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オミナス・ワールド  作者: ひとやま あてる
第1章 第2幕 Messenger in Lacra Village
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第12話 歯車を回すのは自分じゃない

 エスナの特訓が始まって一週間が経過した。


「何やらハジメが魔法を使いたいようで……」

「どういう風の吹き回しでしょうか?」

「私たちの特訓が気になるみたいです。 そもそもハジメって何者なんですか? 」

「さぁ? 上司が言うには、何らかの不条理に巻き込まれた者だそうですが」

「そうですか……。 今更ですが、気になることが……」


 エスナはリバーのことをほとんど何も知らない。 何も知らないのに命掛けの状況まで追い込まれているし、彼のことを好きになってしまっている。


「なんでしょう?」

「……私は本当にお役に立てますか?」

「役に立っていただかないと困ります。 勝てなければ、エスナさんの明るい未来は得られませんから」

「えっと……私のために……?」


 エスナはついそのようなことを思ってしまう。


「それはもちろん。 私が関わった方々が死んでしまうのは忍びないので」

「そう、ですか……」


 エスナは少しだけショックを受けた。


「ただ、エスナさんは私と恋仲になりたいようなので。 私もそのために頑張っていると言えば、あながちこれも嘘ではありませんね」

「え……本当に……?」

「ええ。 エスナさんが私のような者をどうして好いたのか分かりませんが、ここまで頑張って生きてきて良かったと思えるほどには良い事象ですね」

「あ、ありがとう……ございます」


 照れが混ざった感謝の言葉は、尻すぼみに小さくなっていた。


 エスナは思わずニヤけてしまうのを下を向いて隠し、顔を赤くして身悶える。


「エスナさんはここ最近、素敵な笑顔を見せるようになった。 そこに私が少しでも関われているとしたら、それはとても素晴らしいことですよ」


 エスナが想いを伝えてもなお、それを無碍にすることなく抱えてくれているリバー。 見方を変えればのらりくらりしているようにも感じられるが、誰かとこうやって良い関係性を維持し続けられること自体がエスナにとっては幸福なことだった。


 最近のエスナは日中のほとんどをリバーと過ごしている。 フエンも気を遣ってか距離をとってくれているし、今や全ての状況がエスナを応援していると言って良いだろう。 だから尚更リバーに対する恋慕は強まる。


「でも……危機が迫っているなかで、私ばかり幸せな気分に浸って良いのでしょうか……?」


 それでもエスナの感覚は不幸にあってこそ正常という様子なので、どうしても自分の立ち位置が信じられない。 だからこう言葉を溢してしまう。


「嫌なのですか?」

「い、いえ……そんなことは決して! ですが、今のような感情を知ってしまうと、もう戻れないような気がして……」

「知ったらいいじゃないですか。 良い傾向だと思いますよ。 その様子であれば、魔人を討伐した暁には素敵な人生を歩めるようになっているはずです」

「それだと私だけが得をしているような気がして……」

「努力した結果であれば、誰も何も言ってきませんよ。 それでも苦言を呈してくるような人間関係など切ってしまえば良いのです」

「そこまで強く在ることはできませんが……。 頑張れば明るい未来につながる……そう信じて良いのでしょうか?」

「信じなければ何も始まりません。 その意気でがんばりましょう」

「はい……」


 しかしエスナの返事は重かった。


 リバーは疑問を投げる。


「どうしました?」

「いえ、それでもやはり心配で……。 魔法も上達していないようなので、少し焦ってしまっています……」

「大丈夫ですよ、安心してください。 努力は必ず、成果という形で返ってきますから」

「それ、いい言葉ですね……」

「でしょう? 今考えました」

「……台無しですよ。 あはは」


 エスナは笑った。


 エスナはまさか他人のちょっとした言葉で声が漏れるとは思わなかったが、これが目に見えるリバーの努力の成果だ。 決して茶化さず、それでいて思っていることを淡々と突きつける。 それがエスナにはありがたくて、なおも彼女の恋心に拍車をかける。


「リバーさん……」

「はい、なんでしょう?」

「私を、貰ってくれませんか……?」

「……えっと、唐突ですね」

「変な意味じゃないんです。 ただ……もし私が死ぬことになっても、その時はそばにリバーさんがいてくれたらありがたいなって。 失敗しても私の死をちゃんと看取ってそして貰っていただけるなら、それはとても幸せなことだと思えるんです……」

