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オミナス・ワールド  作者: ひとやま あてる
第1章 第2幕 Messenger in Lacra Village
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第10話 明るい未来が見当たらない

「ハジメー、お姉ちゃん変だよね?」

「うん」


 エスナは急に話し始めたり、かと思えば急に黙り込んだり。 気丈に振る舞っているようだが、精神的な動揺を隠すように取り繕っているのが見え見えだ。


 当のエスナが大丈夫と言い張っている以上、ハジメとレスカは踏み込むことができない。


「どうしてか分かる?」

「……不明」

「そっかー」


 ハジメはそう言いつつ、原因に心当たりはある。


(どう考えても昨晩の密会が原因だろ……。 リバーは何やってんだよ!)


 ハジメは内心怒りを噴出させる。 昨晩良い雰囲気になったと思いきや、どうやらエスナは爆散したらしい。


(俺ならエスナを泣かせたりしないのに!)


 自身が好意を向けられるとでも思っているのだろうか。 ハジメは童貞にありがちな妄想を膨らませつつ昨夜何があったのかを考察するが、昨晩目撃した時点では少なくとも悪い雰囲気じゃなかった。 エスナは恋する少女のように駆けていたのだから。


(どちらから誘った? もしリバーが誘った上でこの仕打ちなら、ひどいなんてものじゃないぞ)


「今日も朝食をいただきに参りました」

「げっ……!?」

「あっ、リバーさん……」


 闖入者リバー。


(なんで来るんだよ! てかなんで昨日の今日で来れるんだよ! 頭イカれてんのか?)


「ハジメさん、その反応はなんですか? 昨日会えなかったから寂しすぎました?」


 ハジメは心の中でケッと吐き捨ててリバーを睨みつけた。


「おやおや、悲しい反応ですねぇ。 ま、これからいくらでも仲良くなれますから、ゆっくり行きましょう。 ねぇ、皆さん?」

「ひぇえ……」


 レスカが小さく悲鳴を上げ、泣き出さんばかりにハジメに抱きついている。


「お食事、用意しますね……っ」


 エスナは顔を引き攣らせながら朝食の準備に入った。


(ほら余所余所しい。 昨日見てしまった分、空気が最悪なんだけど……)


 そんな空気などリバーにはどこ吹く風で、まるで自宅のように寛ぎ始めている。 でかい体で椅子をギシギシと揺らしながら。


 異空間と化してしまった我が家に、ハジメは戸惑いを隠せない。


 朝食が出来上がると、静かな食事が幕を開けた。 そんな中、リバーだけはご機嫌に話し続けていた。


(地獄だ……)


 朝食を終え、エスナが言う。


「じゃあレスカ、ハジメ。 私はリバーさんとお話があるから……」

「お姉ちゃん、大丈夫なの……?」

「えっと、何が大丈夫って? ほ、ほらっ、わ、私は元気よ?」

「やっぱりなんか変だよ……?」

「き、昨日ちょっとびっくりすることがあっただけだから……。 気にしないで大丈夫よ。 ほら、お仕事に行ってらっしゃい」

「うん……」


 レスカがどうにも調子が悪そうなので、ハジメは強引に彼女の手を引いて家を出た。


「お姉ちゃん大丈夫かなぁ……?」

「大丈夫。 すぐ元気」

「それならいいんだけど……」

「心配、何?」

「リバーさんに変なことされてないかな、って……」


(エスナがレスカをずっと心配させ続けておくわけがない。 すぐにいつものエスナに戻るさ)


 ハジメはそう言いたかったが言葉にできなかったので、ガシガシとレスカの頭を撫でた。


「雑!」


 ハジメは怒られてしまったが、これでいつもの調子を戻してくれと思いながらスキンシップを図る。


 ハジメは後ろ髪を引かれるような思いを抱えながら、本日も労働に勤しむ。






 ハジメとレスカを追い出し、エスナとリバーは昨晩の会話の続きをしていた。


「落ち着かれましたか?」

「いえ……あ、はい……」


 昨晩エスナが魔人の正体を実父だと知ったあたりで話は頓挫してしまっている。

 

