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オミナス・ワールド  作者: ひとやま あてる
第4章 第3幕 Strategy among the GODs
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第131話 墓所

 ガ、チャン──。


 重厚な金属音が、ハジメの背後で響いた。


「……!?」


 慌てて振り向くと、鉄格子が閉じられている。 格子の向こうには、階段から漏れた光に照らされる人間が二人。


 ハジメはカスペルとケーニヒを追って、墓所と呼ばれる場所までやってきていた。 そこには不釣り合いな金属板が設置されており、開かれると下りの階段が続いていた。


 ハジメは気配を隠しつつ、二人と同じルートを辿った。 開け放たれた扉を越えて薄暗い屋内に入っったのだが、どうやら迂回して閉じ込める手段を用意していたらしい。


「貴方のようなネズミには、これがお似合いでしょう」

「チッ、気づいてたのか……」


 逆光のせいで表情は見えないが、カスペルの声色からは冷酷な印象を受ける。 ケーニヒは特に表情が読めない。


「ケーニヒが教えてくれましたよ。 そうでなくとも、貴方程度の魔法使いなら捕獲も容易でしょう」


(村長め、裏切りやがって……。 カスペルを恐れた結果か……?)


 ハジメは内心で沸々と湧き上がる怒りを抑えながら、問いを返す。


「……俺をここに置いて、どうするつもりだ?」

「それはここの管理人と話し合ってください。 貴方の目的は聞きませんし、これ以上の問答も不要です」


(管理人? こいつが管理人じゃないのか……? いや、それよりも──)


「おいおい、俺は魔法使いだぞ? この程度の鉄格子、壊せないと思ってるのか?」

「壊せるとは思います。 ですが、そこで魔法を使うのはお勧めしません。 迂闊にマナなど放出してしまうと、中の者たちがどのような行動に及ぶかは想像できかねますので。 それも含めて、管理人とお話を。 それでは」


 すっと身を翻して階段を上がるカスペル。


「おい、話は終わってねぇだろ!」


 ケーニヒも、カスペルに続いてゆっくりと背を向ける。 その際見えた横顔には、ある種後悔のようなものが浮かんでいた。


「村長! 話が違うだろうが! 村を助けるんじゃねぇのかよッ!? なぁ! おい、待てって!」


 ギィィ──……。


 無情にも閉じられる、階段上の扉。 ただでさえ薄暗い状態だった空間が、一気に漆黒の闇へと姿を変えた。


「ああ、クソ! やっぱあの村長、信用したのが間違いだった……! エマのこともバラしてるだろうし、こいつを壊して……」


 闇の中にいる実感が少しずつ湧き、ハジメの中で恐怖心が這い上がってきた。


「そう、だった……。 今はもう《夜目(ナイトアイ)》も使えないし、管理人ってのが……」


 ハジメは鉄格子を背に、ゆっくりと後退。 空間の奥に待ち受けるであろう存在へと最大限の警戒心を向けた。


(カスペルの発言が事実なら、魔法発動は御法度。 現れた敵が魔法的な生物だったらいいけど、ただの人間に《改定(リビジョン)》は意味ないからな。 魔法を使うことでむしろ不利を生じる可能性が高い。 さて、どうするか……)


 ハジメは迷う。 魔導書を手に持っておくべきか否か。 魔導書展開でさえ、多少なりマナ放出を伴っている。 それを考慮すると、それさえ危ぶまれる現状。


(カスペルは話し合えとか言ってたな……。 一応、会話が通じる存在がいるってことなんだろうけど、暗さで恐怖感が半端ない……。 管理人って言葉を信用すると、相手は人なのか……?)


 ハジメは闇を注視し続ける。 極限の緊張状態にあって、ハジメは心拍数を最大に早めながら冷や汗を流し続ける。


 ぺた──。


「……ッ!」


 ぺた、ぺた──。


 何者かが、接近している。


 ハジメの目の前には、ぼんやりと輪郭だけが闇に浮いている。 足音は止まっていた。


「こんにちは、外の人」


 投げかけられたのは、予想外に幼い声。 中世的な声色で、性別の判断に困るものだった。


「……お前が、管理人か?」

「はい。 ぼくが管理人です」

「名前は?」

「ごめんなさい、名前はないんです。 いや、昔はあったはずなんですけどね。 ここに来ると、名前は意味を持たないから忘れてしまいました。 だから……管理人って呼んでください。 そちらは?」

