かの時間を要する。 とりわけ知性の低い魔物であれば、これだけで致命的な隙を生じさせることができる。 ハジメはこれがわかっているからこそ、最低限の力で魔物たちの体内──特に脳に存在するマナを掌握し、ハジメのマナへと無理矢理に変化させた。 そうして脳内に異物を生じた魔物は意味の分からない挙動を取るに至る。


「……ふぅ」


 制圧はものの十数秒で完了。 計八体の魔物の死体が地面に転がったのを最後に、騒ぎは沈静化することとなった。


「おいおい、やるじゃねぇか──」

「止まれ」

「──っと、怖い顔すんなよ。 分かったって。 触らねぇからさっさと済ませてくれ」


 ハジメが声を荒げたのは、ジギスが勝手に魔物に手を伸ばしたから。


 この町では、魔石の個人的な所持は認められていない。 たとえそれが小さいものであっても例外ではない。


(まったく、油断も隙もないな。 奴隷区画の人間が勝手に持っていって俺に責任が来るのも面倒だし、速やかに終えるか)


「《改定》」


 魔石探知のため、ハジメは魔物の死体全てに《改定》を打ち込む。 そうして反応があった場所に躊躇うことなくナイフを差し込み、細かな魔石を回収していく。


 作業を終えたあたりで、そこまで黙っていたジギスが口を開いた。


「手際が良いんだな。 今回の報酬として、一個くらい──」

「今のところ何も受け取っていないから、見返りもクソもないけど」

「そうかい、そうかい。 じゃあ何をすればいい?」

「ひとまずこの死体はどうするべきなんだ? 教えてくれ」

「あんたが倒したんだから、基本的になあんたのもんさ。 ってか、名前くらい教えろよ」

「ハジメだ」

「おう、ハジメだな」

「じゃあ、俺はいらないからこれはジギスにあげるよ」

「良いのか?」

「持って帰るにも多いし。 処理してくれるなら助かる」

「そんじゃ、これは俺のもんだ。 後で返せとか言うなよ?」

「言わないって」


 ハジメがどうするのかと見ていると、ジギスは仲間らしき男女を呼んで魔物の死体を運ばせていた。


「魔物にやられた人間については、あとで報告しておこうか?」

「それについてはこっちで手配してる。 すぐに衛兵の連中が来るはずだ」

「そうなのか。 了解」


 モルテヴァでは、人死に際しても厳重な注意がなされている。 それは死体に装着されたままの魔導具を回収するためであり、それら魔導具は魔石と同様に勝手な所持を許されていない。


(俺もこの世界に慣れたんだろう。 小型の魔物程度なら怯えることも無くなってるな。 それは良いんだけど……問題は、死んでる人間を見ても特にかわいそうとも思わなくなってしまったことだ。 かわいそうってより仕方ないって感情が勝ってしまうのは成長なのか、正常な変化なのか……)


 ジギスの言葉通り、数人の衛兵がやってきて死体を死体袋へ。 散らかった肉片などは片付けず、必要なパーツだけを拾う作業は見ていてあまり気持ちの良いものではない。


「とりあえず目先の問題は解決したぜ」

「……ああ、助かったよ」

「俺は何をすればいい?」

「ここに来てばっかりだから。この区画のことを知りたい。 生活とか、さっきみたいなこととか、色々だ」

「いいぜ。 金になるならな。 それじゃあ──」


 平民以上の人間が何かしらの業務に奴隷を携わらせたい場合、まずは目的を明記した上で町に許可を取る必要がある。 そして奴隷の働きを町に報告することで、働きに応じた評価が奴隷に与えられる。 もし奴隷が奴隷身分から脱却したい場合は、労働を続けて評価を溜めて、それが一定以上になればそこでようやく自由の身となるわけだ。


「労働って、具体的には?」

「俺みたいに雇用される仕事に限るんだよな。 たとえ俺らが必死に田畑を耕したところで、その大半は領主に持ってかれて、残るのは僅かなもんさ。 それでいてそういった仕事は評価には繋がらない。 平民なんかはそれが給料に直結するのに、ひどい格差だよな?」


