第141話 変貌する社会情勢
ハジメとエマは、アリスト村から街道方面へ。 そして、シノンらと別れた分岐点へとやってきていた。
「ようやくここか……」
「数年ぶりみたいな感覚っすね」
ハジメは街道での出来事を経て、鬱屈とした精神状態のまま正道を進むことは難しかった。 だからこそハジメはアリスト村に向かうという使命を自らに帯びさせ、一時的な精神安定を狙ってシノンらと行動を別にした。
エマの死亡に際してアレイ神が顕現し、ハジメの大切な何かと引き換えに奇跡を果たした。
ハジメが関わったアリスト村は、これまでの通過点と同様に崩壊の憂き目にあった。 それでも、被害は最小限に抑えられた。 死者は出たが、村人を呪いから解放した。 天使を名乗る何者かとの接触もあった。
全てが万々歳というわけにはいかなかった。 しかし今回は、失うものばかりではなかった。 神や運が味方したおかげで、確実とは言えない成果も得られた。 ハジメは自らに言い聞かせる形で、背中の後押しをする。
「でも以前とはエマの強さも違うな。 魔法の使い勝手が上がってるし、魔物相手の戦闘も慣れただろ?」
「いやいや、それおかしいっすからね!? あたし、ただの一般人っすから!」
確かに、魔物に対してエマの攻撃力は皆無だと言って良い。 ただし、彼女の体現型魔法は危機回避に特化しており、生き残ることに関してはある程度の機能を有し始めていた。 回避に余裕が出れば、それだけハジメのサポートに回ることができる。 その一方で、ハジメが近接でしか十分に戦えないという問題点は消すことができなかった。
「遠距離攻撃ができる奴がいれば完璧なんだけどな」
ハジメは《改定》を用いて、空間のマナを掌握した戦い方を模索しようとした。 アリスト村での戦闘時のように、これが可能となれば広範囲を攻撃することさえ可能だった。 しかし、上手くはいかなかった。
大気中のマナは確実に存在する。 にも関わらず、掴み取れるほどの濃度は無かったのだ。
アリスト村では結界が作用し、マナが拡散せず停滞する環境だった。 そのような環境だからこそハジメの魔法は機能し、高位の魔法使い相手にも粘り勝ちをしてみせた。
この世界は、アリスト村ほどマナが充足していない。 ハジメの魔法が中遠距離として機能するのは、マナ噴出地帯くらいなものだということが判明した。
「だから次は、魔法使い組合に向かうってわけっすね?」
「そうだ。 ここを北上すれば、道中で組合が見えてくるって話みたいだしな。 あいにく金銭はないけど、同じ目的地の人がいれば仲間に誘いたいところだ」
ハジメとエマは魔物を狩り、非常食としての乾物を蓄えてきている。 大量の魔物に襲われることでもなければ、死なずに王都を目指すことは可能だろう。 しかし用心に越したことはない。 仲間の雇入れは必須条件だった。
「シノン姉さんとトナライさんがいたら安心だったんすけどねぇ……」
「それを言うなっての。 それはそれで安心だろうけど、俺らの成長には繋がらないだろうさ。 これからはいろんな人と協力して生きていく交渉術も必要になる。 これはその準備段階と言ってもいいだろ」
「ポジティブに考えたらそうっすけど、あたしにばっかり交渉は任せないで下さいっす。 ハジメさんはアリスト村でほとんど喋らない謎の人物だったんすから、せめてその汚名は払拭して欲しいっすね」
「わ、わかったよ……」
ハジメはコミュ障であることを公然と指摘され、少なくないダメージを負ってしまった。
「公道があると安心だな」
平原の中に、何本か道が続いている。 それぞれの向かう先には大きな山が待ち構えていたり、鬱蒼とした森が広がっている。
ハジメたちが進むのは、北西に伸びる大きな道。 馬車の車輪痕や人間の足跡は、それだけで安心感を与えてくれる。 自然の中に刻まれた人間社会の歩みは、確かな形を残している。
一方で、広大な自然はハジメを矮小な存在だと思わせてくる。 遥か高みを飛んでいる鳥でさえ巨大に見えるし、遠くに山々から常に魔物がこちらを覗き込んでいるような不安さえ掻き立ててくる。
