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オミナス・ワールド  作者: ひとやま あてる
第4章 第2幕 Malice in Rohir highway
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第115話 先手

 マレギはカイヤザからの指令を受け、すぐさまヴィシャ兄弟の元を目指した。 そのまま開けっぴろげのヴィシャ兄弟宅にずけずけと上がり込み、内容を伝える。


「ヴィシャトール、同志カイヤザからの伝令だ。 時間をもらえるか?」

「フンッ、フンッ、フンッ!」

「おい!」

「フンッ……! ハァ、ハァ、やれやれ分かってないねぇ」


 ヴィシャ兄弟の兄であるヴィシャトールは半裸のまま、鍛え上げられた筋肉を余すことなく使いながらトレーニングの最中だった。 そしてマレギの存在に気づき、億劫そうに動きを止めた。


「話を聞いてもらおう」

「んー? あの堅物からの話とは、何やら不穏な感じじゃあないか。 だがあいにく、こちらもやることがあるのだよ。 期待のできる標的を見つけたので、邪魔はゴメン被るな?」

「その標的に関する相談でやってきている。 そちらの邪魔をしたいわけではない」

「では手短に頼もうじゃあないか」


 いいだろう。 マレギはそう言って話し始めた。


「街道に入った四人組は知っているな? お前から攻撃したのだから、知らないはずがないな?」


 ヴィシャトールは不敵に微笑みながら、続きをどうぞと言うように手だけで次を促す。


「お前の望む報酬を出す。 だから四人組はこちらに譲ってくれ」

「んー。 それは無理な相談だ。 すでに、この俺と奴らは交戦状態なのだよ。 男同士の戦いに水を差すとは、随分と無粋じゃあないかい?」

「では、何を提示すれば考えてくれる?」

「物品や金銭は望んじゃあいないよ。 しいて挙げれば、魔導書くらいなものだろう」

「……それは、難しい相談だ」

「ではお引き取り願おう。 この俺は奴らとの戦いに向けて、最高の仕上がりを目指しているのだから。 それじゃあ──」

「ま、待て! 」


 マレギは慌てて叫んだ。


「好敵手に巡り会えて気分が良いから、一回だけ発言を許そうじゃあないか。 手短にな」


 マレギは指令を与えられている以上、おめおめと帰ってきたとなればカイヤザからの信頼は急激に落ちるだろう。 魔導書を与えられるという栄誉すら失われるかもしれない。


 マレギは思考をフル回転させてヴィシャトールの望む展開を思い描く。


「……男同士の戦いと言ったな? では、その男との決着がお前の最大目標か?」

「そうとも言えるねぇ」

「であれば、一対一で戦える舞台をこちらで用意する」

「ほう……悪くはない条件だと言えるが、少々足りないな」

「お前が件の男と戦えるように、残り三人をこちらで確保する。 そいつらが魔法使いでなければ、そのままお前の標的に戻してやってもいい。 ただし魔法使いが含まれていれば、魔導書は抽出させてもらうことになるがな」


 しばしの沈黙が、マレギには異常に長く感じられた。 これ以上の譲歩は、恐らく許されない。


「今後、そちらの組織──“ラウンジ”で用途に乏しい魔導書があれば、定期的に譲ってもらおう。 それが最低限の条件と言っておこうか」


 ヴィシャトールがしたり顔で結論を出した。 マレギは嫌悪の表情を隠さず、少し考えた上でこれを是とした。


「……心得た。 伝えておこう」

「それは重畳だねぇ。 これからも良き付き合いを頼むな?」

「そうなればいいがな」


 マレギはそれだけ言い残すと、さっさとヴィシャ兄弟の住居を後にした。


「定期的に、だと? 足元を見やがって……。 あの兄弟はやはり、処分が必須だ。 同志カイヤザは組合とぶつけると仰っていたが、その前に俺が首を刎ねてやる。 今に見ていろ」


 マレギとしてはヴィシャ兄弟をそこまで脅威とは感じていないが、カイヤザは何かと兄弟には慎重になっている。 それは兄弟は動きが読めないことが原因なのだが、それにしても慎重になり過ぎているとマレギは感じている。


