第15話 お前の価値が分からない
ハジメは時間の許す限り山に入った。
山の中は人が居ないだけあって不気味だが、陽が昇っている間は平気だ。
罠などを製作して張っても捕まえられるのは小動物の類だけだったが、徐々に狩りという行為が成功していることはハジメのモチベーションを高めた。
(小さいのは食べるとこ無いしな……。 逃がすしかないか)
捕まるのが小動物だと、罠を張っても食材などが無為に消費されるだけ。 なので、できれば過食部位の多い獣が狙い目だ。
この間の狼の肉は、正直それほど美味しくはなかった。 しかしハジメはここまで肉自体にありつけていなかったこともあって、今は身体が肉を欲している。 本能的な願望がハジメに行動を強いるのだ。
(でも、罠張ってもなぁ……。 俺自身の成長になんないんだよな)
ハジメは別に罠師になりたいわけじゃない。 このまま罠の精度を上げたところで、何かが見えてくるわけじゃない。 せめて食卓に並ぶ料理の数が増える程度だろう。
(レスカが笑顔になるからそれもありだけど、長期的に見るとなぁ……)
ハジメ自身が個として成長しなければ意味がない。 狼程度にビビっている時点でダメなのだ。
しかしどうだろう。 単なる一般市民は獣まで狩れることを前提として生活しているだろうか。
答えはNO。 誰もそんなものを求めちゃいない。 求めるのは安定した生活だけ。 獣を狩りたいを思うのは狩人か魔法使いくらいなものだ。
(では俺はなぜ獣に固執している?)
それは、分かりやすく成果が出るから。 狩りに成功した証として、肉が出来上がるからだ。
ハジメが一人で動き回ってることは、大変リスキーな行為だ。 しかし何らかの目的に対して行動している彼らの邪魔をする訳にもいかず、やむを得ずこういう状況に陥っている。
リバーとフエンの最優先事項はもちろんエスナだろう。 次点にハジメがいるのかどうかは分からない。
リバーがハジメに色々させるのは、そこらで遊ばせているくらいなら勿体無いくらいの感覚だろうし、特訓をつけてくれるのは暇つぶしだろう。 ハジメにはそう思えてならない。 そこに甘んじていればきっと何かが得られると思う反面、お前はこのまま言われるがままの人生なのだと伝えられているようにも思える。
(それは思考の停止だ。 人の敷いたレールを歩くなら、それは地球にいた頃と変わらないんだよ……。 だから何とかして俺は変わらなきゃならない。 つまらない人生から脱却するためには、一つアクションを起こさなければならない)
地球でのハジメの人生に意味はなかった。 ただ産み落とされて、無駄に生きて、税金を食い潰していた。 そして社会に還元することもなく地球から消えた。
そんな人間など地球には──日本には、吐いて捨てるほどに蠢いている。 が、それを自覚した状態でそこに収まることは、耐え難い苦しみだ。 自覚していないからこそ抜け出さないわけで、抜け出す気概も得られないのだ。
何もできないと分かっていて何もしない。 それは死んでいるのと同じだと、ハジメは思っている──思えている。
そんなことに、ハジメはここに来たことでやっと気がつくことができた。
何の因果か、ハジメはここに居る。 それはハジメが自分を変えるチャンスなわけで、同じ轍を踏むなという戒めだ。
(それなら俺は変わらなければならない。 自らの意思で行動できる人間にならなくてはならない)
何度も言うが、ハジメは何もできない人間だ。 いや、まともに社会貢献すらできない人間未満であった。 そんな彼が前向きな人間を目指す時点で、この世界から少なくとも良い影響は受けている。 しかしハジメが自分の成長に気付けるのは、まだまだ先の話だった。
二週間後──。
「また取ってきたですか……? 意味が分からんです」
ハジメは前回よりは小ぶりな魔物──子鹿を連れて帰ってきた。 もちろんその頭部は落としてあるし、血抜きもされている。
意味が分からないのはハジメも同様で、たまたま同じ状況に陥り、無抵抗な子鹿を虐殺しただけだ。
そこから導出される結果は、現時点でハジメに狩りの才能はないということ。
