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オミナス・ワールド  作者: ひとやま あてる
第4章 第2幕 Malice in Rohir highway
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第113話 抗争を待つ者ども

 ロヒル街道。 連綿と続く丘陵地帯を縦断する、超長距離の一本道。 定期的にアップダウンを強いられる道筋が、ただひたすらに真っ直ぐ伸びている。 街道というだけあって、道の周囲には家々が乱立して独特の街並みが形成されている。


 ディアス領南部は丘陵部があまりにも多い。 丘陵はそれぞれがあまりも中途半端な高さだということもあって、どのように開発すべきかということで構想は特に困難を極めた。


 丘陵部間の狭いスペースに家々を配置すると集落が乱立するばかりか、それぞれのアクセスのために新たな街道を整備する必要性も生まれてくる。 そのため、ここに大きな町を設置することはできないだろうという話で落ち着きそうだった。


 時の領主は強引に開発へと踏み切った。 これは英断だったと言える。 丘陵部まるまる一帯を縦断する街道として、一塊の町を作り上げたのだ。 結果、街道は交通の要所としても機能するようになり、人々の往来が多くなったことで開発は大いに進んだ。 今では、ロヒル街道から東西に伸びる小街道も生まれ、一層の繁栄を見せるようになっている。


「なんか……」

「王国民の公国民に対する感情なんてこんなもんだよ。 帝国は憎むべき敵って教えられてるんだから、公国に同じ感情を抱いても仕方ないよねー」


 ハジメたちが街道に差し掛かったあたりから、不愉快な視線が常に付き纏っている。


 街道は馬車三台が並走しても十分なほどの道幅があるが、避けられているせいかハジメにはより一層広く感じられる。


「悪意の次は嫌悪か。 分かりやすくていいけどさー」


 ハジメは居心地の悪さを感じながら、何とか話しかけられそうな人物を探す。 しかしながら、目を合わせると誰もがすぐに目を逸らしてしまう。


「マイナス感情によって国民意識を統一するというのは非常に楽で簡単だ。 だが、古臭く前時代的な方法だと言わざるを得ない。 哀れで仕方ないわい」

「だよねー。 肌の色がちょっと違うだけで差別思想が生まれるって、未開にも程があるよね。 やっぱ王国は、後進国という立場を崩さないね」


 トナライとシノンは、動物園の獣でも見るような表情で飄々としたまま街道を進んでいる。


(公国って精神的にも安定してるな。 達観してるというかなんというか。 俺も王国民に含まれてると思うと、かなり刺さるな……)


「旅人が珍しい、のか……?」

「どうなんだろうね。 公国民じゃなかったとしても、小汚い私たちに友好的な感情を持つ人はいないと思うよ」

「そりゃあ、確かに……」

「おいたちは旅人というより、大道芸人と名乗った方が受け入れられやすいかもしれんな」


 薄汚れた身なりで、景観を損ねながら歩く四人組。 ハジメは意識を失ったエマをおぶっているし、トナライとシノンは珍しい品々を溢れさせた大きな荷物を抱えている。 ともすれば、浮浪者と思われている可能性もある。


「あんたら、あの森を抜けてきたのか?」

「……ん?」


 ふと投げかけられる声があった。 声はハジメたちの右そばにある茶屋のような佇まいの建築から。


 無精髭を撫で回しながら話しかけてきたのは、熊のような野生味を見せる毛深い男。 男は閑散とした屋内を隠そうともせず、気怠げな様子で長椅子に腰掛けていた。


「旅の者だろ?」

「うん、そうだよ。 ここから南の森を抜けてきたんだけど、それって変?」

「変っちゃ変だな。 ここ最近は南部方面に妙な魔物が出たとかなんとかで、殺されたり逃げ帰ってきたやつらも多かったからよ」

「そうなんだね。 魔物ってどんなの?」

「又聞きしただけで、詳しいことは知らん。 結構な数がいたみたいだな」

「ふーん、そうなんだ」

「あんたらは襲われずに抜けてきたのか?」

「しっかり襲われたよ? 色々魔物はいたけど、それが同じものかどうかは分かんないよね」

「それもそうだな」


 男性相手だとシノンのような女性の方がウケがいいため、ハジメは黙って話を聞いている。 だからといって周囲への警戒を緩めたわけではない。


 襲撃者からはあれ以降音沙汰ないが、今もなお狙われていないという保証は無い。 街道には建物の立ち並ぶ風景がひたすら続くため、死角と呼べる部分は無数にあって警戒はしてもし足りない。