『──彼の名前が、ヤエスというらしいのですよ』

『……え……』

『ここからは私の想像になりますが……おや?』

『え……ちょ……っと、でも、そんな……』


 エスナはリバーの言葉を咀嚼しきれず、それでも飲み込もうとし続けたので半ばパニックに陥ってしまった。


『大丈夫ですか?』

『お父さん……え、嘘……だって死ん……ぅッ』


 ようやく言葉の意味を理解できた時、エスナはショックで意識を放り投げた。


 暫くしてエスナは目覚めると、泣きに泣いて、嘆き散らかした。 魔人という醜い存在になってまで生き続けている父を想像して、世界を呪った。


 エスナが話すらできない状態だったので、話は今にまで至っている。


「リバーさんは、どうしてそれを私に教えたんですか……?」


 知らなければ幸せだったかもしれないのに。 エスナは暗にそう言っている。


「ここで生き続けるのであれば、いずれ知ることになりますから」

「そんなに事実を知ることが大切なんですか……?」

「す知らないで後悔するよりは知って後悔する方が良いのではないかと」

「それは本当に、余計なお節介ですよ……」

「これまでエスナさんは何も知らずに生きてきた。 だからこそ現実を不条理だと感じていたのではありませんか?」

「そんなこと、分からないです……」


 エスナは何かを理解しようとする機会すら奪われてきた。


「私は、父のことなど知ることなく……できれば穏便に暮らしたかったです……」

「今までの生活が穏便だとでも? 自分を押し殺して妹の幸せを願うことを、穏便などとは思えませんが」

「でもそうするしかないんです……。 幸せの分量は限られているから……」

「姉の不幸で得た幸せを、レスカさんは本当に喜ぶでしょうか?」

「私が我慢すればレスカは幸せになれるはずなんです!」


 世界の幸福の量は限られているが、不幸の分量は計り知れない。 それでもエスナは不幸を受け入れると言っている。 どこまで耐えられるかなんて分からないのに。


「いずれはレスカさんにも気付かれますよ?」

「レスカの幸せを眺めることが私の幸せです……」

「昨夜、エスナさんはご自身の幸せを願っておられたようですが?」

「意地悪言わないでください……。 あれは気の迷いでした……」


 少し空白の時間が流れ、間を埋めるようにリバーがポツリと溢した。


「エスナさんの発言について、あの後少し考えてみたんですよ」

「えっと……?」

「私なんかのことを好きって言ってくれたじゃないですか?」

「え、ちょ、ちょっと! もういいですから……! 忘れて……忘れてください!」

「忘れないですよ。 あの言葉は心地の良いものでした。 だからそれに対しては真摯に応えたいと思っています」

「そう言ったら、私が協力すると思っているんですか……?」

「いえいえ。 ただ、エスナさんには幸せになっていただきたいな、と」

「私の幸せは、レスカが幸せになることです。 私のリバーさんへの想いはその次くらいで……」


 うーん、とリバーは首を傾げ、続けた。


「軽い気持ちで告白されました、私?」

「そ、そんな、決して軽くは……! でも一番はレスカの幸せですから……」

「エスナさんが幸せになったら、レスカさんも幸せなんじゃないですか?」


 リバーは唐突にそんなことを言う。


「えっと……リバーさんが私の気持ちを受け止めたら、私が幸せになれる。リバーさんは本当にそう思っているんですか?」

「はい。 昨夜のエスナさんはそれを望んでいましたし」

「すごい自信家ですね……。 でも、他人に好意を向けられることは幸せなことだと思います。 それを受け取ってもらえることも……」

「エスナさんは幸せになりたくないんですか?」

「それは……なれるならなりたいですけど……」

「じゃあこの村から一緒に逃げますか?」

「え……?」


 突飛な提案にエスナは驚く。 そんなこと、考えたことはあっても実行できるものだとは思っていなかったからだ。


「この村にいてはなかなか幸せはやってこないでしょう。でも逃げ出せば皆幸せになれるかもしれませんよ? お二人だけであれば私だけでも養っていくこともできますし」

「そんなこと、できるんですか……?」

「この村が貴重な魔法使いを手放すとは思えませんから、難しいとは思います。 まぁでも、無理矢理にであれば可能です。 そうすれば今までのことを全て忘れて新しい人生を歩むことができます」

