第92話 円形闘技場
「馬鹿が、手こずらせおって……」
ロドリゲスの足元には、ぴくりとも動かなくなった白い存在が転がっている。 頭部を支えていたはずの両腕も大きく広げられ、昆虫のような最期を遂げている。
「《身供転輪》で消滅しなかった外来種がここまで邪魔立てしてくるとは予想外だった……。 おかげで腕の二本が失われたではないか」
ロドリゲスの四本ある腕のうち、追加で生えていた二本が上腕部分で醜く腐り果てていた。 これは、断末魔の如く放たれた最後の放射を受け止めてしまったためだ。 白い存在はそれを最後に動きを停止させ、それ以降頭部の魔石からもマナを感じなくなっている。
「魔法効力が失われる前に住民どもを再度摂取すれば良いだけのことか。 我が熟させた栄養源は未だ無数に居る。 とりわけハンター連中は栄養価が高い。 そのために奴らを町の外へ追いやっていたのだからな。 それはそれとして──」
ロドリゲスに残された問題は、逃げ出した者たち。 逃げ出したことそれ自体は大したことではない。 そこに関連して発動させた魔法によって、動きが制限されていることが目下解決すべき課題となっている。
「《死亡遊戯》を発動させたことが裏目に出たか……? いや、我に叛逆した者どもを殲滅することは必須。 奴らを逃せば、今後の我の絶対統治に支障を来すだろう」
《死亡遊戯》は対象者を閉じ込める強制戦闘区域。 拘束すること以外に効果は無いが、条件達成前の脱出は死を意味する。 脱出条件は、発動者が死ぬか、それ以外が全員死ぬかの二択。 発動者には基本的に不利な条件だが、それだけの負債を負いつつも発動するからには相応の恩恵もある。
「……では、順次始末して回るとしよう」
ロドリゲスは白い存在を踏み潰すと、未開域に向けて歩き出した。
▽
「まじか……」
ハジメは急いでモルテヴァの方面を仰ぎ見た。
「ハジメ、どうしたの?」
「使徒の反応が消えた。 これは、領主が勝ったってことだろうな……」
「それならすぐにやって来るです。 奴はかなりの機動力を誇ってたですから」
フエンは直前まで、苦痛出現地点を経由しながら《死亡遊戯》の効果範囲を確かめていた。 それと同時に、ロドリゲスの戦闘風景から彼の能力を探っていた。
「フエンちゃん、空間範囲はさっき聞いた通りで間違いないのね?」
「範囲が流動的じゃないって前提ですけど」
「この効果範囲で流動的ってことはなさそうね。 ひとまずフエンちゃんが魔石を埋めてくれてるから、そこを暫定範囲として越えないようにしましょう。 あとは陣形だけど、意見ある人は?」
エスナはざっと周りを見渡した。 現在ここには、エスナ、フエン、ドミナ、モノ、カチュア、ニナが集まっている。 ハジメとエマは戦闘には加わらないということで内容が纏まっている。
「エスナはロドリゲスからヘイトを買ってるし、防御系だから前衛よね。 モノも魔法無効化できるから前衛ね。 他は居なさそう」
ドミナの意見に対して前衛を希望する者は現れない。
「私はそれで構わないのだけれど、モノは魔法で強化された物理攻撃までは防げないよね? 大丈夫?」
「ユハン様の回復は間に合いそうにありませんのと、前衛不足の観点から私もその方針で構いません」
エスナの発言に、モノは肯定で示した。
次はドミナが方針を語る。