「この辺に、私たちでも入れる宿ってあるかな? なんだか歓迎されていないみたいだから、それも気になってるんだけど」

「余所者を歓迎しない奴は多いからな」

「なんで? 街道でしょ?」


 街道である限りは、人通りは避けられないはずだ。 外からの客で潤っているというのなら、なおさら客を蔑ろにすべきではないと考えられる。


「見た目は街道だが、住民からすれば自分たちの町だからな。 ずけずけと入り込んでくる人間を毛嫌いしてるのさ。 こんな南の、客もほとんど来ないような辺鄙な場所だとまだマシだが、北に向かうほどそういう気質の奴は多いだろうぜ。 ま、俺は馬鹿だから、そこまで考えて生きてないから客は誰でも歓迎だ」

「ふーん。 で、ここってお店だったんだ?」

「基本的に閑古鳥が泣いてるが、立派な小料理屋だ。 南はそもそも危険な場所だし、最近じゃ他に安全な道が開拓されてるから、この辺りは寂れる一方だがな」

「なるほどね。 じゃあさ、情報提供のお返しにいくらかお金を落とすから、ちょっと休ませてくれない?」

「おう、入りな!」


 招き入れられたのは少々埃臭い店内だった。


 料理をお任せすると、大皿の料理がいくつか机に並べられた。


「あったかい飯とか久々すぎる……! まじ神!」


 提供されたのは、細かな肉と様々な野菜を突っ込んだエグ味も感じられる炒めものや、独特な香草による味付けがなされた川魚など。 それでもモルテヴァを発って以降久しぶりのマトモな食事だったため、少々口に合わなくとも非常に美味に感じられた。


「町ぐるみでもなければ、外より中の方が安全だよ。 住民も見境なしに攻撃してくるなら話は変わってくるけど。 町がぶっ壊れたりしてないから、そんな感じはなさそうかな」

「そうなのか」

「外の人間に分かりやすく嫌悪感を見せる人たちが、わざわざ攻撃なんてしてこないって」

「野盗って線はあるだろ?」

「攻撃は魔法によるものだったし、超長距離狙撃を成功させる腕前でしょ? 野盗なんかよりも普通に生活した方が贅沢な暮らしができるよ」

「そりゃあ、確かに。 魔法使いが平然と人間を襲うとか終わってるけどな……」


 ハジメは、ゼラやオリガといった悪しき魔法使いのことを思い出していた。 いつだって世間を賑わせているのは魔法使いだ。 そして、まともな魔法使いから早々と死んでいく。


(誰かを殺せるくらいじゃないと、生き残れないのか……?)


 ハジメは暗い気持ちになった。


「襲撃者は力に溺れてるか、もしくは自信家だろうね。 旅人を襲って生計を立ててるなら捕捉しやすいし、快楽殺人者ならどこかで噂も立つんじゃない? 狡猾な殺し屋だったら、二発目を撃って証拠を残すようなヘマはしないかな」

「なる、ほど……」


 ハジメはつくづく、シノンの思考には恐れ入る。 あらゆる想定が早く、行動には常に冷静さが伴っている。


 話し込んでいると、店主の男バルクが片付けを終えてやってきた。


「食事には満足したか?」

「まあね。 知らない味付けだったから楽しかったよ」

「ご馳走様でした」

「腕を奮った甲斐があったな。 ところで、そこの嬢ちゃんは起きないけど大丈夫なのか?」

「体調悪いんだよね。 この辺りに治療院ってある?」


 エマは相変わらず眠りこけている。 疲労が限界のところに無理な魔法使用が追い討ちになったのだろう。 魔法を自分で上手くコントロールできない未熟な体現型魔法使いには、まだまだ鍛錬が必要なようだ。


「まぁ、あるにはある。 治癒魔法もポーションもボッタクリだけどな」

「そうだよね、知ってた。 でもアコギな商売ができるってことは、そこそこ怪我人も出る町なんだ?」


(シノンちゃんのこれは上手いな。 自然な流れで聞きたいことを聞けている)


