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オミナス・ワールド  作者: ひとやま あてる
第1章 第3幕 Maneuvering in Lacra Village
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第17話 貴様に騎士など似合わない

「馬上より失礼する! 小官はヒースコート男爵に仕える、騎士ステファン=クレールである! 近隣の村から魔物被害の報告を受け、調査に参上した次第だ! 代表者はここへ!」


 厳格そうな雰囲気の重装備の騎士がラクラ村入り口で名乗りを上げる。 彼の乗る馬も、これまた堅牢な馬具を身につけ、主人や装備の重みだけで潰れてしまいそうな印象を受ける。


 ステファンは顔面まで覆った打撃を寄せ付けないプレートアーマーと、腰にはロングソードを帯刀している。 その一方で、彼に続くその他3名の従騎士は軽装で剣を帯びず、彼らの乗る馬もステファンの馬のような豪勢な馬具を装備していない。


 騎士職は貴族階級の末端に位置し、農民と貴族を境する大きな壁である。 農民は騎士に憧れ、そこを目指す者も少なくない。 というのも、農民などの一般階級が努力して就くことの出来る貴族階級が騎士であり、それは成功者としての華々しい終着点。 ただし農民から騎士になれたとしても、家名を持つ者と持たない者の間には隔絶した差があり、後者は被差別貴族としても扱われている。


 農民が騎士になる方法──それは、年に1回開催される武闘大会で華々しい成果を上げつつ優勝することだ。 そうすれば、たとえ家名の無い彼らでも騎士団への入団が許され、騎士としての育成過程に進むことができる。 それが被差別貴族としての立ち上がりであり、正当な手段を経ない彼らを誹謗中傷が襲う原因にもなる。


 このステファンは家名を持つ、平民の中でも上流に位置する立場である。 これらは街などに住むことのできる謂わば特権階級。 家名を持つ者として立場はこの村を治めるメレド=ラクラと本来同等なのだが、厳しい騎士過程をクリアしただけあって、そこには歴然とした差が生まれている。 だからこそステファンは語気強めに威圧的な雰囲気を当然のように醸している。


 ステファンの背後に控える従騎士もそれぞれ家名を持つ上流平民である。 彼らは6歳を超えた頃にはすでに主君の下で小姓ペイジとして下働きを開始し、騎士の初歩的技術を学び始める。 そして成人を迎える15歳を待って従騎士エスクワイアに昇格し、主人である先輩騎士に帯同して下働きを続けるのだ。


 従騎士と聞こえは良いが、彼らはまだまだ見習いの立場である。 従騎士から確実に騎士に昇格できるというわけでもなく、場合によっては一生従騎士というパターンもありうる。 多くの場合は20歳を過ぎて主君から叙任されて初めて騎士となれる。 そこに推薦できるのは主人たる騎士だけであり、だからこそ従騎士は主人に尽くし、騎士を夢見る。


 小姓の期間は家名がペイジに、従騎士の期間は家名がエスクワイアに置き換わる。 また小姓と従騎士は家名を持つ市民よりも立場が低くなるために、 そのような期間を経て成長する彼らは、反骨精神から騎士として大成する者も多い。 家名に甘えず、一度家名を捨ててまで臨む騎士というのは、大変に名誉な職業だと言える。


「わ、私がこの村の村長、メレド=ラクラでございます。 騎士様におかれましては本日も──」


 メレドが定型文を述べ始めたあたりで、ステファンはそれを遮った。


「良い。 要件は先程伝えた通り、魔物被害に関する情報だ。 貴様らの知る限りの内容を話せ」

「は、はい……」


 ここでメレドは考える。 果たしてヤエスのことまで言って良いのか、を。


 まず、リバーやフエンが巨大な魔獣を討伐して三日と経たない今日この日に、騎士がやってくることに関して違和感がある。 確かにあの大蛇は大物だったが、それにしてはヒースコート領主の城下町から情報を仕入れるにしては早すぎる。 馬車が一日に走行できる距離が大体50km程度なので、途中の村々を無視して城下町までは馬車を走らせても三日はかかる。 つまり今回ステファンがやってきたのはあれそのものの被害とは別件だろう。


