第38話 暴かれる意図
フリックたちが戻ったのは、彼らが出発してから三日後。 グレッグが収監された翌日である。
オルソーが例によってフリックからの報告を受ける。
「やはりクレメント村はもぬけの殻でした。 何名かの遺体を確認しましたが、それでも全住民には足りず……」
「そうか……」
「盗賊が村人を連れて行ったということで考え得るルートで入山したところ、最終的には例の魔物と戦った現場にまで辿り着きました。 そこで村人と思しき十名以上の遺体を確認しまして、時間経過と獣による遺体損壊はあったものの、クレメント村住民ということが発覚しました」
「やはり、か……」
オルソーはグレッグから情報を齎されている。 村人がゼラの支配下に置かれたこと、彼の闇属性魔法で変貌したこと、そして魔物との戦いでその多くが死亡したこと。
「やはり、と言いますと?」
「お前たちが出発したあと、グレッグがやってきてな。 そこで起こった事実をありのままに俺に伝えてくれた」
「……そこにはグレッグさんが関わっているのですか?」
「いや、グレッグはお前たちの逃亡を補助する中で逃げ遅れ、クレメント村民に関わる事件に巻き込まれたらしい」
「では、彼は無関係の事件ということですか」
「そうとも言い切れないがな。 傷心中のお前には悪いが、ここからは俺が得た情報をお前に教える。 心して聞いてくれ」
「はい……」
オルソーは詳細をフリックに話した。
「……ふぅ。なるほど、村に関してはあまり興味がないと思っていましたが、案外怒りというものが沸くものですね……」
「心中察するが、起こってしまったものは取り返しがつかない。俺個人としてはグレッグの話を事実と判断しているわけだが、お前はどうだ?」
「グレッグさんの魔法では到底困難な事態が起きているようですし、また盗賊だけであそこまで村人をコントロールはできないでしょうから、状況的にも彼の発言は正しいと結論付けます」
「そうだな。とにかく、すでに奴らはベルナルダンに入り込んでしまっているし、次の悲劇がここで起こらないとも限らない。いや、確実に起こる。先日魔物討伐に参加した面々と死亡した者には悪いが、ここからは町の安全を最優先に行動すべきだと俺は考えている」
「そこに関しては異論ありません。それで、これからどうするのですか?私としては、彼らを逮捕してどこかに突き出す必要があると考えますが……?」
「グレッグ曰く、彼らは領主の懐刀といった立ち位置らしい。だから、たとえ捕まえたとしても彼らは不問に附されるだろう。雑な理由をこじつけて、彼らの行動を正当化する形でな。後々、証拠となる人物を消しにくることも十分にあり得る」
「やはり腐っていますね……」
各領においては領主が絶対であり、国という単位では国王が絶対。これは不文律であり、とりわけ今回のように犯罪が握りつぶされる事態は王国において珍しくもない。
アルス世界において最も歴史の長いものがエーデルグライト王国。歴史が長い分だけ国王の権威は凄まじく、それが腐敗した体制を形成している。 一方、帝国は様々な国や民族がぶつかり合った結果生じた国家のため、完成までこじつけた時期は王国よりも遅い。また王国と違って複数の思想が混ざり合った歴史を辿るため、あらゆることに寛容であり、王国のように腐敗が進んでいない。
古き体制を維持したい王国と、新しい思想を享受し続ける帝国。これらがぶつかり合うのは必定であり、どちらも信念を持って戦争に挑んでいる。 ただ、国土と資源だけで言えば王国に軍配が上がるので、長期戦に強いのは王国である また搾取によって人的資源を無理やり活用できるという点においても、帝国は王国を無視できない。二国間の確執はこれからも深く長く続くだろう。
「グレッグは彼らの殺害を目論んでいるようだ。 俺としては──いや、ベルナルダンとしては現状それを推すことは難しい。俺はグレッグの発言を信用に値すると判断したが、確証が無ければ町として対応は難しいんだ」
「だからグレッグさんは個人で彼らを殺害しようと?」
「いや、詳細はわからん。少なくともこの町のためではないな」