「俺はハジメ」

「そう。 ハジメ、こんな場所だけど、よろしくどうぞ」

「……ああ、よろしく」


(何をよろしくすることがあるんだ……? こんな場所に一人住んでるような子供って、それだけで異常だろ。 会話が流暢に進むぶん、逆に気持ち悪さが増してくる……)


「ハジメは無理やり連れてこられたわけじゃない、ですよね?」

「ああ。 俺の意思で村に入ってる。 村長も村をどうにかしてほしいって感じだったしな。 まぁ、今では村長も何を考えてるのか分かんねぇけどよ」

「村長が、ねぇ……。 ふーん」

「何か変なこと言ったか?」

「いやいや、なんでもないですよ。 じゃあとりあえず、話し合いましょうよ」

「……何を話し合うんだ?」

「ハジメがぼくたちに従うか、一縷の望みをかけて脱出を試みるか……ですかね」

「なんだよ、それ……」


 一気に雲行きが怪しくなってきた。


 目の前の管理人は、やはり人間ではなさそうだ。 その精神性が、子供のそれとは思えない。


「まずは、ぼくたちからの条件を示しますね。 こちらとしては、ハジメが抵抗することなく子種を差し出してくれればそれで問題ないんです」

「……は? 子種? 何を言ってるか分かってるのか?」

「はい。 ハジメは優しそうだから、そこまで無理は言わないですよ。 最悪、ぼくとだけでも交尾してくれたら大丈夫です」

「おいおい、あんまりふざけたことを言うなよ……!」


(なんだそれ? きしょすぎだろ。 カスペルは若い女の子にこんなこと言わせてんのか?)


「ぼくは女の子だから安心してほしいです。 あんまり見られたい身体でもないから、行為自体は短めでも構わないですけどね。 そうしてくれたらぼくも、手荒な真似をしてまでハジメから生殖器官を奪い取らないで済むんですから」

「冗談じゃねぇ……! カスペルにそうしろって言われたのか? あいつはお前を騙してる! あいつの言うことなんで真に受けんなよ!」


 管理人は、到底まともではない。 それが少女と思しき人物から漏らされているからと言うより、内容自体が異質だ。


 確かに、この村は外的流入のない限界集落だ。 村内での婚姻には限界がある以上、遺伝的多様性獲得のために外部の人間を必要としているという状況も理解できる。 理解できるが、受け入れることなど不可能だ。 それを乗り越えられるだけの異常性が、ハジメの中には存在しない。


「カスペル司祭はお優しい方です。 ぼくたちのような存在にも、人間としての権利を残してくださっています。 だから、あまり悪口を言うのはやめてほしいです……」

「っ……!」


 ぞわり。 闇の中で存在感が色濃く頭をもたげた。 それは、これまで感じたことのないような異質なマナ。 マナ受容器官を通して、ハジメに恐怖心を植え付けてくる。


(こいつ、やっぱり人間じゃなかった……! にしても、叩きつけられるプレッシャーが異常だ。 これまでの戦闘経験がなかったら、卒倒していたかもしれない。 それに──)


 管理人のマナを受けてか、この空間の周囲でも複数同じようなマナが立ち上っていた。 空気を震わせながら、ハジメへ怒りにも似た感情をぶつけてきている。


「……一応聞くけど、脱出の方はどうなんだ?」

「すごいですね。 ぼくのこと、怖くないんですか?」

「怖えぇよ。 まともにやり合ったら、ただじゃ済まないだろうよ。 でも多分、俺の方が強い」


(このマナ、どこかで触れた記憶があるんだよな。 だけど、思い出せねぇ。 神でもなければ、魔竜でもないし……)


 管理人の発するマナの波長に似たものを、どこかで感じた記憶が浮かび上がる。 しかし、どうしても思い出せない。


「すごい自信ですね。 こけおどしじゃないことを祈っておきます。 そういうことなら、脱出の方を説明しますかね。 ──脱出するなら、ぼくたち全員を殺すことが条件です。 さっきも感じたと思いますけど、ぼくみたいな存在が向こうにはいっぱいいます。 全部相手して生き残れたら、もしかしたら出られる可能性も完全なゼロじゃないですね」

「……理解した」


(相手がどんな存在か分かってない時点で俺の勝率なんて数%くらいだろうけど、魔法生物なら勝ち目はあるかもしれない。 ま、相手が全員遠距離なら、ハナから勝ち目なんて無いけどな)