「ゼラとメイがここに参加していないのが不穏だけど、まぁいいわ。 残りのメンバーで機動力に期待できそうなのはフエンとカチュア、あとはニナ含めた奴隷区画の人間だけど、どうかしら? 私は攻撃力しかないから完全な後衛に徹するしかなくて申し訳ないんだけどね」
「ドミナはリセスを連れて後衛として動いた方が良いかな。 フエンちゃんは一番機動力があるし全体的な補助に回って欲しいから、カチュアかニナが後衛ね。 その上で、ニナの魔法は不安定性が拭えないから、ダメージソースという意味でも後衛はカチュアで決定ね。 機動力の面でもニナは優れてるし、遊撃が最適だと思う」
「ユハンは私が一緒に抱えておくってことでいい?」
「そうしてくれると助かるかな。 現状で一番役に立てないのは彼だからね」
「エスナ、あまり無礼な発言は看過できません」
「こんな状況で地位がどうとか言わないでもらえる? 実際に彼の魔法は役に立たないんだから。 犠牲魔法でも使ってくれるなら少しは期待できるのだけれど、一番重症な彼がそこまで出来るとは思えないの。 使い捨ての役割を宛てがわなかっただけむしろ感謝してほしいくらいよね」
「貴様、言わせておけば……!」
モノは怒りを隠そうともせず、腰の大剣に手を伸ばした。 ドミナがそれを制する。
「もう、喧嘩しないで! エスナも煽るのはやめてちょうだい」
「はいはい、気をつけるわ」
それでも殺意を向けたままのモノに対して、エスナは飄々とした態度を続ける。
(エスナって、こんな嫌な女だったっけ? とにかく、女同士の喧嘩には関わるべきじゃないな)
ハジメとしても話が平行線のまま戦闘に突入されるのだけは避けたいため、黙って動向を見守る。 これからの戦闘に関わる気は無く、さっさと解散させて欲しいというのが本心だ。
「……チッ、生意気な人間紛いに従うのは癪ですが、今は引いてあげましょう」
「懸命な判断ね。 じゃあここからは、お互いのために」
「ユハン様のため。 履き違えないでください」
犬猿の仲の二人だが、その足取りは同じ方面へ向けられている。 二人が見据えるのは、地平の端からゆっくりと歩み寄るロドリゲス。 エマもそれを見てハジメに寄り添う。
「あんな調子で大丈夫かしら? まぁ、条件は同じわけだし何とかなるか。 ……ねぇ、ハジメ君?」
「えっ、あ、はい!?」
「早くエマと逃げちゃいなさい。 ここからは血生臭い殺し合いになるからね」
「わ、分かりました……! でも、ドミナさんは……」
「多分大丈夫よ。 ハジメ君のお友達もいてくれるしね」
「そう、ですね……」
「今後、ハジメ君と身体を重ねられないのだけが残念なところだけど」
「ハジメさん!?」
エマはここ一番の驚きの表情を見せるとともに、真偽を確かめるようにハジメの目の奥を覗き込んだ。
「エマ、ちょっと待て! ドミナさんも変なこと言わないでください!」
「ま、お二人仲良くね。 死にたくないなら未開域を西に大きく迂回し──」
衝撃が駆け抜けた。
血飛沫が舞い、ドミナの身体は彼方へ。
「……え」
黒い存在がハジメの前で不気味に佇み、徐に腕を振り上げている。
エスナとモノが急いで駆けつけようと動いているが、ハジメの目の前に現れた異形──ロドリゲスの次の行動には到底間に合わない。
(や、ばい……。逃げる? どうやって? 魔法? 防御? いや、エマを守らないと!?)