「であれば、グレッグさん同様、個人で動くのは構わないのですよね?」
「それはそうだが……たとえお前やグレッグが彼らの殺害に成功したとしても、難癖をつけられて犯罪者にされてしまうだろうがな。 そもそも、モルテヴァ屈指の魔法使いコンビの殺害を完遂できる未来が見えんな」
「確かに……」
もし成功したとて、モルテヴァから大きな調査が入って犯人はすぐに見つかってしまうだろう。 その理由は、魔法使いは国の宝とも言えるべき存在であり、その中でも重要なポストに就いている人間は特に貴重だからだ。 そんな人間を失ったのなら調査が入るのは当然で、犯人を捕まえて処刑することもさることながら、その動機や手段を知ることは今後の対策にも繋げられる。 グレッグ然りフリック然り、秘密裏に行動しても最終的には犯罪者に祭り上げられるのは確実だろう。
「復讐……とまでは考えていませんが、そのような輩を放置しておくわけにはいかないというのが私の感情です。 私も町に迷惑をかけない形で彼らの処理にあたりたいと思います」
「俺としてはやめてもらいところだが、事情が事情だけにお前を止めたくないという気持ちもあるな……」
「しかし私の目的は彼らの処分でなく犯罪の抑止。 私の家族がこれ以上傷つくのは容認できません。 できれば合法的にダメージを与えたいというのが本心です」
「であれば、カルミネという盗賊を探すべきだろう。 村人を無惨にも殺戮したという生の情報を持っているとされるのはその盗賊で、そいつはグレッグが匿っているようだ。 グレッグの機転でそいつは現状安全だと言えるものの、そいつの見た記憶という確定情報がなければ討伐対象として指名手配はできない」
「それでは私がカルミネという男を探しましょう」
「グレッグは関わってくれるなという感じだったがな」
「それこそ個人で動けば問題ないということでしょう」
「それは……確かにな。 もし動くとして、お前の仲間はどう判断するんだ?」
「分かりませんが、危険度に応じて判断を下してくれるでしょう。 今後魔法使い同士の戦いが起こるかも知れません。 まずは調査してから判断というのが我々の理念ですから、暫く潜ってみるとします。 情報アドバンテージはこちらが握っているわけですから、ディスアドを取らない限りは動けるでしょう。 ですので、魔物討伐の件からは一旦降りさせてもらいます」
「ああ、それは構わない。 他の面々には俺から伝えておく」
フリックは役場を離れ、その足で仲間の元へ向かう。
「面白そうじゃん」
「はぁ? ハンスお前、危険性を理解してねぇのか?」
「いいんじゃない? 今まで人間を標的にしたことは無かったし、調査程度だったらあたいは歓迎だよ。 実際に暗殺しろとか言われたら無理だから撤退するけどね」
「正面対決になったらダスクが真っ先に死ぬだろうから、実際にやる機会は訪れねえっての。 安心しとけ、ダスク」
「魔法使い相手に前衛って無力だよなァ……」
「それはお前が弱すぎるだけ。 せめて片方を道連れにできるくらいにはなってろよ」
「無茶言うな。 だが、闇属性のゼラ単品だったらギリギリ行けるかもな」
「ゼラに攻撃手段が無いって確証は無いけどな。 まず正面対決を考えてる時点でダスクは馬鹿すぎ。 愚かにも程がある」
「それ以上言ったら殺すぞハンズ」
フリックの予想通り、実際にゼラとオリガを殺害するとなると仲間たちは消極的だ。 それは敵の想定把握がしっかりしているからであり、むしろフリックからすればありがたいと言える。
「では今後のための活動ということで、ゼラとオリガを秘密裏に調査します。 万万が一にでも殺害の瞬間が訪れたなら、その場合は私が全ての責任を負いますのでどうか……」
「お前にそこまではさせられねぇよ。 その辺りはグレッグを巻き込んで上手くやりゃあいい」
「ま、ダスクの言う通りだな。 僕らが本気になれば、そう悪い結果にはならないっての」
「あたいは無茶しないけどね」
「まったく、足並み揃わねぇなァ」