「兄弟を確実に殺すためには、やはり魔法が要る。 問題は、今回の土産を同志カイヤザがどのように評価するかだな。 俺も魔導書を得れば、側近に昇格して未来は明るいというのに……。 良い結果を期待するしかないか」


 マレギは急ぎ、カイヤザの元へ馳せる。



          ▽



「のう、そこのお前よ」


 ハジメの財布を盗んだ泥棒が人気の無い路地に入るや否や、トナライはその男に声をかけた。


「ん……? なんだよ、おっさん。 気味悪い肌の色してんな」

「おいがここに来た意味は分かっておろう?」

「は? 意味分かんねんだけど。 え、なに、道でも尋ねたいのか? 勘弁してくれ。 俺は急いでんだっての」

「そうか。 では手短に済ませるか」

「なにを言」


 男が言葉を言い終える前に、トナライは男に肉薄していた。 そのまま男の両前腕を掴むと、お構いなしに握り潰した。


「い゛ッ──」

 

 ぎゃああああああああああ!


 叫び声が響きわたり、それでもトナライは掴んだ手を離さない。 容易に腕をへし折るパワーを一介の人間がどうすることもできず、男はただただ助けを乞うだけの状態に陥った。


「お前は盗みを働いた。 だから、こうなる」

「ぎぃ、あ゛ッ、す、すません……! 俺はただ言わ──あや、謝る、謝るからッあ、許し、許して……え゛あ!?」


 トナライは拳を雑に振るい、男の顔面を捉えた。 男は首が折れるのではないかと言わんばかりの衝撃で頭部を殴られ、その勢いを受けたまま壁面に激突。 ピクピクと痙攣するだけの哀れな存在に成り果てた。


 そうしてトナライが男から財布を回収していると、声が掛かった。


「おいおい、そりゃあなんでもやりすぎじゃね?」


 トナライは背を向けたまま声だけで返す。


「犯罪者に灸を据えただけのこと。 勉強代としてはちょうどよかろう」

「いやいや、そうはいかねぇってんだよ。 おっさん、俺らの仲間に手ぇ出してタダで済むとか思ってるわけ?」

「逆に聞くが、たかだか寄せ集めのゴミ風情が、おいをどうにかできるとでも思うておるのか?」


 そう言いながら向き直ったトナライの気迫によって、威勢の良かった連中が少し怯えた様子を見せた。 トナライは、フンと鼻を鳴らして冷たい視線を送るのみだ。


「お、おい……テメェいい加減にしとけよ? テメェみてぇなおっさん一人、俺らが集まれば──」

「では全員ここに集めろ。 待っていてやるから手早くな」

「は、はぁ?」

「早く呼べ。 一人では何もできない、何者でもないお前たちなのだから、寄り集まってでも価値を示してみろと言っておるのだ」

「お、おい、言ったな? 聞いたからな? 絶対ぇタダじゃ済ませねぇ……! お前ら、全員ここに集めろ! 今からこいつを八つ裂きにして生まれてきたことを後悔させてやるッ!」


 集団の中にリーダー格らしき者はおらず、今しがた叫んでいる男もそうではないようだ。 おそらくは程度の低い連中の集まりだろう。 トナライはそうあたりをつけた。


(ハズレかもしれんな。 もしかしたら、おいたちを狙っておった者も含まれているかと思ったが。 だとしても、こやつらを屈服させれば情報は容易に集まるだろう。 数が多ければ情報の精度も高まるというもの。 面倒だが、言った手前待ってやるとしよう)