「とりあえず、ぱぱっとやっちゃいますか?」

「は? バカ言ってんじゃねぇよ。 この村のこと教えてくれよ」

「どうしてですか?」

「俺がここにきたのは、問題を解決するためだ。 お前がそうやって訳の分からない状況に縛られてるのも含めて、どうにかできるかもしれないからな」

「どうにもできないですよ。 できるわけがない」

「んなこと分かんねぇだろ。 どうせお前、時間余ってるんじゃねぇの? 俺の行動を見てから決めればいいと思うんだけど」

「確かに時間はありますね。 ハジメは今までの外部の人とは違うみたいですし、少しだけ付き合ってあげましょうか」


 話が物騒な方向へ流れなかったことに、ハジメはほっと胸を撫で下ろした。


「じゃあ話してくれ。 お前のこと、村のこと、あとカスペルのこともな」



          ▽



「エヴォル、あの少女は貴方が捕らえてください」

「どのように……?」

「手段は問いませんが、殺してはなりませんよ。 女性生殖器官だけを機能させる術を、私は持ち合わせておりませんから」

「……畏まりました」


 エマが身を隠す木陰の背後では、カスペルとエヴォルによって異様なやり取りが繰り広げられていた。 会話の内容は理解に遠く及ばないが、物騒なことは間違いなさそうだ。


(まずい……。 ハジメさんが戻ってこないと思ったら、あたしたち完全に敵扱いされてる……)


 エマは息を殺して調息し、眼球にマナを込めた。 途端、何気ない景色の中に赤い空間が散りばめられた。 赤い空間はエマの背後から伸びている。 つまりこれは、カスペルとエヴォルによってもたらされた危険信号。


「ケーニヒの意図は分かりませんが、彼が部外者二名を招き入れたのは事実。 彼もまた尋問せねばなりません。 一つ、対象の少女は魔法使いという情報を得ているので、慎重に」

「村長は対象の魔法の詳細を持っていなかったのですか?」

「非魔法使いの得た情報など、当てにはなりません。 貴方の魔法であれば、いずれにしても彼らを凌駕できるでしょう。 ですので、解析は貴方に任せましょう」


(なんか変な話してるけど、村長とこの人たちは考えが違うっぽいね。 なんだかんだ、ハジメさんの言ってた通りだな……)


「カスペル様は男の方を処分されますか?」

「いえ。 今は管理人たちに任せていますが、最悪の場合でも私が前線に立つことはないでしょう。 彼もまた魔法使いということですし、祭具を壊されては困りますから」

「確かに、そうでした」

「私は村長を通じて村民に敵勢力への対応を指示し、御神木の調整を行います」

「もう終えられたのではなかったですか?」

「少し、懸念事項がありますので。 それでは、良き報告を期待しています」


 カスペルが離れ、エヴォルだけがその場に残された。


 相変わらず、エマの周囲には赤い範囲が残されている。


(ハジメさんがいない場合なんて予想してないって! これもサバイバルといえばサバイバルだけどさぁ……。 ハジメさんも魔物より人間を相手することが多いって言ってたけど、まさか初めての実践が人間なんて聞いてないよ……)


 エマには、どうしてか逃げるという選択肢が浮かび上がってこなかった。 戦うということを最初から想定しているし、現時点でさえ殺されるとは考えていなかった。 これはハジメが口酸っぱく行動指針を定めてくれたからというのが大きい。 また、どうしてか、もっと危険な状況に置かれていたことが思い出されたからだ。


(会話の通りだと、得体の知れないカスペルって方が参戦してこないのは運が良かったのかな。 あ、でも、エヴォルへの信頼が高いって可能性もあるか。 想定を深めろって言われても、今のあたしじゃこの程度が限界だなぁ……。 どうやってエヴォルの能力を探ろうか悩むね。 もし村の人が全員敵になったら捕まって終わりだから、カスペルが動く前に動くしかないんだよね)


 カスペルがおもむろにどこかへと足を向けた。 その隙に、エマは木々の間を縫って家屋が立ち並ぶ方面へ。


「あ、マルト君……!」


 見知った顔を見つけた。 村の青年マルトだ。


 エマは声を殺しつつ、マルトを家屋の裏へと手招きした。


「……あ! お、おい、エマちゃん大丈夫か!?」

「ああ、うん、大丈夫じゃなさそう……。 マルト君は何か言われたっすか?」

「え、いや、まだ何も聞かされてないけど、爺さん連中は集まりがあるみたいなんだよな」


 村内がやけに不安げな空気で満たされているが分かる。 カスペルたちが訪れた時点でそうだったのだが、今ではそれ以上にソワソワとしている様子だ。 特にその影響は若者に多い。