 ハジメはシノンの話術に感心していた。


「町人の怪我人は少ない。 魔物が入ってくることはまずないからな。 ここは交易路になっているし来訪者も多いから、怪我してるのはむしろあんたらみたいな外部の人間だ。 そうして、やむなく高額な出費を強いられるわけだ」

「そうなんだ。 私たちは南から来たんだけど、怪我人って南で特に多かったりする?」

「ん? 南部森林は危険だが、特定の場所で多いって感じはしないな。 どこでもいるぞ。 ……ああ、いや、でも確か……」

「ん?」

「きな臭い話を思い出しただけだ」

「どんな内容?」

「怪我人じゃないが、魔法使いが姿を消してるらしい。 近く、魔法使い組合が出張ってくるんだってな。 なんでも、“魔法使い狩り”とかなんとかいう連中の調査だとか」


 その後もいくつか情報を聞いて、腹も落ち着いたタイミングで会話を切り上げた。


「色々とありがと」

「いいってことよ」


 ハジメたちは店を出た。 バルクに食事の感謝を伝え、多めの銀貨を残してきた。


「さて、何やら面倒なことになっておるようだのう」

「私たちを攻撃してきたは、その連中なのかな」

「魔法使い狩りって言うけど、魔法使いに恨みを持つ連中がそんなに多いのか?」

「どうだろ。 良い魔法使いもいれば、悪い魔法使いもいるしね。 魔法使いだったら、魔法使いを狩れるよね。 いずれにしても、ハジメちゃんは今後も狙われるだろうから要警戒だね。 魔法使い狩りっていうのが組織だった場合、より面倒なことになりそう」


 ハジメは先程の襲撃で魔法を晒してしまっている。


「勘弁してくれ……」


 新たな問題との衝突に、ハジメの不安はいつまでも解消されなかった。



          ▽



 ロヒル街道の中心街。 とある酒場では、人々の往来によって集約された情報のやりとりが頻繁に行われていた。 そこは所謂ならず者と呼ばれるが多く出入りし、一般人はあまり寄り付かない場所ではあるが、金さえ積めば貴重な情報さえ得られる環境でもある。


「同志カイヤザ」

「同志マレギ」

「魔法使いを含んだ四人組が街道へ入りましたため、報告に参りました」


 酒場奥の一室で、やりとりをする者たちがいた。


「四人全員が魔法使いとなれば、戦力の大幅拡大が期待できるな。 組合と一線交えられるようにもなるだろう。 場合によっては組合を乗っ取ることさえ、な」


 カイヤザと呼ばれた男は不敵に嗤った。


「そうなれば、今後は安定した供給が得られるかもしれませんね」

「ああ。 そういえば、そろそろ同志の順番だったか」

「そのはずです」

「属性と能力によっては、同志をそのまま受け取り手として任命しても良いかもしれない。 詳細な情報収集を期待する」

「はっ。 ただ一つ……よろしいでしょうか?」

「どうした?」

「ヴィシャ兄弟がすでに手を出しておりまして……」

「またあいつらか。 面倒だな」

「いかがいたしましょう?」

「あいつらの動きは読めん。 まずは接触して、撤退を促せ。 金品を多少消費しても構わん。 さすがに、最大四人も魔法使いが手に入る可能性を逃したくはないからな。 兄弟からの協力が得られない場合は、彼らの行動を阻害しつつ組合到着を待ち、潰し合わせる方向で処分する。 以上だ」


 任務を与えられたマレギは、すぐ行動に移った。


 ロヒル街道周囲で魔法使いが多数消息を絶ったことは、異常事態として近隣の魔法使い組合が重要視している。 一部では魔法使い狩りといった呼称で問題が取り沙汰されており、近日には組合による大規模な調査が予定されている。


「組合の面子もたかが知れている。 有名な魔法使いも少ない。 出張ってきた魔法使いが数名程度であれば、非魔法使いを肉壁にしつつ隙を突けば良い。 雑兵の寄せ集めであれば相手にもならず、こちらの戦力がより潤すだけだ。 いずれにしても、組合に勝ち目はない」