「そんな話……」

「過去の全てに目を瞑り続ければ可能でしょう。 その場合、ここに残された人々はいずれ魔人の餌食になりますが」

「それを言いたくて、私に父の件を伝えたんですか……?」


 ようやく色恋話を経て本題に戻る。


 ややこしい話になる、と前置きしてリバーは話し始めた。


「魔人を倒すためにはエスナさんの力が必要です。 ですがエスナさんが魔人の正体を知らずに戦いに挑んでその最中に事実を知ったら、精神的動揺から作戦は失敗します。 それを避けるために事実の伝達は必須でした」

「事実を知れば私は協力する、と……?」

「エスナさんの協力を得られないのであれば、私たちはこの案件に手を出しません。 勝てる見込みのない戦いに赴くほど命知らずではありませんから。 私たちはこの村を一旦見捨て、あとはご自由にということに」

「ご自由に、とは……?」

「私たちは魔人の存在を村に伝えて去り、その後は村の裁量に任せ増す。 村ごと移住するなど難しい話ですし、魔人の存在を訴えても辺境の村の話など誰も相手にしないでしょう。 そしたらあとは、魔人が襲ってこないことを祈りながら暮らすしかないですね」

「そんな……」

「ですがもし私たちが本国の勇者を連れて戻ってこられれば、未来はあるかもしれません。 それでも様々な手続きや移動期間などから、3年から5年は必要ですね。 その間に魔人が動かない保証はありませんが」

「……」

「私が魔人の件も何もかも伝えずにここを去った場合は、魔人に怯える心配はありません。 いずれは魔人が活性化するその時まで、安穏な人生を送ることができます」


 絶望的な未来に、エスナは言葉が出なかった。


「エスナさんが不幸にならない道筋は二つ。 全てを捨ててここから逃げ出すか、魔人を倒すか、それだけです」

「逃げ出すなど……」

「何も振り返らなければ可能ですよ? ですが、何も知らない状態のエスナさんに私が逃げようと持ち掛けても、果たして付いてきたでしょうか?」

「それは……分かりません」


 エスナに待っている未来の道筋は五本。 何も知らずに死ぬか、魔人の存在を知って村ごと逃げ出すか、魔人が討伐されるのを待つか、魔人と戦うか、もしくは村を捨てて逃げ出すか。


「逃げる可能性を提示したのは、エスナさんが私に好意を持つという事象が生じたから。そしてエスナさんが魔法使いだからです。 ただの村娘のあなただったら、こんな話はしていません」

「魔法使いであることって、そんなに大事なんですか……?」

「エスナさんが思っている以上に。 だから村はあなたを必死に飼い殺しにしようと躍起になっているんです」

「今後私が魔法使いとして大成すれば、どうでしょうか……? 村を出られる可能性はあるんじゃないですか?」

「エスナさんが村長たちを魔法で脅せるようになったら、彼らは何としてもエスナさんを確保できるように動くでしょう。 レスカさんを盾にして言うことを聞かせてくることも十分に考えられます。 そしたらエスナさんはいずれ村人を虐殺することになるでしょうから、良い未来にはならないですよ?」


 リオバーのそれは、まるでエスナの未来を見てきたかのような言い草だ。 ラクラ村の人間性を見れば、エスナにも容易に想像できてしまう未来だ。


「だから今ここで逃げるか、戦うかの二択なんですね……。 ここに残り続けても、魔人に殺されるか村に殺されるか、もしくは私が殺すかしかないんですから」

「その通り」


 エスナは迷う。


 戦うことが幸せにつながるとはいえ、魔人との戦いで命を落とさないという確証はない。 エスナが死ねば魔人の脅威は残り、レスカも死ぬ。 そうしたら誰がレスカを守るのか。 レスカは路頭に迷うだろうし、今以上に酷い生活が待っていることは間違いない。


 逃げればエスナもレスカも死ぬことはないだろうが、それをレスカが良しとするとは思えない。


 どうしてこうも未来は暗いのか。


「私が死んでも、レスカが幸せになれる未来はありますか……?」

「手配しておきましょう」

「具体的に言ってもらえないと、リバーさんのお誘いに乗ることは……」

「それもそうですね。 レスカさんのことは私が組織にお願いしておきます。 もし私たちが死んでしまった場合には、ハジメさんごと回収しておくように伝えておきますよ」

「……えっと、なんでハジメが?」

「私たちの本来の目的はハジメさんだったのですよ。 私は物質的な何かかと思っていたのですが、まさかトンプソン様の言う通り人間が落ちてきてるなんて考えられないじゃないですか。 いやー、びっくりでしたよホント」