(上納は必須で、それに対する報酬は無いってことか……。 これが奴隷の扱い? なんか気分が悪いな)


「……えっと、個人で契約できる奴隷は一人だけって聞いたけど?」

「そうだぜ。 ハジメで言やぁ、今は俺が唯一の契約者ってこった」

「他はどういった雇用内容があるんだ?」

「それは──」


 非常に単価の低い労働力として、奴隷はモルテヴァの発展に一役買っている。 とはいえ彼らが侵入可能な区画は奴隷区画以外には存在しないため、労働の現場は専ら壁外だ。 田畑など栽培区画は町の中に限った話ではなく壁外にも存在しているため、そこは危険を伴った現場の一つにもなっている。 しかしそこは危険と評価の釣り合いが取れていない労働現場のため、嬉々としてやりたがる奴隷は居ない。 いるとすれば、肉体の貧弱な子供や老人、傷病者などだ。 更に評価値の高い仕事は別にある。


「未開拓領域の調査に係る仕事なら、評価は高くなるな。 壁外の農耕がハイリスク・ローリターンなら、調査関連はハイリスク・ハイリターンだ。 仕事内容は最前線に突き出されるのがメインだから、相当な身体能力と運がなけりゃあやっていけねぇけどな。 それでも何度か生きて帰りさえすれば、それだけで奴隷身分とはオサラバだからな。 だからこうして、俺みたいに自分を売り込む奴が多いってわけよ」

「なるほど、奴隷の実態は分かった。 じゃあここからは、こっちの仕事の話だ」

「人探し、だっけか? 誰を探してる?」

「誰、というか、奴隷区画から忽然と姿を消している人間だな。 ここ最近、まちが管理できていない人間の失踪が相次いでいるらしいんだけど、その全てが奴隷区画って話なんだ」


(もし人死でも出ようものなら、さっきみたいに衛兵が迅速に対応するんだろうな。 それなのに失踪っていうのは、何だかおかしな話だ。 魔導具の精度は不明だけど、奴隷は手足だったり首の魔導具で厳密に管理されてるはずだ。 奴隷一人では区画の外にすら出ることができないのに、どうして失踪なんて起こるんだ?)


「……それについては俺も知らないな。 もちろん誰かが消えるってのは知ってるぜ? それが俺に降りかからないかって怯えてるくらいだ。 ところで、なんでハジメがそんな調査にやってきたんだ?」

「いやなに、仕事をくれって頼んだらこれだったって話。 だから失踪の話も全く分からないし、何を調べるべきかもわからない」

「ふーん」

「ちなみに、何人くらい失踪してるんだ?」

「ここ一ヶ月でも、ざっと10人くらいなはずだ。 俺だってこの区画の全ての人間を把握できてるわけじゃ無いからな。 奴隷が1000人も居たら、どこかで隠れてるやつでもいるんじゃね? どこでも隠れられそうなもんだろ?」


 ジギスが天を仰ぐと、人間を詰めるためだけに作られたようなコンテナのような住居が積み重なっている。 また、それらとともに外壁が日光を遮蔽することで、奴隷区画はどこに行っても薄暗い環境が形成されている。


