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オミナス・ワールド  作者: ひとやま あてる
第3章 第3幕 Apostles in Corruption
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第102話 ユハン

「私という人間に、大した価値は無い」


 私の名は、ユハン=ヒースコート。 モルテヴァを治める男爵ロドリゲス=ヒースコートの嫡男だ。 私自身、そこそこ腕の立つハンターだとの自負もある……が、上述した内容が私の全てだ。


 幼い頃から上級魔法使いリヒト=アルゼンから魔法の英才教育を受けてきたため、魔法において私の右に出るものはほぼ皆無と言える。 しかしそれは、モルテヴァ近辺までという限られた範囲においてだ。 環境要因に加え、リヒトとモノという特異な従者を引き連れることで、私の力量は私の本質以上に底上げされている。


 特段目立った目標も無い私は、言われるがままにハンターの道を進んだ。 そしてそれは、大きな問題なく現在まで続けられている。 俗にパワーレベリングと言われるような方式でハンターとしての力量を高め、部下から奪い取った多数の功績から名声という形で私に価値が与えられたわけだ。 裏を返せば、私単体ではそこまで価値が無いということにもなるのだが。


 話を変えよう。


 私には義理の妹が居た。 彼女はエマという名であり、妾であるフィルリアの娘だ。


 元々貴族ですらないフィルリアだったが、父上に魔法の才能を見出され妾──側室に迎えられたと聞く。


 正妻ではないフィルリアは、エマとともに別邸に住まわされていた。 当然だ。 本来貴族区画にすら入ることを反対される平民が本邸に住まうことはできない。 しかし特例として、区画の端にこじんまりとした別邸を与えられたようだった。


「ユハン兄様」


 エマとの接触は基本的に無い。 だからこそ、そう言われたのは数えるほどだ。


 エマは初めから控えめな性格だった。 というより、父から誰とでもそう接するよう言い付けられていたのだろう。 彼女からの積極的な発言は聞いたことが無い。


 義妹の存在を認識しつつも、認識から外れてしまいそうな関係性で、私の時間は過ぎていった。


「お前はあれと関わるな」


 ある時点から、父は私にそう言うようになった。 それは、フィルリアに関わる事件がきっかけだ。


 私はある夜、フィルリアが本邸に忍び込む瞬間を目撃していた。 彼女が父の書斎や研究室を物色する一部始終も、だ。 それは別に、監視を言いつけられていたからではない。 眠れない夜に物音を聞いて、興味本位で覗いてしまったに過ぎない。 しかし何よりフィルリアがエマを連れていたことに違和感を禁じ得ず、より詳細に彼女らの活動を観察してしまっていた。 そんな折、父が現れた。


「……どこへ行く?」


 フィルリアが本邸をあとにしようとしたあたりで、父から声が掛かった。


「──その情報を一部でも脳内に秘めた人間は、屋敷から出ることは叶わん」


(情報? 父上は握られてはならない内容を盗まれた?)


 私が推測で思考を回転させていると、やはり戦闘が開始された。


 フィルリアの魔法は見事という他なかった。 彼女は父が執心して止まない魔眼を用いて、数多の攻撃を凌いで見せていた。 しかし、エマの存在が円滑な流れを邪魔をした。


「ユハン、フィルリアを止めろ」


 父は言葉には出さず、視線だけで私にそう伝えてきた。


 私は隠れて見ていたつもりだったが、父には私の存在が露呈していたようだ。 現場に居合わせてしまった私は、父の要請を断ることなどできるはずもなかった。


(“フィルリア、エマを私の方へ投げ捨てろ”)


 私が心の中で念じると、フィルリアの身体が私の意思通りに動いて見せていた。


 私の固有魔法──《君臨レイン》は、言葉で他者を縛る。 それは脳内で発せられた言葉によっても可能であり、私のみが知る技術だった。


「……え?」


 意識の外で行われた自身の行動に、フィルリアは驚きとともに大きく焦りを見せた。 集中力を欠く思考の出現は彼女の未来視精度を下げるとともに、攻撃への対応方法すら杜撰になっている。


