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オミナス・ワールド  作者: ひとやま あてる
第3章 第3幕 Apostles in Corruption
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第99話 消耗戦

「な……ガ、ぁ……ッ」


 無数の斬撃を受け、ロドリゲスの全身は激しく損壊していた。


「……と、所詮は我を完全に滅するとまでは……いかないわけだが」


 肉体は大ダメージを受けているというのに、ロドリゲスは焦りを見せない。


「ハァ……ハァ……。 四肢を捥いだわ。 この場合六肢だけど、これでもうあなたは、魔法を使用できない」


 ロドリゲスからは、魔導書は具現化されていない。 周辺に転がっているということはない。 ここから彼が魔法を使用したいなら、口でも用いなければ魔導書を捲ることすら困難だろう。


 それにしても呆気無い幕引きだ、とエスナは思う。


「確かに、な……。 ここまでやられたのなら、死んでいてもおかしくは、無いだろう。 そう、本来であれば」

「……本来?」

「魔法を使えぬだけで、我が負けるとでも……思っておるのか?」

「使えないし、使わせないわ」


 エスナは相変わらず複数の刃を構えたままロドリゲスを見下ろす。 ひとたび彼女の思考が切り替われば、彼は容易に切り裂かれる。


「まさか我の魔法が、コールマジックだけだと? 無知蒙昧め、笑わせてくれる」


 フッ、とロドリゲスは嗤った。


 気づけば、ロドリゲスの身体の直下で魔法陣が発動の予兆を見せている。


 魔導書からの魔法ではない。 ということは──。


「セットマジック……!」


 魔導書から魔法を読み出すコールマジック。 術式発動速度を重視した結果生まれたそれは、元を辿れば術式描写のセットマジックに端を発している。 発動までの手順が煩雑だが、セットマジックはあらゆる点でコールマジックを凌駕する。


 ロドリゲスは攻防の最中、予め用意していた魔法陣の真上にやってきていたわけだ。 そこに際してエスナから致命傷を受ける必要性は皆無だったのだが、結果彼は目的の場所に居た。


「そろそろ、だな。 遊びは終わりだ。 ここまでの行いは全て、初期化される」

「発動なんて──」


 エスナは全力で霧の刃を振るった。


「──させない! これで……!」


 《断絶セヴァレンス》を纏った無数の刃が、問答無用でロドリゲスを切り刻む。 にも関わらず、魔法陣は輝きを失わず、むしろより多くの光を湛え続けている。


 エスナは知らない。 セットマジックを止めるためには、そこに込められたマナ以上の出力で魔法陣に向けて魔法をぶつける必要があることを。


 魔法は問題なく作動し、いかんなく効果を及ぼし始める。


 斬。


 エスナは一際力強い太刀で以て、ロドリゲスの身体を切断した。 しかし、やけにその身体が柔らかく感じた。 もしエスナが刃で直接彼を攻撃していたのなら、違和感に気づくことができたかもしれない。


 はたり、とロドリゲスの上半身が地面に転がった。


 エスナは物言わぬロドリゲスをしばらく眺め続ける。


 数秒置いてロドリゲスの身体が風化するように消え始めている。


「んグ、ッ……!」


  エスナの緊張が解け、忘れていた痛みが彼女を苛む。


「ハァ……ハァ……。 これ、で──」


 その時だった。


 ぞわり。


「……は?」


 強大な存在感は、どれだけ隠しても漏れ出してしまうもの。 エスナは不気味に迫る何かを即座に認識し、痛みも無視して直感的に回避を選択した。


 エスナの顔面を、するりと通り過ぎる何か。


「あ゛ッ……!?」


 ずきり。


 エスナが痛みの生じる左目に触れると、生暖かい液体の感触がある。 というより、構造物に触れられなかったと言うべきか。 そこに座しているはずの眼球、そして眼窩。 それらがすっぽりと抉り去られていた。