四人は普段グダグダ言いながらも、最終的には結束の固さを証明してきているチームだ。 彼らが勝てないことがあっても、負けてきたことはほとんどない。 だからこそその経歴が彼らの自信の源にもなっており、前に進むための原動力を生んでいる。
「では今回もよろしくお願いします」
フリックはこれまでの人生で見せたことのない気合を感じさせつつ、仲間の三人に頭を下げた。
▽
「フリックさん、おかえりなさい。 忙しそうだけど大丈夫?」
「ええ、ご心配なく。 レスカさん、課題の方はどうですか?」
フリックが家に戻れば、普段とは変わらない姿のハジメとレスカがいる。
「まぁ……可もなく不可もなくって感じ。 でもねフリックさん、イグナス君が──」
長らく家を開けていたせいでレスカの愚痴は多く、それでも周囲の人間とうまくやれている様子はしっかりとフリックに伝わってきた。
フリックは引き戻された現実に感動しつつ、これが本当に守るべきものだとあ改めて認識する。
(ゼラが闇属性魔法で記憶を読めることはほぼ確実。 ここは多少の情報も二人には流してはいけませんね。 無用な心配を生むことにもなりますし、二人を巻き込むことにも繋がりかねない)
「なるほど、頑張っているようで何よりです」
フリックとレスカの声を聞いて、昼食の準備中だったハジメが顔を見せた。
「フリック、お帰り」
「ハジメさんもこの家のことをお任せしてすいません。 お変わりは無いですか?」
「変化ない」
「そうですか。 私はこれからも魔物に関わる仕事などが続きますので、また暫く家を空けることがあるかもしれません。 その時はレスカさんをお願いしますね」
「うん」
「えー、どちらかというとお世話してあげてるのはレスカの方だよ?」
「わかっていますよ。 お二人でずっと仲良くお願いします」
他愛ない会話を挟みつつ、フリックは仮初の日常を味わう。
こうしている間にもゼラとオリガは何かしらを画策しているかもしれないと言うことで、フリックは軽く家で過ごした後、仲間と合流して作戦行動に移った。
「フリックさん忙しそうだね」
「うん、大変」
「あたしはイグナス君と課題するけど、ハジメはまだお仕事?」
「うん。 特訓、その後」
「そっか、それだと次は夕食の時だね。 食材は何か買っておこうか?」
「お願い」
「はーい」
「お金、渡す」
「ありがと。 じゃあ頑張ってね!」
魔物に関わる仕事が停止している今、町は平常通り動いている。 ハジメは外壁の整備などの力仕事で日銭を得て生活費に充てている。 もちろんフリックがいない間の生活費として彼から幾らかは貰っているが、借金の方が多いハジメはそれに手をつけず、得られた金銭のうちでどうにかやりくりしている。
「よし、頑張るか! 働いたお金だけでギリギリやっていけてるし、一応生活が軌道に乗ってきたってきてるよな。 これを維持しねぇと」
レスカを含めた生活費まで考えるとハジメの給金だけで満足した食事を常に摂れているわけではないが、それでも村にいた頃よりは食のレベルは上がっているし、何より楽しく生活できていることが大きい。 楽しさは笑顔を生み、そして生活に豊かさをもたらしてくれる。 さすがにポンと給料が上がるわけもなく、食卓に並ぶ品数が増えるまでには至らないが、今日のように明日を生きたいと思わせてくれるのは日々が充実しているからだろう。
フリックがいない時間が増えたことで、ハジメは如実にできることとできないことの判断が可能になった。 そうやってハッキリと問題点が浮き彫りになることで、どうすれば上手く生活が回るかなどを考えることができ、レスカとの共同作業や分業が捗ることにも繋がっている。 それもこれも、環境を整えてくれたフリックやオルソーの尽力によるところが大きい。
フリックが用意してくれた家庭があるおかげで路頭に迷うことなく生活できているし、オルソーが直接ハジメを紹介して職場に送り込んでいるおかげで、信頼を勝ち取った状態でスムーズに町に溶け込むことができている。