「でも二人だけじゃ、やっぱり不安だな」
「どうしたんすか? そんなの最初からじゃないっすか」
「そ、そうだよな」
分岐点から数時間歩くと、件の建造物が見えてきた。 しかしながら、ハジメたちが想像するそれとは赴きを異にしていた。
「本当にここなんすか?」
「道は間違っていないはずだ。 どの道を辿っても、これは遠くから確認できるって話だ」
魔法使い組合の屋舎。 その周りには多くのの家々や生活の痕跡も見え、この場所だけでも村程度の機能は有している──はずだった。
「じゃあなんで、半壊してるんすかね……? なんか怖い感じしてきたっす」
「……赤く染まってるか?」
「いえ、今のところは大丈夫……かと」
日差しは強い。 それなのに、組合とその周辺には言い知れない冷気が漂っているようにも感じられた。
どこにも人間の姿が見えない。 屋内に潜んでいるのかも知れないが、昼間に誰一人外出がないのは不可解でしかなかった。
組合と思しき屋舎は半壊している。 というより、原型を留めていない。 社屋は床が高く設計された高床式で、十数段の木製階段を上って入る仕組みのようだ。 その階段自体は残っているのだが、本来の機能を発揮すべき建物は崩壊していて、受付のカウンターらしき場所が外からでも丸見えだ。
「これって、ここ最近で起こった事態じゃなさそうだよな?」
「そう、っすね。 打ち捨てられてる印象が強いっていうか……」
「とにかく不気味だな。 こいつだけが壊れてて、その他の家々は無事ってのも違和感がある。 魔物の襲撃でもあったか?」
「ここを調べない選択肢ってあります……?」
「エマが危険を感じたら徹底としよう。 もし何かの事件があったのなら、それを把握しておくことは今後の旅に重要かも知れないからな」
「じゃあ、一応行ってみるっすか……」
この場所からはまるで生命の営みを感じないが、ハジメとエマは意を決して捜索に入る。
まず階段を上り、組合屋舎を覗いた。
「人間の力では、こうはならないよな?」
何らかの大きな力が作用した形跡がある。 石の暖炉と思しき部分が抉り取られている。 無茶苦茶に魔法でもぶっ放したのだろうか。
「内乱? 分からないっすね」
続けて、組合屋舎の周囲を巡る。 見たところ、現在も生活は営まれているようだ。 屋外に干されている洗濯物が見られるし、畑も耕している最中で農具が投げ出されている。
「居るには居るんだろうけど、外出禁止令でもあるのか?」
どの家屋も完全に門戸は閉じられ、人間の息遣いは感じられない。
「ハジメさん……」
「どうした?」
「何だか嫌な視線をいくつも感じるっす。 危険はないみたいっすけど、かなり……気持ち悪い」
早速エマの調子が悪くなり始めた。 危険が見えない状態で意識を研ぎ澄ますと、どうしてもこうなってしまう。 これはアリスト村の騒動を終えてからの修行中に判明したことで、微細な思念を感じ取れるものでもある。 しかしかなりの集中力が必要で、日に何度も使えるわけではない。
ハジメはエマを抱き寄せつつ、衣服の下で魔導書を開いた。
「《改定》」
小声で唱え、魔導書を消しておく。 その上でエマの額に触れ、薄く魔法を施した。
「……いつも申し訳ないっす」
「気にすんな、一蓮托生だからな。 少し休むか?」
「そうしたい、かな……?」
「了解だ」
ハジメはエマの腰を抱き寄せ、目についた家屋へゆっくりと近づいた。
ドンドンドン──。
「すいません、誰かいませんかー? すいませーん! すいま──」
突如扉が開け放たれ、拳が空を切った。
ハジメの目の前には、恰幅のいい中年女性が。 彼女の顔は怯えと焦りを含んだものだった。
「一体何をしてんだい……!? 静かにおし!」
「おわっ!?」
「あ、わっ」
女性は小声で、それでも最大限の注意を払いながら叫ぶ。 そのままハジメとエマは投げ捨てられるように屋内へ引っ張り込まれた。
ピシャリ。 扉が勢いよく閉じられた。