「ぎ──」


 思わず悲鳴が漏れた。


 ともかく、ロドリゲスはエスナの背後に居た。 彼の手に血みどろの眼球が握られていることから、それは間違いなかった。


「生娘のような声を上げおって。 今更人間ぶっても気味が悪いだけだ」


 エスナは痛みを押してその場からの離脱を試みた。 そうしてようやく、ロドリゲスの全身を視界に捉えることができた。


「ぁ……ッ! 何、が……起こって──」


 痩躯に四本の腕。 全身を黒く染めて、発せられる声はロドリゲスのもの。 恐らく彼で間違いないが、先程までの体型とは大きく変化が見られている。


「可能であれば両眼を奪いたかったが、片方だけでも十分な質と可能性を秘めている。 それだけでも良しとしよう」

「何を、言って……」


 ロドリゲスはエスナから取り上げた眼球を胸の辺りに押しつけると、それはするりと消えてしまった。


「魔眼作成に我は執心しておってな。 ただ、それだけのことだが」


 ロドリゲスはそう言って魔導書を具現化。


 姿が変わったこと、そして本格的に魔導書を手にしたこと。 ロドリゲスが本気になったということだろう。


 エスナは急遽、周囲から霧を動員して攻撃に備えた。


 どのような攻撃が来るか分からない状態で、無防備に受けるのは危険すぎる。 エスナはそう考えて、即座に回避行動に移った判断を誤った気がした。


 ロドリゲスはその場から動くことすらなく、単にその魔法を唱えた。


「《滅波ルインウェーブ》」


 膨大なエネルギーがロドリゲスに集中していく。


「……なん、で?」


 エスナには、はっきりとそう聞こえた。 しかし彼女には、何やら違和感があった。


 違和感の元へ辿り着くべく、エスナの思考が驚くべき速度で駆け巡った。


 これは先程見せた範囲攻撃で間違いない。 しかし、ロドリゲスが意味も無く既知の魔法を使用するだろうか。 エスナ単体に向けるのなら、もっと効率の良い魔法があるはずだ。 先程ロドリゲスが発動させたセットマジックとの兼ね合いでもあるのか?


 範囲攻撃を行うのであれば、複数の対象を狙いと定めているに違いない。 そう考えてエスナが意識を外に向けると、《万霧万象フォグ・ハオルシア》を介して複数人の接近を捕捉した。 どうしてここまで知覚が遅れたかといえば、ロドリゲスの口車に乗せられて周囲の霧を遠くに追いやってしまっていたからだ。 現在は手元に霧を集めているために、そこを経由して感覚を広げられている。


 ドミナたちが領主討伐を意図して動き出したのか? そうであったとしても、ロドリゲスの対応が早すぎる。 この場合はむしろ、因果関係が逆。 そう思い当たった時点で、エスナは魔法を発動していた。


「《凝集アグリゲーション》!」


 全ての霧が、途端に姿を消した。


「む……?」


 ロドリゲスの視界が途端にクリアになり、エスナと同様に周囲の状況が判断できるようになった。


 霧の変化は拡散されつつある《滅波》の動きよりも早い。


「──《断絶》」


 霧はロドリゲス以外の者へと纏い付き、断絶障壁へと姿を変えた。 それと同時、殊更に威力を増した衝撃が再び全てを飲み込んだ。



          ▽



 エーデルグライト王国、王城──。


「ヒースコートめ、やってくれたな……」


 国王カイゼル。 普段あまり怒りなど表出しない彼が、珍しく額に青筋を立てていた。 原因は、サーチアイを通した映像の中にあった。


「あれは確か、十数年前に王城から盗まれた“理外魔法”《万に一つ(リィンカーネーション)》ではありませんか! ついぞ見つかることはありませんでしたが、まさか男爵が隠し持っていようとは……!」


