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オミナス・ワールド  作者: ひとやま あてる
第2章 第2幕 Desertion in New Life
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第35話 互いに齎される利益

「はてさて、逃げ遅れてしまいましたな」


 土中でそう呟くのはグレッグ。 彼は第一陣の遭遇戦においては身を隠し、情報収集に専念していた。


 グレッグは、問題の魔物に関してベルナルダンのメンバーだけで勝てるなどとは到底思っていなかった。 そして結果的にやはりというか何というか、彼らは失敗した。


 グレッグの目的はベルナルダンと同じようで、実は違う所にある。 しかしその道中は同じなので、彼らの邪魔をしたいわけでもない。 なので彼は可能な限り彼らの撤退を支援し、こうやって逃げ遅れているわけだ。 情報収集というのも、動けないからこそのやむを得ない行動であり、できればさっさと退散したいというのがグレッグの正直な気持ちだ。


「魔法使用をすれば、確実にあれに気づかれますからなぁ。 かといってこうも魔物が多い中でリスキーな動きを見せるのも……。 あの様子では、彼らはしばらくこちらには来ませんしなぁ」


 土属性の派生である泥属性のグレッグは、大地の続く限り遍く土壌を利用することができる。 そのためこうやって地面に潜って身を潜めることもできる。 また姑息な性格が影響して、相手を翻弄することにおいてグレッグの魔法が真価を発揮するからこそ、ベルナルダンの隊が逃げ果せたというのもある。


「さて……」


 それから何時間経過しただろうか。 時刻はすでに夜に差し掛かっている。


 魔物たちが殺気立ち始め、直上を走り回る様子からグレッグは状況を把握する。


「この方角はベルナルダン陣営ではないですな。 例の二人組か、それに類する者でしょうな」


 グレッグは先日ゼラとオリガの追跡から、彼らの目的を知ることができた。 元々彼らはモルテヴァで彼の調査対象で、二人を補足できたのは単なる偶然だ。 とはいえ、狭い界隈で同じ標的を狙っていればバッティングすることはそう珍しいことではない。


「先程は出来なかったが、この状況に便乗して盗賊の宝を奪取するとしましょうかね」


 ゼラとオリガが連れていたカルミネという男はここを拠点とする盗賊で、彼のアジトがこの周辺にあるということをグレッグは盗み聞きしていた。 そして、そこには盗賊が溜め込んだ様々な物資があるということも知ることができていた。


 グレッグはベルナルダンの討伐作戦に便乗して盗賊のアジトを探していたのだが、遭遇戦にも近い突発的な状況だったためにそこまで手が回らなかった。 結果としてアジトの入り口を見つけたあたりで姿を隠さざるを得ず、現在まで地面に潜って機会を伺っていた。


「──!」


 案の定、何者かの声が響いた。 続いてマナの放出もグレッグは知覚し、接近する集団が例の魔法使いコンビだと確信する。


 地面の振動から、多くの魔物が盗賊のアジトから離れていくのが確認できた。 次いで、一番重い足音も遠ざかっていく。 重いものとはつまり、件の魔物。


 好機と見るやグレッグは殆ど音を感じさせない動きで地面から飛び出し、そのまま絶妙な足捌きでアジトの入り口へ。 たった一歩の踏み込みだけで彼はそれを成した。


 人間の居ないアジト内部は真っ暗だが、それはグレッグにとってむしろ都合が良い。 後からやってきた者には見つけられにくいし、暗順応によって先んじて目を慣らすことが出来る。 ただし、そんなことは今回関係のない話だ。


 ここまで何時間も地面に潜って待ち続けてきたグレッグだが、その間にアジトを出入りする存在は確認できなかったし、そもそもここへ入りたがる生き物はいないはずだ。


「はてさて、魔物よりも盗賊の物資云々よりも問題は──」


 圧倒的に叩きつけられる重圧。 それは本能的に生物を寄せ付けない異質なものだが、それを心地よいと感じる存在もいないわけではない。 とりわけ魔物や魔人などはこれと同じようなものを纏っており、人間はこれを忌避する傾向にある。


「──瘴気の発生源ですなぁ」


 アジトの奥から色濃く発せられる瘴気は、禍々しい悪意の存在を意味している。 グレッグもそれの意味は理解しており、早急に対処すべき事案ということは重々承知している。 そしてその対処法も準備してきている。