 トナライは装備を整えながら、喧しく騒ぎ立てる連中が揃うのを待つこととした。 そんな彼を観察する者がいる。


「獲物が網に掛かったぜ」

「まずは一人……順調だな。 残りはこっちで進めておく」

「ああ、頼んだ」


 彼らは、カイヤザ率いるラウンジの構成員。 ハジメたちの想定を遥かに超えるスピードで作戦を開始している。






 トナライが騒動を起こし始めてからしばらくした頃──。


「女、話がある」


 シノンが雑貨店などを巡っていると、不意に声が投げかけられた。 いつの間にかシノンの両脇にそれぞれ男が一人ずつ、彼女を挟み込むように立っている。


「……なに?」


 シノンの周りの連中を見てか、店主はサッと裏まで引っ込んでしまった。 争いを察知したのだろう。


「質問は受け付けていない。 付いてきてもらおう」


 声は両脇の男からではなく、シノンの背後から放たれている。


 シノンはゆっくりと背後を振り向く。 思わず身を固めた。


「抵抗すれば殺す。 理解できるな?」


 声の主はフェードボウズカットの髪型で、骨張った顔つきの若者。 その手には魔導書が握られている。 男たち三人は皆、一様に軍服にも似た黒い制服で揃えられている。


「付いていけばいいんだ?」

「黙っていれば、手荒な真似はしない」

「ふーん、そう。 これは分が悪いし、素直に従うよ」


 シノンは両腕を掴まれ、荷物の類は全てその場に捨てさせられた。 そんな彼女と男たちを見ても、町人はなるべく関わらぬようにと距離を置いている。


(到底その年齢に似合わない、使い古された魔導書。 これは多分、ハジメちゃんが言ってたあれだね。 町の人たちの反応から見て、この連中はあまり良い感情を向けられていない組織ってことか)


 シノンはハジメから、モルテヴァの騒動あらましを聞いている。 その中で、魔法を奪うという者たちの話も。


(敵側から来てくれたのは非常に好都合だね。 ギリギリまではか弱い女の子を演じちゃおうかな)


 シノンは無抵抗を装って、敵の懐に忍び寄る。






 シノンとトナライが外で騒動に巻き込まれている時、宿の方でも動きがあった。


 コン、ココン、コン。


 エマはリズミカルに叩かれる扉の音に気がついた。


「あれ? もうそんな時間?」


 ハジメが就寝してから小一時間程度経過しており、そろそろ夕方に差し掛かる時間帯。


 エマはハジメを起こさないように、そっと動いて扉に手をかけた。


「シノン姉さん、鍵持って出掛けたんじゃ──」


 シノンを期待したエマの目の前が、一瞬で真っ赤に染まった。 まずいと思ったが、それ以上に扉の隙間から伸びた手が速い。 扉はぬるりと開かれており、伸びた手はエマの口や首を凄まじい力で締め上げている。


「んグ……ぐ……っ」


 エマは助けも呼べぬまま、部屋の外に連れ出された。 扉は静かに閉じられている。


(まずい……。 これじゃハジメさん、が……)


 エマは自身を拘束している男を見た。 男は黒い制服に身を包み、その隣には異様な人物が二人佇んでいた。


「こちらの目的および、そちらの前準備は整えてやったぞ。 あとは好きに遊んでやれ」

「言われなくとも。 では弟よ、丁重にもてなそうじゃあないか」


 返答したのは、寝癖のような金色のパーマが特徴的な高身長な男。 上裸でギリシャ彫刻を思わせる立ち姿で筋肉を見せつけつつ、似た顔立ちの男と並んでいる。


「分かったよ兄ちゃん!」


 弟と呼ばれた彼は丸坊主でずんぐりむっくりな体型をしており、兄とは似つかない太りっぷりだ。 しかしながら、二人ともに特徴的な高い鼻と深い眼窩を有しており、彼らが兄弟ということは容易に想像できる。


「では、お楽しみだ」

「んーッ……!」


 声の出せないエマの目の前で兄弟は扉を開き、ゆっくりと部屋の中に消えていく。


「暴れるな。 殺すぞ」

「ん、ぐ……」


(あたしは、何でこんなに……)


 エマは失意のまま、誰とも知れぬ男に連れ去られていった。



          ▽



「さて、そろそろ目を覚ましても良い頃合いじゃあないかね?」

「……ん、なんだ?」


 ハジメは声を投げかけられ、無造作に身体を起こした。


 二人の男がハジメを見下ろしている。 次いで気になるのは、手足に触れる感触。 湿った草と地面の匂いが、ハジメに違和感を即座に伝えてくる。


「は?」

「兄ちゃん、起きた! 起きたよ!?」

「お前ら、誰だ……?」


(ここはどこ──いや、それはどうでもいい。 俺は部屋で眠ったはずなのに外に出て、なおかつ知らない男が居るのは異常だろ……)


 ハジメは背中を触る振りをしつつ、衣服の内側で魔導書を展開。 指先でページを確かめながら、目的の場所でページを固定した。


(とりあえず魔導書は開いたが、思ってるページで開いてなかった場合は魔法名を叫んでも発動はしない。 どうする……?)