ハジメの脳内に様々な思考が浮かぶが、驚きで硬直してしまったコンマ数秒は身体が動かない。 ロドリゲスの拳は、硬直が明けるのを待ってはくれない。
轟。
音速にも近い無慈悲な一撃が放たれた。
「ハジメさん……!」
命の危機からか、単に助けるためか、エマがハジメに抱きついた。
「エマ、君は向こうに──ィっ!?」
拳圧と風がハジメの顔面を叩いた。 しかし物理的にダメージがあるわけではない。
ハジメが恐る恐る目を開けると、なぜかロドリゲスの拳がピタリと止まっている。
「チッ、死してなお我の邪魔を……!」
ロドリゲスは怨嗟を吐くと一気にその場から飛び退り、今度は標的をエスナとモノへと定めた。
ハジメは驚きから醒めず、ぼんやりと全体を俯瞰している。 死を覚悟するほどの衝撃を受けたために、一時的に思考力が麻痺してしまった。
「──メさん?」
「な、なんだったんだ……?」
「ちょっとハジメさん! 何をぼーっとしてるんすか……!? にげ、逃げないと……!」
「あ、ああ……。 そ、そうだな……」
ハジメはエマに手を引かれ、ドミナに言われた通りに西へ。 しかしすぐに足を止めてしまった。
「ど、どうしたんすか!? ここに居たら危険なのに!」
「……」
ハジメは右目の視界の端にドミナの姿を捉えている。 このまま走り抜ければそれも直ぐに視界から消え、振り返ることもないだろう。
「いや、見捨てるのは違うだろ……!」
「ハジメさん!?」
ハジメはエマの手を払って走り出した。 どうしてこんな行動するをしているのか彼自身も分からない。 それでも、驚きによって一瞬でも麻痺させられた思考の中で、ハジメは大切なことを思い出した。
「エマは逃げろ! 俺はドミナさんたちを助けてから追いつく!」
「そ、そんなの駄目っす! 逃げないと死んじゃうっすよ!?」
「大丈夫だ! 俺には神様が付いてる!」
「でも……!」
エマは手を伸ばした。 しかし、彼女に背を向けて走り出してしまったハジメにはもう届かない。
「やっぱり、そうなんすね……」
エマは腕をダラリと下ろし、肩を落とした。
ハジメが一緒に逃げるということを言ってくれた時、エマは初めて自分が選ばれた気がした。 蔑まれるばかりだったエマが、ようやく誰かと一緒の人生を歩めるのだと内心小躍りしたほどだ。 これから死にゆくかもしれないドミナやエスナたちを前にしながら、不敬にもそう思ってしまっていた。
「──マ」
「儚い夢……か」
エマも背を向けて歩き出そうとした時、誰かに呼ばれた気がした。
「?」
「おいエマ、聞こえてんのか!?」
「え、は、はいっす!?」
見れば、ハジメがドミナの側でエマへ叫んでいる。
「逃げないんだったら手伝ってくれ! やっぱ俺一人じゃ怖すぎる! エマの力が必要かもしれん!」
ハジメはビビるあまり、そんなことを言っている。 逃げろと言ったり手伝えと言ったり、正直無茶苦茶だ。 これはエマの危機察知能力を思い出したゆえの行動だが、存外彼女には心地良く聞こえた。
「はいっす!」
エマは急いでハジメの元へと駆け寄る。
「ドミナさんが危ない……って、何をニヤけてる?」
「なんでもないっす! さぁ、ぱぱっとポーション振りかけてあげてください! そしたらドミナさんを運ぶっすよ」
「お、おう……そうだな」
二人は胸部の潰れた瀕死のドミナを抱え、森の中へ。
「ハジメさん、あの……」
「どうした?」
「なんでもないっす……」
ハジメは予め聞いていた場所へドミナを運ぶ。 しばらく奥に進むと、自己回復に時間を要しているリセスよユハンの姿が見えてきた。
「姉、さん……?」
リセスが血まみれの姉を見て深刻な声を漏らした。
「ドミナさんがやられた……! 死んでないけど、どういうわけかポーションもあんまり効いてないんだ! どうすればいい!?」
「こちらへ」
この時、ユハンがサッと目を逸らした。
ハジメがユハンが目を背けた先を追うと、そこにはエマがいる。 エマもエマで見当違いな方面へ顔を向けている。
(……なんだ? )
「急いでください」
「ああ、すんません……!」
ドミナをリセスの元に運ぶと、リセスは魔導書を取り出した。
(リセスさんも毒属性、だよな……? 今更だけど、任せて大丈夫か?)