ハジメの生活が今もなお周囲の人間のサポートで成り立っているというのは相変わらずだが、そんな中ハジメでもできることを見出せているのがラクラ村にいる時との違いだろう。 そのできることの一つが“働いて給金を得ること”であり、選択肢があるのと無いのとでは、人間であるか人間で無いのかくらい大きな違いがある。
「とにかく感謝を忘れちゃいけないな」
ハジメは働けることにすら感謝する時が来るとは思いもしなかった。
実際に困難な生活に落とされてみると、周囲の人間のありがたさが身に染みてわかるし、あらゆる物事の重要性が見えてくる。 これこそ快適さを追い求めた地球人が失ってしまった要素であり、ハジメは実際にそれを体感して感謝を覚えている。 今の彼にとってそれは、魔法技能を得たことよりも遥かに嬉しい誤算だった。だからハジメは、毎回こうやって口に出すことで感謝を忘れずにいようと心掛けている。 彼の変わった部分は外見的な見た目もそうだが、特に内面の成長が著しい。
そんな意識新たに仕事へ向かうハジメや、レスカを観察している者がいた。 ゼラとオリガだ。
「あれがフリックって魔法使いの家族? 変な構成ね」
「聞いてた通りだと、血の繋がりは無いそうだね。 多分居候か何かじゃないかな」
「なんでもいいけど、あの二人が重要なの?」
「どうかな。 まぁ何かあった時の保険として確認してるだけだよ。 重要なのはフリックの方で、彼は例の魔物の記憶にいたし、元々クレメント村の人間らしいから、一応マークしてたほうがいいよね」
「でもフリックって見た感じ雑魚じゃない。 放っておいてもよさそうだけど」
「あの魔物に関わっている以上、どこかでカルミネに繋がるかもしれないからね。 可能性として確認してるだけだよ。 できれば投獄された男の方から攻めたいところだけど会えないって言うし、それさえなければこんな可能性の薄そうなところ来ないって」
「それもそうね。 ところで、カルミネに犯罪者にされちゃった男ってどうなるのかしら? 出てきてくれたら問題解決も早いんだけど」
「そう上手くは行かないね。 そもそも、どこでカルミネと接触したかってことだよね。 あの犯罪者がどこで生活してたかとかが分かれば、目的まですぐなんだけど」
「じゃあ衛兵にでも聞いてみる? あんなナリの浮浪者だったら覚えてるんじゃない?」
「馬鹿じゃないカルミネがこの辺りの人間を使ってるとは考えにくいけど、まぁ聞いてみようか」
オリガの何気ない発言。 それはグレッグやオルソーの嘘を打ち破る一手となりそうだ。
そしてフリックを調べるゼラたちのように、彼らを見ている存在がいる。
「どうだ?」
カミラの鷲の目が、遠隔地から対象を射抜いていた。
「あたいの単純な勘でフリックを一人にしてみたけど、当たりだね。 あいつら、何故かフリックとその周辺を調べてる。 何か勘づかれた?」
「俺らが町にいない間に色々調べてたんだろうな。 それでどこからかフリックがクレメント村の人間って聞いて、自分たちの害になるか見てるんだろうよ」
「じゃあ僕たちがフリックと一緒に動くのはマズそうじゃね? フリックを囮にしてこうやって見てるのが丸くない?」
「あたいの消耗を考えな。 ハンス、あんたも動くんだよ」
「でもさ、機動力とか観察力に長けてないダスクを囮に出す方が効率いいだろ。 な、ダスクを使おうぜ」
「機動力とか言われると何も言えねぇが、馬鹿みたいに分かりやすく嗅ぎ回れってか? それこそ俺らのチームが疑われるぞ?」
「それもそうか。 じゃあ四人でいるところも見せなきゃならないな」
「そういうこった。 俺たちはあくまで自然に振る舞わなきゃならん。 変に気を衒うと足元掬われるぞ」
「ダスクに正論言われるとムカつくなぁ」
「うっせ、チビ」
フリックたちは情報アドバンテージで優っていると考えており、しかしその一方でゼラたちは確実に目的に近づいている。 そういった予測と現実の間に生まれる乖離が状況を悪化させる。
カミラは観察を続け、ハンスとダスクは市民の生活に溶け込む形で任務の遂行を急いだ。 そんな中、ゼラとオリガはグレッグについて調べるべく衛兵の詰所に向かっていた。
「──って感じの男、あんたたち知らない?」