「まずは自己紹介をしてくれるかい?」

「何で俺が──」


 そう言ったあたりで、ハジメは緊張から動きを止めてしまった。 目の前の男二人ともが、古ぼけた魔導書を手に握っていたからだ。 装丁はボロボロに朽ち初めており、以前目にしたものと同様の外観をしている。


「どうしたのだ?」

「俺は、ハジメだ……。 お前ら何者だ?」

「ハジメ……うむ、呼びづらく覚えづらい名前だ。 今度からは、もう少しわかりやすい名前で頼むな?」

「何を、言ってやがる……?」

「おっと、この俺はヴィシャトールと言う。 そして隣の凛々しき男は、我が弟のヴィシャファト。 ぜひ覚えて置いてくれたまえ」

「……ああ、分かった。 それで、さぞご高名なヴィシャトールさんとやらが俺に何の用だ?」


 ハジメは会話を長引かせつつ、情報収集に走る。


(下手な動きをすると、こいつらは即座に魔法を使ってくるだろうな。 こいつらの目的は謎だけど、俺を殺さずに連れて外に出てきてるってことは、そうしないといけなかったってことだ。 にしても、随分と厄介な魔導書を握ってやがるな)


 モルテヴァで戦った奴隷区画の連中が握っていた、魔法使いから奪ったという魔導書。 それと同様のものが、ハジメの目の前には二冊並んでいる。


 ハジメは兄弟からフォーカスを外し、外部に目を向けてみた。 どうやらここは平野で、周囲に人工の建造物は存在しない。 街道らしき影も見えないことから、おそらくはいくつか丘を超えたような場所に連れてこられたことが想像できる。 夕刻らしく陽も落ち始めていることから、ハジメが就寝してからある程度の時間経過が予想される。


「いやなに、貴様はこの俺の攻撃を凌いで見せただろう? そんな貴様に敬意を表して、戦いの場を用意させてもらったのだよ」

「お前らの都合ばっかだな」

「それはそうだ。 世界はこの俺と、弟ヴィシャファトを中心に回っているのだから。 貴様は、この俺の生活を華やかにする引き立て役でしかないのだよ。 だからこそ、貴様の都合は一顧だにしない。 むしろ、殺していないだけ感謝してほしいところだがね?」

「勝手なことを……」


(確かに殺されなかったことは幸いだったが……こいつ、かなりの自信家だ。 魔導書を得て増長してるのか、はたまた本当の強者なのか。 後者だったら、この場を切り抜けるのはかなりの難題だぞ……)


 ハジメは予想される最悪の想定により、鼓動が一気に早くなった。 息が荒くなり、冷や汗も滲み始めている。


「ではこれから、楽しく殺し合おうじゃあないか。 万に一つでも貴様が勝つようなことがあれば、お仲間を助けに行くといい。 ラウンジの連中が優しければ、貴様の仲間はまだ生きているだろうからな」

「頑張って! 頑張ってよ!?」

「は? お前ら、俺の仲間に何を──ッ!」

「死力を尽くしたまえよ? でなければ、この俺を楽しませることもできない愚者として死後も愚弄され続けるぞ? 《全反射トータル・リフレクション》」


 スゥーッ、と。 ヴィシャトールとヴィシャファトの姿が掻き消えた。


「は? おい、最後まで話をしろよ! じゃないと──ぐあァッ!」


 ハジメの身体が派手に吹っ飛んだ。


「い゛、痛で……ッ!?」


 ハジメの左大腿が、激しく熱を持って激痛を生じている。


(何、が……。 ま、まずい、痛みで、思考が……)


 攻撃を受けたのは明らか。


「……っぐ、《歪虚アンチゴドゥリン》……ッ」


 ハジメは何とか魔導書を手元に寄せて、準備しておいた魔法を展開。 だがしかし、あまりにも対応が杜撰すぎる。 《歪虚》の膜が出現したはいいが、そこに正体不明の攻撃が次々と突き刺さっている。


 ピュン──。 そう風を切って叩きつけられる暴威。


 何度も飛来する遠距離攻撃により防御膜が陥凹し、防御耐久がゴッソリと目減りしていくのが分かる。


(くっそ、油断した……。 いきなり攻撃とか卑怯だろ……!)