 街道に蠢く悪意。


 魔法使い組合と争うなど、考えても実行する者など存在しなかった。 それが今、実行されようとしている。


「同志カイヤザ。 参りました」

「同志カッツォ。 早速だが同志には、使い捨ての兵隊を用意してもらう。 同志は万全に魔法使用が可能か?」

「魔導書の劣化が著しくはありますが、まだしばらくは使用できるかと」

「よろしい。 同系統の魔法を入手できれば、優先して同志に回す。 現在の魔法は心置きなく消費したまえ」

「はっ」


 魔法使いと非魔法使いで大きく地位さえ隔てられていた歴史も、ここにきて激動の変化を迎えようとしていた。



          ▽



「シノンちゃん物騒過ぎだろ」


 バルクの店を出た時点で、シノンは両拳にメリケンサック様の魔杖を装着していた。


「どうせ王国の人間はこれが何かなんて分からないし、装飾品程度にしか見えないって」

「そんなもんか……?」

「魔導具開発に関して、公国はかなり先の時代を行ってるからねー。 魔法の発覚を避けたい時はそのまま殴ればいいし、大丈夫大丈夫」

「いや、何をもって大丈夫って言ってるのか分からん」


(シノンちゃんは先手を打ち、俺は後手の対応しかしていない。 違いっていうのは、そういうところなんだろうな)


「まぁでみ、敵が複数予想される場合って、非魔法使いの方が有利なんだよね。 まさか私が初動から魔法を使ってくるなんて思わないでしょ? ハジメちゃんは魔法使いってバレてるから、攻撃する瞬間が見られるぶん不利だよね。 だからハジメちゃんには、魔導書常時展開をオススメするよ」

「そうしておくか……」


 ハジメは民家の傍に隠れて魔導書を展開させると、《歪虚》のページを開いてズボンの内側に突っ込んだ。 どうやら、触れ続けて最低限のマナさえ送り込んでやれば魔導書は維持されるらしい。


「なんか不服そうだったけど?」

「いや、そんなことはないんだが……」

「マナ消費が心配? 大丈夫だよ。 もし次の目的地が遠隔地だったら色々下準備が必要でしょ? 危ないかもしれないからって平地に逃げてもどうせ狙われるだろうし、すぐに街道を離れる理由はないかな。 ということでしばらくは街道での行動が主だから、魔導書を展開して警戒する程度なら続ける価値はあるよね」

「確かにそうか」

「エマちゃんには頼れないし、ハジメちゃんは即時使用な可能な防衛手段を持っておくべきだよ。 いつも使ってる魔法は効果十分だけど、魔法使いとしての弱点はしっかり残ってるからね」


 魔法使いに共通の弱点とはつまり、魔導書を展開して魔法を読み出し放出する過程のこと。 そのタイムラグが致命的とならないのは先手を取れる場合であり、


「だよなぁ。 攻撃魔法は結局、戦闘になるまでは無用の産物だしな。 簡易でも使えそうな魔法を考えておくか」

「ふーん……」

「どうした?」

「なんでも。 で──今、どこかから見られてた?」


 シノンは視線を鋭くし、声は非常に冷静だ。 自然体に振る舞っているようにしか見えない。


「そうだのう。 気取られる時点で、敵はそれほど優秀ではないのかもしれん。 こういう手合いは攻撃の瞬間が分かりやすい。 ボロを出すのを待てばよかろう」


(何に見られてる……? 常にぶつけられてる奇異の視線と違うのか?)


「ハジメちゃん」

「お、おう、なんだ?」

「私かお父さんが警戒って叫んだら、即座に魔法を発動すること。 いい?」

「あ、ああ……。 何者かに見られてたのか?」

「そうだよ」

「どうしたら分かるようになるんだ?」

「んー、観察力? 変な視線が向けられてないかとか、不自然な動きがないかとか。 見てれば案外分かるよ」

「なるほど」

「違和感を隠して普通にしようとするのって難しいんだよ。 その微細な変化をいち早く拾うように心掛ければ、最低限の警戒は問題ないよ。 あ、でも今回の敵はハジメちゃんじゃ気付けないよ」

「どうしてだ?」

「さっきは、存在感ってところから敵を認識してたからね。 こればかりは経験で覚えろとしか言いようがないかなー」

「……つくづく俺は無力だ」

「向き不向きがあるし、これができたところで死ぬ時は死ぬからね。 必死になって鍛錬するものでもないよ。 死にたくなかったら、安全な環境で事故に遭わないことを祈りながら過ごすんだね」