 宰相デノイが驚く。


 王国が勇者召喚に際して理外から引き込んだ神の力。 それが、“碑文エピタフ”。 使用することで魔法を覚える事ができるというシロモノだ。 その碑文には《万に一つ》が封じられていた。


「リィ……ン? なんだそれ。 スワ、知ってるか?」

「知るわけないでしょ」


 初めて聞く魔法名に、フミヤが疑問を口にした。 当然、スワも知ることはない。


「神代の魔法。 王国が神から受け取った叡智の一つ。 複製不可能な、人類には手に余る力だ」


 カイゼルが吐き捨てるように言う。


「神、ねぇ……。 ってことは相当すげぇ魔法なんだよな?」

「一万の魂と引き換えに、死を超克するというものだからな。 凄まじいことに違いはない」

「魂? どういう意味だ?」

「人間一万人を殺害するということだ」

「へー、いいじゃん! 俺もそれ欲しいんだけど!」

「たわけ! 不利益なしで使えるわけなかろうが。 それに、あの類の魔法は使用者が一人に限定される。 使用者を殺さねば奪い返すことはできぬ」

「へー。 よくわかんねーや」

「あんたもそろそろ考えなしの発言やめたら?」

「うるせえっての。 なんか色々面倒くさそうだし、不利益があるのは確かに嫌だよな。 で、そんなもんが何で一介の男爵に渡ってんだ?」


 フミヤは次を促す。


「賊が入ったのだ。 首謀者がヒースコートとは思わぬが、首謀者と繋がっていたのは確かであろう」


 むんすとカイゼルは座り直した。


「各領地に間者を送り込んで調査を続けておりましたし、ヒースコート領も例外ではなかったはずですが……ようやく尻尾が掴めましたな。 これで、色々と関係性を辿ることはできるかと」

「うむ。 あれやこれやと理由をつけて内部査察を断っていたのは、こういうわけだったのだな……あの愚物めが」


 カイゼルは暴君としてのよく知られているし、考えなしのと取れる治政も多い。 しかし実際のところ彼は非常に用心深い人物であり、常に各領地を監視して情報を集めている。


 王国の諜報員は、生きた情報を王に流していた。 ロドリゲスおよびヒースコート領に関す情報も、当然そこに含まれる。そこでロドリゲスは情報を仲介する人物を洗脳操作し、独自の研究などを知られないようにしていた。


 研究すること自体は法に触れない。 ただし、研究内容や成果などは王へ報告する義務がある。 とりわけ魔法に関する研究は絶対だ。


 ロドリゲスは秘密裏に違法な研究を続け、あまつさえ報告義務すら怠っていた。 そんな状態も長くは続かない。 具体的には、諜報員が情報を直接持ち帰ろうとロドリゲスの機密保管庫へ侵入する事件が発生した。 ところがロドリゲスは、それさえも封じて見せた。 彼の無数の策が王の意図を封じ続けた。


