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オミナス・ワールド  作者: ひとやま あてる
第4章 第1幕 Road to the Kingdom
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第109話 救済、そして世界のうねり

「私は魔笛を追うから、お父さんは向こうの大型をお願い」

「うむ。 はぐれた場合は、ハジメのマナを辿って集合でいいな?」

「それで問題なし。 んじゃ、ぶっ殺してくる!」


 そうやってシノンとトナライが襲撃の元凶に向かっている頃──。


「エマ、平気か?」

「うぅ……はい……。 運んでもらって申し訳ないっす……」

「無理させたのは俺だからな。 気にしなくていいよ」


 ハジメはエマをおぶって山中を進んでいた。 エマの背には潰された馬に詰んでいた荷物が背負われており、ともに《減軽リダクション》が掛けられている。


「あの場所で待ってなくて大丈夫なんすかね……?」

「山頂の視界を良くしすぎたから、狙われないようにしないとな。 現状、敵は俺たちを見失ってるみたいだし」

「そうだったんすね、すいません」

「あと、逃げてった馬がどこかで魔物に襲われる可能性もあるし、捕まえておかないといけないよな」


 ハジメは周囲を警戒しつつ進む。 《歪虚》を伴って移動しているため速度は遅いが、防御魔法がなければ先ほどのような小ぶりな岩弾を受けるだけで致命傷になりかねない。


「シノンちゃんが魔導具で俺のマナを記憶してるっぽいから、ある程度動く分には大丈夫だと思う。 なんか新手もきてるみたいだし、動いて正解だな」


 遠くで、走り回る魔物の足音と叫びが響いている。 ハジメを探して声でやりとりをしているのだろうか。 魔鳥を一匹退治したことで警戒されている現状、ハジメが逃走と馬の捜索を兼ねた動きにシフトしたのは英断だっだと言える。


「たしか、こっちの方だよな……?」


 山深く。 気づけばハジメたちは、霧の立ちこめる不気味な森林の中を歩んでいた。 ここまで、恐らく舗装されているであろう道を辿っている。


 地面には所々泥濘が見られ、 そのおかげで馬の足跡を追うことができている。


「あれって、何すかね……?」

「あれ──って、ああ、これのことか」


 文字が一部欠けた看板が立てられている。 それだけで、ここが人界に含まれていると分かり安心感が増すようだ。


「何とか……ア……レ、村……?」

「読めないっすね」

「まぁでも、村があるなら安全な気がする。 こんな辺鄙なところに居を構えるってことは、それなりの防備もあるはずだしな」


 そうやってひたすらに進んでいくと、少し開けた場所に出た。 そこでは倒壊した木造家屋がいくつか散見でき、まだ奥に道が続いているようだった。


「あ、いたっす!」

「おいエマ、待て」

「ほえ?」


 馬の白い姿が映った。 そしてすぐ、そばにいる男に目が行く。 男はオールバックにしたダークグレーの髪を後方で結い、痩せた顔立ちをしている。 目は細く鋭く、肌はやけに白い。


 男はどうやら馬を宥めているようで、そのおかげか馬は落ち着いた様子を見せている。


「お前たちは、これの主人か?」


 男がひどく低い声でそう発した。 男は、頭部から下を白い外套ですっぽりと覆っているという怪しい服装だ。 そのため、ハジメは警戒心を禁じ得ない。


「そ、そうです」


 ハジメは距離を保ちつつ返事を返した。 エマも警戒しているのか、ハジメの袖を掴んで黙ってくっついている。


「そうか。 だが、ここから先は進むことはできない。 これを連れて引き返せ」

「えっと、何故です……?」

「穢れを纏った魂が犇いている。 だから、近づくな」

「穢、れ……」


 ハジメは思わず呟いた。 そして言葉を発したことに気がついて慌てそうになったところ、男と目が合ってしまった。


「お前は穢れが何たるかを知っていそうだな?」

「あ、いえ……! 聞き慣れない単語だったのでつい」


(やべ……。 迂闊なことはやめようって決心したばっかなのに、俺は何をしているんだ!)