「死なせるつもりはありませんよ。 でももしそんな時が訪れてしまったら、きちんとエスナさんを私の中に留めると約束します」

「ありがとうございます……」

「しかしですね、私は魔人に勝ってその上でエスナさんを貰おうか、なんて考えていたりしますよ?」

「それはとっても……素敵な未来ですね……」


 儚げに涙を零しつつ笑うエスナに、リバーは彼女の成長を見た。


 これまでは現実という巨悪に立ち向かうことすらなかった少女が、今や自分の死すら見据えて頑張ろうとしている。 それを見てしまうと、リバーにも力が入る。


 リバーはこの場面だからこそ、聞かなければならないことがある。


「エスナさんはお父上のことをどう思いますか?」

「父のことは……とても残念です。 単に魔人になったということよりも、多くの方を巻き込んだ上でそうなったことが。 リバーさんの説明を聞いて、魔人は人間の敵だということも理解できています。 私がケリをつけないと、とも思います……」


 魔人の生態はよく分かっていない。 ヤエスのように人間から転じてしまう者もいれば、自然発生的に出現する者もいる。 どちらにも共通しているのは、滅しなければならないということ。 魔人が一体存在しているだけで小さな村などは一瞬で消し去られてしまう。


「強くなりましたね」

「強くなど……。 諦めがついただけだと思います……」

「ときに切り捨てるという選択も、人の強さを証明するものなのですよ。 ではもう一度確認しますが、構いませんね?」

「はい、私は戦います。 父も、村も、私を縛るものを断ち切って幸せになって見せます」

「分かりました。 その覚悟受け取りました」


 突如、エスナの右手が光を帯びた。


「え、え……!?」


 エスナの魔導印が輝きを見せている。


「水を出すだけなど、おかしな話だったのですよ。 しかし魔法を宿す覚悟がなかったのなら話は別だ」

「え、リバーさん……! これは、どうすれば……」

「大丈夫です。 エスナさん個人の魔法が発現しただけですから」

「えっと……?」


 光が収まるのを待って、リバーは続ける。


「ほらエスナさん。 魔導書を開いて、そこにある魔法を唱えてみてください。 それがあなた自身の力……あなたの覚悟の証明です」

「わ、わかりました……《断絶(セヴェレンス)》」


 しがらみを断ち切りたいという願いから生まれたエスナの魔法。 左手を前に突き出し、エスナはそれを唱えた。


 姿を現したのは正方形の薄い板。 色は暗い群青で透き通っているようには見えないが、 非常に薄く、触れれば割れてしまいそうな繊細さを含んでいる。


「ではエスナさん、そのままで」

「は、はい……」

「《闇弾(バレット)》」


 リバーはエスナの魔法──断絶障壁に向けて魔弾を発射した。 その魔弾は、細い木程度なら一瞬でへし折る威力を備えている。


 シュ──ッ……。


 魔弾はが一瞬で姿を消し、その対応の結果として障壁は少し大きさを減じている。


(エスナさんの魔法は、込めたマナの量に応じて攻撃を受け切る盾のようなものですね。 内向的な性格が良い結果につながりました)


「これはなんともエスナさんらしい」

「えっと、どうなりました……?」

「私の魔弾を受け切りましたね。 これはまさしく、天啓とも言うべき魔法ですよ」


 リバーとの会話は、エスナに予想以上の力を与えていた。 エスナの覚悟が軽ければこうはならなかったと思うと、これまで培ってきたエスナとの関係は無駄ではなかったとリバーは断言できる。


「これが、私の……」


 エスナの魔法を得て、特訓は思わぬ方向に舵を切る。


 止まっていたエスナの時間が、ゆっくりと動き始めた。



          ▽



「……!?」


(な、なんだ……? 確かえっと……フエンって名前だっけか)