「ああ、それはグレッグだな。 少し前にこの町にやってきた魔法使いだ。 もしかして知り合いか?」
「……ん? どういうこと?」
「どうした?」
「いや、こっちの話。 ゼラ、これってさぁ」
「なるほど、これで色々分かったよ。 ありがとう、じゃあ僕たちは行くよ」
「あ、ああ。 君たちの役に立てたなら何よりだ」
二人はその足で警吏署へ向かう。
「あの時のグレッグに対するオルソーの行動が奇妙だったんだよね。 でもこれで合点がいったよ」
「町ぐるみであーしらをハメてるってことね。 なんかイラついてきた」
「僕らを出し抜こうなんて、辺境の町のくせに生意気だよね。 それだけでここを滅ぼす理由としては十分かもしれないや」
「でもそんなことしたらカルミネは見つからないけど?」
「最終的には、ってこと。 多分、どこからか僕らを監視してる人間もいるんじゃないかな。 僕らは気づいていない体で動いて、馬鹿にしてる連中は全部殺しちゃおう。 まずはグレッグだ」
二人は毎日グレッグの様子を確認へ向かっている。 本命の彼さえ捕らえて記憶を読めさえすればという一縷の可能性に賭けての行動だったが、それが今効力を発揮しようとしている。
「どうせいないと思うけど?」
「ほぼ確実にね。 もし居たら助かるってだけで、この訪問はそれが目的じゃない。 オリガ、僕が署の連中に聞き取りしてる間に、バレないように《光鏡》で署内を調べて。 それで中にグレッグが居なければ、隠し事をしてる連中は罪人に指定できる」
「そうね。 その場で殺す?」
「いや、やめておく。 じっくりこの町の罪人を溜めていって、僕たちの任務完了と同時に全員殺しちゃおう」
「りょーかい。 でも、魔導書出した時点で色々警戒されそうじゃない?」
「相手が魔法使いじゃなきゃ、なんとでも言い訳は立つさ」
ゼラとオリガは警吏署に赴いた。
署は出入りのための扉によって外部からの観察を困難とし、内部での二人の行動を見た者は少ない。
「あんたら、罪深いね」
「……?」
去り際にオリガから放たれた言葉を警吏の者は理解できなかった。
「予想通りだね」
やはり署内にグレッグの存在はなかった。 それでも彼を隠す意図が町にあることは知れた。
「なんで最初に警吏署に行ったのかと思ったけど、屋内で魔法を発動しちゃえば良いってわけね」
オリガは砕いた光鏡をまばらに配置させることによって、見えないはずの離れた角の向こう側まで調査を可能にすることができる
攻撃方向に振り切った魔法を扱うオリガにとって、こういった補助系統の魔法操作は難しい。 しかし決して使えないわけでもないため、ある程度の距離までは光鏡を飛ばすことができる。
「オリガ、どうだい?」
今回は誰かに監視されているという前提でゼラとオリガは行動しているため、そもそも遠くまで彼女の魔法を飛ばす必要はない。 相手が壁を越えて透視したり、彼女と同様の魔法でも使わない限り、見られているということはこちらからも発見ことができるということなのだから。
オリガは付近に出現させている鏡を使って、主に視界の外を重点的に探した。 屋根の上や建物の隙間、外壁の上など。
「……いない、かな」
「おかしいな。 絶対誰か見てるはずなんだけど」
もちろんフリックのメンバーは二人を監視している。 カミラは鷲の目によって人間では不可能な距離から観察しているし、ダスクとハンスは一般人に紛れて自然な動きで調査を行なっているのだ。
ゼラとオリガは魔物討伐や殺人にこそ特異な能力を発揮するが、こういった地味な作業は向いていない。 そういうこともあって、二人は監視の目を見つけ出すことはできなかった。
「ゼラの思い過ごしじゃない?」
「今は単に見られてないだけかもしれない。 これからは常に誰かに見られていると思って行動しないといけないよ。 相手に闇属性がいないなら夜にこちらから見つけ出せるから、それまでの我慢だね」
「また夜も行動? 肌が荒れるなぁ……」
先に尻尾を出した方が負けの地道な戦いが、密かに開始された。
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