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オミナス・ワールド  作者: ひとやま あてる
第2章 第2幕 Desertion in New Life
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第33話 挟撃される魔物

 ハジメが新たな試みに挑んでいると、数時間してフリックを含んだ大隊が拠点まで戻ってきた。 中には怪我人もいて死人は出ていないようだが、その様子から今回の作戦がかなりの大仕事だったということが窺える。


「どうだった?」

「あまりにも多いですね。 ここまで影響が大きいとなると、本命まで辿り着くのも骨が折れます」

「じゃあ奴には会えなかったのか?」

「ええ。 行ってみたら分かりますけど、あそこは魔物の巣窟です。 あれは明らかに何かしらの目的を持って動いていますね」

「そんな状態で、よく情報提供者は本命まで辿り着けたよなァ?」

「彼は王国から来られている猛者ですね。 途中で会いましたが、かなり魔法に長けているようでした。 オルソーさんよりも強いようですよ」

「そりゃすげぇ。 有名人か?」

「いえ、あまり目立った活動はしてきていないようです。 少し話してみたところ、以前は勇者の方と行動したこともあると仰ってましたね」

「随分と大物だなァ」


 フリックたちの会話を横目にハジメはどうして良いか分からず、結局そのまま素振りなどを続けている。


 しばらくすると、ようやく手の空いたフリックがハジメの元へやってきた。


「ご苦労様です。 今日はここも安全でしたが、山中の様子では魔物が我々の匂いを追ってここまでやってくるかもしれません。 ですので、今日は小隊だけを残して、立て直しのためベルナルダンへ戻ります」


 拠点を潰されてはこれからの作戦に支障を来すため、一部の人間だけを残してハジメは戻ることとなった。 拠点とはいえ、ここは天幕などをいくつか設置しただけの簡易的なものだ。 これからの大仕事を考えると、行ったり来たりせずに完結できるだけの物資を確保してこなければならない。


 どうやら今回は予想を大きく上回る敵の数だったらしく、数日で収まる仕事だというベルナルダン側の想定を超えてきた。 想定に対して敵が強大で、準備不足が目立つらしい。 ということで、一旦ベルナルダンまで戻って立て直しが行われる。


 今日の現場には、約半日掛けてやってきている。 ハジメが出発したのは昨夜で、現地へ向かう馬車で夜を過ごし、狭い寝台で全身をギシギシに痛めた状態で朝を迎えた。 同乗者はハジメ以外にもおり、彼らはそのまま仕事に取り掛かっていたことから、こういったことは日常茶飯事なのだろう。 ハジメは彼らを余所目に貧弱な自分の身体を恨みつつ、その日を過ごしたのだった。


(慌ただしいな……。 俺としてはまた半日掛けて戻るのは苦痛なんだが、そうも言ってられねぇか。 レスカも家で待ってるし、俺としてもここで出来ることはなさそうだ)


 多くの人間がいくつかの馬車に分乗して帰の途につく。


 帰りの馬車で、ハジメはいろいろな話を聞くことができた。


「あそこまで影響を広げるのは、恐らくヌシの類じゃな。 放っておけば、ここら一帯は汚染区域に指定されるじゃろうて」


 そう話すのは、両手に大きなガントレットを装備した老人。 近接戦闘を得意とする彼は、ベルナルダンで最も長く魔物討伐を続けてきた英傑──ゴットフリート。 御年70ながら現役で依頼をこなす彼は町の最重要人物の一人であり、討伐依頼などよりは町の防備にあたることが多い。 とりわけ犯罪者や盗賊を狩ってきた経歴から、彼についた異名は“人狩り”。 彼の肉体は未だ衰えを知らず、周囲の若い連中と遜色ない姿形をしている。


 ゴットフリートは討伐隊に帯同してやってきたわけだが、彼のメインの目的は魔物ではない。 今回のような大型案件には横槍を入れる輩が少なくなく、そういった連中──盗賊などのアウトローを狩るために彼は町から参加を依頼された。


