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オミナス・ワールド  作者: ひとやま あてる
第4章 第3幕 Strategy among the GODs
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第130話 右道と悪習

「あれはどう考えても、人間が捻られたであろう形状の何かだ。 俺からしたらその木札も、剥ぎ取られた皮膚にしか見えないしな。 よくもまぁ──」

「ハジメさん……」

「──っと、そうだな。 憶測であれこれ言うのは違うか。 とにかく、あんたらが御神木に依存して、その上で何らかの問題に苛まれているのは理解できる。 見ず知らずの人間に頼らざるを得ないほど切迫してるってこともな」

「……そう、だ」


 ハジメの言葉に、村長から苦しげな声が投げ返された。


「この状況は、いつから始まってるんだ?」

「数百年は続いていると聞く。 過去の記録の多くは、失われて久しい」

「あんたらは、ここに縛り付けられてるのか?」

「そうだ……」

「外部の人間は定住できるのか?」

「適性さえあれば可能だ。 ついぞ、そのような者は現れなかったがな……」


 数百年と続く、悪習にも似た何か。 ハジメはそこに怖気を禁じ得ない。 そこで一つ、思い至ってしまった内容に触れてみた。


「……子供はどうするんだ? 村の中だけで婚姻を続けるのは限界があるだろ……?」

「それは……そう、だ。 だがそれも、巫女や禰宜といった者が定期的に訪れてくれていることでどうにかなっている」

「ね、ぎ……? それって何だ?」

「巫女と似たようなものだそうだ。 彼らが神事に関わる者であることは疑いようがなく、彼らの尽力あってこそ、この村は仮初の平穏を保つことができている……」


(一気にきな臭くなってきたな。 こんな異常事態を村人だけで抱えるのが難しいのは分かるけど、巫女ときたか……。 また教会とか一大勢力絡みかもな)


「ひとまず、状況は少しずつ分かってきた。 ここにずっと集まっているのもなんだし、続きの話はどこか落ち着いたところで聞かせてもらってもいいか?」

「それが、良いだろうな……。 皆の者、それぞれの仕事に戻ってくれ」


 村長の一声で、村の面々は苦しげな身体を引きずって持ち場へと戻っていく。


「儂の家へ案内する。 ついてきてくれ」

「ああ」


 ハジメは目の前を歩く村長と少し距離を取りながら、ざっと村内を見渡した。


 村内はそれほど陰鬱とした雰囲気はない。 御神木を中心として丁寧に祀ることで、村全体に荘厳な空気が流れているようだ。


 家々は御神木に向けられて同心円上に配置され、一軒家のみが立ち並んでいるものの、村外から見た以上に数は多いようだ。


「俺が外から見てたのは村全体の半分くらいだったんだな」


 村外では途中鬱蒼とした木々に阻まれて進めない部分があったが、村はその奥まで続いている。 村長はそちらを目指して進んでおり、御神木から離れると、日照の現象とともに徐々に翳りが見え始めている。 ここに来ると、一個の集落のような佇まいが見られ、御神木を向いた家屋はなくなっている。


「ハジメさん、さっき言ってた婚姻の限界って何なんです?」

「……ややこしい話だけど、大丈夫か?」

「はい、たぶん……」

「まず人間ってのは、父親と母親からそれぞれ、半分ずつ情報をもらってるんだよ。 そういう両親からの情報が揃って、正常に生まれてくると一般的に言われてる」

「半分ずつ……はい」

「だから俺たちも、子供に受け継ぐべき情報を持ってる。 俺とエマが結婚して子供を作ったとすると、俺の半分とエマの半分が合わさって、一つの情報が出来上がるってわけだ」

「たぶん、理解できた気がするっす」

「厳密にはもっと複雑なんだけど、もっと生物勉強しとけば良かったな……」

「生物?」

「まぁ、勉強分野の話だ。 ともかく人間は、そうやって自分の半分を誰かと掛け合わせることによって色んな特性を子供に引き継がせるわけだ。 子供が親に似るのは、両親それぞれの情報をもらっているからだな。 だけどここで問題なのは、男親と女親の情報が近しい場合だ」