屋内は昼間だというのにほぼ暗闇だ。 窓は全て木板で覆われ、光が舞い込まない。
ハジメが尻餅をついた状態で見上げると、顔面に怒りを湛えた女性が見下ろしていた。 しかし叫ぼうにも背後の扉の外が気になり、そわそわと混乱した様子だ。
「あ、あの、これは一体……?」
「し、静かにしておくれ……! あいつらにバレたらどうするんだい……!? 私たちに迷惑をかけないでおくれ……!」
「だからこれは何──」
「お黙り! ……いいかい? あんたたちは歓迎されていないばかりか、ここに厄介事を持ち込む害悪さ! だから今は、黙って、奥の押し入れに隠れていておくれ……! もし声なんて出そうものなら、私たち全員殺されちまうよ!」
「そうは言われても、状況を説明してもらわないと、動くに動けないというか……」
ハジメとエマは顔を見合わせた。 エマは人差し指を口元に当てて、首を横に振っている。
「分かったら、一切声を出さずに従って! あんたたちも死にたくはないだろう……!?」
女性のあまりにも必死な様子に気圧され、二人は急いで押し入れの奥へ。 扉が開かれても見えないように、その場に置いてあった麻布を頭から被り、体育座りの全身を覆っておいた。
「ハジメさん、大丈夫っすか……?」
「分からん。 けど、身を隠さなければならない程度には危機が迫っているみたいだ。 行く先々で事件とは、ツイてないな」
「いえ、ハジメさん自身への心配っす。 もうちょっと早く動き出して欲しかったっすね。 あの人、結構死に物狂いって感じだったっすよ……? ハジメさんは普段よく考えてるのに、状況判断までに時間が掛かるのが目立つっす。 今のは、グチグチ喋らず、すぐに従って動くべきだったっす」
「す、すまん……」
ハジメはエマと肩を寄せ合いながら、聞こえるギリギリのトーンで言葉を交わす。
二人が暫くじっとしていると、乱暴に扉が開け放たれる音が響いた。
「ひっ……!?」
女性の悲鳴だろうか。 自らで扉を開いたわけではなさそうだ。
「誰か来たか?」
「あ、え……」
「おい、どうなんだ? 死にたいのか?」
「やめてやれよ。 お前がいつもそんなんだから、ビビって声も出せねぇだろ? こいつに何かを隠す度胸なんてないことはお前も知ってるだろうがよ。 ま、寄ったついでの挨拶だ。 とりあえず、食料をもらってくぜ」
「は、はい……」
男性の声がいくつか聞こえる。 しかし詳細な関係性までは見えない。 分かるのは、一方的な立場が存在するという程度。
男たちは乱暴に部屋を荒らすと、笑いながら部屋を出て行った。
女性の啜り泣きが聞こえる。
「……」
「……」
「出て行っていいのか……?」
「こっちから動くのはやめておきましょうよ」
「そうだよな」
押し入れの扉がゆっくりと開かれた。
麻布の隙間から覗く足元は、ふくよかな女性のそれだった。
「出ておいで」
女性は腕で顔を拭いながら手近な椅子に腰掛けた。
「……で、あんたたちはどこの誰だい?」
ハジメはエマに目配せした。 自らがおかしなことを言い出す可能性があるため、エマに任せる方が得策だと判断したからだ。
「あの、あたしたちはアリスト村から来たっす。 ここに魔法使い組合があるって聞いて、寄ってみたところっす」
「あの村から……? それなら知らなくても仕方ないかもね。 あんたたちが何を期待してやってきたか知らないけど、もう組合は無いよ。 今はその残骸が転がってるだけさ」
「何かあったっすか?」
「何かあったって、そりゃあ……。 まさか、何も知らないのかい?」
「ここ数ヶ月は村から出てなかったので、最近のことは何も分からないっすね」
「困った田舎者だねぇ……」
ひどく嘆息されてしまった。 実際のところ二人は村の住人ではないのだが、言い出さない方が話はスムーズに進むだろう。 ハジメは口を開きたい欲求に耐えながら、話に耳を傾ける。
「魔法使い狩りだよ」
「え……?」
女性がぽつりとこぼした。