  人員も金も大きく動く案件は後ろ暗い連中の格好のターゲットであり、盗賊以外にも町の人間にも悪いことを考えている者は少ないという実情もある。


「爺は今回の魔物騒動、どう見てる?」


 近くにいた、これまた屈強な男──ハンターのレギスが彼に質問を投げる。


 この世界の職業は多種多様。 中でもとりわけ魔物や獣、盗賊退治などをこなす者たちを狩人ハンターと呼ぶ。 その他にも未開の地を切り拓いたり新たな発見をもたらす探検家エクスプローラーなどもおり、これらは大金を得られる代償として死亡率が非常に高い。 フリックのチームで言うと、ダスクとカミラが前者、フリックとハンスが後者に当たる。 とはいえそれらは総称なので、明確な職業かと言われれば疑問が残る。


「そうじゃな……少なくとも、その魔物がラクラ村に出現したのは偶然とは思えんな。 其奴に小さな村から襲わせて、力を付けさせる狙いがあるのかもしれん。 ラクラ村、クレメント村ときているのじゃから、次の狙いはベルナルダンと考えるのが妥当というところかのう」

「誰かが裏で糸を引いていると?」

「それが人間とは限らんがのう。 魔人の連中が頭を使って人間を追い詰めようとしているのかもしれぬな」

「なるほどな。 俺たちは魔人に会ったことはないんだが、爺はどう戦ったんだ? 魔法を使うんだろう?」

「ありゃ面倒な相手だったのう。 なにせ奴ら、疲れることを知らん。 じゃから決めるときは一撃で決めるべきじゃな。 小賢しい攻撃を繰り返して相手の防御を見極めれば、どこに魔核が秘められているか想像できる。 あとは攻撃力でそこをぶち抜くだけじゃ」

「簡単に言いやがるぜ、まったく! だけど魔法はどうするんだ?」

「頑張って回避しろ。 それ以上のアドバイスなどありゃあせん」

「それは参考にならねえが、良い情報感謝するぜ」

「本来なら金を巻き上げてるところじゃがのう。 あいにく若者らの見てる前でそこまではできんわい」

「じゃあ今度酒場で良いのを奢らせてくれ」

「ま、今回はそれで我慢しておいてやるかのう」


 ハジメはそんな様子を楽しげに眺める。


 ハジメはどこもかしこも殺伐とした世界かと思っていたが、案外気の良い連中も多そうだということに少し安堵した。 これからずっと他人を疑って生きていかなければならないと感じていた肩の荷が、少し降りた気がした。


「ハジメさん、あの方の装備に刻印されているものが見えますか?」

「見える」


 フリックが指差した先──ゴットフリートの両の拳には、左右でそれぞれ異なる魔法陣が刻まれている。


「あれは魔導具と言って、魔法技能を宿した武器から防具、生活一般にも用いられる新時代のアイテムです」

「あの人、魔法使い?」

「いえ、そうではありません。 ですが──」


 多少の副作用と引き換えに擬似的に魔法を行使させることのできるものがある。 それが魔導具。 身体を通してマナを魔法陣に吸収させる機構を組み込むことで、非魔法使いでも無理やり魔法使用が可能となる。


 魔法使いは先天的にマナを身体に通しても害はないが、魔法使い以外はそうではない。 そこで、魔導具という外付けの規格で魔法を行使する。 魔法使いは当然代償無しで魔導具が可能だ。


「代償?」

「マナを許容できない非魔法使いの方にはマナは毒なので、嘔気や倦怠感、その他様々な症状が出ます。 頭痛が最も一般的な副作用のようです」


 それでも魔法が使えると使えないとでは生存確率が天と地の差なので、欲しがる人間は多い。


「値段高そう」


 ハジメは内容が小難しくて理解しきれなかったので、的外れな意見を返す。


「確かに魔導武具は一般人では手が出せないほど高額ですね。 一応、ハジメさんのマナが体周囲に漂っているということなので、魔導具で何かの補助ができるかもしれません。 私としてもハジメさんには魔法技能を体得して頂きたいのですが、どういった魔導具がお好みですか? オルソーさんにお願いして、入手できれば使ってもらおうと思っています」


 そう言われても困るところだ。


(だけど、この流れ……貰える、ってことで良いのか?)