「近しいと、何か問題なんすか?」

「大いに、な。 遺伝的な多様性が生まれないばかりか、奇形とか色んな異常を持った子供が生まれてしまうらしい。 異常ってのは肉体に限らず、精神的にも。 だから近親婚なんてのは、一般的には推奨されてないはずなんだ」

「ハジメさん、物知りっすねぇ……」

「知識だけで、実際に目にしたのは初めてだ。 意図的に近親婚を続ける家系ってのもないわけじゃないけど、外的流入のないこの村でも、それが漫然と続けられていると思うんだよな。 だから村長も言い淀んだんだろう。 だけど問題はそこじゃなくて、巫女とか禰宜といった素性の分からない連中が噛んでることだ。 そんな奴らだけで、遺伝的な領域をどうにかできるとは思えない……」


 そうこう話をしていると、ある邸宅の前で村長が足を止めた。


「ここだ。 大したもてなしは出来ないが、入ってくれ」

「エマ、どうだ?」

「今のところは赤くないので、大丈夫かと」

「そうか。 ところで、この奥は何があるんだ?」


 ハジメは邸宅よりも奥にまだ道が続いていることを指摘し、質問を投げた。 不躾な質問に村長は表情を少し歪めたが、重い口をゆっくりと開いた。


「……墓所だ」

「悪い、変なことを聞いてしまった」

「構わん。 入ってくれ」


 ハジメとエマは、村長宅に上がり込んだ。 だだっ広い屋内は質素で、簡易な机や椅子が置かれている程度。 そこには娯楽の一つすら見つけられない。


 二人は机を挟んで村長の正面の机に腰掛ける。


「改めて挨拶させてくれ。 儂はこのアリストの村長を勤めている、ケーニヒという者。 突然の呼びかけに応じてもらって感謝している」

「本当に困ってそうだしな」

「早速だが、どこから話すか……」


 ケーニヒは、肘をついて組んだ拳を口元に当てながら思惑している。 そしてついに観念したのか、はぽつりぽつりと話し始めた。


「この村は実際のところ、お前たちの助けは必要のない状態だ」

「どういうことだ……?」

「順に話す。 まずこの村が限界に近い状態で存続しているのは事実。 だが一方で、巫女や禰宜を名乗る者たちのおかげで安定しているのも確かだ」

「さっき言っていた連中か。 安定しているなら、それはそれで良いんじゃないのか?」

「でもハジメさん、限界って……」

「そう、そこだ。 儂らは、紙一重の状態で生にしがみついている。 いや、しがみつかされているというべきか」


 ケーニヒの難解な表現に、ハジメもエマも話が飲み込めずにいる。 婉曲的に表現しているのは、彼の内情の現れだろうか。


「ますます話が見えないんだけど……」

「最後まで聞いておれ。 ──村の興りは遥か昔。 記録にも残らない太古だと言われているが、その時点でここはこうだったらしい」

「こう、と言うと……人間の形をした何かが地面に突き刺さっている状態か」

「お前の目に映るそれを確認できないのが何とも言えないが、否定しきれないのも事実。 だがお前の話を信じると、色々な点が意味を持って繋がってくる。 儂らは、そう──御神木の守人なのだから」

「守人ってなんすか?」

「守人とは、御神木を守護する役目を負っている儂らのような者を言うようだ。 だからこそ儂らはここを離れんし、離れられん」

「『言うようだ』? 誰かに言われたのか?」

「……」


 ケーニヒは口を噤んでしまい、それ以上話さなくなった。 話し出したかと思えば都合の悪い内容もあるらしいことを推測、ハジメはエマに視線を投げた。 エマは状況を推測するに十分な知識を有していないため、肩をすくめて返すだけだった。