 ハジメは内心で自身を叱責しつつ、男の反応を伺う。


「……気のせいか。 では、お前たちは去れ。 この先は危険だ」

「あ、あの……!」


 言うだけ言って奥に戻ろうとする男に、ハジメは声をかけた。 男は無表情のままゆっくりと振り向く。


「まだ何かあるのか?」

「えっと、俺たち魔物から逃げてきて、安全な場所を探してたんです。 あなたも、えっと……」

「ヤカナヤと言う」

「俺はハジメで、隣がエマです。 ヤカナヤさんも逃げた方が……?」

「心配には及ばない。 自衛の手段は持ち合わせている。 ……ん? ああ、なるほど。 匿って欲しいということか」


 ヤカナヤと名乗った男は、一人納得しながらハジメに向き直った。


(そこまでは言ってないけど、そういうことにしておくか)


「は、はい。 有体に言えばそう、ですね」

「そ、そうっす」


 エマ的にはそうだったらしい。


「当方はこれからやるべきことがある。 片時も離れずに居られるというのなら、追随を許そう」

「え、いいんですか!?」

「ただし、馬を連れては行けない。 ここに繋いでおくといい」

「分かりました。 じゃあ……ん?」

「どうしたっすか?」


(いや、今更だけどヤカナヤさんって怪しくねぇか? 離れずにいろってのはこの先が危険だからだろうけど、あの外套の下に何を仕込んでるか分からない状態で接近しても大丈夫なのか?)


「ハジメ、お前の警戒は尤もだ。 そちらのエマという娘は警戒心が薄いようだが」

「あ、え……?」

「当方はこのような者だ」


 ヤカナヤが外套から右腕だけをそっと外に出した。 手には純白の魔導書がない握られていて、ハジメは考える前に魔導書を展開した。


「……どういうつもりですか?」

「こちらに攻撃の意思はない。 警戒を解くべく、魔導書を見せているに過ぎない。 現に、魔導書自体は開いていないだろう?」

「それは、確かに……」


 ヤカナヤは魔導書を取り出しただけで、魔法発動に必要なページを開いてはいない。 だからと言って完全に安心はできないが、少なくとも攻撃の意思は感じられない。


「もちろん、そちらから当方へ攻撃が行われた場合は相応の対処をさせてもらうが。 どうだ?」

「俺も攻撃の意思はありません。 反射的に出しただけです」

「……いいだろう。 ではまず、信用を得る意味でも当方の活動を説明しておこう」


 ヤカナヤは距離を保ったまま話し始めた。


「まず、この先にはナイアレ村と呼ばれた集落がある──いや、あった。 そこに住まう民が魔物によって全て殺し尽くされていることを、当方が確認している」

「え……」

「当方はそういった村々を巡り、現場の事後処理を続けている」

「え、ちょ、ちょっと待ってください! 村人が……え? 死んでる……?」


 驚くハジメをよそに、ヤカナヤは話を続ける。


「大して珍しい話でもないはずだ。 とりわけ王国では、魔物騒ぎが後を絶たないのだから。 それもこれも特定の個人が原因とされているが、真偽の程は定かではない。 ……とにかく、これから当方の仕事を全うするつもりだ」

「とりあえず状況は……理解しました。 ヤカナヤさんの活動については甚だ疑問が残ってますけど」

「当方の活動は、一般人の理解の範疇には無い。 死した魂を救済している。 そう、理解すれば良い」

「……」


(魂の救済、だと……? この人は一体──)


「どうかしたか?」

「いえ、何でもありません」


 ハジメは努めて冷静に返答した。


「そうか。 当方から離れずに行動すれば、少なくとも魔物に襲われるよりは安全だろう。 防御魔法を発動するが、不安があるならこの場に残ればよい。 ──《破魔(エクソシズム)》」


 ヤカナヤの手から光の球体が現れ、彼の頭上で停止。 暖かな光が周囲を照らしている。


 光属性の派生には神罰、加護、治癒、祈祷、その他複数の区分がある。 その中でもヤカナヤの性質は加護であり、魔法に対するあらゆる耐性が高く得られる。 特効であり弱点でもある闇属性に対してさえ、これは強力無比な防御能力を発揮できる。 余談だが、神罰性質であればオリガが、治癒性質であればゲニウスが、そして祈祷性質であればオリビアがそれぞれ該当する。


「……ハジメさん、あれは危険じゃないっす」

「エマ、助かる。 危険と思ったら何も言わずに動いてくれ」

「了解したっす」


 ハジメがエマに目配せすると、すぐに必要な情報がもたらされた。


「ではヤカナヤさん、お供させてください」


 ハジメは、未知の環境においてエマと二人で逃げ続けることには限界を覚えていた。 そんな状況で、環境を知り自衛能力も兼ね備えていそうなヤカナヤの存在は渡りに船だった。