「何ですかその顔は。 フエンがわざわざ来てやったのです。 感謝するのです」


 独自の特訓を続けていたハジメの元に、フエンがやってきた。


 ハジメは何も聞かされていなかったので、急な来訪に驚く。 そもそもフエンとはリバーを挟んでしか接触したことがない。


『私は手が離せませんので、ハジメさんのことをお任せします。どうやら魔法に興味があるらしいので、もし彼に魔法の才能が見出せそうなら鍛えてあげてください』


 フエンはリバーに言われてここに居る。


「リバーさんはフエンに無茶ばかり言いすぎです。 魔導印も発現していない一般人に、何を教えろと言うですか」


 フエンも暇ではないが、効率的な魔法修行が行えず行き詰まっていたので渋々リバーの言葉に従った。


「子供。 ここ違う」


(俺に用は無いはずだしな。 大方誰か探してるんだろう。 それならレスカのところに行ってもらったほうが早い)


「迷子じゃないのです! こいつ、フエンをバカにしてるのです!」

「怒る。 なぜ」

「これだから言葉を知らない未開人は嫌なのです! 来て早々に嫌な気分なのです」

「俺仕事。 子供あっち」


 ハジメはフエンに去るように促した。


「ん……? こいつ、フエンのことを知らないです? この魔導印が見えないですか?」


 ハジメはフエンのことを単なる子供と思い込んでいる。 フエンはそのことに理解が至った。


 フエンは徐に身体を後ろを向け、うなじのあたりにある魔導印をハジメに見せつけた。


「えッ!?」


 ハジメはひどく驚いた。


(この娘も魔法使いなの!? なんか怪我したって聞いてたけど、まじか……。 こんな小さい娘にも俺は負けるのか……)


 ハジメはガックリと肩を落とす。


「ふふん。 今までの馬鹿にした態度を改めるのです。 フエンはそこそこやれる魔法使いなのです」


(でも魔法陣って近くで見る機会なかったんだよな。 良い機会だし見せてもらうか)


 ハジメは「ほー」とか「はー」と言いながらフエンの周りを回る。


「おい、やめるです。 珍獣みたいに見るな、です」

「見せる、魔法」

「生意気です。 でも見たいならとくと見るがいいのです……《風刃(ブレード)》!」


(おぉ! すっげ!)


 先程までハジメが斧を切り込んでいた位置。 フエンはその傷と同じ角度で風刃を叩き込んだ。


 風刃は、凄まじい速度で宙を駆け抜けた。 が、その後には微動だにしない一本の木が立ち尽くしているだけだ。


(……あれ?)

 

「弱い?」

「違うです! あと数発で切り倒せるです! もう一回──」

「ハジメー、何してるのー?」


 フエンとハジメの会話の中にレスカの声が響いてきた。


「──ちっ、うざいのが来たのです」

「あ、フエンちゃ……ん?」


 ぐらり。 レスカの頭上に影が落ちた。


「な……ッ!?」


 フエンがの攻撃した木が傾き、倒れ込んできていたのだ。


 超重量の塊がレスカを押し潰さんとしている。


(ちょ、危ねぇ……!)


 咄嗟の判断だった。 ハジメはレスカにぶつかり、彼女を突き飛ばす。 その直後──。


「え、わ……っ!?」

「ぐッ……!」


 ずしんと鈍重な音を立てて木が地面にめり込んだ。 そこは先ほどまでレスカが立っていた場所。


 間一髪、ハジメの判断でレスカは圧死を免れた。


「レスカ、怪我!?」


 ハジメはレスカを抱きしめ、無事を確かめる。


「え、あ、だ、だいじょうぶ……っだよ!?」


 覗き込んでくるハジメに、レスカは何故か顔に熱を持った。


「おい、危ねぇだろうが!」


 ハジメの日本語での叫びはフエンの元へ。


「これは、ごめんです……。 まさか魔法がこんな……」


 急にしおらしくなってしまったフエンに、ハジメはそれ以上何も言え亡くなった。


 相手は14歳の少女で、そもそも魔法を見せるように頼んだのもハジメだ。 今回の事故原因を作ったのが自分だと分かって、ハジメは次の言葉をグッと飲み込んだ。


「俺……悪い」


 これはハジメの好奇心が招いた事故だ。 ハジメは反省し、再びレスカに向き直る。


「あ、えっと、ハジメ、もう……あ、ハジメ怪我してるよ!?」

「……え? あ、うん」


 抱きしめられ続けているという状況に耐えられなくなったレスカだが、なんとかハジメの傷を見つけて抜け出す機会を得る。


「み、水持ってくるねっ」


 走り去るレスカを不思議そうに見ながら、ハジメは擦りむいた両腕を眺めた。 しかし大した傷ではない。 こんなもの、唾でもつけていれば治る程度だ。


(レスカは何を慌てていたんだ? まぁ、無事なら良かった……)