「状況が、あまりにもややこしすぎやしないか……?」

「すまんが、全てを話せるわけではない。 可能な範囲で情報を提示するゆえ、そこからの行動はお前たちに委ねる」


 ケーニヒは村の状況を少しずつ話した。 時折考え込む場面が何度もあり、結果的にかなりの時間を要してしまった。


「最後に……」

「どうしたんだ?」

「この村の現状を、どうにかしてくれ。 儂らでは、どうすることもできないのだ。 どのような結末でも構わないから、どうか……」


 それはケーニヒの心からの言葉だった。


「任せてくれ。 俺が全てを、明らかにしてやる」



          ▽



「カスペル様」

「エヴォル、どうしたのですか?」

「ああ、いえ……」

「言いたいことがあるのなら、はっきり仰いなさい」

「も、申し訳ありません……」

「謝罪は不要ですよ。 では、述べてください」

「えっと、その……自分が配属されてこのかた、同じことの繰り返しばかりですので……」

「まさか、飽きたのですか?」

「いえ、滅相もありません……! ですが、果たして自分は役に立てているのかどうか不安になってしまいまして……。 自分が不甲斐ないばかりに、カスペル様の行動を縛ってしまっているのではないかと……」


 森を歩く男女。


 カスペルと呼ばれた女性は、頭まで覆った静謐な白装束に身を包んでいる。 装束には精緻な刺繍が施され、それだけで身分の高さが窺える。 カスペルは痩身で、肌は病的に青白い。 一方でグレーの長い髪は非常に丁寧に整えられており、肉体の不健康さとのコントラストが映える。


 エヴォルは軽鎧を着込んだ男性で、上に羽織った白装束はマントのように翻っている。 身長はそれほど高くなく、深緑の髪を靡かせている。 剣を帯びないところを見ると騎士ではないようだが、その佇まいには少し高貴さが感じられる。


「そのようなことはありません。 貴方が私の盾として存在しているというそれだけで、十分に役割を果たしていますよ。 それに、巡る村々で何も起こらぬことは良いことなのです。 何かが起こった時に備え、些細な変化を拾うための巡回と思えば、少しは意味を見出せるかもしれません」

「そう、ですよね。 つまらぬ物言い、失礼しました」

「構いませんよ。 同じ作業の繰り返しに思えるかもしれませんが、次第にアースティカの理念が貴方の中ではっきりとしてくるでしょう。 では、そろそろアリスト村に到着します。 準備を」

「畏まりました」


 アースティカ所属のカスペルとエヴォルは、担当する村々を巡回する任に就いている。 そこにはアリスト村の他に幾つかの村落が含まれており、それぞれ同様の状況に置かれている。 だからこそ彼らが赴く理由になるのだが、いずれにしても重要な任務であることは間違いがない。


「エヴォル、どうですか?」


 アリスト村を視界に入れたエヴォルは、両眼にマナを集約し、神経を研ぎ澄ませた。 そのまましばらく、額に汗を浮かべながら丁寧に空間を調べて回った。


「村を覆う空間に欠損は見られません。 前回と比較しても、特別に目立った変化はないようです」

「それは安心しました。 では、簡単に内部を見て回って撤収するとしましょう」

「畏まりました」


 カスペルとエヴォルの接近を見て、村の入り口で立ち尽くしていた男の背筋が伸びた。 媚びたような声で二人を迎える。


「こ、これはこれは……。 本日はどう、どうしましたかね……へへ、へ……」

「定期巡回に訪れたまでですよ。 貴方こそ、どうかされましたか?」

「い、いやぁ……良い天気だな、と……。 とにかく、どうぞどうぞ。 お入り下さいよ、へへ……」


 どう見ても様子がおかしいが、カスペルは追求を保留。 エヴォルに目配せだけして、そのまま村に侵入した。


「カスペル様、あの男……」

「構いません、放っておきましょう。 何か後ろ暗いことがあるのでしょうが、調べればすぐに分かるはずです。 しかし困りましたね」

「何が、でしょうか?」

「私の管轄で不調などあってはならないのです。 たとえそれが些細なことであっても、それを契機として大きな事態に繋がらないとも限らないのですから。 ですので、私に仇なす門番の男は殺してくれても構いませんよ」

「それ、は……」

「私は指示を出しますから、判断は貴方に任せます。 生かすも殺すも貴方次第。 それが貴方の成長に繋がるはずですし、最終的に独り立ちするには必要な行程なのです。 良いですか?」