「馬鹿が」


 父が吼えた。


 程なくして、フィルリアは地に伏すこととなった。


「エマ、動くなよ?」


 私はエマを人質として抱き、抵抗する力もまた封じている。


(お前も殺されてしまうぞ……)


 エマの耳元でそう囁いた。


 《君臨》も万能ではないため、何かの拍子に魔法が解けてしまわないよう私はエマの行動に細心の注意を払っていた。


 父はフィルリアの記憶を探る。 その過程の悍ましさに、エマの気力が私の魔法を破ってしまった。


「痛ッ……! おい、暴れるんじゃあ──」

「やめてええええ! お母さんに酷いことしないで……!」

「集中できんだろうが! ユハン、そいつを黙らせろ!」

「エ、マ……」


(仕方ない。 手荒な真似はしたくなかったが──“眠れ”)


 私は思い切り拳を振るい上げ、エマの腹部を強打したようにして見せた。 ごく軽い衝撃だけがエマの腹部に伝播した。


「あ゛ッ…………お母、さん……」


 魔法は効果を発揮し、エマは昏倒した。


「《犠牲化リーサライズ》」


 凄まじい量のマナがフィルリアから溢れているのが、マナ知覚能力以外にも肌を通じて感じられる。


「……何をしている? 何を始めようとしている!?」

「あれは……」


 文献で見たことがある。 自らの命を代償に、あらゆる可能性を極限まで──いや、極限を超えて高める魔法だ。 しかしあれは禁忌に属していた魔法のはず。


「《強制契約フォース・コントラクト》。 “今後エマを害する行為を、直接的間接的を問わず、一切……禁じます。 対象はロドリゲス、ユハン、正妻ルッカ──”」

「フィルリアお前ッ!?」


 父は急いで魔法を止めに入るが、もう遅い。 あの魔法は、契約内容の宣言までが一連の魔法だ。 魔法名を告げられた時点で負けている。


 しかし残念でならない。 私までがエマを害する存在と認識されていようとは。


 フィルリアが盗みに入り、それを父が止める。 そこに何ら違和感は無い。 問題はその中身──情報だ。 研究内容が違法なものであれば我が父とはいえ当然罰せられるべきではあるし、だからと言って確認の方法も無い。


 父の統治の手腕は見事だ。 これは紛れもない。 事実、未開域を包囲する町々の中でモルテヴァほど発展した場所は無いと聞くし、民衆の不満も多くない。 であれば、だ。


(父が道を誤ったとき、それを止める材料としてエマの安全を確保しておくべきだろう)


 身体の奥底──魂にまで食い込む契約という

鎖を感じながら、私はそう考えた。


 その後フィルリアは死亡し、騒動に決着が付けたれた。 そこで問題になってくるのはエマだった。


 エマは脳内に情報を抱えているため、邸宅を出ることができなかった。 とはいえ、そのまま軟禁することはフィルリアの契約に違反するらしく、父は渋々ながら情報拡散防止の縛りを解いた。 しかしながら、エマが難を逃れたのはそこまでだった。 元来この町に存在する大規模魔法を解除させるほどの効力は、フィルリアの魔法には無かったようだ。


 エマはモルテヴァ町に囚われ、後に成立した被虐民という身分により間接的に苦しめられることとなった。 父はエマを利用して、契約魔法の効果範囲を検証することに決めたらしい。 つくづく研究にばかり執心する父だと呆れるばかりだった。 そこで私は──。


「“一部屋エマに間借りさせろ。 定期的に低級の治癒ポーションを流してやる。 使わせてやれ。 この内容は記憶から消し、貴様の使命として全うしろ”」


 ──鍛冶屋の男に命令を下した。 私にできることはその程度だったが、そのおかげでエマは死なずに生き続けられた。 ただそれも無駄になるのだがな。 父が最後まで逃げ果せたのだから。


 エマから情報が漏れなかったことで、父は魔人に至るという悍しい研究を完成させてしまった。 結果的に私は父の違法性を指摘できず、エマの苦しみを長引かせただけだった。 二兎を得られないというのが私の人生の教訓か。