「早速あれを使う機会が訪れるとは思いせんしたが、これも全部あの方の思惑通りということですかね」


 グレッグは勅使河原のことを思い浮かべつつ、アジトの奥へ歩みを進める。


 その少し前──。


「カルミネ、君が先行して雑魚を散らしてきてよ。 大物が来たら僕らが相手するからさ」


 ゼラとオリガ、そして多くの村人が敵のテリトリーに接近すると、分かりやすく目の赤い魔物がチラホラと現れ始めた。


「だ、だが……」

「早く行きなよ。 それともなに、ここで殺されたいわけ?」

「……は、はい」


 カルミネは抵抗する素振りを見せ、それでも仕方ないという具合に指示に従った……ふりをした。


 一方、ゼラとオリガは現状足手纏いでしかない村人を連れているため行軍が遅く、そしてこれから行うことに関してカルミネを付近においておくわけにはいかなかった。


 偶々条件が一致したためにカルミネは二人の元から離れることが可能となり、指示通り魔物を魔法で屠りながら距離を空ける。 あくまで自然に、なおかつ逃げるような姿勢は見せずに。


「オリガ、カルミネはどう?」

「言われた通りやってるわよ。 大体効果範囲外まで離れたんじゃない?」

「ありがとう。 じゃあ、始めるとするか」


 ゼラが徐に魔導書を具現させた。


 村人は魔物が現れ始めたことに怯えふためいているが、下手な発言は命を縮めるだけなので女どころか子供も言葉一つ発さない。 そんな中でゼラが彼らに指示を出す。


「とりあえず全員、身を守るための武器を手に持ってね。 それは絶対に、死んでも手放しちゃ駄目だよ。 分かった? この作戦が終わったら全員解放してあげるから頑張ってね」


 ゼラに促され、訳もわからず言われるままに動く村人たち。 彼はその様子を見て満足げに頷くと最後の魔法を唱えた。


「《強制狂化フォース・バーサク》」


 三十余名の村人全員がブルリと震えた。


「……ぁ゛……ぅぎ──、……ッが……」


 断末魔のような苦しげな声を上げ、奇妙に身体を掻きむしるような動きを見せ始める村人たち。


「ぐるぁ、あ゛あああ……ッ──!」

「ぎィッッッ……ぃあ゛ぁアアア!!!」


 その動きは徐々に大きくなり、最終的には全員が頭を抱えて唸りのような叫び声を発している。


「僕らとカルミネ以外の動くものは全部殺していいよ。 それが終わったらお互いに殺し合って生き残った人は有用に利用してあげる」


 村人の動きが落ち着いた時には、彼らは息荒く肩を上下させながら口から唾液を吹きこぼしており、その目は真っ赤に染まっている。


 ゼラは大量のマナを消費──全ての村人の体内に忍び込ませ、彼らの脳へ直接働きかける魔法を使用していた。 自然に生活していればあり得ないマナ濃度に曝されることによって脳が異常活性化を引き起こし、彼らはリミッターの外れた状態に陥った。 それは死を早めることに繋がるのだが、消耗品として用途を規定されている彼らにおいては関係のない話だ。


 獰猛な化け物となった村人が動物を上回る身体能力を見せながら走り出した。


 擬似的に人間を超えた存在に成り果てた村人たち。 その目の赤さには魔物を思わせるものがあり、ゼラもこれを魔物化と表現している。 彼らの目標は動きを見せる全ての存在であり、ゼラによって定められた制約を死ぬまで履行するエリート殺人部隊だ。


「さて、僕らも行こうか。 あんなのが迫ってきたら敵さんも出てこざるを得なくなるでしょ。 あれらに手を焼いてる間にオリガが一撃入れておしまい。 簡単な仕事だよ」

「そうね。 今回のはだいぶ罪深いから、良いのがお見舞いできそう」

「ちなみに罪状は?」

「あーしを長期間辺鄙なド田舎に拘束して質素な生活を強いさせたことよ。 夜に働いて肌のケアにも影響が出てるし、そもそも──」

「あらら、今回はかなりご立腹みたいだね。 ま、その方がオリガの魔法の威力も上がるから僕としては歓げ……ああ、ごめんごめん、そんなわけないよね。 女の子にとっては重要なことだよね」