「それじゃあ聞いて回ってもあんまり意味ないか。 意図的に隠してるってことは?」

「さぁ? そんなことして意味あるか? 隠れてたって働かなかったら死ぬんだぜ?」

「それは確かに。 でも、魔導具ごと消えてるみたいなんだ。 何かしら事件性はあるんじゃないか?」

「……失踪云々に関しては役に立てそうに無い。 すまねぇな」

「いや、大丈夫。 しっかし、それだとここに来た意味がなくなるなぁ」

「俺と出会えただろ?」

「まぁ、初めて会ったのが変な奴じゃなくて良かったよ」

「だろ? じゃあ今度何か仕事があったら、俺を優先して雇ってくれ」

「さっきみたいに何もしないことがありそうだから嫌だ」

「おいおい、待てよ。 さっきは装備がなかっただけだ。 ちゃんと武器を持ったら俺も戦えるぜ?」

「実践経験は?」

「小型の魔物くらいなら捌けるぜ。 あとは一回だけ未開拓領域の調査にも同伴してるから、運はある方だと思うな」

「まぁ、気が向いたらな」

「待てって。 その様子だと評価が低そうだからよ、ちょっと耳貸せ」

「えっと、何……?」

「いいから」


 ジギスは一瞬だけ周囲を見渡し、そのままハジメの耳元で小声を発した。


「ハジメ、あんたがこの町に毒される前に言っておく。 あまり権力者連中のことを信じるな。 失踪した人間の調査だって、お前を嵌める口実かもしれない」

「なんでそうなる?」

「お前が魔法使いだからだ」

「……?」

「この町は北部開拓を第一に掲げているようで、実際はそこで得られる魔石収集を最重要視している節がある。 それを使って何をしているのかは知らんが、一部では強力な魔法使いを生み出す実験をしているって噂も出てる。 その過程で魔人が生まれたって話もな」

「それは分かったけど、なんで小声なんだ?」

「この魔導具にも魔石が使われて、特殊な制約を強いる魔法が埋め込まれているからだ。 俺らの会話が盗聴されてる可能性もゼロじゃない」

「……」


(これに関しては俺も懸念していたことだけど、他人の口から聞くと一気に信憑性が増すのは何故だ? やっぱりそうなのか?)


「ついでに言ったら、定期的に魔導具は回収されて新しいものに取り替えられる。 なんでか分かるか?」

「いや、分からないけど」

「魔石を回収してんだよ。 そこに含まれる何かを取り出すためにな」

「だから必死になって死体の魔導具も回収してるってことか」

「死んでもなお、魔導具は意味があるんだろうよ」

「じゃあついでに聞いていいか?」

「何をだ?」

「ゼラ=ヴェスパとオリガ=アウローラって魔法使いを知ってるか?」

「……随分物騒な名前を知ってるな」


(ジギスがこれに反応するってことは、奴らが有名なのか、もしくはジギスが只者じゃないのか)


「知ってるのか?」

「まさか、そっちがメインか?」

「……? いや、単なる興味で聞いただけなんだけど」

「ありゃ、そうなのか。 オリガの方は死んだって話らしい。 ゼラは失踪して捜索命令が出てるらしいぜ」

「失踪……?」

「なんだ、知らないのか? まぁいいか。 ゼラって魔法使いは半年近く前から姿が見えないらしい。 これに関しては今回のハジメみたいに調査の連中がわんさか来てたから間違いない話だ。 それ以上は知らないな」

「町は現在の失踪騒動をゼラの失踪と関連づけてるのか?」

「そのあたりは知らねぇけど、いいように使われんなよな」

「ああ。 気を付ける」

「他に知りたいことは?」


 ジギスがハジメから離れて普段の口調に戻る。 言いたいことは言ったらしい。


「さっきみたいに魔物が入り込むのは珍しいのか?」

「いや、しょっちゅうあるな。 都市防衛は奴隷区画に対しては基本的に機能してないから、常に入り込めると考えていい」

「……危なくないか?」

「まぁ、最低限の自衛手段さえあれば余裕だろ。 俺はむしろ食材が自ら入り込んでくれるって喜んでるぜ」

「物騒だけど、そんな感覚なのか。 とりあえず今回聞きたい内容は以上だけど、ジギスの協力を得たことを報告すればいいんだよな?」

「ああ。 どこのギルドも組合も奴隷の管理書があるはずだ。 そこから俺の名前を探し出して報告してくれりゃあいい」

「それだけ?」

「それも含めて魔導具が全部管理してるみたいだからな。 一定値まで評価が貯まれば、衛兵がやってきて上まで上げてくれる」

「そういう仕組みか。 そうだな……あと奴隷区画の案内を頼めるか? それで今日は終わりにする」

「あいよ」


(依頼された仕事内容を履行できてるとは思えないけど、俺が奴隷区画を知らないことには始まらないからな。 今日のところは下見で終えるか)