「つい先日、東の山の方から大蛇の魔物が出現しました」


 メレドはとりあえず、目先の情報からステファンの意図を探る。 あまり情報を出し過ぎても村が有利になることはない。


「なに!? それは本当か!」

「はい。 ですがとても幸運なことに村に滞在している方が退治してくださいまして、現在村の人間総出で大蛇の解体作業にあたっております」


 それは事実だ。


 二日前にリバーとフエン、そしてエスナの活躍により大蛇の魔物が討伐された。 その際にエスナが大怪我を負ってしまったが大きくはその被害だけで、大蛇を倒すダメージとしては最小限だと言える。 またしてもリバーやフエンなど余所者が怪我をしなくて済んだだけでも行幸だ。 それに、大蛇から出た大量の肉を村に贈与してくれるとあっては、村としては彼らを遇しないわけにはいかない。


 リバーの発案で村が恩恵を受けるばかりか、それによって彼の発言力が増してしまったのはレメドとしても痛々しい限り。 だが彼と口論になっても勝てる気がしないので、メレドはもう何も言わないことに決めている。


 そこに割って入る騎士ステファン。 これは非常に面倒な事態になってきたと言わざるを得ない。


 もしステファンが大蛇の肉や素材を全て回収するなど言い出した日には、おそらく村の中で内紛が起こりそうだ。 ただでさえ肉などの高級品に恵まれない村なのに、そこに舞い込んだ大量の肉という祝福を奪われては、誰もがご立腹だろう。 それに、あれの所有権は本来リバーにある。


 これは一悶着ありそうだとレメドは内心辟易としながら、ステファンの次の動きを待つ。


「では現場まで案内せよ。 また討伐に関わった者も連れて来い」

「畏まりました」


 予想通りの展開にメレドは表情すら変えず、そう答えた。


「リバーさん、頭部はどこまで解体しましょう?」

「ここまで大きいですから、頭部外骨格は手をつけないつもりです。 頭部は食べられそうな部分もなさそうですし、回収するのは眼球や外皮くらいにしましょう」


 主にリバーやフエンが魔法を使って大蛇の解体を進め、二人の手が足りない部分を村人が手伝う形で作業が続いている。 やってくる村人は手の空いた者と伝えているはずだが、久しぶりの肉の入荷とあって彼らはやる気に満ちている。 仕事を放ったらかしてやってくる者もいるほどだ。


 解体が始まって二日。 なぜ未だに作業が続いているかというと、まず単純に大蛇の外皮が硬過ぎて作業が一向に進まないというのがある。 そしてなぜ二日も続けていられるといえば、魔物肉にはなぜか鮮度が落ちにくいという特性があるからである。


 鮮度が落ちにくいことは食肉に関しては良いことなのだが、死体が残り続けるという点においては不都合がある。 ただでさえ魔物は周囲の獣や環境を侵して悪影響を与えるのに、それが残り続けるとなっては本当に面倒な事態である。 とりわけ魔物は動く環境破壊兵器であり、悪い空気を発していた植物──老木同様、周囲を魔界化させてしまう恐れがある。


 そんな事実はさておき、魔物の死体であっても残しさえしなければ問題はない。 更に言うなら、人間の胃に収まってしまえば、それこそ最も安全な処理方法だと言える。 それを考慮してリバーは積極的に魔物肉を摂取する生活を心がけてきたし、魔法使いにとってそれらは非常食どころか常食にすらなりうる一品だ。 問題はあまり美味しくないという一点だろう。 ただし、本物の肉の味を知らない下級民からすればあまり関係のない話だ。


「リバーさん、何か来てるです」

「……騎士、ですかね? あれらと関わって、私たちにあまり良い未来が見えませんが」


 そしてリバーの予想通り、面倒臭そうな声が響いてきた。


「貴様ら手を止めよ! 小官は騎士ステファン=クレール。 ヒースコート男爵の命により魔物被害の調査に参上した! これを討伐した者はどいつだ?」


 突然の騎士の来訪に村人は怯え、即座に手を止めた。 何かしらの粗相をしでかしてしまっては、どんな罰が下るか分からないからだ。 また村長が帯同していることもあって、余計に変な行動ができない。