「畏まり、ました……」

「では、まずは主目的を果たしましょう」


 村人が遠巻きに見守るなか、カスペルとエヴォルは中心地へ。 そこには、捻れた巨人が打ち据えられている。


 やはり、村人の視線が普段とは違う。 本来であれば畏敬さえ含まれたそれも、今では奇怪なものでも見るようなものへと変化している。


「カスペル様、村全体の様子が不可解ですね」

「そうですね。 私は元来受け入れられていないですが、貴方は多少なり村人と打ち解けられていますね? 私が主な仕事を担当しますので、貴方は聞き取りを担当してください」

「自分も──」

「いえ、ご心配なく。 貴方が将来管理すべき村民のことを知ることも仕事のうちですよ」

「……畏まりました。 必要であれば、お呼びください」

「ええ、お願いします」


 エヴォルがカスペルを振り返ると、彼女はすでに仕事に取り掛かっていた。 地面に膝を突き、魔導書を展開している。 その様子を村人が伺っているが、何やらコソコソと話している様子が見て取れる。


「……?」


これまでこのような状況はあっただろうか。 エヴォルは不快感を滲ませながら村人に近づく。


「あの、皆さん今日は何かあったんですか?」

「エヴォル殿……。 いえ、特に何も……」

「本当ですか? 皆さんもっと敬意を持っていたというか……」

「エヴォル殿は敬意を払われることを望んでいるのですか?」

「は?」

「あ、いえ……」


 何やら棘のある発言にエヴォルは少々カチンときたが、何とか冷静に抑えた。 考えてみれば、敬意を受け取ることが当然の状況に慣れていたのかもしれない。 傲慢な思考に侵されていたことに気付かされ、エヴォルは自らを恥じた。 しかし、不可解な状況だということは変わりない事実。 かといって、村人からまともな話が聞けそうにもない。


「何かあれば教えてください」

「ええ、まぁ……はい」


 エヴォルは嘆息しつつ、その場を離れた。 村人から語られないのなら、自ら村を見て回るしかない。 何か重大な事実が隠蔽されている。 そう信じて動くこととした。


「見られてるな……」


 村人の不快な視線が、エヴォルに向けて多大に浴びせられている。


 数ヶ月の空白の期間に、何が起こったというのだろうか。 とはいえ、村の結界に特別変わったことはない。 カスペルも普段通り一連の作業に移っていて、そこにもおかしな点は見られていない。


 エヴォルは考える。 カスペルからの指令は、自ら判断して行動せよという内容だった。 彼女では成し得ない何かが、エヴォルに期待されているかもしれない。 そう思えば、彼の中にわだかまる不快感は自然と消えていった。


 エヴォルはまっすぐに村長宅へ向かった。 するとちょうど、前方から村長がやってくるのが見えた。


「ケーニヒ村長」

「これはこれは、エヴォル殿。 挨拶ができておらず申し訳ありませんな」

「いえ、お気になさらず。 ところで、村の様子がいつもとは違う様子ですが、何かありましたか?」

「はて? 何か、とは? 変化があれば、カスペル殿とエヴォル殿が感じ取っておられるでしょうに。 儂らは粛々と、義務を果たしているまでですが?」

「そう、ですか」


 村長の態度にも、やはり何か引っ掛かる部分がある。 応答がやけにさっぱりしていて、エヴォルと内面的に距離があるのが感じられる。 以前の村長なら、もっと怯えたような態度ではなかったか? それが今や、憑き物が落ちたような表情を纏っている。