しかし結果は結果。
「よくもまぁ、こんな臭い肉ばかり取ってくるです。 お前は鼻が終わってるですか?」
「フエン、手伝う」
「名指しがウザいです」
もはや聴き慣れたフエンの罵倒を受けながら、ハジメは当然のように運搬を依頼する。
「えぇー……。 また……?」
「ハジメやるぅー」
ハジメとレスカとの関係は、ここ二週間で自然と元の通りになってきた。 とはいえ、それはハジメがここにやってきた当初まで遡っている。
ちゃんと話せるようにはなったが、今やレスカと寝室は別だし、ハジメが積極的に山に入ることもあって二人の接触は少なくなっている。
(先月までがちょっと異常だったんだよな。 異性との接触が少なかったレスカが羞恥心に気がついた、ってところだろうけど……惜しいよなぁ……)
家族として見ようとしているのに、未だレスカの身体の感触が忘れられないハジメ。 これは当然失礼な思考なのだが、家族未満同居人以上──そんな少し距離のある状態になってしまったがために、完全な家族として見れなくなってしまっているのだ。
「前回だけでもそこそこの備蓄にはなりましたからねぇ。 私も魔物肉が食べられるのは嬉しい限りですよ」
「うへぇー、です……」
「宿の食事もレパートリーがありませんからねぇ。 それに、フエンさんもしっかり食べてたじゃ無いですか」
「あの状態のお肉は食べる気にならんです。 加工されて焼かれたら、そこでようやくギリギリ食べれるレベルに昇華される、です」
「素直に美味しいと言えばいいものを」
「リバー、頼む」
「畏まりました」
ハジメは加工の作業をリバーに託すと、一旦水浴びに向かう。
前回は引き摺った部分の肉が痛んでダメになってしまったので、今回はしっかりと両手で抱えて帰ってきた。 当然フエンから臭い臭い言われるわけだが、レスカの笑顔を考えると苦ではない。 確かにハジメ自身、自分でも臭いとは思うが。
「ハジメー、水が足りないと思うから……って、あ、ご、ごめんね!? こ、ここ置いとくからー!」
ちょうどハジメがケツを丸出しにしたあたりでレスカが桶を持ってやってきた。 そして羞恥に焦るや否や、その場に水桶を置いて走り去っていった。
(そこに置かれたら、取りに行くときに俺が誰かに見られるんだけどな……)
そんなことを考えながら、ハジメは生まれたままの姿で取りに向かう。
あいにくレスカが覗いているようなことはなかったようで、ハジメは安心して水浴びに専念する。
リバーが来てから水浴び事情が少し変わっている。 それは、洗髪剤が導入されたことだ。 町などで使われているものを彼が持ってきたことで、今まで使っていた米糠のようなものよりは断然に脂落ちが良い。 詳しい成分は不明。
ただしそれらの優先度は女性陣が上なので、ハジメがそれにありつける機会は少ない。
リバーは持ち物であるあれやこれやを惜しげもなくエスナに投入している。 それは当然といえば当然なのだが、ハジメは少し複雑な気分だ。
(そりゃ相当高い身分の出身なんだろうし、フエンちゃんが綺麗なのも頷けるよな。 使ってるトイレタリー用品が違うんだから、そうなるのも当たり前なんだろうけど)
それでも、その恩恵に与ってエスナやレスカが綺麗になっているのはハジメとしてもプラスでしかないため、あまり文句も言えないところだ。
なにより、リバーが持ってきた櫛の存在が大きい。 あれによって姉妹の髪はサラサラだ。 加えて、フエンの風魔法で髪を乾かせるというのも大きいだろう。
(櫛なんて絶対高級品だろ……。 はぁ、これでエスナも金持ちの仲間入りかぁ……)
リバーがあまりにも肩入れしているのは将来的にエスナを娶って村から連れて行くためだと、ハジメはほぼ確信している。
(あの二人は相思相愛っぽいし、魔法が使えるんだから稼ぎだっていいはずなんだよな。 やっぱ魔法かぁ……。 あとは容姿もそうか)
現在のエスナは、ハジメが来た当初からは見違えるほど綺麗になっている。 元々綺麗だったのもあったのだろうが、それでも飛躍的な変貌だ。