 村人たちは視線だけをリバーに向け、なるべく騎士と関わらないように少し後ずさる。 ステファンはそれを見て、馬をリバーに寄せた。


「……貴様か。 小官の言葉が聞こえなかったか? まずは作業をやめて話を聞かせろ」

「なんでしょう? 馬の上から声を掛けるなど随分と失礼な様子ですが、あなたは一体何様ですか?」

「き、貴様ッ!?」


 リバーは面倒だとは思いつつも、本来ならあり得ない返事を返してみせた。 それは決して目上の準貴族──騎士に向けられる言葉ではない。


 メレドはリバーこそ頭の良い対応をしてくれると期待していたが、予想外の反応を見て一気に精神が揺らぐ。 それは村人も同様で、リバーの滞在を許しているラクラ村にさえ被害が及びそうな発言に慌てふためく。


 ガシャリ、とステファンの背後で従騎士が動く。 彼らは上司を馬鹿にされたとあってはまともな精神ではいられない。


 従騎士連中は大剣を帯びることは許されていないが護身用に小剣は所持している。 今回の事案に関して、彼らがそれを取り出すのは当然の流れだった。


「もう一度言いますよ? この国の男爵に使える騎士風情が、私たちに対して失礼だと言っているんですよ」

「貴様ァ! 貴様はい、今、何を言っているのか理解しているのかッ!?」


 ステファンが怒りと共に狼狽える。


 これはステファンの居る騎士位、ひいてはヒースコート男爵に対する最大限の侮辱である。


 人生でここまで他人に馬鹿にされたことがなかったステファンは、理解を超える珍事に怒り心頭となり、正常な思考が奪われてしまう。


「ええ、重々承知です。 私はこの国の人間ではありませんし、私たちも騎士です。 最低でも対等という立場ですから、さっさと馬から降りて礼節を重視してくれませんか?」

「な……なッ……!?」

「ステファン様、騙されてはなりませぬ! こやつは自らの無礼を虚言で以って煙に巻こうとしているのです! 冷静におなりください!」


 ここで従騎士の一人が、そう提言した。


 他の面々も彼同様、リバーへの殺気を隠すことなく小剣を掲げて今にも斬りかかりそうな状態である。


「そ、そう、か……そうだな……! 貴様、この無礼、末代まで許さぬぞッ!」

「何を言い出すかと思えば、そんな従騎士風情の言葉を聞き入れるのですか。 本当にこの国の騎士は程度が低いと言わざるを得ませんねぇ」

「……良い加減に口を閉じろ蛮族がァ!!!」


 従騎士の一人は抑えが効かず、声を荒げながらステファンの指示も待たずにリバーへ突撃した。


 こうなってしまってはレメドも止めようがない。 あとはなるべく悪い結果にならないように祈るだけだ。


「おやおや、これは上司の顔に──」

「《風弾バレット》」


 従騎士がリバーの視界から消えた。 というより、ものすごい勢いで横にすっ飛んでいった。 生身で魔法を受ければ当然そうなる。


「──泥を……っと、フエンさん、あなたが手を出さずとも」

「その従騎士の行動は、旦那様への攻撃とも見做せるです。 それはフエンには我慢ならないのです」

「なッ……」

「それもそうですね。 ステファンさん、話もできない猿を飼うのは止めた方が良いと思われますが?」


 リバーがこの従騎士をどうするか考えているところに、フエンは問答無用の魔法攻撃を叩き込んだ。 リバーも煽り文句を付随させる。


「せ、戦争だッ! 貴様ら、男爵様に楯突いたことを後悔させてくれる! メレド=ラクラ、貴様にも相応の罰が下ると思え!!!」


 先に手を出そうとしたのは騎士側なのに、ひどい暴論だ。 これでは男爵の品位も疑われるというもの。 しかし、怒りで思考をマスクされている騎士たちは、そんなところまで頭が回らない。


「それは一向に構いませんが、男爵程度がどうやって我々──帝国の四大公爵家が一つ、カーマ家と事を構えるおつもりで?」

「……え?」


 ステファンから拍子抜けするような声が漏れた。


 公爵は帝国において軍事指揮権を持つ大貴族で、皇帝を最高司令官とした場合の軍団長といったところ。 帝国ではこれを四つに分け、それぞれが必要に応じて軍事指揮を取れるようにした形である。 これによって一つの公爵が力を持ち過ぎず、王家が衰退した場合であっても勝手に王を名乗れないようにもなっている。


「これは国同士の戦争という事になりそうですが、その何とかって言う男爵家が指揮を取って戦うつもりですか? その場合、きっかけを作ったあなたは真っ先に最前線へ送られるでしょうね」