「本日もすぐに帰られるのですかね?」

「それはカスペル様が判断されることです」

「……そうですな。 カスペル殿はお元気で?」

「それは、はい。 相変わらずの調子です」

「エヴォル殿も大変だ。 体調を崩されませんよう、気をつけてくだされ」

「ありがとうございます。 あの、もう一度聞きますが、本当に何もないのですか? 村……というより、皆さんの様子が少し変に思えますよ」

「儂らも疲弊しておるのです。 変わり映えのない生活を続け、尚且つ外界との接触もない状態が続けば気も滅入ってくる」

「でもそれは、今に始まった事ではないでしょう?」

「……」


 村長が一瞬ムッとした表情になったのを、エヴォルは見逃さなかった。 しかし、村長の気に障るような発言はしていないはずだ。


「どうしました?」

「いえ、特には。 では、儂はこれで……」

「あ、はい。 困ったことでもあれば、教えてください。 聞きますので!」

「ええ、どうも」


 村長はそそくさと自宅へ退散してしまった。


 エヴォルは立ち止まったまま考える。


「やっぱりおかしい。 それにしても、外界か……。 外の華やかな生活を知る機会があったのだろうか? でもそれは今更な話だ。 村長たちは役目を心得ているのに、外に憧れを持つ可能性はあるはずもない。 ここ最近で得られる情報といえば、ロヒル街道での事件くらいなものだろう。 前向きな情報など、入ってきてる訳ないんだ」


 エヴォルは村人の口からは真実が語られることはないと確信し、直接その目で村を見て回ることに。 そんな彼の様子を、エマが村長宅から観察していた。 そこにハジメが戻ってきた。


「戻ったぞ。 エマ、どうだった?」

「さっきの人はちょっと赤い感じっすね。 でも、それだけっす」


 二人がアリスト村にやってきて1週間。 その間に村の調査を行いつつ、ここで連綿と続けられている古からの慣習を知った。 そこ関わる人物のことも。 それが今回の来訪者である、カスペルとエヴォル。


 村長の話では、二人はいくつかの似たような村を巡回する任を負っているようだ。 定期的に巡回者は替わるようだが、それが途絶えたことはないという。 ここ十数年はカスペルが主担当であり、最近になってエヴォルという随伴者が増えたということらしい。


「村長が男と接触してたけど、大丈夫だったか?」

「今のところは大丈夫っすね。 でも、こうやって隠れてると、村の中の確認ができないのが痛いっすねー」

「一応こっそり見てきたけど、こっちのは堂々と魔導書を広げてたよ。 光属性だったな。 ヤカナヤさんと似たような装束を着てたし、多分あれで間違いないと思う」

「アースティカっすか……」

「だからここは、奴らの管理区域と見て間違いないな。 他も巡ってるってことだから、こんな感じの場所はこんだけじゃないんだろう。 何か実験をしているのか、それとも単にここを守ってるだけなのか分からないけど、ここの村人にとっては良い状況ではないよな」

「あたしの魔法もどんどん精度が上がってますし、マナ濃度が高いってだけで影響が大きいんすね。 逆に悪影響ありそうっすけど……」

「魔法使いはマナを上手に処理できるかもしれないけど、非魔法使いはそうじゃないからな。 だから──」


 ここでカウベルが鳴り、村長の帰宅が告げられた。


「あたしはここで見ておくので、ハジメさんは村長から話を聞いてきてくださいっす」

「ああ、頼んだ」


 ハジメは間借りしている一室にエマを置いて、階段を下った。


「村長、どうだった?」

「……どうにも、村全体の違和感に気がついているらしい。 エヴォル殿は村を見て回るようだ」

「俺の話ばかり鵜呑みにして奴らを疑うのも良くないから、自然に振る舞ってくれたらいいんだけどな。 やっぱりそれも難しいか」

「少なくとも、儂らに真実は伝えられていない。 それだけで、彼らを疑うには十分なのだ」

「そう、だな。 ……えっと、この後の動きを再確認しておくか。 普段通りであれば、カスペルが御神木のところで作業を終えたら、次は墓所だったか」

「そうだ。 そこで事実を目にすると良い……。 儂らはこの村で行われている慣習を口外することを許可されておらぬからな」

「こう言って正しいのかわからないけど、ようやく事実とご対面か」

「この村は腐っている。 それだけは先に告げておく」

「俺の想像を超えないことを祈るばかりだな……」


 ハジメはもう一度カスペルが見える場所まで戻り、彼女の作業とやらを観察した。


 カスペルは一通りの工程を終えると、エヴォルとしばらく話した後ゆっくりと歩き始めた。 それはとても自然な動きで、何かを警戒しているという様子もない。


 カスペルは村長宅前でケーニヒと合流した。 彼女らが向かう先は、ケーニヒが墓所と呼ぶ場所のさらに奥地。 村の中に広がる樹林に分け入っていく。


 ハジメは身を隠しながらカスペルを追った。

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