リバーの持ち込みにより整容がしっかりできるようになったこと、村の仕事から解放されたこと、そして恋というスパイスが加わったことで、エスナは抑えられていた美貌を爆発させた。
今やエスナは誰もが振り向いてしまう容姿で、ひとたび村に出向けば男たちが手を止めるほど。
しかし彼らには手が出せない。 そう決めて酷い扱いをしてきたのだから。
今更過去のことをなかったことにはできないし、すでにエスナはリバーの手の中。
二人に子供が出来ましたと報告されても、ハジメはそれほど驚きはすまい。 それほどの親密さが彼らの中にはある。
あとはいつ連れ出されるかといった状態であり、言葉の分からないハジメでもそれくらいは理解できる。
(だからリバーがエスナを連れて行ったあとに残される俺は、一人で生きていける力が必要なんだよな……。 だから俺は──)
あの様子では、おそらくレスカも一緒に村を出ていくだろう。 そうなった時に、ハジメは本当に独りになってしまう。 姉妹がいなければ、ハジメがここに居られる保証はない。
今だって村人との接触は皆無だし、タダ飯食らいを置いておけるほど村に余裕が無いのも知っている。 だからハジメは明確な成長を実感できるように努力している。 未だにその手がかりすら掴めていないのだが。
次の日──。
「お前、これからはフエンが稽古をつけてやるです」
「……?」
フエンの発言は事実である。 しかし、本意は別にある。
『魔物しか取ってこれないのは流石に理解不能、です』
『そうですねぇ。 ……では、フエンさんにハジメさんをお任せします』
『なにゆえ……です』
『伸び悩んでいるようですし、ハジメさんの能力を知るのも重要でしょう。 今のところ彼に魔人戦での用途を考えていませんが、使い潰してでも用途が見出せるようならそれを考えてみてください』
『面倒見てると思いきや、です。 連れ帰らないです?』
『それはハジメさん次第ですよ。 他人の魔法力を増大させる程度の魔法使いならどこかに居るので、今のところ彼にそれほど価値を感じてはいません。 マナも持たないところを見ると、本当にただの異物としか……』
『なんでもいいけどやってやるです』
『あと、魔物が複数出現してる状況も気になるので、調べてもらえると助かります』
『給料に見合わないのです』
「面倒ですけど、一緒にいてやるです。 木を切り終わったら山に向かうです」
(子守り、ってことか……? もちろん子供は俺なんだけど……)
「さっさとやれ、です」
(厳しいなぁ……)
ハジメの身体が多少強靭になったとはいえ、現在の装備では一本の木を切り倒すのに最低でも2〜3時間は掛かる。
フエンが手伝ってくれればそれこそ一瞬なのだが、それではハジメの成長にならないので我慢して作業をこなす。
しかし、これでなにが成長しているのかは分からない。 とりあえずルーチンとしてハジメはやっているだけだ。
今ではハジメの両手もしっかりと硬くなっており、マメが潰れたりすることは少ない。 作業のために身体が最適化されているといっても過言では無いだろう。
「はぁ……はぁ……。 フエンちゃん、終わったよ……」
「お前、そんな体たらくでどうやって生きてきたですか?」
「……」
随分酷い言われようだが、事実だから仕方がない。
ハジメは基本的にフエンから罵倒以外の声を掛けられないので、言われるたびにションボリする。
「その顔見るのも疲れるです。 さっさと行くです」
しかしそうでもしていないと諦めてくれないので、じっと罵倒に耐えるしかない。
「ほら、いつも通りやってみるです」
フエンのそれは、監視の意味合いも強いだろう。
フエンが言わんとしていることは理解できるので、ハジメは少ない食材を置いて罠を張って、あとは離れたところで隙を窺う。
罠は紐を引いたら覆い被さる古典的なもので、なおかつ自作で大きさもそれほどでもないので、捕まえられる動物などたかが知れている。 1メートルを超えればまず引っかからない程度だ。
しかし引っかからなくても、罠にびっくりしてハジメの側に逃げてくる動物もいるかも知れないので、そういった注意散漫なものを狩るのが狙いだ。