「それは……できないんだよなぁ」

「じゃあ頑張れー」


 当面の目的地は宿だが、思った以上に歩速ははゆっくりだ。 どうしてなのかハジメは気になって聞いてみた。


「暫定的な進行方向は街道に沿って北だから、なるべく戻ってきたくないんだよね。 必要なものがあれば購入しておきたいし。 あとはまぁ、馬鹿な敵が動きを見せないか待ってる。 お父さん、どう?」

「尻尾は掴めんのう。 偵察だけだったのやもしれん」

「それならそれでいいか」


 そうこうしていると、丘の頂上付近にやってきた。


「それぞれの丘の頂上が、ある種の集落みたいになってるのさ。 宿を探したいなら、斜面にはないと思った方がいいさね」


 中年女性に金銭を渡して聞いてみると、色々な情報が得られた。 訝しげな様子も、金払いの良さで無かったことにされていた。


(やっぱり金か。 稼ぎの無い俺だと、永遠に旅を続けるのは基本的に難しいみたいだ。 今はトナライさんとシノンちゃんに頼ってるけど、これもいつまで続くか)


『モルテヴァでかっぱらったぶんがあるから、お金は気にしないでいいよ。 返したいなら別の形でよろしく!』


 シノンはそう言っていたが、ハジメとしては返すべきものが多すぎる。


 会話が続く。


「これって、どのくらいの距離があるの?」

「どうかねぇ。 こちとら南端の住人だから、最北端は行ったことがないねぇ。 どんどん伸び続けてるみたいだしねぇ」


 街道は数十kmに及んでおり街道と呼称されてひとまとめになっているが、集落同士は案外疎遠なのだとか。


 街道の中で最も栄えているのは、東西にわたる交易路と直交した部分。 ここには歓楽街さえあるらしく、何かを求めるならそこに向かうのが良いようだ。


「街道で最近、何か大きな事件って無かった?」

「それだと確か……なにやら、魔法使い組合ってのが来るみたいさね」

「なんかさっき聞いたね。 魔法使い狩り……だっけ?」

「そう、それさ。 防備のために各集落に魔法使いが定期的に巡回することになってんだけど、最近連中がやってこなくてね」

「魔法使いは殺されたの?」

「どうかねぇ。 うちの旦那が中心街によく出向くから、そこで噂を聞いただけさね」

「詳細は不明、と」

「そうさね」


 ところで、と女性は続ける。


「あんたたち、ヴェリアの人だろ? 大丈夫なのかい?」

「ん、何が?」

「王国じゃ、どこに行っても他国の人間は歓迎されていないよ。 特に帝国民なんて言ったら大変だから気をつけなよ」

「そうなんだ?」

「……ここだけの話だけどね」


 女性が声を潜めて言う。


「裏稼業の連中が支配を強めてる。 なんでも、近く抗争を準備しているらしいのだと。 又聞きだけどね」


 またもや不穏な単語が飛び出した。


「ま、気を付けておくよ」


 女性に礼を伝え、一行は中心街へ。


「本当にこの街道に居ていいのか? 不気味だぞ」

「どこから見てるとも分からない敵を捕捉できないまま、装備不十分で目的地も定まってない。 これで出発するのは愚だよ、愚」

「すまん……」

「エマちゃんも不安定なままだしね。 だからまずは宿と治療院。 次いで周辺地図を得て目的地を定めつつ、装備を揃えて出発。 上手くいけば、抗争とやらが始まる前に街道を抜けられるかもねー」

「上手くいけば、か……。 まじで不安な未来しか見えねぇ」


 無事に街道を抜けられる確約が得られず、ハジメは足取り重く街道を進む。


「なんでこうも面倒続きなんだ……?」

「災難に愛されてるんでしょ。 災難に押し負ける前に地力をつけた方がいいよ」

「善処する……」


 ハジメは自身の境遇を呪う。


 これまでは神の加護という名の必然が問題を引き起こしていた。 しかしながら今回ばかりは偶然だ。 ハジメが到着する少し前に何者かが街道に新たな秩序をもたらしており、ハジメが騒乱の渦中に突っ込んでいるだけなのだから。

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作者の執筆力に繋がりますので、ギモン・シツモン・イチャモンなど、良いものも悪いものもどうかご意見よろしくお願いします。

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