 オリガが本当に怒っている様子だったので、ゼラも軽い調子を少し真面目なものに戻した。 そのまま無言で歩き始める二人。


 山道を進むと、無惨に切り裂かれた魔物の死骸が多数転がっている。 どうやらゼラの指示通りに命令を遂行してくれているようだ。 また村人自体も敵を引きつけるデコイとして機能しているため、良い具合にゼラとオリガの負担を減らしてくれる。


「オリガ、手を出して……《夜目ナイトアイ》」


 オリガがゼラの手を握るタイミングで一つの魔法が発動された。 それは夜間でも昼間のような視界を得ることができるシロモノで、使用者は夜間の活動が容易になる。 これは闇属性に特異的な魔法だが、そのおかげで闇属性魔法使いが政治的な後ろ暗いことにばかり利用されているという実情もある。


 ゼラがオリガの手を握っているのは、彼女との間に“接続リンク”を形成するため。


 本来魔法は個人で完結するものだが、一部では複数の人間で組み合わせて発動させるものも存在する。 その代表例が召喚魔法などの大規模術式であり、一つの魔法に複数の人間を介在させるものを共同魔法と言い、複数の魔法使いが魔法を組み合わせることによって発動されるものを混合魔法という。


 世界にありふれたマナは、元々は色の無い液体というイメージだ。 それが魔法使いの体内に取り込まれる過程で影響を受け、その魔法使い特有のマナとして着色される。 一度着色されたマナは他者のマナとはなかなか溶け合わず、とりわけ属性の異なる者同士でそれは顕著だ。 身体に流し込まれた他人のマナは毒として機能し、先ほどの村人のような末路を迎えることもある。 しかしその一方で、長期的に魔法使い同士のマナを触れさせることでそれらを混ぜ合わせる試みがある。 それが接続リンクであり、混合魔法などの前段階として魔法使いを個から解き放つために必須の技術である。


「見えた。 良い感じにあいつらが囮になってるようね」

「この辺りがギリギリ気付かれない距離だし、ここで決めちゃってよ」

「了解」


 接続リンクの応用として、ゼラは自身に掛けた夜目ナイトアイをオリガと共有している。 それによってオリガも夜目を得ることが可能になった。


「対象を猿の魔物に指定。 罪状は、あんたが産まれてしまったこと、人間に多大な迷惑を掛けたこと、そしてあーしの生活を乱したこと」


 開かれたオリガの魔導書にマナが充溢し、


「死ね……《断罪コンヴィクション》」


 罪人を裁く刃が顕現──振り下ろされた。



          ▽



 ズザッ──!


 グレッグの背後から大きな物音が聞こえた。


 すでにグレッグは盗賊のアジトを半ば探索し終えており、目的のブツも手に入れていた。 ついでに盗賊が集めた財宝の類を探していたのだが、どこかに秘められているのかなかなか見つけることができていない。 そんなタイミングで訪れた何者か。


「あの二人にしては早すぎますな」


 アジトの構造が袋小路ということと、ここが岩の洞窟を基盤に作られていることがグレッグに面倒な事態を巻き起こしている。


 「ハァッ……ハァッ……!」


 何者かが息荒くズンズンと進んできているのを察知して、グレッグは付近のベッドの下に身を隠した。


(敵は一人で、迷いの無い足取り。 魔物のそれではないですな)


 グレッグが保険として起動していた探査の魔法により敵の情報が伝わってくる。 ただし、敵の情報を入手できるのはグレッグだけではなかった。


「おい、誰か知らんがそこに隠れているのは分かってる! 俺は風属性の魔法使いで、空間把握はこちらに分がある。 妙な動きをしたら即座に攻撃を仕掛けるぞ? だからまずお前の身分と目的を明らかにしろ!」


 暗闇にぼんやりと緑に光る魔導書は風属性の証明。 身を隠しているグレッグからもそれははっきりと確認できた。


(……これは面倒なことになった。 ここにはあっしが使えるリソースがあまりにも少ない。 しかし相手さんの素性は割れた。 ゼラとオリガが連れていた盗賊の頭という奴ですな)