「なんかね、あたしとハジメさんが狙われてるみたい」

「そ、そうなのか……?」

「今まで、こんな感じで誰かが捕まえられることってあった?」

「え、あ……昔はあったみたいだけど……」

「そっか、分かった。 もしあたしたちを捕まえろって言われたら、見逃してくれると助かるっす。 ハジメさんも本当にこの村をどうにかしようとしてるし、信じてくれたら嬉しいかな」

「あ、ああ……」

「じゃあ、あたしはエヴォルって人に追われてるから身を隠すっすね」


 エマはマルトを置いて、他に数名接触できそうな人物を探して動き出した。


 見逃してもらえるように画策するエマ。 会った人物とは、どれもマルトの場合と似たような内容の会話を繰り返した。


(なんか、歯切れが悪い……。 たぶん、こんな感じの部外者対応は今回が初めてじゃないみたい。 村の人もあんまり信用できないかも。 そうなると、本当に孤立無援になっちゃう。 ハジメさんのとこ、行った方がいいのかな……?)


 エマの頬を、冷たいものが伝った。



          ▽



「……なるほど」

「参考になりましたか?」

「ああ。 大いにな」


 ハジメは管理人から村の風習を知らされた。 その大半は反吐の出るものだったが、村の状況を考えれば理解できる一面もあった。


「言い方悪いけど、カスペルは管理人とかの問題を根本的に解決してるわけじゃないんだよな」

「また悪口ですか?」

「何でもかんでも否定的意見だって断じない方がいいぜ? これは単純に客観的評価だっての。 お前らの諸問題は墓所に丸投げで見て見ぬふりじゃん。 一見、村としての体裁を維持してるけど、ここが崩れたら村は終わりだろ? そんな仮初の状態で、なおかつ解決策を提示しないのはどうなんだ、っていう単純な疑問があるな」

「だからこそ、こうやって──」

「でも、結果は出てないだろ?」

「……それは、まぁ。 でも、今のところそうってだけで、いずれ結果は出るでしょう。 なので、そろそろやりませんか?」

「何でそんなにやりたがってんだよ! きもいっての」

「これって、そんなにおかしなことですかね? 人肌を求めるのは悪いことですか?」

「そうは言ってねぇよ……」


 急に年齢相応のような発言を聞かされて、ハジメは思わず口篭ってしまう。


 しかし忘れてはならない。 目の前の管理人が少女であるという証拠はなく、ましてや人間であるということすら確かではない。 ここまで暗闇の中で言葉を交わしているだけであり、目が暗順応しても相手の輪郭すらはっきり見えていないのだから。


「でも、話し相手なら、村長とかカスペルがいるだろ?」

「会話らしい会話なんて皆無ですよ。 ぼくがここの状況を伝えたら、それで終わりです。 ちゃんと話ができるのは、数年に一人くるかどうかの外部の人だけです」

「その外部の人間はどうなったんだ?」

「さぁ……?」

「は? 会ったんじゃないのか?」

「その時ぼくはここに居なかったので知らないですよ。 その後どうなったか知らされないまま、ぼくはここに入ったので」

「そうかよ……」


(どう考えても、そいつは生きて帰ってないだろうな。 抵抗したからなのか、それとも順当に処理されたのか。 いずれにしても、何かしらのイベントを経た上で解放される確証はないわけだ。 だとすると、管理人を処分するとしても、その後どう対応すべきか考慮するべきか。 その辺を探りつつ、俺が魔法を使える状況を取り付ける必要があるか……)


「じゃあ──」

「いや、まだだ。 全てを詳らかにしてくれなければ、俺は動かない」

「え? こんなに丁寧に対応してあげてるのに、何が嫌なんですか?」

「してあげてる? ほらな、それがお前の本質だ。 相手を見下してるような相手に身を預けられるわけねぇだろ」

「ぼく、変なこと言ってますか?」

「それすら理解できてない時点で普通じゃねぇよ。少なくとも、あらゆることが把握できない状態で俺は絶対に動かない。 何かしら進展するとしても、俺の安全が確保された上ってのが最低条件だ」