「な、に……を」

「私はカーマ家当主であるトンプソン様から直々に叙勲を受けた、騎士リバー。 そして……」

「騎士フエン、です」


 これにはステファンも声が出ない。


 未だにリバーとフエンが虚偽の発言を続けている可能性は捨てきれないが、彼らの発言が事実だった場合の問題点が大きすぎる。 特に従騎士が手を出そうとした事実はステファンの監督不行き届きという話に繋がり、それそのまま男爵の責任にもされかねない。


「そ、それは本当に……?」

「本国への確認はご自由に」

「い、いや……し、しかし……! 貴様らは被差別騎士! 無礼は貴様らに始まった話だ!」


 人間は人の下に人を作ることで安心感を得てきた。 それはどこの世界でも共通であり、騎士は被差別騎士──家名を持たず正規ルートを経ていない彼らを侮辱する。


「差別意識を持ちすぎるのは不安定な立場にいる者に多い。 あなた、あまり立場が高くないのでは? 」

「無礼が過ぎるぞッ!」

「無礼? こちらは最初から同じ立場としての対応を求めていたはず。 その上でそちらの従騎士が暴走したばかりか、未だに態度を改めないあなた方。 どちらが無礼なのか、本当に分からないんですか?」


 リバーはこれが最後だと言わんばかりに魔道書を手に取った。


 ステファンの返答次第ではここから戦闘が勃発だ。


「こちらの落ち度は? こちらは対等に話せと、ただそれだけ述べたはず。 そこでその出来損ないが間違った判断をし、剰えあなたはそれを是とした。 こちらの攻撃は正当防衛であり、そちらの攻撃がもし通っていたら話し合いでは済まされない事態に陥っていたかと。 私たちは間違いを正しているだけですが?」


 しばしの沈黙があった。 そして──。


「全て小官の責任だ! この通り、非礼を詫びる!」


 ステファンは甲冑の兜を地面に擦り付けて謝罪に走った。


「ステファン様!?」

「ま、そこまで愚かではなかったですか。 いいでしょう、許しましょう」


 ステファンのそれは懸命な判断だと言える。


「な、なにもそこまで……」


 しかしそう漏らすのは、突貫を実行した従騎士。 彼は未だに何もわかっていないらしい。


 当然か。


 彼は見たところ20歳に満たない若造で、ただ施しを受けるだけの生活を続けてきた哀れな人間だ。 きっと世の中から何も酷い目に遭わされずに生きてきたのだろう。


 自分こそが正義だ、と。 そう思って生きてきたに違いない。


「上司が頭を下げているのに、あなたたちは何をやっているんですか?」


 リバーは努めて冷淡に言葉を向ける。

 