「魔法、危ない」

「それはそう、です。 今度から人のいるところでは気をつけるです。 ごめんなさいです」

「お互い」

「そう言ってくれると助かるです」


 数分後、レスカが戻ってきた。


「もう、フエンちゃん! ハジメが怪我しちゃったじゃない!」

「それはもう謝ったです。 お前、乳を振り乱しながら声を荒げるなです」

「なによ、いっつも乳、乳って! こんなのあっても重いだけなんだからね!」

「悪気がないだけにうざいのです。 お前はもっとフエンの不毛な大地を見てから物を言えです」

「意味わかんない!」


 元気になるや否や、早速フエンとレスカの喧嘩が勃発している。 これは初対面の時からのようなので、犬猿の仲を取り持つことはハジメには難しい。


(レスカは多分俺のことで怒ってくれてるんだろうけど、元はと言えば俺が悪いしな。 それを言葉で説明できないのがもどかしい……)


 ハジメは二人の板挟みになりながらオロオロするしかない。 しかし放っとおくと取っ組み合いになりそうだったので、ハジメは慌ててレスカを押さえつけた。


「ハジメ、止めないで!」

「邪魔するなです!」

「レスカ、大人。 落ち着く」

「そ、そうだけど……」


 ハジメに諭されてレスカはシュンとしてしまった。 それを良いことに、フエンがレスカを煽る。


「歳上のくせにみっともないのです。 もう少しフエンを見習うのです」

「むっかー!」


 今にも飛び出していきそうなのを、ハジメは死に物狂いで押さえつける。


(力強ぇえ……!)


 日頃農業などに従事しているためか、レスカはやけにパワフルで困る。


「あとお前」


 唐突にフエンが指をビシッと動かした。 それが指し示すのは、レスカではなくハジメの顔面。


「俺?」

「どさくさに紛れて乳女の乳を弄るなです。 子供の前ではしたないです」

「え、わ……ちょっとハジメ、触んないで!?」

「えッ!? ご、ごめ──うぉ!?」


 ハジメはそんなつもりはなかったのだが、予想以上にがっしり掴んでしまっていたらしい。


 レスカは顔を真っ赤にして羞恥し、ハジメを吹き飛ばした。 そのまま泣きそうになりながら走り去ってしまった。


「ああ……」

「何やってるですか変態」

「悪くない、俺」

「その気がなくても変態には違いないのです。 まったく、これだから未開人は」

 

 不名誉な名前を多数賜りながら、ハジメは言葉足らずに弁解する。


(柔らかかった……って、違う違う! とりあえず、あとで謝らないと)


 騒動は収まりを見せたので、ハジメは魔法についてフエンに言及する。


「フエン。 魔法、強い?」

「そのぶっきらぼうな感じが腹立つですが、我慢してやるです。 さっきの魔法の威力はフエンも期待してなかったです。 謎です」

「見せる、一度」

「そんなに魔法が好きですか? 使えないのに物好きなやつです」

「早く」

「わかってるです! 《風刃》!」


 フエンが投げやりに腕を横に振りながら魔法を発動した。


 横薙ぎの風刃が駆け抜け、効果が切れるまでの間に3本の木が真っ二つになった。


 またもや大きな音が森に響く。


「強い」

「はぇ……? まったく意味がわからんです……」


 フエンは木を切り倒すのに、最低でも二発の風刃を使用していた。 それが今日は、たった一発。 威力にして二倍から三倍程度のステップアップだ。 果たして数日の特訓でそのようなことがあり得るだろうか。