 ロドリゲスは研究発表の場を用意すると称して時間稼ぎを続けた。 王を満足させるに十分過ぎる成果を献上する、と。


「んで、今まさに見せつけられてるってわけか」

「どこまでも余を愚弄しているな」

「放置はできねぇよな。 ここまで宣戦布告されてちゃあよ」

「当然だ。 だからフミヤにスワよ、お前たちに指令だ」


 カイゼルは神妙な面持ちで二人に言い放つ。


「ヒースコートを抹殺し、件の魔法が込められた碑文を回収せよ。 次いで、ここに映る者たちも全て消してこい」

「行ったり来たり、忙しくて仕方ねぇな。 まぁいいぜ。 行ってきてやるよ」

「……了解」

「お前たちならこの魔人程度、造作も無く屠れるだろう。 スワ、お前なら尚更だ」

「……」

「期待されてんぞ?」

「うっさい」


 からかうフミヤに、スワは本当に嫌そうな声で返した。


「デノイ、委細は任せた。 余はこの戦いを観察するでな」

「畏まりました」


 デノイに連れられ、二人は部屋を出た。


 扉から出る直前、スワはカイゼルを見た。 それはまさに、彼が怒りで腕を振り上げている瞬間だった。


「ん? 何の音だ?」

「コップでも落としたんでしょ」


 スワは破砕音を背中に聞きながら、仕事に向かった。



          ▽



 ズザ──。


「く、っ……」


 エスナは至近距離の《滅波》にも耐えた。 しかしながら全てを受け切ったとは言えず、貫通したダメージが彼女の膝を折れさせた。


「……これも耐えるか。 凄まじい防御性能であるばかりに、尚更残念──だ」

「あ゛ッ……!」


 ロドリゲスは素早くエスナに近づき、無感情に殴りつけた。 《限定強化ディフィニット》効果を維持している拳は障壁を簡単に突き破り、彼女を顔面から殴り飛ばした。


「何だ……?」


 ロドリゲスは自身の拳を見た。 そこに何ら変化はない。


(おかしい)


 ロドリゲスはエスナの頭部を引き裂く勢いで殴ったはずだ。 必殺の威力が込められていたのだ。 その上で障壁さえも無視しているというのに、彼女はただ吹き飛ばされるだけに留まった。


「であれば、死ぬまで殴りつけ──」


 衝撃がロドリゲスを叩く。


「──と、小賢しいばかりで意味は無いと理解できぬのか、雑兵どもよ?」


 鋭く睨んだ先には、追撃を構えたニナ。


「《排斥リジェクション》」


 ロドリゲスの視界が空転。 身体が強制的に数十メートル浮き上げられていた。


「っがァ! 《ルイン──ッ!?」


 全身が痙攣し、魔法発動が強制停止。


「カチュアか、面倒ナ──」


 カチュアの雷撃は必中無比。 ロドリゲスといえど、強制的な筋収縮では魔導書を取りこぼし発語さえ遮られる。


 次いで、ロドリゲスの腹部付近に出現する風の塊。 見上げるとそこには、カチュアをそばに置いたまま落下姿勢で魔法を唱えるフエン。


「《風爆エクスプロード》」

「グは……ッ」


 背中に伝わる衝撃。 肺から押し出される空気と呼吸困難間から、ロドリゲスは自身が地面に叩きつけられたことを自覚した。


(鬱陶しい……)


「ァ、が」


 動き出そうとすればカチュアによる行動制限。 そこに叩き込まれる追撃。


(鬱陶しい、鬱陶しい……)


 ラフィアンの拳。


 ロドリゲスが反撃のために無理やり腕を振り回すと、殴りつけているのはラフィアンではなく、脆弱な魔物に入れ替えられている。


「チッ」


(あのメイとかいう小娘……。 あれの生み出した魔物は、回復の対象にならない)


 雷撃。


 ゼラの魔弾。


「ッ──」


(流石にゼラの攻撃は少し効くようだ)


 雷撃。


 終わらない攻撃と雷撃の応酬。


 ロドリゲスはもはや抵抗せずに攻撃を受け続け、その間に思考を巡らせる。


(一番厄介なのはカチュアの雷魔法だが、ダメージはごく微量。 追撃も含めて、我に傷を叩き込むことが可能なのはゼラの魔法くらいだ。 ただしそれらも、我を殺せるほどではない。 エスナであれば単品で我を傷つけるが、無粋な羽虫に霧のリソースを吐いた時点で脅威性は激減している。 とにかく、情報を引き出す関係上、エスナを殺すのは最後だ。 今はただ、奴らのマナ枯渇を待つのみ……)


 身体をまともに動かせないロドリゲスは、自身のマナ知覚能力と視線で情報収集に注力。 今後の行動指針を明確化する。


(カチュアが我の魔法を遮ったことから、《滅波》は未だ有効だということだろう。 そこから導き出される結論は……エスナの防御魔法が機能していないということ。 我の魔法発動を許せば、奴らは一瞬で瓦解する)