「あっしはこういうもんで」


 グレッグは魔導書にマナを注ぎながら、茶色いその発光を見せつけて姿を見せる。


「ちっ、土属性の魔法使いか……! こんなところに何の用だ……?」


 風属性は多くの部分で土属性に劣っている。 風属性は切断力などの鋭利な攻撃と機動力に富んだ一方で、土属性はそれに勝る攻撃力と防御力を誇る。 単純なぶつかり合いなら土属性に軍配が上がるというのが基本的な知識だ。


(あっしがこの場においてほぼ無力ということは割れてませんな。 このままハッタリで通すとしやすか)


「あっしはベルナルダンの魔物討伐隊の一人。 本日決行された作戦で逃げ遅れてこの場に隠れていやした。 外は魔物に溢れて逃げ出すこともできず、ここに滞在してるって状態ですな」

「名前は?」

「グレッグというもんで。 そちらは盗賊のカルミネで間違いねぇですな?」

「……チッ、素性がバレてるか。 それにしても聞かねぇ名だ。 どこから来た?」


 グレッグはカルミネに自身の名を偽る必要はない。 バレたところで少し生きづらくなる程度で、問題はゼラとオリガにバレることだけだ。


「王都ギュムリから。 あっしはそこそこ名の知れた魔法使いなんですぜ?」

「つくづくお前みたいな人間がここに居る意味がわからねぇ……。 目的は?」


 魔法使いはホームとして登録している場所によって大まかに力量を測ることができる。 田舎の魔法使いは平凡かそれ以下で都会の魔法使いは優秀、という具合に。 その尺度はどこでも使えるわけではないのだが、ある程度依頼を熟している魔法使いにおいてはそこそこ信頼の置ける判断材料となっている。 とりわけ王都というと最先端の魔法が研究されてる場所であり、金さえあれば装備や魔法など様々なものを入手できる。 だからこそ、王都の魔法使いと聞けばさぞ優秀なのだと想像するわけだ。


(なんでそんな魔法使いがいやがる……? まったく、ツイてねぇな俺も……)


 カルミネはグレッグへの警戒心を最大まで引き上げた。 そして彼はグレッグを自らより上位の魔法使いと認めてしまった。 それは彼が大した成果も上げられず町を追われた魔法使いだからであり、輝かしい経歴を持っているであろうグレッグに嫉妬してしまったからだ。 嫉妬は相手を上だと認めてしまう一つの要因で、そう感じてしまった以上彼は下位の存在に成り下がった。 また素性を知られてしまっていることも、グレッグの能力を誤認する要因にもなっていた。


「問題を起こしている魔物ないしはその核を研究材料として持ち帰ることですな。 ただ、それよりも異常なものを見つけてしまいましてな」

「それは何だ?」

「あんさんも感じているでしょう? この異質なマナの波動を」

「……気のせいじゃなかったのか。 俺はてっきりあの魔物から出てるものだと思ってたが」

「今はあっしの魔法で覆ってある。 それによって多少は外部への影響が抑えられているというだけで、本来なら近づくべきものではない」

「お前はそれだけあれば満足なのか?」


 カルミネの目的はここでグレッグと争うことではない。 秘蔵している財産の類を持ち帰って、どこかで再帰することだ。 その上でゼラの呪縛からも解放されなければならないため、グレッグを味方に引き入れても敵対することは望まない。


「できれば上で暴れてる魔物の首魁も入手しておきたいところですが、あいにくあっしだけでそれは難しい。 今はこれだけ安全に持ち帰ることができれば満足というところですな」

「……お前に頼みがある。 可能なら、俺を助けてくれ。 お前の知る通り、俺はここを根城にしていた盗賊のリーダーだ。 ここにはお前も満足できるくらいの金銭と物資が備蓄されている。 その一部をお前にやるから、どうだろうか?」


 以前までのカルミネなら、プライドが邪魔して出なかったであろう言葉。 それが出たのは奴隷に堕ちてしまったからであり、命に勝るものなどないと知っているからだ。 あの村人たちのような無残な末路だけは避けたい。