「お前、ここで仕事してるです。 《浮遊(フロート)》」


 フエンは魔導書に飛び乗ると、そのまま彼方へ消えていった。


 ハジメは一人ポツリと取り残された。


「まじか、空まで飛べんのか……。 俺も魔法使いてぇええ!」


 フエンの魔法を見て、ハジメは興奮している。


「飛べるとか羨まし過ぎるんだが!」


 などとハジメが欲求を滾らせていると、どこからか鈍い音が響いてきた。


「やってんなぁ……。 なんか半ギレで飛んでったけど、俺そんな怒らすようなこと言ったっけ?」


 ハジメがしばらく待っていると、上空からフエンが舞い降りた。 地面に足を付けるなり、息荒げに言う。


「お前、ちょっと来るです!」


 ハジメは腕を引っ掴まれ、そのまま宙へ引き摺り出された。


「え、えぇええええ!?」

「うるさいです。 空飛んだくらいで燥ぐなです」


 目的地はリバーとエスナの居る草原。 フエンは高速で浮遊してそこへ向かう。


「フエンちゃん!?」


 飛来する二人の姿を見て驚きの声を上げているエスナ。 フエンはその側まで地面ギリギリをホバリングし、最後にはハジメを投げた。


「ぐへェっ!」

「ハジメ!?」

「随分と楽しそうな遊びをしていますねぇ」

「そんなこと言ってる場合じゃ……!?」


 ハジメは派手に地面を転がされ、全身を汚す。


(痛ってぇ……。 何すんだこの乱暴娘……。 投げる必要なかったろ!?)


「そこの変態、早く起き上がるです」

「ちょっとフエンちゃん! ハジメにひどいことしないで!」

「急ぎの用事です」

「も、もう……! ハジメ、大丈夫……?」


 ハジメはエスナの介抱を受けながら、この乱暴な少女に怒りの視線を向けた。 が、すぐに鋭い視線で返されて怖気付いてしまった。


(子供相手に情け無ぇ……)


「フエンさん、そんなに慌ててどうされました?」

「この変態、変な力を持ってるです」

「変態とは?」

「それはどうでも良いです。 とにかく変なのです! リバーさんも確かめるです」

「詳細にお願いします」

「攻撃魔法を使ってみれば分かるです。 とにかく先に体験してみるです」

「……? よくわかりませんが、そう言うのであれば」


 リバーは魔導書を構えつつ左手を東の山に向けた。


(何をする気だ?)


 ハジメがリバーの魔法を見るのは初めてだ。


「《闇弾(バレット)》!」

「おわ!?」


 リバーの魔法を知らないハジメだけが仰け反って驚く。 しかし驚きはそれだけに収まらなかった。


 ゴ──ッ……!!!


 魔弾が着弾した大きめの爆発が生じ、鳥たちが派手に飛び立っていくのが見えた。


(すげ! ってか、こいつも森林破壊かよ。 魔法使いってホントやりたい放題だな……)


 呑気にそんなことを考えているハジメに、三人がゆっくりと視線を向けてきた。 その目はまるでオバケでも見たような。


「え、な、何……?」


 ハジメは少し怯える。 しかしそんな様子など無視して話は進む。


「さっきこの変態から離れて魔法を使ったらこうはならなかったです」

「私の魔弾もあそこまでに威力が出た試しがありませんねぇ」

「リバーさんの魔法って、すごい威力が出るんですね……」

「私が、と言うよりは……ハジメさんのおかげ、とでも言うんでしょうか。 フエンさん、彼に魔法の才能は?」

「内蔵マナは全く感じられなかったです。 魔法使いという可能性はあまりにも低いです。 それならあの乳女の方がセンスあるです」

「つまり、魔法技能以外の要素がハジメさんにはあるということですか……」

「えっと、どういうことでしょう……?」


 エスナが理解及ばず状況に困っていると、リバーはつかつかとハジメに歩寄った。 そのまま例によってニュッと顔を近づけると、いやらしい笑いを溢しながら言う。


「ハジメさん、あなたの使い道が生まれたかもしれません。 これからもっと頑張ってもらいますよ?」

「……へ?」


 村人として生きていくことを信じてやまなかったハジメ。 その人生設計は、おかしな方向に流れ始める。

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作者の執筆力に繋がりますので、ギモン・シツモン・イチャモンなど、良いものも悪いものもどうかご意見よろしくお願いします。

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