 ロドリゲスは、ノロノロと身体を引き摺りながら離れていくエスナを見てそう確信する。


(現状奴らの一大攻勢の軸となるのは、やはりカチュアだろう。 奴が我を留め続けなければ、一人ずつ確実に処理されて終わるからな)


 痺れによる行動制限。 これにはロドリゲスも手を焼いている。 これがある限り、まともな動作は許されない。 しかし、それ以上に緊張を強いられているのはカチュアの方だろう。 マナの枯渇を心配しながら、マナが継続するリミットの中でロドリゲスを倒す手段を模索し続けなければならないからだ。


(次に重要な位置を占めているのは小娘とフエンの二人。 いや、ニナとかいう女を入れて三人か。 機動力と手数で攻めて来ているところを見ると、我の弱点を理解しているというわけだな。 その上で削り切れると信じている。 愚かな……。 数匹の羽虫がどれだけ頑張ったところで小動物すら殺せんというのにな)


「《滅──ッ」


 やはりカチュアの魔法によって発動は叶わない。


(ただ待つだけというのも、奴らに悟られてしまうからな。 我の魔法が発動できれば一瞬で片がつくのだから、攻撃しないに越したことはない。 さて──)


 積極的に動いているのは、カチュア、フエン、ニナ、ゼラ、メイ、そしてラフィアン。 ロドリゲスは、見える範囲にいる者たちの能力を把握してゆく。


(エスナは一旦逃げたか。 とはいえ、あの負傷では満足に動けず、ここから立て直すのは至難。 無視して良いだろう。 トキスとユハンなど、姿を見せない者も同様にな)


 《死亡遊戯コロッセオ》は現在、限界域を町の内側にまで狭め始めている。 そのためロドリゲスから姿が見えない者も、区画の高低差で姿を隠すくらいが関の山だろう。 その程度であれば、ほぼ万全な状態にまで回復したロドリゲスが誰かを逃すことはない。


「《滅──」

「《雷撃》……ッ! え、っ……?」


 綻びは、ほんの些細なミスから。


「──波》……ん?」


 これにはカチュアとロドリゲス、両名が驚いた。 カチュアは自身の魔法が不発だったことに、ロドリゲスは魔法が呆気なく発動してしまったことに。


 カチュアは魔法を連続使用するあまり、魔導書に込めるマナ管理が不十分だった。


「フエン、離──」 


 発動速度を重視して、最小限の規模で解き放たれる黒い波動。 それでも、付近に存在する者にとっては十分すぎる凶器となる。


 まずは直近に居たラフィアン。 追撃を加えようとしていた彼が波動に飲まれた。


「クッソが……──」


 リセスから抗体を得ていたとはいえ、魔法の才を持たない彼が魔法防御の恩恵を被ることはそもそもない。 純粋な魔法の効果を全身に容赦無く叩きつけられる。


「ごめんなさい、ラフィアン。 死ぬかもしれないから、先に死んでちょうだい。 多少のダメージといえど、回復を繰り返されるとマズいのよ」


 商業区画から様子を探っていたドミナ。


 衝撃に浮かされるラフィアンには、ドミナの毒が一瞬で全身に巡った。 ドミナによる死が、ロドリゲスの攻撃によるそれの先を行く。


「ラフィアンから霊薬ソーマを回収していて正解だったわ。 そうじゃなかったら、今ので砕けていたはずだから。 それにしても、メイは流石ね。 マナの総量もすごいけど、何より盤面をしっかり見ているわ」