「では息子よ、達者でな。 我のために死ぬが良い」


 私はまともな人間に囲まれ、まともに生きたかった。 それなのに最期がこれとは、随分な仕打ちじゃないか。 父を早々に排除しなかった、私の事なかれ主義が原因だろうか。 今となっては、どこで選択を間違えたかは分からない。


 ひとまず、エマをハジメ=クロカワという男に預けて正解だったとは思う。 奴が左道に導かれた存在である以上、エマは運命に翻弄されて死ぬかもしれないが、あわよくば低い確率で生き延びるだろう。 ここに残して確実に死ぬくらいであれば、可能性は薄かろうと奴に託す方が幾分かマシというものだ。


 人生に不満がないと言えば嘘になるが、爺とモノと過ごした生活は決して悪いものではなかった。 命を賭けて未開域を探索するハンター生活など、そうそう得られる経験ではない。 探索の究極目的である魔竜を直接見ることは叶わなかったが、私の活動が後の世に役立つことを祈ろう。


 さて、最後の仕事だ。


(“空間解除を以て、仮死毒アスフィキシアよ反転せよ”)


 私は声に出さず、心の中で命令を下した。


 仮死毒は対象を仮死状態に陥らせることが目的であるが、即席で完成させた魔法のため解除条件の設定までには至らなかった。 仮死に至るだけでは失敗作も甚だしい。


 私はドミナの魔法に介入し、条件設定を強制付けた。 それでも広範囲かつ確実に作用させるには、私の魔法力では足りていない。 そこで意味を持ってくるのが《犠牲化リーサライズ》。 これは魔法の可能性を底上げし、効果は術者が死ぬまで持続する。 一回きりの魔法と思われがちだが、案外そうではない。


 ……そろそろか。


「ぐ、ッ……ぁ……」


 ゆっくりと身体から力が抜けていくのが分かる。 視界は白み、感覚が失われてゆく。 これが、死か。


 父のことはエスナ、貴様に託した。 エマもこの状況を無事に切り抜けられると良いが。


 父を覆う魔法の発動と強大な魔の気配を感じながら、私の世界は幕を閉じた。



          ▽



「《鏡獄アリス・インプリズン》」


 ユハンの行動に思わず驚き、ロドリゲスは隙を見せた。 レイシはそこを見逃さず、即座に魔法を発動させた。


 ロドリゲスを覆う、無数の鏡。 町の各所に設置していたそれらが、一気に彼へ集約されている。


 完全密閉された空間内で、鏡の数だけロドリゲスの姿が映し出されている。 それを見て、思考のために彼の動きが一瞬止まった。


「光、属性──」


 ロドリゲスが言葉を発している間に、彼の身体のあらゆる部分が削れ始めていた。


「……な、に?」


 ロドリゲスも何が起こっているかは分からないが、途轍もない攻撃を受けていることだけは確かだった。


(極限まで攻撃にリソースを振った光線……。 この空間内から逃げずに乱反射を──)


 モノに施された《蓄積鎧ストレージ・アーマー》には、ここまでの過程で相当な防御力が蓄えられていた。 レイシはそれをまず抽出し、攻撃力へと変換。 その攻撃力を魔法として撃ち出すことで、効果的な攻撃手段として機能させていた。


 変換技法は性格が攻撃に寄らない魔法使いがよく用いており、段階を経るだけあって威力は相当に引き上げられる。 攻撃性の高い魔法使いには遠く及ばないが、今回は属性相性もあってか、レイシの魔法は見事な貫通性能を示していた。