「なるほど、ゼラという魔法使いに支配されてるということでしたな」

「ッ……なぜ、それを?」

「そんなことはどうでも良いことですな。 ……それで、どんな制約を強いられているので?」

「助けてくれるのか?」

「条件次第ですな。 まずは、ここから去るための戦力としてあんさんが協力すること。 そしてあっしに敵対しないこと、ゼラとオリガの情報を提供すること、ここであったことを口外しないこと。 全て守れるなら助力くらいはしやしょう。 金は当然としてもらいますがね」

「それで構わない」

「それなら契約成立ということで」


 口約束だが、魔法使いは本質的に契約を重要視する性質がある。 滅多なことがなければ、それを破られることはない。


「俺に掛けられたのは、あいつらへの敵対禁止と違反即自害……そのはずだ」

「逃げ出すのは離反行為では?」

「違う、俺はお前の脱出を手助けするだけだ。 途中で魔物がいたとしても、それを屠ることはあいつらの身を守ることにもつながる」


 カルミネは自身に言い聞かせるように声高にそう叫ぶ。


「闇属性はそう単純なもんじゃない。 あんさんが離脱することが最終的に彼らの不利益に繋がると勝手に判断される場合もある」

「お、おい、それは……どうすれば良い?」

「とりあえず隠している物資を持てる限り持ってきてくだせぇ。 作戦はその間に考えておくとしやす」

「た、頼んだ……!」


 闇に消えていくカルミネを見送って、グレッグは思案する。


(ここから脱出する意味でも物資を運搬する意味でも、カルミネの命には価値がある。 それに、彼の抱えている情報も重要ですな。 さて、彼を生かしつつ逃げ出す算段は……)


「待たせたッ……」


 カルミネが戻ってきたが、彼は大きな皮袋をいくつか抱えている。


「もう少し少なくならなかったので?」

「金銭と魔導具、あとは希少な素材を厳選してこれだ。 許してくれ。 それで、どう動くか決まったのか?」

「考えた結果、あんさんには気を失っていてもらうことにしやした」

「なに……?」

「もしその制約がゼラから離れることを条件に起動した場合、覚醒状態でそれを回避するのは難しい」

「可能なのか?」

「さて、どうですかね。 ただ、この場にはゼラとオリガがやってきている。 彼らの目的が魔物である以上、何かしらのアクションを起こすことは分かっていますからな。 そのタイミングであんさんは安全ルートを風魔法とやらで調べ、直後にあっしが気を失わせて脱出に動きやす」

「そんな上手くは……いや、任せる。 その場合、荷物はどうしたらいい?」

「あっしの魔法──」


 ズ……──。


「「!?」」


 突如濃密なマナの波動が感じ取られた。 それを受けて、グレッグとカルミネは今がそのタイミングだと確信する。


「随分と早い……! さっきの通りに!」


 二人はアジトの入り口へと駆け出し、まずカルミネが魔法を唱えた。


「《反響エコー》!」


 カルミネ最大限のマナで放出されたそれは、一瞬で拡散して周囲の情報を彼に伝えてくる。 ただ、あまりにも情報が多すぎるため、どれを選択して伝えるかが重要だ。 その中には多数の村人や魔物の首魁の姿もある。 そして──。


「まずい、オリガの魔──」


 カルミネが言い切る前に激しい衝撃が降り注ぎ、アジトに崩落が伝播した。 それは二人がアジトから外に出る瞬間であり、間一髪で落盤に飲み込まれることはなかった。


 転がるように二人が飛び出したとき、天から降り注いだ巨大な光の十字架が山を貫いているのが見えた。 同時に勢いに押されてカルミネが転び、荷物の中身が激しくぶちまけられる。


「安全な方角は!?」

「ほ、北西だ!」


 もう荷物が間に合わないと悟ったカルミネは、それを惜しむ言葉の前にグレッグの問いに答えた。


「では、あんさんは眠っていたくだせぇ……《操土コントロール・ソイル》」


 グレッグの魔法により指定された範囲の地面が大きくうねった。


 グレッグは泥に包んだブツをすでに一つ抱えている。 その上で撒き散らされた荷物をカルミネごと土で包むと、ブツと一緒くたにして飲み込んだ。


「では暫くそこで黙っていてもらいやしょう」

「おい──」


 カルミネの視界が一気に真っ暗になり、その直後に窒息感が彼を襲った。


 次に目覚めることがあってくれ。 そんな思いを抱きながら、カルミネは意識を失った。

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