 ハジメとエマはヤカナヤの魔法影響下に身を起きつつ、滅んだとされる村へ歩みを進める。


「なんか……気分が悪いっす……」

「体調不良か? 無理そうなら言ってくれ」

「はいっす……」


 早々に足取りが悪くなってきたエマが体調不良を訴えている。


「エマは魔法使いか。 とはいえ、この程度の邪気に当てられるのであれば力量は未熟と見える。 当方の魔法で軽減していなければ、とうに狂っていたかもしれないな」

「いえ、まぁ……ははは……」


(エマが魔法使いってバレてるし、邪気って何なんだ一体? 狂うとか、さらっと怖いことも言ってるしな……)


 今回のエマのように、ポロッと発言した内容から情報が漏れることは多い。 そういう経験が多かったことからハジメも努めて静かにしていたが、どうやらヤカナヤは洞察力に秀でているらしい。


(どうやったら、ヤカナヤさんみたいに色々と読めるようになるのかねぇ。 トナライさん然り、シノンちゃん然り、すげぇ人間が多すぎて自分が小さく見えるぜ……。 とりあえず分からない振りして聞いてみるか)


「ヤカナヤさん、邪気って何ですか?」

「難解だが、説明しておこう。 殺され堕とされ死した者の魂は、その場に停滞することが多い。 それ単体であれば大した害は及ぼさないが、集積した場合には残留思念などが影響して悪い空気──瘴気を呼び込むことがある。 瘴気を纏った魂は生物を狂わせる邪気を発し、邪気の影響を多大に受けた生物は本来の限界を超えた魔として世界に害なす存在へと成長する」

「そ、そうなんですね」


(ラクラ村やベルナルダン、モルテヴァで人死にが多発したけど、そこに存在した魂も同じ経過を辿ったってことか? 確か──)


 ラクラ村を襲った厄災は村人の大半を殺し尽くし、ゴリラ型の魔物を生んでいる。 そもそも、瘴気を発する古木が環境を侵し、エスナの父ヤエスを狂わせたとされている。


 ベルナルダンにおいてもゼラとオリガによる殺戮が行われた。 しかし、半年経過したあの場では瘴気など生まれてはいなかった。


(ゼラは、俺がベルナルダンで魂を救済したとか言っていたよな。 だとすれば、ベルナルダンが邪気に侵されなかったことに納得がいくのか……? いや、ダヴスって悪神が死を救済としてるなら、死んだ後の魂は救済されてない? やべぇ、わっかんねぇ……)


 ハジメが思考に苦慮するなか、村落であることを示す家屋が少しずつ見えてきた。


「確かに、少し気分が悪いな。 エマ、大丈夫か?」

「うぅ……はいっす」


 ハジメが感じているのは、何やら重い空気という程度のものではない。 悪意のある視線や威圧感といった、それに似た不快な感覚が叩きつけられている。 しかしそこに誰がいるというわけでもない。 暗く陰鬱な空気が漂うのみだ。


 そのまま進む。


「う、げぇ……!?」

「ぉえッ……」


 ついにエマが嘔吐した。 続いてハジメも吐瀉物を撒き散らす直前まで吐気が込み上げていた。


 鼻をつく鉄の匂い。 乱立する家屋のそこら中に、ベッタリと塗りつけられた血糊や肉片。 それらから目を背けるように視線を上空に向ければ、広場であろう場所はすぐに分かった。


 意味があるのか無いのか分からない高さ5メートルほどの支柱が、広場の中心に屹立している。 催事の際に用いられるのだろうか。 色とりどりの紐が巻きつけられていたようだが、どれもこれも赤く染まっている。 柱の頂上に据えられたものが原因だ。


「うッ……! 誰が……あんなこと……」


 筋肉自慢であったことが容易に伺える肉体を誇った男性が、柱で腹部を貫かれて絶命している。 今なお血液が滴っていないことから、多少の時間経過はあったのだろう。 それなのに、男性の顔面には恐怖が固定されたままになっていて、彼を襲った状況が脳内で再生されるようだ。


「これらは人間には到底不可能な芸当だ。 見てみろ」


 ヤカナヤの指差す先には、首が異常に引き伸ばされて紙一重で頭部が繋がっている死体が転がっていた。 異常なまでの腕力で首を引き伸ばされたことが、ハジメにも理解できた。