 理解させる気がハナからないのか、リバーは早口に述べ立てる。 エスナはポカーン、だ。


「え、えっと……?」

「とにかく、ハジメさんと一緒であればレスカさんは大丈夫かと。 魔法使いの家系ということですし、トンプソン様も喜んで受け入れてくださいます。 ですので、レスカさんが死ぬような未来にはならないと思いますよ」

「それなら、えっと……約束、してくれますか……?」

「ええ、約束しましょう。 魔法使いにとって契約は大切なものですからね。 エスナさんもやはりしっかりと魔法使いだったようだ」

「いえ、そういう意味は……」

「ただ、そんな約束をするよりも、死なない約束ができるようにしようじゃありませんか」

「それは、そうですけど……」

「私の案には賛成ということでよろしいですか?」

「……はい。 できる限りお手伝いします」

「頑張りましょう、明るい未来のために」


 やけに元気なリバーを見て、エスナは苦笑いしかできなかった。 命懸けの試練が待っているのだから。


 そこで二人の会話は終わった。


 エスナと約束を取り付けたのち、リバーは村長宅を訪れていた。


「リバーさん、もうお身体はよろしいのですか?」

「ええ。 フエンさんの方はまだ掛かりますがね」

「そうですか、やはり魔物とは恐ろしい……」


 リバーはこんな日常会話をするためにやってきたのではない。 明確な目的があってリバーはここにいる。


「実はですね、大事なお話があります」

「実は儂どももお話がありまして……」


 リバーが切り出すと、村長メレドも話題を抱えていたようだ。


「おや、そうでしたか。 ではそちらから」

「えー、ポーション代のことを……」

「なるほど、あれは村の財産でしたか。 確かに得体の知れぬ私などに使っては、村人から不満が噴出するのも頷けますね」

「あ、いえ……儂どもはそのような……」


 見透かされたような発言にメレドは視線を下げた。


「あいにく回復ポーションの持ち合わせがないので、現金でよろしいですか?」

「それは大変ありがたいのですが、購入のための移動費なども考えると……」

「ではそれも含めて請求を。 金銭であれば持ち合わせがありますので」

「そ、そうですか……。 では金額がはっきりしましたらお仕えいたします」


 回復ポーションは高価だ。 マナポーションとは違って全ての人間に恩恵があり、生産数も少ないため相応の価値が付く。


 実際にポーションの恩恵を受けているリバーが言えた立場ではないが、小銭程度で喧しい連中だなと思ってしまう。


 リバーはくだらないことに掛ける時間は暇もなかったので、言い値で払うと約束してやった。 すると途端に顔を綻ばせるメレド。


 リバーは辟易としながら話を続ける。


「実はですね、五年前の事件のことを詳しく聞きたいのですよ。 エスナさんの父──ヤエスが引き起こしたという、その事件のことを」

「え、なッ……そ、それはその……」

「どうして狼狽されているのですか? 私が知っていては不思議ですか?」

「な、なぜその名前を……?」

「本人が自分で名乗ってましたからね」

「……え?」

「先日魔物にやられたと言ったんですが、あれは実はヤエスという名の魔人にやられたんですよ。 西の山向こうで元気に活動されていたみたいですが、ご存じでしたか?」

「え……っと……」


 驚きでメレドは声が出ない。


「話せないなら私が話しましょうか? 五年前、ヤエスは異変を訴えた。 あなたたちはそれを諌め切れず山へ向かい、事件は起こった。 最終的にはヤエスが村人を惨殺した、というところですかね」