 ハジメは痛みに顔を歪めながら、自らの失態を後悔した。 すでに殺し合いは始まっていたのだ。 それなのに、くだらない叫びを上げて隙を晒した。 その代償が、機動力の喪失だ。 足を撃ち抜かれては、ここから十分に歩くこともできないだろう。


(やばいやばいやばい……! 考えが、息が、何も──)


 焦りがハジメの可能性を狭め、守りを固めるという選択肢しか取れなくなっている。 一度行動を誤ったことで、敵との間に致命的な遅れが生じ始めている。 ここから逆転を目指すことなど、到底困難なほどに。


「《歪虚》……! 落ち着け、落ち着け……」


 左脚は拍動性の疼痛を絶えず刻み、同時に血液も溢れ出す。 そうやって苦しんでいる間にもヴィシャトールたちからの攻撃は続き、《歪虚》を張り続けることでしか対応のできない状況が続く。


「流石の防御性能だ。 賞賛の拍手を送ろうじゃあないか。 はっはっは!」


 どこからともなく響くヴィシャトールの声。 しかし彼の姿は一向に見えてこない。


(痛ってぇ……。 くっそ、まともに思考が働かねぇけど、考えなきゃやられる……! あいつの魔導書は白寄りだったし、使用した魔法からも光属性だとは思うが……だめだ、治療を先にしねぇと……)


 ハジメは何度も魔法を張り直しつつ、その間に荷物を探る。 しかしながら、就寝した際に装備は全て外してしまっているため、使えそうなものは無い。


(ッくぅ、応急処置しかねぇか……。 早く止血しないと、戦うとか以前に失血で死んでしまう)


 死を間際に関して、更にハジメの鼓動が限界まで高められた。


 ハジメはズボンを勢いよく破り、傷口の上、股関節に近いあたりで大腿を縛りつけた。 途端に、出血が鳴りを顰めた。


「ハァ、ハァ……。 どうする、どう生き残る……?」


 現状得られている情報は、敵が二人でそれぞれが特殊な魔導書を所持していることと、ヴィシャトールが光属性で光学迷彩と遠距離攻撃に長けていること。 もう一人のヴィシャファトに関しては情報が少なすぎる。


(ヴィシャファトの魔導書は茶色に近い印象だった。 だとすれば、防御役としてヴィシャトールを守る役目ってのが考えやすい……。 攻撃面でも優れる土属性ってことを加味すると、俺の防御でさえ防ぎ切れない可能性もある。 ヴィシャトールが囮で、ヴィシャファトがメインウエポンという可能性も捨てきれない。 どう考えても、手をこまねいている時間は無い……!)


「……効果不明な魔法を使うのは怖すぎるけど、使わないことには分からないことだらけだからな」


 ハジメは意を決して最後のページを開き、魔導書に目一杯のマナを込めた。


「これが吉と出るか凶と出るか……」


 そのページに目を通すが、やはりどの文字も理解できない。


「頼む……《乱律アマデウス》!」


 ドクン。 魔導書が脈動したような気がした。


 続く現象が、脈動がほんの始まりだったことを明らかなものとした。。


 キィィィ──。


 魔導書は微細な振動を生じ、超音波にも近い高音を放ちながら、それでもなお音を増幅させている。


「くっ……!? あ、頭がァ……ッ……!」


 あまりの高音に、ハジメは脳が揺さぶられる感覚を覚えながら魔導書を取りこぼした。


 十分量のマナを蓄えた魔導書は消失することなく、携帯電話が振動で少しずつ位置を変える要領で地面に細かな動きを伝えている。


 ──ィィィン……。


 しばらくすると、音が止んだ。


「まずい……。 防壁を張り直さないと……」


 ハジメは取りこぼした魔導書拾い上げながら、一心不乱に周囲を見渡し異常を探す。 音の終わりが何かの前触れであることは、疑いようがないのだから。

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作者の執筆力に繋がりますので、ギモン・シツモン・イチャモンなど、良いものも悪いものもどうかご意見よろしくお願いします。

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