 ハジメはまだまだフリックに返しきれていないものが多い。 なんでもかんでもお世話になるわけにはいかないが、それでもハジメが早期に一人前の働きをできるようになれば、稼ぎも増えて借金も返しやすくなるかもしれない。 長い目で見てお互いプラスになるのであれば、これは良い提案のはずだ。


(今のところ俺が魔法を使える保証が無いわけだし、変なものを貰うわけにはいかないよな。 それなら魔法が使えないとしても普段使い出来るものが良い。 それでいて邪魔にもならないものっていうと……やっぱ武器だよな)


 しかし現状、ハジメはどのような武器を扱って良いかわからない。 ダスクのような剣だったり、ゴットフリートのようなガントレットだったり、目移りするものは多い。 今でこそ様々なものを握って特訓をしているが、これといった武器が定まっていないからこそ特訓の成果が出づらいのかもしれない。


「武器、欲しい」

「分かりました。 どういったデザインが良いかは追々考えていきましょう」

「ありがとう」

「それでは休める時に休んでおいてください」


 舗装された道を走っていない間の馬車の揺れは大きく、常に振動もあるため、なかなか眠りにつくことはできない。 そんな環境にあっても寝息を立てられる者は、状況に慣れている猛者だろう。


 出発したのが夕方だったので、このまま真っ直ぐベルナルダンに戻れても朝方になりそうだ。 レスカには留守番を任せているので、ハジメは早く戻りたいと言う気持ちが大きい。


(魔導具がどんな性能かは分からないけど、あの爺さんがずっと現役でやっていけてるのはアレのおかげか? それで言うと、俺もああいうのが使えればグッと生存率が上がるってことだよな。 魔法は難しいけど、その前段階には至れるかもしれない)


 出来そうなことが増えると、これからの生活が一気に安定性を増してくれる。


(とりあえずダスクさんから得た特訓法を試して、あとは魔導具を使いこなすのが当面の目標だな)


 目標を新たに、ハジメは無理やり眠りにつく。 休める時に休んでおかなければ、不意の事態に対応できない。


 盗賊などは夜間こそ活動を強める傾向があり、ベルナルダン付近でかなりの数の事件報告が挙げられている。 しかし今のところそれらの足取りは追えていないので、ベルナルダン南部で警戒を解くことはできない。


「フリック、その小僧は使えるのか?」

「可能性は十分です。 あとは良き経験を積ませていくだけですね」


 ハジメが眠った後の車内で、ゴットフリートがフリックに問いを投げていた。


「性格はどうじゃ?」

「攻撃寄りではありませんね。 どちらかといえば技巧寄りかと」

「扱いづらそうじゃのう」

「ですが、うまくいけばベルナルダン屈指の魔法使いになれると思います。 今は方向性を見定めるべく、時間をかけてハジメさんの性質を明らかにしている最中ですね」


 魔法使いの能力はその性格から類推しやすい。 フリックがサポート方面に厚いことも彼の性格からくるものだし、魔法使いを育成する際は性格を重視して経験を積ませることが最も有効な道筋だ。 逆に、本人の性格を無視して無理な方向へ歩ませれば、中途半端な魔法使いが出来上がる場合もある。


 現代の魔法使いは組合によって──それより上位組織である国家によって管理される存在だ。


 目先の金銭に釣られ、指向性を規定された魔法使いが多数排出されている。 それは軍事力、ひいては国力を増大させることに寄与しているが、魔法それ自体の自然な発展を妨げる要因にもなっている。


「お主は慎重だのう。 ま、魔法はお主の専売特許だから任せるがの」


 王国の悲願は帝国の打倒だ。 そのためには二国間でダラダラと続けられている小競り合いを制して敵国を討ち滅ぼす必要がある。 魔法使いはそのための道具であり、政治的な思惑を有利に進めるコマでしかない。 ただし辺境においてはそうではなく、その地域を守ることが優先されるため魔法使いの自由度は高い。 そうでなければチンタラとハジメを遊ばせているということはない。