「ちょっと待って、ください……」


(人が死んだ現場って、実際はこんな──)


 ハジメはこれまで様々な現場に立ち会ったが、いずれも人間の死体を確認することはなかった。 直近にモルテヴァにおいても死体一つ残さない魔法が行使されていたせいで、そこが殺戮現場だと理解できていなかった。 しかしここに来て、ハジメは目の当たりにした。 人が死ねばこうなる、という現実を。


(気持ちわりぃ……。 こんなに散らかす連中も、殺される奴らも……。 殺す方もやられる方も、もっとスマートにやれよクソが。 変なもの見せやがって……)


 目を凝らして家屋の中を見れば、やはり無惨な死体や身体の一部が転がされている。 まるで殺しを楽しんだような光景に、ハジメは更なる吐気を禁じ得ない。


「理解したか? 惨劇に見舞われた魂は瘴気を誘引し、邪気放つ魂となって瘴気影響とともに生物・環境を犯す。 お前たちに襲撃を仕掛けた魔物も、邪気や瘴気の影響を受けた可能性は高いな。 もしくは、それらがこの状況を引き起こした可能性もある。 いずれにしても、早急に処理しなければ被害は拡大する一方だ」


(邪気が精神に、瘴気が肉体に影響するってイメージでいいのか? 思った以上に、この世界は厄介な状況らしいな……)


 人間を害する存在は魔物や魔人に限らない。 ゼラのような悪意ある人間もそうだし、モルテヴァで発生した化け物や使徒といった異形、厄災、悪神など、例を挙げればキリがない。


(神は俺に何をさせたいんだよ。 こんなの全部に対応するなんて無理だぞ……? 俺一人が強くなったって、できることなんて限られるし……。 ナール様が立ち上げたマディヤマーの規模拡大をすれば解決するのか? いや、それだとゼラたちナースティカと同じだよな。 あぁ、ナール様と連絡を取れないのが辛い……)


「なるほど……。 ヤカナヤさんは、この状況をどうにかできるんですか?」

「そのために、当方は各地を巡っている」

「……ですよね。 これから魔法を使うんですよね? 俺たちに見られて大丈夫ですか……?」

「光属性の派生である当方の加護属性は、あらゆる存在に益を齎す神秘。 当方を害するよりも取り込む方が賢明──そう考える者が大半だ。 防御面に於いても一級品の能力を発揮できるゆえ、知られたとて問題は無い」


 ハジメはそう言い切ることのできるヤカナヤを尊敬した視線で見つめる。


 ヤカナヤは魔導書を捲り、一番最初のページを開いた。 恐らくそれが、彼の原点である魔法なのだろう。 ハジメはそう理解した。


「では始めよう。 ──《天恵ブレッシング》」


 ヤカナヤの頭上にある光が拡散し、あたりを白く染め始めた。



          ▽



 ヴェリア公国の古代遺跡都市アルタクサタ。 この場所からは歴史的な文献や遺物などが多く出土するが、それを困難にさせる弊害も存在している。


 遠方からはアルタクサタの遺跡都市外観はハッキリしており、印象としてはそこに薄暗い影が落ちたという程度。 だが一度そこに足を踏み入れると、対象には漆黒の夜闇が覆い被さる。 それが、“夜”──アルタクサタの大部分を侵す厄災。 厄災に触れた者には、自然には解除されない夜闇が常に付き纏うこととなる。


 ヴェリア公国はアルタクサタの攻略を最優先に、人材育成から物資投入まで全ての心血をここに注いでいる。 それは公国民の特性が、研究や調査、探求に寄っているからだ。


 厄災の本拠地であるアルタクサタだが、そこに常駐する調査部隊が存在している。 所属する者は最前線の調査を任された精鋭であり、当然のことながら戦闘の心得もある。


「悪い悪い。 待たせたね」


 その場には似合わない若者が、軽い調子で姿を見せた。 若者は深蒼色のセミロングヘアーをセンターで分け、大きめの丸眼鏡を装用している。 服装は大きめのTシャツに緩めのジーンズ。 見る人が見れば明らかに地球人といった服装で違和感しか無いが、彼はそれを気にも留めずに堂々としている。