 ロドリゲスが無数の光に全身を蹂躙されている。 彼がそう気付いた頃には、その身はもはや残骸にも近い形状へと変貌を遂げていた。


「最後に立ってるやつが、勝者なんだよね」


 カラン──。


 黒い魔石が転がった。


 レイシが魔法を解くと、そこには魔人の心臓とも呼べる魔核が鎮座している。 周辺には、無惨にも弾け飛んだロドリゲスの細かい地肉。 あとは静寂だけが残るばかり。


「……どうなったので?」

「領主は死亡。 結末なんて、案外あっけないもんだよね」

「そうですか……」

「じゃ、あんたはもう動けるからさ。 領主の魔核が残ってるから砕いてきて」

「は?」


 モノは思わず怒りを表に出してしまった。 行動不能で長期的に放置し続けたかと思いきや、今度は駒使いだ。


 レイシは相変わらず鏡の中に引きこもって動かない。


「えっと、なに? トドメを刺すの栄誉はあんたにあげるって言ってるんだけど。 早く処理しないと面倒なことになるよ」

「チッ……」


 モノは舌打ちしつつ、気怠げに身体を持ち上げた。 負傷は未だ大きく、起き上がるだけなのに相当な時間が掛かってしまう。


「んじゃ、よろしくー」

「どうして私がッ……」


 レイシは渋々動き出したモノの背中を見送る。


「死亡って言ったけど、実際は核を壊してようやく勝ちなんだよね。 それを知らないモノでもないと思うけどさ。 魔核に触れちゃったら最悪取り込まれちゃう場合もあるし、魔法を無効にできるモノなら適任なんだよね。 って内容をありのまま伝えても話がややこしくなるだけだし、こんな時は黙って行かせるに限るわー」


 レイシは鏡の中でモノの帰りを待つ。 ここでまた鏡を生成しても良いのだが、いかんせんマナも枯渇気味だ。 鏡に潜んでいる間もゴリゴリマナは削られるし、先ほどの一連の攻撃で大量にマナを消費してしまった。


「魔核を踏み潰せば任務完了だし、息吹も立ち込めたままだから、待ってればいいね。 それにしてもモノはかなり使えるから、これが終わったら仲間にしてあげてもいいかな」


 そんなレイシの意図など知る由もなく、モノは霧の中を教えられた場所まで歩いていた。


「たしかこのあたりのはずですが……」


 破壊の限りを尽くされたモルテヴァは、彼女の見知った場所では無くなってしまっている。 そのため霧を掻き分けながらの進行となる。


 ぐちゃり。


 モノが目的地付近で彷徨っていると、足元に触れる嫌な感覚があった。


「肉片……ということは、このあたりで間違いないですね」


 モノは気持ちの悪さを押し殺しつつ、肉片の密度が高い方へ進む。 すると、見つけた。


「これが、領主様の……魔核」


 拾い上げて見てみると、鎧越しでも分かるほどに魔核から禍々しいマナが漏れ出していた。


 モノは自身の魔法無効化能力がゴリゴリと削られているのを感じつつ、魔核を持った右手を無理上げる。


「……え、っ……?」


 その際、モノは視界の端に()()を捉えてしまった。 彼女の心臓は、不快な締め付けを感じている。


 モノは肉片を追うのに夢中で見逃していたが、彼女のすぐそばには膝の高さほどの黒いシルエットがあったのだ。


 レイシは、そこで行われたやり取りの一部始終をモノに話していない。 ただロドリゲスが死亡したという内容だけが、モノに伝えられたのだった。


「あ……あぁ……あぁアアアア……」


 震えた声が、モノから漏れた。


 モノの思考が、目の前の現実を拒絶するように動作を止めている。


 その時、風が吹いたように大きく霧が流れた。 一瞬、シルエットを覆う霧が薄まった。


「あ……ユ──」


 モノが見間違えることはない。 正座のような姿勢で項垂れてはいるが、そこには彼女の主君が亡骸として置かれていた。


「──ユハン、様……!?」


 モノは魔核を壊すことも忘れて、半狂乱でユハンに寄り添っていた。 無理矢理に抱き起こされた彼は呼吸をしておらず、全身も冷たく硬直し始めている。


「……えっ……ああ、そんなッ……」


 モノは過ちに気付かない。 彼女の握っていた魔核がユハンに触れていたことを。 魔核が肉を破って彼の内側に沈み込んでいることを。


 び、ちゃ──。


「……え、なに?」


 ユハンを抱きかかえるモノの向こう側。 ユハンの足元には血溜まりが広がっている。 かと思えば、視界がグルリと回転した。


 ガチャン、と金属が地面に触れる音。 金属音が続く。


 モノは首元に熱を感じたが、異変を確認しようとする腕が思うように動かない。


(あ、れ……)


 モノはそう声に出したつもりだが、口元が動くのみで音はそこから漏れなかった。


 意思とは関係なく回転する視界。 その中でモノは、自らの身体を遠方に確認した。


(え、ッ……?)