「姉さん、無様ですね」
(あれ? 心配してたんじゃ……?)
リセスの第一声に、ハジメは訳がわからなくなる。
「……ご、ほッ……! だ、黙りな……さい」
息も絶え絶えにドミナが反撃の言葉を投げるが、あまりにも弱々しい。
「喋れるくらいであれば安心ですね。 この傷はロドリゲスに受けたのでしょう? 死んでいれば抗体を作れないところでしたよ」
「早、く……やりなさい、よ──ッぐ……」
「《抗体生成》」
リセスの手元にマナが集中し、生み出された黒い液体がドミナの喉に流し込まれる。
「ゔッ……ぐ……」
ドミナはそれをなんとか飲み込み、苦悶様表情が強さを増す。
「だ、大丈夫なんですか……?」
「大丈夫ではないですが、必要な工程ですので」
《抗体生成》は、受けた攻撃に対する防御作用を持つ物質を生み出す魔法。 また、敵の残滓から他の攻撃に対しても有効性を見出す。 前提として攻撃をその身で受けないといけないというデメリットはあるが、今回のように追随的に効果を期待することも可能。
リセスの魔法が、ドミナに残されたロドリゲスの要素を解析してゆく。
「効かな、い……じゃない……」
「姉さんの身体を害する成分が存在すれば、それを中和して打ち消すことが可能なのですけれど。 この場合、単純な物理攻撃だったということでしょう。 残念です」
「ふざけんじゃない、わよ……」
「ポーションは前衛の二人とフエンにしか渡ってないので、姉さんは初手で脱落ですね。 もうしばらくすれば必要な抗体も出来上がるので、最低限の仕事はできたと思います」
「うッ、はぁ……はぁ……」
リセスは怪我人に向けて辛辣な言葉を放っている。
(家族って、本来もっと仲の良いイメージなんだけどな……。 こういう関係の姉妹も居るのか)
「ところで、お二人は逃げないのですか?」
「いや、まぁ、目の前でドミナさんがやられたから無視できなくて……」
「なるほど。 でもおかげで姉さんは命拾いしましたね?」
「はぁ……情けない、わ……」
「このような様子ですから、お二人も早くここを去った方が賢明ですよ? 私はこの戦いに明確な勝利の絵が見えていませんから」
「リセス、あなたなんてこと、言うのよ……」
「でも、ここまで来たなら……。 役に立てるか分かりませんけど」
「そうですか? 私はそれで構わないのですが、どうにもユハンとエマの様子がおかしいのが気になります。 遺恨のある間柄なのであれば、後の諍いなどを想定すると共闘は推奨されませんので。 どうなのですか?」
リセスは当たり前の疑問をユハンとエマにぶつける。
(確かに、それは俺も思ってた。 ユハンさんが単にエマを嫌っているなら、気まずそうな表情は見せない気がするんだけどな)
「……」
ユハンは関係のない方向を向いたまま憮然とした態度を取っている。 エマはソワソワとし続けるのみだ。
(なんだ……? これは何かあるって言ってるようなもんだろ。 というか、こんな状況になってるのにユハンさんは別のこと考えてるのか? 領主の方に集中して──って、ああ、そうか。 領主はこの人の父親だったな……。 なんか色々と問題が交錯して変なことになってんな)
ハジメがその心中を察していると、ドミナが掠れる声で話し始めた。
「その二人は……兄妹、よ」
「チッ、あまり荒唐無稽なことを言うな」
「……」
ユハンは舌打ちし、エマは俯く。
「エマの記憶を読んだから、間違いないわ……」
「記憶を……? そうだったとして、だからどうした? そもそも、この会話に何の意味がある?」
(エマが領主の娘? だからさっき領主は攻撃を躊躇した? いや、それにしてもやけに過剰だな。 そんなに触れられたくない話題なのか? でも確かに、領主の娘が被虐民だったってのは相当なスキャンダルになるな。 しかしまぁ、町はもう無いんだけどな……)