ちなみに、今のところ成功した試しがない。 色々工夫しているのだが、どうしても動物の逃げる方向を一箇所に限定できないでいるのだ。
こんな時にこそインターネットがあれば良いのだが、あいにくここは最底辺の村落。 自らで試行錯誤を重ねるしかない。
「お前、こんな非効率なことやってたですか……」
「我慢」
「よくこれで魔物が捕まえられるです」
「我慢」
「馬鹿のひとつ覚えはやめた方が良いです……《風刃》」
フエンは徐に魔法をぶっ放し始めた。
ハジメがビビり散らかしている間にも、環境破壊は続く。
そうして数十本──ハジメが一人でやろうと思ったら数十日掛かる量──の木々が倒れ伏すと、今度はそれらを浮かして並べ始めた。 無造作に並べられているかと思いきや、それらはある方向性を以って固められている。
木々の間に絶妙に配置することで、森の中にあたかも一方通行のような道筋が形成されている。
「こうやればいいのです」
「無理」
(はいはい、魔法魔法……っと。 それが出来たら苦労しねぇんだよなぁ……)
もちろんハジメも当初そういった方法を考えたが、一生ここで狩りをするわけでもないので効率の面から諦めた。 たとえここで木を切り倒してもそれらを運ぶ手段がないので、最終的にその目論みは却下されていたのだ。
「じゃあお前はこの状態で待つ、です」
魔法使いのゴリ押しにより形成された道の出口でハジメは待機し始めた。
フエンはハジメを置いてフラッとどこかへ。
小動物程度なら配置された木々の間を縫って逃げられるが、ある程度の大きさの獣であれば道なりに進むしかないため、もしそれがやってきたのなら絶対にここを通るはずだ。 そんな道の出口に姿を隠すことで、意表をついて攻撃する作戦である。
どこかから衝撃音が響き、続いて鳥たちの声と羽ばたきが聞こえた。 そして暴れるような大きな地響き。
(なにしてんだ……?)
ハジメの目の前を、ものすごい勢いで猪が通過していった。
「あれ……?」
直後、それを追うように到着したフエン。 その目は非難の色を含んでいる。
「お前、なにをそこで突っ立ってるですか。 せっかくお膳立てしてやってるんだからちゃんとやるです!」
ハジメとしてはそんなことを言われてもという感想だ。 それでも何もせず失敗したことに違いはない。
(それならフエンちゃんが魔法で狩れば良くね?)
そう思ってしまうのも仕方がないことなのだが、フエンが期待しているのはそういうことではないらしい。
(俺の監視と成長補助がフエンちゃんの役目か。 リバーは何が目的なんだ……?)
ハジメの疑問が解決することはなく、そこからは問答無用で地獄の耐久戦が始まった。 行われるのは先程と同様、フエンによる獣の誘導だ。
まず斧を縦に振るっても当たることがなかったので、そこで失敗が数回。 そして横に振って空振りが数回。 さらには当たったとしても獣の勢いに押されて弾かれたのが数回。
結局仕留められたのは小ぶりな狐だけであり、決して労力には見合わない結果であった。
「お前、効率悪過ぎです。 フエンがやるから付いてくるです」
フエンの魔法──《風弾》では獣が彼方へ消え去り、《風刃》では周辺の木々ごと獣が両断され、《風爆》ではクレーターを作りながら獣が爆発四散している。
「肉……消えた」
「お前、のせいで……効率悪化です!」
「えー……」
ハジメの魔法力増強効果を受けたせいか、フエンは予期せぬ威力に踊らされていつも通りのパフォーマンスを発揮できずにいた。
その結果、辺りの被害は甚大である。 こうなっては動物たちもしばらくは寄り付かないだろう。
(スッゲェ威力……無茶苦茶だな。 それにしても……)
ハジメはそんなことよりも、今は別のことに気が行っていた。
「フエンちゃん、その魔法の使い方ってコスパ悪くない?」
「お前が何を言ってるか分かんないですが、褒められてないことだけは分かるです」
「大きい、被害」
「全部お前のせいです!」
ハジメは木の枝で地面に絵を描いてみせた。
太いホースと細いホース、そしてそこから溢れ出す水も。 前者は内径が広いぶん量を出せるが勢いはなく、後者は逆に勢いが強い。