 首の無い鎧甲冑。 首元には、血に染まったユハンの腕が見えている。 そうすると、現在モノはどのような状態なのかが分かる。


 常に聞こえる金属音は、兜を被ったモノの頭部が地面を転がっていることを示している。


 モノは自らの状況を次第に理解して震える。 死が、そこにあるのだから。


(なん……で……)


 モノの頭部が瓦礫に引っかかり、動きを止めた。


 ユハンが黒く染まり始めている。 それと同時にモノの視野も求心性に狭まり、彼女の耳には聞いたこともない高らかな主君の声が。


「フハハハハハハ……! 素晴らしい! 素晴らしいぞ!」


(……私の……ユハン、様……が……──)


 モノの意識は急速に薄れ、絶望が全てを染め上げた。 もしかしたら、即死させられていた方が彼女にとって幸せだったかもしれない。 そんな彼女の虚ろで散大した瞳に映るのは、ユハンの声で猛りを振り撒くロドリゲス。


「これぞ魔人! これぞ至高の存在! 流石は我が息子だ! この身体、実に親和性が高いッ!」


 ユハンの肉体に潜り込んだロドリゲスの魔核は、真っ直ぐにユハンの心臓を目指していた。 そして心臓をまで到達すると、根を張るようにマナを巡らせ全身を支配した。


「それに、なんということだ! 老いていた身体など、初めから無かったかのような解放感と充足感がある! 魔人としての力を保持したまま、よもや若き身体にまで転生出来ようとはな……!」


 ロドリゲスは歓喜に震えている。 当然だろう。 死を超克できるだけではなく、若さまで手に入れられたのだから。


「優秀な女を孕ませ、子の身体を頂く。 これを繰り返せば、ククク……。 これで我は、永遠を得るだけでなく最強の魔法使いを作り上げることさえできるッ! そのためにまず──」


 《死亡遊戯コロッセオ》は未だ解除されていない。 生き残りがいるということだ。 ひとまずロドリゲスはモノがやってきた方面へ足を向けた。


「……やはり来たか」


 ロドリゲスは魔導書を展開させ、慣れた手つきで捲る。 視線を頭上に固定させながら。


「お前は邪魔だ、消えろ……使徒よ」


 強大な影。 霧の中にうっすらと姿を映すそれは竜の形状を誇っており、ロドリゲスの左眼がその輪郭をハッキリと認識できていた。


「《滅波ルインウェーブ》」


 黒く渦巻く球体。 ロドリゲスはそれを手に、魔竜へと向けた。


「同じ左道とはいえ、容赦はせんぞ?」


 轟。


 爆鳴とともに、凄まじい衝撃波が駆け抜ける。


「この時代、実態の知れているお前はもはや脅威ではないな」


 衝撃が明けると、そこは視界明瞭な空間。 ロドリゲスを中心にすっぽりと霧が払われている。


「霧に乗じることでしか移動できぬお前は、霧を取り除けば無力そのもの。 そこで我の勝利を黙って見ているが良い。 全て消し去られたくないのであれば、な」


 魔竜はロドリゲスの行為が不快だったのか、霧の中から静かに彼を睨み続けた。 しかしもう一度彼に腕を向けられ、諦めるように霧の向こうへ引き返していった。


「魔竜といえど、所詮は獣か。 これが終われば、我の愛玩動物として飼い慣らしてやるか」


 ロドリゲスは生き残りを探すべく魔導書を捲った。


「ほう……」


 ロドリゲスの指がとあるページで止まり、思わず息を漏らした。


「本当に面白いな。 我は身体を乗り換えるごとに強くなれるらしい」


 くつくつと漏れる笑いを抑えることなく、ロドリゲスはその魔法は高らかに唱えた。


「《君臨レイン》! “隠れ潜む卑怯者よ、我の前に姿を現せ!”」

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作者の執筆力に繋がりますので、ギモン・シツモン・イチャモンなど、良いものも悪いものもどうかご意見よろしくお願いします。

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