「やけに強情ですね」

「俺の目的は、この村の状況を把握して問題解決に努めることだ。 それこそ、お前の願いでもあるんじゃないのか?」

「……それはよく分かりませんけど」

「お前は今の状況をどうにかしたいと思ってないのか?」

「これがぼくの役目なので、求めることなんてないですね」

「そうかよ……」


(これは洗脳されてるっぽいな。 元の人格なんて、すでに失われているのかもしれない。 こいつの言葉を信用するのは到底不可能だな)


「じゃあ、何から話せば満足してくれますか?」

「知ってること全てだ。 お前たちが何者か、ここがどうやって成立しているのか……知りたいことはいくらでもある」

「全て、ですか。 話すなって言われてるんですけど、仕方ないですし付き合ってあげますか。 本当に時間の無駄ですけどね。 ……えっと、ぼくたちが何者かってところからですね」

「ああ」

「ぼくはここの管理人です。 他にいるのは、管理人候補と言ったところでしょうか。 ぼくが使命を全うすれば、次が選ばれます」

「ん? お前はこの施設の外から選ばれたんじゃなかったっけ?」

「適任がいなかったみたいですね。 詳しくは知りません。 ぼくの次が誰で、どこから選ばれるなんてどうでもいいので考えたことなかったですけど」


(管理人という代表者が居て、ようやく機能している施設っぽいな。 能力にしろ権限にしろ、施設の上位者が管理人って認識で合ってるか?)


「管理人は何をするんだ?」

「ここの管理です。 ぼくは比較的ましな方なんですけど、色々壊れちゃってる子もいるので。 適宜間引いたりしながら、成長を見守るって感じですかね」


 間引く。 その言葉にハジメは戦慄した。


 ハジメが人間施設だと思っていたここは、どうやら実験や家畜に関連する場所だったらしい。


(間引くって何だよ、気持ち悪い……)


「……成長したらどうなるんだ? そいつが管理人になって、お前はお役御免か?」

「さあ? そこの判断はカスペル様が行なうと思うので、ぼくがあれこれ考えるところではないですね。 でも、管理人を終えた後ってどうなるんでしょうね?」

「知るかよ。 お前が知らなきゃ、誰も分からねぇよ」

「確かにそうですよね」

「先代管理人のことも知らないのか?」

「えーっと、何でしたっけ……」


 管理人はしばらく思案した後、感情を乗せた言葉を吐いた。


「──あ、そうだ! カスペル様は、使徒がどうとか言ってました。 意味はよく分からないですけど、ぼくにもその可能性があるって聞いた気がします」

「……は?」

「え、なんですか?」

「使徒っつったか?」

「ええ、まぁ、はい。 それが何か?」

「ここでその単語を聞くとは思わなかったよ……」

「知ってるんですね。 良ければ、使徒について教えてもらえませんか?」


 管理人の声が、おもちゃを見つけた子供のように高まりを帯びている。


(左道だけじゃなくて、右道の連中もかよ……。 どうして、こうも似たような人種にばかり接触してしまうのか。 やっぱり、まだ俺は神々の敷いたレールの上を歩かされているらしいな)


 ハジメは自らの不運を呪った。 今回こそは自らの選択でこの村に関わろうとしたが、それすら神の意図に沿った行動として結果づけられているようだった。


(悪神の使徒は確か、自然発生的な成り立ちだったはずだ。 一方で、アラマズド神は使徒に対抗するために勇者を召喚して……って──そうか。 俺の場合は、本来であれば使徒にされてた可能性があったな。 そう考えると、右道の連中が使徒を欲する理由にも一部納得はできるが……。 でも、こうやって召喚以外の方法で使徒を生み出そうとしてる時点で邪悪だよな。 僅かでも右道の連中を信用しそうになってた俺が馬鹿だった。 こいつらこそ、早々に駆逐しなければならないな)


 ハジメの中に、怒りにも似た感情が沸々と湧いてくる。


(なるほど、ナール様の考えがようやく理解できた。 ……右道も左道もぶっ壊す。 それこそ、中道マディヤマー所属の俺が完遂すべき使命だったんだな)


「どうしたんですか? 教えてくださいよ」

「……ああ、教えてやるよ」


 ハジメは、目の前の存在を明確な敵として認識した。

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作者の執筆力に繋がりますので、ギモン・シツモン・イチャモンなど、良いものも悪いものもどうかご意見よろしくお願いします。

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