 続けて、ゴットフリートが思い出したように言う。


「そうじゃ、あの者……グレッグという男。 奴め随分と怪しい動きを見せていたが、お主の見立てはどうじゃ?」

「直接話しましたが、悪い人ではなさそうかと。 まぁでも、本人は金稼ぎと言ってましたが目的は別のところにありそうですね。 今のところ、こちらに害のある行動はしていません。 性格も攻撃方面ではありませんので、魔物を討伐するという共通目標がある限りは問題のない人物だと思います」

「随分と楽観的じゃの。 わしは奴こそ今回の件に絡んでいると睨んどる。 魔物に到達するまでの道筋が整え過ぎられている気がするからの」

「その場合、目的は何でしょう?」

「この件に多くの人員を釘付けにして、その間に何かしら事を起こす算段かもしれん。 もしかしたら、奴以外の仲間が町に潜んでいるかもしれんからの。 だからわしは町に戻るというわけじゃ。 お主も警戒を下げんようにな」

「そう、ですか。 では、わざわざ身元を明かしているのはどうしてでしょうか?」

「さぁな。 最終的に全員消せば問題ないとでも思っているのかもしれん。 お主は善人すぎるからの。 取り入られるような事態は御免被りたいぞ」

「心しておきます」


 それにしても、と前置きしてゴットフリートは続ける。


「“泥のグレッグ”か。 随分と大物がやってきたもんじゃな」

「お知り合いで?」

「少し小耳に挟んだ程度じゃ。 先代勇者と共に戦場で一線級の働きをしたとも聞いておるが、表舞台には顔を出さん人物じゃな。 歳もそこそこだというのに、働き者じゃのう」

「魔法使いは大器晩成ですからね。 老いた魔法使いほど厄介なものですよ」

「肉体を用いて戦うわしらには羨ましい限りじゃて。 ……まぁ、奴がわしらを消す云々は考え過ぎかもしれんが、国の手がここまで伸びているかもしれんというのは理解していた方が良い。 いずれここが戦場に発展する未来もあるのじゃからな」

「そうですね。 重々承知して行動します」


 年老いた人物ほど、未来を見据えて行動している。 ゴットフリート然り、パーソン然り、彼らの経験則から推測される未来は概ね実現される傾向にあるが、若者にはあまり理解されないというのが困ったところだ。


「ところで、ゴットフリートさんが相手にして厄介だった魔法使いなどは居ますか?」

「どういう意図の質問じゃ?」

「ハジメさんの育成方針の参考までに」

「そういうことか。 そうじゃな……。 今まで犯罪者にしろ魔人にしろ魔法を使う者は少なくなかったが、最も厄介だったと言えば罠を貼るタイプの者じゃな。 自ら動かぬ相手にはこちらから動かねばならず、それは相手の土俵に踏み込むということじゃ。 そういう場合はこちらが被害を受ける前提で動かねばならず、給料に合わん仕事になることが多い。 さっきお主が言っていた、技巧派というやつなんじゃろう。 ただ、ああいうのは性格の悪いやつにしか向かんぞ。 少なくとも、小僧には向いていないと思うがの」

「いえ、参考になります」

「ま、聞きたいことがあれば今のうちに聞いておけ。 わしもずっと前線で戦える年齢じゃないからの。 次の世代への引き継ぎもさっさと済ませねばならん。 じゃが、その対象が少なすぎるというのが問題じゃな」

「それは、なかなかに耳の痛い話です。 チーム共々善処します」


 馬車内に娯楽などないため、時間が経つほどに眠りに就く者が増えていく。


「お主もそろそろ休んでおけ。 警戒はわし一人で十分じゃ」

「それでは、お言葉に甘えさせていただきます。 後のことは、よろしく頼みます」


 それから幾許かの時間が流れた。


 時刻としては深夜も近い頃、現在問題となっている山中で動きを見せる者たちがいた。


「ねぇ、聞いてた話と違くない?」

「今回の魔物は相当な大物ということかな。 現在進行形で影響を広げていると考えれば、この状況も頷けるね」


 ゼラとオリガの目の前には、かなりの数の赤い目をした魔物が見受けられる。 それらはマナを欲する性質上、魔法使いなどを容易に発見してくるという特色がある。 そのため夜間といえど、魔法使いである彼らは魔物たちの標的にされていた。