「最近じゃ、そればっかりさ。 街道が魔物に襲われて以降、魔法使い狩りを名乗る連中が次々に現れてね。 最初は噂だけで何かの間違いかとも思ったんだけど、ついには組合が襲撃を受けた。 もちろんその連中から、ね。 組合はここら一帯だけじゃなくて、街道や付近の集落を守ってた。 人員が豊富だっただけに、魔法使い狩りの連中の目に留まったみたいだね。 つい1週間ほど前の話さ」
(魔導書を狩る連中ってことか? ここ数ヶ月で、その方法が広く知れ渡ったか? せっかくラウンジを潰したのに、それ以上の速度で拡散されてると見える……。 これじゃ俺たちも標的だろうし、魔法使いを名乗るのは御法度ってことになるな)
「えっと……」
「それ以来、連中は警備と称して好き放題に過ごしてるのさ。 自分たちで安寧を破壊したというのにね。 今じゃ組合には、連中に抵抗できるほどの力は無いね。 だけど連中は警戒してる。 だからこそ、このあたりを巡回して魔法使いを手当たり次第に捕えてるんだよ」
「そんなことが……。 でもどうして、あたしたちを守ってくれたっすか? あたしたちが魔法使いって可能性もあったっすよね?」
エマが機転を効かせて、自然な流れで話を繋げてくれている。 ハジメは感心しつつ、現状の社会情勢に憂いを見せる。
「あんたたちはあまりにも迂闊に見えたからね。 放っておいたら、連中と接触しておかしな騒動に発展する未来しか見えなかった。だから引き入れたんだよ。 近くで魔法なんて使われちゃ、たまったもんじゃ無いからね」
「なるほど……。 それで、組合の人たちってどこかに隠れてるっすか?」
(それを聞いたらまずいだろ)
「エマ、知っててもこの人が言うわけないだろ? あんまり聞きすぎるのも迷惑だぞ。 俺らがその連中の関係者と思われちまう」
ハジメは舌を噛みそうになりながらエマを嗜める。
「それはそうでした……。 申し訳ないっす」
「い、いや、いいんだよ」
「話から推測するに、組合はどこかに隠れ潜んでて、そんでもって魔法使い狩りに抵抗してるって感じだろうな。 ま、俺らには関係の無い話だ」
「大体は合ってるね。 だけど、そう無関係な話でもないけどね」
「そうなんすか?」
「だって連中、魔法使いを探してるんだよ? 人を見かけたら、それが誰であれ確認しないと気が済まないのさ。 裸に剥かれて魔法使いじゃないかどうか確認されるだけならまだマシで、あんたみたいな若い女はどうなるか分からないからね」
「それは、困るっすね……」
「だろう? だからあんたらを迂闊だと言ったのさ。 今じゃ、連中が勝手に発行してる手形を携帯していない者は、何されたって文句は言えないんだよ。 今回は、私に感謝しないといけないねぇ?」
「か、感謝するっす……!」
「助かったよ」
二人が田舎者というスタンスを崩さなかったおかげで──いや、見た目にも田舎者臭かったおかげで、女性から様々な情報を聞くことができた。
魔人の出没が報告されていたり、未開域は国家間の領土争いに発展していたり。
なによりハンターの分類に、魔導書ハンターという特殊な項目が加わったことが社会に変化として大きかった。 今や魔法使いは狩られる対象であり、魔法使い狩りは基本的に高機能の簡易魔導書を揃えている。
ひとたび魔法使いから魔導書を奪えば、本来の使用者が何年も掛けて辿り着くはずだった限界を超えた簡易魔導書が出来上がる。 そうして魔法使いの上位互換である彼らが徒党を組めば、最強兵団の完成だ。 しかしそれは仮初のものだ。
今後、魔法は衰退するだろう。 魔法使いが狩り尽くされた後は、消耗品である簡易魔導書が朽ちていく。 そうして残された人類は、魔法が消えた世界で過酷な状況を生き抜かなければならない。 それは人類が衰退する歴史と言っても過言ではない。
(それを止める手段はあるのか……? 魔導書を奪ってる連中は、一過性の快楽に酔っているだろう。 魔法の今後を憂うべき魔法使いは狩られ、魔法が消えるという懸念は知られないまま世界は終焉へと向かう。 人間同士が争っている間は、誰も未来のことを考えられない。 俺は神々の争いの前に、この状況をどうにかしないといけない。 俺と考えを同じくする魔法使いを集めて、魔法使いを守らなければならない。 そのためには、早急に強くならなければならない)