 これはリバーが得た情報を繋ぎ合わせて作り上げた憶測だ。


 老木の周辺には多数の人骨が転がっており、それらは不可能な傷を叩き込まれていた。 リバーは、ヤエスが狂って村人を殺し回ったという線で見ている。


「それを知る方法はないはず……。 一体どうやって……?」

「魔法使いは何でも分かるんですよ」

「そう、ですか……。 ヤエスが魔人に……」


 そんなわけはない。 単に情報が噛み合っただけのことだ。 しかしリバーの予想は案外的を射ていたらしい。 ただ、ヤエスが魔人だということは知らなかったようだ。


「魔人ヤエスは未だにあの場所にいます。 どうされますか?」

「どうするもなにも……」


 駄目だ、とリバーは頭を抱える。 村長がこれだから、この村には危機感がない。


「ヤエスはいずれ手当たり次第に人間を殺し回りますよ?」

「そ、そんな……。 どうにかできないのですか?」

「お国の勇者様にお願いしたらどうですか? もしくは血気盛んな魔法使いでも見つかればどうにかできるかも知れませんよ?」

「儂の村にそれらを雇うお金など……」


 メレドの思考をこのまま放っておけば、何もせず何もできず、手をこまねいている間に滅ぼされる。


 ヤエスを刺激してしまったのはリバーだが、そうしなくてもヤエスはこの村に至る。 それが遅いか早いかだけの問題だ。 しかしリバーはそれを伝えるつもりはない。 お前らのせいで、などと言い出されたら面倒だからだ。


「村人全員で逃げれば良いのでは?」

「儂らを受け入れる余裕のある街や村などあろうはずがありません。 近隣の村ですら合併などの案を一切取り合ってくれませんから」

「ではどうされるおつもりで?」

「それを今から村全体で考えて……あ、リバーさんたちならどうにかできないのですか?」


 リバーはすでに一回負けている。 メレドはリバーが本当に魔人に勝てると思って言っているのだろうか。


「場合によっては可能ですが」

「それでは是非お願いできないでしょうか?」

「金銭はどうされるおつもりで? 金を出すくらいならここから離れると言い出す者も多いのではないですか? 魔人の駆除など並大抵の仕事ではありませんよ?」

「ではどうすれば……」


 やはりメレドでは村人全員をコントロールはできないらしい。 このことを話せば、村が一気に離散してしまう可能性もある。 リバーはそれならそれで構わないのだが、エスナを連れていかれると困る。


「ではこうしましょう。 しばらくこの村で準備をさせてもらい、その上で魔人討伐が叶えば報酬を要求します。 失敗した場合は金銭を要求しません」

「それなら……魔人を討伐していただいた後でしたら、なんとか村の者も納得させられるでしょう」


 この案なら、たとえリバーたちが失敗しても村に大したリスクはない。 魔法使いが討伐できない魔人がいるということであれば、村人全員で逃げ出すという流れにもなるはずだ。


「失敗した場合はどうしようもありませんので、その時は逃げ出すくらいのことは考えてください」

「そうさせてもらいます」

「それでですね、魔人を倒すためにはエスナさんの力が必要です。 魔人討伐まではエスナさんを私たちで鍛えるので、それまで彼女をあらゆる制限から解放してもらいますね」

「な、なぜエスナが……?」

「参加する魔法使いは多い方が良いですから。 それに、エスナさんの許可もすでにとってあります」

「しかし、それでは村の労働が……」

「村娘一人程度の労働力などたかが知れているでしょう?」

「いやしかし、エスナの魔法がなければ──」


 メレドの言葉に被せるようにリバーは言う。


「先日空から確認しましたが、河川も近くにありましたし、南の山頂あたりには湧水も確認できました。 あの程度の距離なら、誰の足でも問題なく向かうことができるでしょう。 川から水を引くのが難しいにしても、誰かが汲みに向かえばよろしいかと」

「しかしですな……」


 なおも渋るメレド。


 どれだけエスナに依存しているのか、という話だ。


「村には日中暇そうな子供がそこそこ居たので、彼らにやらせれば良いでしょう。 レスカさんが働いてるのに、同年代の子供が楽しているのはおかしいのでは?」


 リバーは意地悪く攻め続け、メレドを陥落させた。


 結果、魔人討伐までという期限付きでエスナは重荷から解放された。 しかしそれはリバーが彼女を慮ったわけではなく、戦力として鍛えるため。 もしかしたら単純な労働よりも辛いかも知れないが、その選択をしたのはエスナだ。


 魔人討伐に対する動きが村に知れてしまい、エスナは今更撤回することなどできない状況に立たされた。

本作を読んで「面白い」「続きが気になる」と思われましたら是非ブックマークをお願いします。

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作者の執筆力に繋がりますので、ギモン・シツモン・イチャモンなど、良いものも悪いものもどうかご意見よろしくお願いします。

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