「あんた、もっと働きなさいよ。 あーしらが怪我したらあんた、だいぶ罪深いよ?」

「ヒッ……! す、すいません……!」


 カルミネは今や二人の奴隷だ。 言われるままに動き、気分を損ねないように必死に這いずり回っている。


「まぁ、程度の低い魔物だし、虱潰しにやっていけばすぐに本命にも近づけるよ。 カルミネが僕らの代わりに戦ってくれてるんだし、楽させてもらってると思えば気分も軽いさ」

「ゼラは楽観的すぎるんだって。 夜の作業なんて乙女の肌の大敵なんだから、こいつに働かせれば良いと思うんだけど」

「あまり目を話しすぎるのも、ね? それに、昼間から村人を連れ出したら怪しまれるし、行動するのは夜しかないんだよ」


 ゼラとオリガの背後には、荷物持ちとしてクレメント村の男が追随している。 彼もまた二人の奴隷であり、魔法によって縛られた哀れな子羊だ。


 ゼラの魔法は言葉面の契約だったので、村人としてはあまり実感の湧かないものだった。 それはカルミネのような力による支配でもなかったので、すぐにゼラの言いつけを破った人物が現れた。


 支配体系に不満がある場合に人間の取る行動は、恭順か抵抗、あとは逃亡だろう。


 その者──カーターは一人、村からの脱走を決意した。 彼は魔法の絶対性を理解していたので戦うことなど最初から考えず、ゼラとオリガの支配日の夜即座に行動に移った。 そして……村の全域に彼の悲鳴が響いた。 その大部分は痛みに対する反応だったが、そこに加えて謝罪や懇願がところどころに散りばめられていた。


 カーターは自らで自らの眼球を引き摺り出し、顔面を殴打し、破壊可能な肉体の部位を次々に潰していた。 彼がいくら抵抗しようとも肉体の自由は効かず、誰かに操られているかのようにその惨状を繰り広げ続けた。


『言いつけを破ったら駄目じゃないか。 だから懇切丁寧に説明してあげたのに』


 カーターの自壊劇場に震える村人たちの前で、ゼラは随分と軽くそう言った。 何の感情もなく言い放たれた言葉に村人は更に戦慄し、決してああはなりたくないと決心しながらカーターの最後を見届けた。


 その時、村人は理解した。 自分達は人間ではなく、虫にも等しい存在に成り下がってしまったことを。


「ゼ、ゼラ様……! そろそろ俺のマナが枯渇しそうなのですが……」

「あんた、へばるの早くない?」

「カルミネ、マナポーションは持ってるんだっけ?」

「財産も物資も全て拠点にありまして……」

「無いってこと?」

「は、はい……」

「じゃあこれ渡しておくからよ。 魔物が君たちの拠点を根城にしてるなら、最終的には回収できるってことで」


 ゼラがカルミナにマナポーションを投げた。 それの意味するところは、まだまだ働けということ。


 カルミナは疲弊する思考と身体を気持ちだけで動かしながら、ゼラとオリガに言われる全てを実行した。


(くそッ……! こんな人生……いや、自害などしようものなら、あれより酷い末路に……)


 カルミネはカーターの最期を思い出しながら、その思考を思い留まる。


 ゼラの支配下において、死は救済にはなり得ない。 もしかしたら、オリガの意向で死ぬことすら困難な苦痛のまま生かされる可能性だってある。


 カルミネは獣のように叫びながら魔法を放ち、次々と魔物の息の根を止めていく。


 不要と判断されないこの場においてカルミネの生存は許され、彼の今までやってきた魔法の修行はこの時のためだと誤認してさえしまう。


 そんな様子を観察する男が一人。


「ここでモルテヴァの二人を捕捉できたのは行幸。 やはり、噂は本当だったということですか。 それにしても盗賊のアジトとは、面白いことになりそうですな」


 グレッグは幸運にも別勢力の存在を捉えていた。 彼は泥の中に潜み、匂いを消すことで魔物が跋扈する環境でも生存を可能にしている。


「さて、本命の魔物の扱い方で風向きが如何様にも転びそうですな」


 泥はノロノロとした動きでゼラたちを追った。 魔物にすら気づかれないそれを知覚できる者はどこにもいなかった。

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