 次に《滅波》を浴びたのは、攻撃直後のカチュアと、《浮遊フロート》と同時に魔法を発動できないフエン。 そこから攻撃を回避する余裕は無い。


「……お前はやはり、看過できんな」


 カチュアとフエンの姿が掻き消え、魔物二匹と入れ替わった。 当然、魔物は粉々に砕け散る。


 ロドリゲスが周囲を見えたしたところ、メイの姿はない。 その代わり、目につくだけで十数の小動物が遠く離れて監視している。


「これだけ見られていれば、向こうに利があるか。 ……ようやく痺れも解除された。 行動再開だ」


 行動を縛る最大の要因が取り除かれ、封じられていた魔が動き出す。


「《犠牲弾バレット》」


 ロドリゲスは手元に魔弾を出現させ、少し遊ばせる。


「《分散配置ディスパース》」


 続いて、魔弾が無数の細かい球体に分かれ始めた。 複数回魔法を発動させるより遥かに時間効率良く、ロドリゲス周囲に魔弾が現れている。 小型化しただけあって魔弾一つ一つの強度は落ちるが、本来の威力が凄まじい《犠牲弾》では関係の無い副作用だ。


「さぁ、出てこい」


 ロドリゲスは魔弾を上空に向けて放出。 無数の魔弾が弧を描きながら舞い上がると、無機質に町中に落下し始めた。


 さながら絨毯爆撃にも近いそれらは、無差別に、これ以上ない程に町を蹂躙した。 それも一度や二度ではない。 魔人の底知れないマナ総量で以て、塵一つ残さないよう丁寧に地表を洗い流す。


「《連続魔法シースレス》──《闇弾バレット》! メイも魔物で攻撃を誘発起動させろ!」

「あ、あい……!」


 降り注ぐ脅威を数発回避したとて、着弾から拡散される衝撃の規模があまりにも広い。 いち早くそれを認識したゼラは、着弾前に魔弾を撃ち落とすことで最悪の結果を遠ざける。


 トキス姉妹も同様に魔弾への対処を続けていた。 しかし撃ち落としたと確信した魔弾と同じ軌道を辿って落下してくる攻撃を想定していなかった。


「リセス、急いでそこをッ──」

「……え?」


 リセスの背後。 ほぼ直撃に近い形で悪意が爆ぜた。


「リセス、ごめんね……」


 吹き飛ばされる妹を目線で追いながら、ドミナは自身への脅威も排除し続けなければならない。 つまるところ、救出は二次被害を生みかねない。


「──これは……駄目かもしれないわ、ね……。 ニナ!!!」


 敗色濃厚と悟ったドミナだが、勝ちの可能性を残すためにその名を叫ぶ。


「戦えない者、死にそうな者を空間範囲外へ! 私の探知範囲を離れた全員を毒殺するから!!!」


 思いがけない緊急事態に、ドミナは用意していたカードを急いで切る。


「《排斥リジェクション》」


 ニナの声。


 風の塊とともに、目の前のリセスが掻き消えた。


「これで……」


 リセスは退場だ。


 ドミナは毒でマーキングしている者の位置を把握することができる。 そんな彼女の知覚範囲から反応が一つ消えたのを確認し、毒は作用する。


 ラフィアンに続き、リセスは二人目。 と言いたいところだが、奴隷区画出身のうち町中に残っているのはニナだけだ。


 止まない爆撃。


「ま、待って……! これって……」


 不幸は重なる。


 逃げ回る中で、ドミナは異常に気がついた。 大量の霧がまさに町を飲み込もうとしていたのだ。


「霧、って……!」


 ただでさえ危機的状況だというのに、霧で視界を塞がれては状況が悪化するのは間違いない。


 恐らくはエスナの策略だ。 ドミナはそう思い込もうとしたが、とてもそうは思えない。


「あ゛ー、無理無理! とても状況が好転するはずないッ! エスナは何してんのよ!?」


 ドミナは半狂乱に叫んだ。


 現状逃げ回ることで精一杯な彼女たちに、共闘などという理想は到底叶いそうにない。 そうなると、各自が最善と信じる行動に移るほかなくなる。


「もういい、勝手にやってなさい!」


 脅威はそれだけではない。


 ドミナたちのもとに、解き放たれたロドリゲスが音も無く迫っていた。

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