ハジメがフエンの風弾を見たときに感じたのは、単に手のひらから押し出されているだけなんじゃないかということだった。 つまりは前者のホースのイメージ。
「魔法は発動して放出するだけ、です。 アレンジなど……」
そう言いつつも渋々放たれた風弾は、心なしか大きさを減じ、そして速度が増しているようにも見えた。
「……お前がいると分かりづらいのです。 ちょっと離れてろ、です」
フエンはハジメの意見を取り入れて、何度か試行錯誤を加えてみた。 発動するタイミングで腕を押し出してみたり、最初から小さい風弾を形成してみたり、はたまた大きめのを想像してみたり。
それらの多くはフエンのイメージ通りにはいかなかったが、それでも魔法に何らかのアレンジを加えられることが次第に理解できてきた。
「お前、なんで魔法に詳しいですか?」
「想像する」
魔法使いは基本的に個の存在なこともあって、あまり群れて生活は行われない。
いつだってこの世は生存競争が盛んであり、多くの魔法使いが貴族ということもあって、彼らは自身を特別な存在だと思っている。 実際に魔法使いの数は全人口の1%にも満たない程度なので、そう考えても不思議ではない。
だからこそ魔法は家系内の秘伝が漏れないように秘匿され、あまり情報が流通しないような空気が形成されている。
一部では大学のように魔法使いを養成する組織もあるが、それでも魔法使いたちは自分の能力をひた隠しにするし、その上で他者の情報を奪おうともする。
そんな世界において魔法使いの成長というのは個々の技量に依ることが主で、成長できない者は一生成長できないままなのだ。
貴族であれば金を積んで情報を得ることもあるが、階級の低い人間はそうはいかない。
エスナなどは学校に通わせてもらっているからこそ魔法が曲がりなりにも使えたわけで、それがなければマナの扱いすらままならない状態だったはずだ。
フエンやリバーもその類であり、当然魔法指導などを受けた経験はない。
魔法技能は反復練習によって強化されるというのが一般常識であり、実際にそうだ。 誰もがそうやっているのは力量が上がることに直結するからであり、想像力というものは直接の成長因子にはなり得ない。 フエンはそう思っていたのだが。
「お前、思いつく限り全部フエンに教えるです」
ハジメのそれは、魔法という概念が地球全土に染み渡っているからこそ可能な想像力の賜物だった。
魔法が存在していなくても、魔法以上に魔法な科学文明が発展してしまっているのが地球。
数式や化学式など、様々な方式で定義され続ける現象の数々は、魔法という未知の概念についても想像を容易にした。
「圧縮からの拡散、軌道の変更……? 理解が追いつかないのです」
ハジメが無意識的に感知している魔法への違和感は、それそのまま魔法使いのぶつかる課題であり、魔法を初級から中級に移行させるために必須のプロセスであった。
初級魔法に可能なことは、魔道書からの読み出し、そして放出である。 中級魔法では、そこに指向性が加わってくる。
フエンが何気なくアレンジと言ったのは正しく、放出されるだけであった魔法が方向性を規定されて趣を変える。 いや、方向性が一つに規定されているのが初級魔法であり、その方向性を複数に分ける概念が中級魔法の指向性である。
ハジメは知らない。 そのようなアルス世界の魔法使い事情など。
ハジメは知らない。 魔法の成長を妨げるような情報統制がなぜ存在しているかなど。
魔法は世界を変えてしまうほどの大きな力であり、おいそれと誰にでも使われてしまっては困るものだ。 特に権力者集団は自分達の操る魔法使いに謀反を起こされては敵わないということで、過度な成長をブレーキする傾向にある。
知識は力だ。 それを何気なく持ち合わせてしまっているハジメは、知らず知らずのうちに敵を増やすことになる。
フエンとハジメの邂逅は、フエンに利を提供する形で良い結果を生んだ。
彼らが新しい可能性の出現に歓喜する。 その一方で、山の中を這い、彼らに迫る存在があった。
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