 ハジメはジギスの案内で奴隷区画を見て回る。 しかしどこへ行っても見える光景が大きく変化することはなく、陰鬱とした雰囲気が渦巻く空間が続く一方だ。 遊び回っている子供の姿もなければ、活発に働いている大人もいない。 そこにはただ、下を向いた人間たちが呆然と存在しているばかりだった。


「働くにも逃げ出すにも、いずれにせよ必死になれる奴なんていないんだよ。 逃げるってのは奴隷区画からってわけじゃなく、現実からって意味だ。 俺みたいに楽観的なのは珍しいんだぜ?」

「確かにそのようだ。 それじゃあ、外の仕事なんてすぐ得られるんじゃないか?」

「選ぶのは雇用者だからな。 俺が必死にアピールしたところで、目的に合った技能がなければ意味がないんだよ。 俺が誇れるのは、せいぜい逃げ足くらいのもんだからな」

「それがどこで役に立つんだ?」

「魔物の気を引いたり、未開拓領域を走り回ったり、使い道はいくつかあるな」


 数時間かけて巡った奴隷区画は、ハジメが想像しているほどひどい様子には見えなかった。 そう見えなかっただけかもしれないが。


(奴隷ってのが全員ゴミのような扱いを受けてるわけじゃないんだな。 冷遇されてるのは事実だが、完全に放逐された区画ってわけでもないらしい)


「なんか思ってた場所と違ったな。 なんというか、言い方は悪いけどそこまで終わってないと言うかなんというか……」

「気を遣う必要はねぇよ。 奴隷落ちする奴なんて、大概が自業自得だしな。 奴隷区画の待遇は悪いが、壁があるだけそこらの村よりはマシかもしんねぇな」

「ジギスはいつからここに?」

「半年くらいなもんだ。 長く居るほどあいつらみたいに暗い感じになるから、俺はさっさと普通の生活に戻りたいんだよ」


 ジギスの言うあいつらとは、奴隷の身分に慣れてしまった者たち。 良き生活に憧れを抱きつつも、行動できない哀れな奴隷たちのことだ。


「できるといいな」

「ハジメが協力してくれたら一瞬よ。 これからも頼むぜ」

「ああ。 じゃあ今日のところはこれで」

「しっかり報告してくれよ!?」

「分かっている」


 実質的な収穫はあまりないまま、ハジメは初日の調査を終了した。


 階段を上がって平民区画へ戻るハジメが完全に見えなくなったあたりで、数名の男女がジギスの元へ寄ってくる。 そしてそのうちの一人、ガトという男が口を開いた。


「ジギス、怪しまれてないか?」

「俺の作り話も信じ込んでいるようだったし、問題はないだろう。 あいつの目には、哀れな奴隷区画の姿が映っただろうよ。 お前らもご苦労だったな」

「ニナから予め情報が流されてたからな。 それにしても、ああやって何度も上層区の連中が来るのは面倒だよな」

「構わねぇよ。 あいつらは結局俺ら個人のことなんて何も知らねぇんだ。 あいつらが気にしてるのは、これまでの厳格な管理体制が危ぶまれてること──この一点に尽きる。 こっからはどんどん失踪者が出てくるんだ。 もっと慌てふためいてもらわないと困るってもんだ」