魔法使い狩りを倒せば、魔法が一つ失われることとなる。 簡易魔導書が存在するということは、一人の魔法使いがすでに死亡しているということ。
簡易魔導書を更にハジメが奪うことは可能だろうか。 そうしてそれを、魔法使いに還元することは可能だろうか。
(疑問は尽きないけど、俺の魔法であればそれも可能かもしれない。 一度魔法使い狩りを捕まえて、実験をしなければならない)
「ハジメさん……?」
エマがハジメを下から覗き込んでいる。 考え事をしていて、ハジメは周りの声が聞こえていなかったらしい。
「ん、ああ、どうした?」
「これからどうするっすかね?」
「魔法使い狩りの連中は、夜には活動を控えるらしいしな。 ここに居ても迷惑だろうし、夜の間にここを発つよ」
「森の中とかを進めば、まだ安全かもしれないっすね」
「大丈夫なのかい?」
「何を考えてるか分からない人間よりは、魔物の方が幾分対処しやすいからな」
ハジメは非常食のいくつかを渡し、陽が落ち始めた頃合いを見て組合跡地を出発した。
魔法使い狩りなんて連中が存在している以上、平原を進むことは危険極まりない。 先に発見されて高威力の魔法を放たれてしまえば、逃げ場もなく殺されてしまうだろう。 しかし森の中であれば視認されにくく、恐ろしいのは魔物の襲来くらいなものだ。 そのため、二人だけで進むのであれば夜間が望ましい。 何かしらの移動手段が見つからない以上、それが現状の最善と言える。
「いたぁッ!?」
「大丈夫か?」
「ええ、まぁ……ははは」
エマが何度目か分からない転倒を見せた。 木の根っこに足を引っ掛けたらしい。
目も少しは慣れてきたが、それでも《夜目》には遠く及ばない。 照らされる二つの月光を頼りに進むためにはなるべく平原に近い側を歩かねばならないが、そうすると視認されやすくなる。 もし敵に闇属性の簡易魔導書持ちが居たら、それは致命的な判断ミスとなる。
(魔法使い狩りが組織的に動いている以上、攻撃一辺倒な連中ばかりだと考えない方がいいな。 支援タイプの魔導書持ちだって当然いるだろうぢ、魔法使いを探したいのなら支援方面に厚い者を起用するはずだ。 迂闊なことはできない)
「ハジメさん、これって朝まで続けます?」
「平原が広がっているうちは、これが続くと思ってくれ。 昼の間に休んで、夜に移動が基本になるな」
「そうっすよね……」
「次の大きな町までは、徒歩だと4日か5日の距離って言ってたな。 夜に警戒しながら進むことを考えると、実際はもっと掛かるだろう。 でも、町までの間には集落が点在してるみたいだし、多分そこまで大変じゃないと思う」
「本気で言ってるっすか……? ハジメさんの感覚、狂い始めちゃってるっすよ」
「そうか? エマが居てくれるだけで、俺はこの旅がすごく安心なんだけどな」
「……」
エマが足を止め、ジト目でハジメを睨んでいた。
「……なんだよ?」
「あたしを褒めたら、何でも了承するとか思ってないっすか?」
「まぁ、多少は?」
「……」
「駄目か?」
「実際そうだから別にいいっすけどねッ!」
エマは肩を怒らせながらプイプイと先を歩き始めた。
「なぁ、そんな怒んなって!」
「怒ってないっす! 自分のチョロさに呆れてるだけっす!」
「大声出すなって。 見つかっちまうだろ」
「別に構わないっす! 全部ハジメさんが処理すればいいだけっす!」
「はぁ、先が思いやられるな……」
たった数ヶ月で、魔法使いにはとても生きづらい世界になってしまった。
ハジメは大きな不安を抱えつつ、次なる町を目指す。
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作者の執筆力に繋がりますので、ギモン・シツモン・イチャモンなど、良いものも悪いものもどうかご意見よろしくお願いします。