 すでに集合していた者たちから若者に向けて、辟易とした視線が向けられている。


「ようやくのご登場だ。 それにしても待たせすぎだな。 二日も遅れるとは聞いていないが? ……ともかく、卿が件の使者で間違いないか?」


 若者に対して気怠げに声を掛けたのは、ノキア。 トナライの妻であり、シノンの母親だ。 彼女は白色の整った髪を真っ直ぐ腰ほどまで伸ばし、眠そうな目の下には疲労を伺わせる隈ができている。 肌が異様に白いことも、不健康さを表している。 そんな彼女は、複数ある調査隊の一つを任せられている。


「うん、僕のことだ。 名前はテシガワラ、よろしく」

「私はノキア。 調査隊の一つを預かっている」

「テシガワラ……?」


 調査隊の数名が、その単語を聞いて何やらコソコソと会話を始めた。 ここにいるノキアやゼラ、メイ以外の面々は、使者がやってくることしか聞かされていない。


「君らが思い浮かべてる人物で間違いはない。 ヴェリアにまで名が轟いてるなんて、これはこれは光栄だ」


 目の前の男がテシガワラと聞いて、騒ぎが少しずつ大きくなる。 彼が各国の抹殺対象とあって、そうなるのも仕方がない。 なにせ、世界中の魔物が彼一人によって活発化させられたと言われているのだから。


「卿ら、そう騒ぐな。 この男が何者であろうと、“夜”を攻略するという命題は変わらない。 彼は必要あって招いた人物。 彼を害するあらゆる行為を私は許可しない」


 ノキアにそう宣言され、一斉に静かになる面々。 彼女の影響力の高さが伺える。


「僕に対して敵意を向けて来ない人間は珍しい。 大半の人間は、嬉々として殺しに来るんだけどな」

「卿の能力には期待している。 殺害して可能性を無駄にすることなど、愚者の行ないだ。 人間誰しも、一つくらいは得意分野があるのだからな」

「それなら安心だ。 僕も君らを殺さないで済む」

「ロウリエッタ殿には感謝しかない。 ゼラにメイ、卿らからも感謝を伝えておいてくれ」

「伝えておくよ。 ……で、災いの勇者は何をしてくれるんだい?」


 災いの勇者。 王国を追われる直前、そのような悪名を響かせた勅使河原 空(てしがわら そら)。 懐かしい呼称を聞いて、テシガワラは口角を少し上げた。


「それは──」

「僕から説明するよ」

「では頼む」


 ノキアが一歩引いたことで、皆の視線は自ずとテシガワラに集まった。


「見たところ、ここはやはり空間魔法の影響下にあるようだ。 僕にしか分からない感覚だろうけど、概ね間違いはないだろうな」

「素晴らしい知見だ。 卿がここへ駆けつけたというだけで、すでに多大な恩恵が得られている」


 ウンウンと唸るように言うノキアを横目に、テシガワラは続ける。


「魔法である限りは、それを行使する存在が伴わなければならない。 つまるところ“夜”とは、何者かの魔法による結果だ」

「空間型魔法ってことか?」


 隊員の一人が質問を投げた。


「いや、違うな。 “空間属性の魔法”──これが正しい表現だ」

「空間、属性……だと? それは神のみが行使できるという……? すると、ここはやはり……」


 一つを聞き、そこから数多の可能性を検討し始める調査隊一行。 これこそヴェリア民の性質だ。


「確かに、人間の空間型魔法は神の空間魔法を模倣したものに過ぎないからね。 これが意味するところは……神もしくはそれに類する存在がいるということだろう」

「「「……!」」」


 騒然とする一同。


「驚いてるところ悪いんだけど、実際に神がここにいるかどうかは甚だ疑問だよ?」


 テシガワラの発言にノキアが頷いて見せた。


「厄災が神の忌み子であるという裏付けが強くなるだけかもしれないな。 だがそれも一興。 “夜”が単なる現象ではなく、何らかの存在を介したものであるということが確かなら──」


 ノキアの言葉に、ゼラが続ける。


「──魔竜同様、飼い慣らすことも可能なわけだ。 “霧の魔女”エスナのようにね」


 ノキア先遣隊による本格的な遺跡調査が始動。


「私たちはこれより“夜”の根幹へ至り、厄災の奪取ないしは打倒を以て遺跡都市を解放する」


 エスナによる厄災攻略を契機として、世界は激動のうねりを見せ始めていた。

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