「それもそうだな。 しかしジギス、お前ばっかりに上の連中の相手を頼んで大丈夫なのか? 必要なら別の人間を出してもいいじゃないか?」

「関わる人間が多いと、どこかで情報の齟齬が出てくる。 だからそうならないように、これからも俺がやっていく。 お前らは安心して失踪してくれたらいい」

「分かった。 そうさせてもらう」


 奴隷区画で秘密裏に実行されつつある何らかの計画。 それは現状表沙汰にはならずゆっくりと、だが着実に完成形へ向かっている。



          ▽



 ヒースコート領主の邸宅──。


「父上、これを」

「ユハン、これが何だと言うのだ?」

「未開拓領域の奥地で発見された。 それが問題だ」

「なんだと……? 元の持ち主は分からんのか?」

「奴隷区画失踪者のいずれかだろうが、個人特定には至らない。 その理由は、これだ」


 領主ロドリゲスの元に、彼の息子ユハンがやってきていた。


 ユハンは本来奴隷が装着しているはずの黒い魔導具を手に、ロドリゲスと現状認識を共有する。


「……魔石を抜き取られたあとか。 これは意図して行われているな?」

「そのようだ。 魔物ではここまで精密な操作は不可能という前提から、魔人や魔法使い、その他これに類する存在の関与は確実と考えられる」

「そこにゼラが関わっている可能性は?」

「幾分かはありそうだ」

「ふむ……。 何者かが手引きして奴隷を解放しているのか。 魔導具をわざわざ奥地まで捨てに行っているとなると、知られてはならない何かが行われていることは明白だ。 関与している者も只者ではあるまい。 ユハン、お前の見立ては?」

「魔導具一つだけでは何とも言えないが、失踪している者が奴隷区画に集中している以上、奴隷を使った何かしらの動きは見えてくる。 単に奴隷を逃すためだけとは思えない」

「我の絶対統治を崩す不埒者が現れようとは……許せん。 魔導具の解除方法を知る者は我々とゼラ、アンドレイ。 他には居たか?」

「他には居ないはずだが、何処かから漏れている可能性も否定はできない」

「自力で解除できるとも思えんが、闇属性の魔法使いであれば可能ではあるからな……。 そう考えると、この町には容疑者が多すぎる」


 モルテヴァは闇属性魔法を応用して大きくなってきた都市だ。 闇属性の恩恵は町の至る所に張り巡らされているし、それ無くして現状の平穏はあり得ない。 本来1万人以上もの人間を抱えていれば起こるはずの問題も、ここではごく少数だ。 それはロドリゲスの統治が順調に進んでいる証であり、だからこそ国からの信頼も厚い。


「父上、どうする?」

「魔法に関わる全職員の記憶を洗う。 お前をそんな雑事に使ってはいられないからな。 お前は引き続き開拓方面に全力を注ぐと共に、未開拓領域での調査を併行しろ」

「承知した。 ただこのような事態が続くのであれば、一度奴隷を全て殺し尽くす必要も出てくるだろう。 問題は根から絶つべきだ」

「我が命令するまでは勝手な行動は慎め。 モルテヴァは奴隷あっての都市だ。 人間は自分より下の人間がいるからこそ、そうはなるまいと努力できるのだ。 それに、お前に任せては奴隷区画が消し飛んでしまう」

「確かに、それもそうか。 では父上、壁内のことは任せて良いか?」

「ああ。 壁外のことは全てお前に一任する。 不審な動きを見せる者が居れば、殺すのは記憶を吸い出してからだ」

「任せてくれ」


 おかしな動きがあれば、モルテヴァはその全てを封殺してきた。 大きな問題になる前に一つ一つ叩き潰し、法として整備することで魔法による厳格な法治都市をロドリゲスは維持している。


「ネズミめ、我の国で這い回ることは死罪だということを今に知らしめてくれる」


 犯罪者は見せしめとして大衆の前で殺される。 そうやって恐怖を与えると共に、壁内という安全を担保することでロドリゲスの統治はより完全なものへと近づいていく。


「我は男爵という地位に収まる男ではない。 モルテヴァが完成すれば、王は我をより高い地位へ導いてくれるだろう。 それまでは、一つの問題も無視してはならないのだ」


 ロドリゲスは我慢できない。 自らが僻地の統治などを任されていることを。


 ロドリゲスは許せない。 何の功績も挙げていない者が自らより高い地位にいることを。


「贈り物は王も喜んでくださっている。 あと少し、あと少しなのだ。 邪魔だけはしてほしくないものだな」

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