 その言葉を受けて動かなかった従騎士二人は即座にステファンと同じ姿勢を取ったが、例の彼だけはそうではなかった。


「信じない……。 なぜそのような妄言を事実だと判断されるのですか……? このような身元の怪しい人間、信じるに値するはずなど無いというのに……」

「おいマークス! いい加減にしないか! お前もさっさと頭を下げるんだ!」


 マークスを注意するのは同僚であろう従騎士。


 それでもマークスは動かない。


「僕は間違っていない……僕は間違っていない……僕は……──!」

「《操影コントロール・シャドウ》」


 小剣を振り翳して自害に走ろうとしたマークス。


 しかし、彼の刃は首元でピタリと動きを止めた。


「ひッ……くそ……」


 マークスは動けない身体で視線だけをそちらに向けると、彼の影につながるようにリバーの影が形を変えて伸びている。


「自害して逃げようなど、許しませんよ? あなたにはこれから辛い人生を歩んでもらわなければなりませんから」

「……そうだ、マークス。 責任を取るべきは小官だ。 決してお前ではない」

「ぼ、僕は……」


 首を垂れたステファンは、その姿から声を投げる。


 マークスも項垂れて小剣を取りこぼした。


「ではこの話は終わりにしましょう。 当然、いただくものはいただきますが」


 ステファン陣営の暴走から落とし所を見出し、リバーは先手を打った。


 リバー自身、あまり上司の名を翳してまで事に当たりたく無いのだが、トンプソンが使えるものは使えという指示を出しているので、仕方なくこういう流れになった。


 今回は相手が馬鹿で助かった、というのが実際のところだ。


「それで、何を聞きたいので?」

「これを倒したのはお前たちか?」

「ええ。私とフエンさん、そしてこの村のエスナという女性の三人で」

「エスナ……と言えば、確か魔法使い夫婦の子女であったな。 あまり才には恵まれていないと報告を受けているが?」

「魔物退治のために私が彼女を鍛えております。 現在はこれとの戦いで負傷したため療養中ですが」

「無事なのか?」

「腕と肋骨をいくつか折った程度です。 しかしこの村にはポーションの類がないため自然経過で様子を見ています」

「そうか……。 ではお前たちはどうしてこの村へ?」

「魔物退治や貴重な素材収集のため、旅を。 ここに立ち寄ったのは偶然ですが、しばし滞在しているうちに魔物の襲来などに巻き込まれているという状態ですよ」


 ステファンの話によれば、近隣の村で魔物被害が出ており、それがラクラ村の東の山から来るものだということだ。


 そして被害報告を受けたステファンたち騎士が巡回の最中、こちらへ立ち寄った。 すると予想だにしない魔物の出現を聞きつけ、口論へと至る。


「これが山の主だった可能性は?」

「ここ最近だけで、この大蛇以外にも狼と子鹿の魔物を処理しています。 他にいないとも限らないでしょう」

「お前たちはまだここに滞在するつもりか?」

「エスナさんが大成できる程度までは居ようかと」

「それはどういう理由からだ?」

「単純な私の興味と、まだ周辺の調査を終えていないという事実からです。 この辺りは人間の手が入っていない場所が多く、未知なる素材などを発見できそうですので」


 リバーは慣れた口調で、対外的な返答を並べ立てる。


「それではしばらくはお前たちにこの村の防備を任せられそうか?」

「どういうことですか?」

「いやなに、被害報告の出ている他の2つの村は魔法使いが常駐していなくてな。 男爵としては村を保護する義務があり、防備の手の薄いそちらに戦力を回したいと思っているところだ」

「それであれば、そのようにすればよろしいかと。 私たちも数日や数週で出て行くこともありませんから、気になるのであれば定期的に顔を出すと良いかと」

「そうか、感謝する。 そして重ねて謝罪する。 先程は本当に申し訳なかった」

「これ以上言葉は必要ありません。 誠意は物質でお願いします」

「何が望みだ?」

「エスナさんの傷を癒すポーションを誠意の範囲で」

「では……小官の持つ回復ポーション2瓶で手打ちにしてくれ。 あいつらの分までは流石に渡すことはできない」


 リバーは出ないと思って言ったのだが、予想以上に出してくれるようだ。


「ステファンさんの手持ち全部をもらうわけにはいきません。 1瓶だけで結構です。 全部もらったせいで死なれても面倒ですから」

「そうか、礼を言う」

「いえいえ、こちらこそ」

「改めてこちらには来させてもらうが、その時はこの魔獣の素材を買い取りたい。 構わないか?」

「持っていても使い道がないですからね。 むしろ助かります」

「これを渡しておく。 では……」


 リバーは回復ポーションを受け取ると、それを最後に解体作業に戻った。


 その後も騎士たちは村長らと話し合いをしているようだったが、解体作業に対する介入は無くなった。


 騎士たちは色々面倒そうな連中だったが、リバーも彼らを邪険にしたいわけではない。 邪魔さえしなければ何も思わないし、周辺の村の防備を固めることは結果的にこの村の防備にもつながる。


 下手に周辺の村を放置して魔物が繁殖などしてしまえば、溜まりに溜まったツケはこちらに流れてくることになる。 今回の魔物は運良く倒すことができたが、今後も同じように幸運が続くとは限らないのだから。


 しかし騎士たちの来訪によってポーションを得られているし、色々あったが結果としては良いものだと言えるだろう。 これでエスナも傷を癒せるし、続けて特訓にも勤しむことができる。


「あとはハジメさんだけですねぇ」


 魔物襲来以降、あまり生気を感じなくなってしまったハジメ。 リバーはその理由があまり分からないが、色々利用価値を見出していただけに彼の不調はリバーにとっても大きい。 それに、エスナの願いでハジメには強くなってもらわないと困る。


 準備を着々と進めているのはリバーたちだけではない。


 前回の衝突を受けて、ヤエスも──ヤエスの中に巣食う者も動き出す機会を伺っている。


 いつ炸裂するともしれない爆弾の導火線は、着実に短くなっていくのだった。

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