「あなたたちの反応を見て、あの時の疑問を……思い出したのよ。 どうしてエマの記憶が保護されていたのか、どうして領主が娘を傷つけるのか……」
「領主はエマを殺してでも消し去りたい記憶があったのでは? まぁ、こじつけですけれど」
ドミナの言葉にリセスが続いた。
「時間の無駄だ。 この会話も、その憶測も」
「そうでしょうか? どうせ死ぬなら、話してみてはどうですか?」
「何が言いたい?」
「ユハン、あなたからは何もやる気を感じません。 それどころか、諦観さえ見えます。 もしあなたが領主と組んでいるのであれば、そのような雰囲気は纏わないはず。 だから少し気になったのですよ」
そこから少し間があり、嘆息するようにユハンは零し始めた。
「……父上には誰も勝てん。 それだけのことだ」
「嫡子のあなたなら助かるのではないですか?」
「お前たちも見ただろう、父上の魔法を。 あれは、文字通り範囲内全ての生命を贄として捧げるものだった」
ロドリゲスが魔法を発動する直前、ロドリゲスとゼラの間に少しばかりの会話があった。 内容は下らない言い合いだったが、その過程で齎された情報があった。 ロドリゲスが発動しようとしているそれが、あらゆる生命を媒介に完成される魔法だという内容だ。 勝ちを確信したロドリゲスが、つい漏らしてしまったようだ。
ユハンは《身供転輪》という魔法を知らない。 しかしながら、ロドリゲスが使用する魔法が代償を用いた犠牲魔法だということは周知していた。 その上でロドリゲスの足元に展開されていた魔法陣を読み解いてみると、恐ろしい事実が見えてしまった。
《身供転輪》はロドリゲスによって手が加えられていたとはいえ、その雛形は血縁者を犠牲にするものだ。 当然そこにユハンは含まれ、発動されれば回避不可能ということは瞬時に理解できた。
その時ゼラも気づいたのだろう。 即座に脱出に転じ、ユハンも不本意ながらメイの魔法で転移させられていた。
間一髪の脱出劇のなか、ロドリゲスの魔法発動にユハンだけ動きが遅れた。 というより、身体の一部が指定領域に飲み込まれてしまった。 その結果として、ユハンはそれぞれ右足と左腕の一部を欠損するに至った。
「私とて父上の攻撃対象だった。 加えて言えば、現在我々を囚えている魔法も私を殺さないことを証明するものではない」
「どういうことでしょう……?」
「この結界は、発動者の死亡か、それ以外の領域内生命全ての死亡でしか解除されない。 つまり父上は、最初から私を生かして帰すつもりはないということだ」
「だから拗ねてるんだ……? だっさ……」
「何とでも言え」
「姉さんは暴言を吐く時だけ元気ですね」
「黙り、なさい……」
「とにかく、私以外の二人が役立たずなのは分かりました。 ……さて、どうやって領主を仕留めましょうかね。 エスナとモノだけで領主を留め切れるとも思えませんし、今この瞬間にも彼女たちは死んでいるかもしれません。 ユハン、あなたはそれで良いのですか?」
「……」
「まるでお話になりませんね。 ハジメにエマ、あなたたちは早く逃げてください。 死にゆく我々と最期を共にする必要はありませんから」
リセスはいつも通りの無表情を向けながら、毅然とそう言い放つ。
「あ、いや、でも……」
「全員の足並みが揃っているなら助力も意味があったかもしれませんが、生憎この体たらくです。 これでは勝てるものも勝てませんので」
「……リセスさんは、それでいいんですか?」
「これまで散々人を殺めて来ましたから、今度は自分たちの番ということでしょう。 殺し屋なんてものは、遅かれ早かれこうなる運命なのですよ」
「そうよハジメ君……。 私たちは、あなたに命を賭けてもらうだけの価値は──」
「おい、ちょっと待て!」
「!?」
この時、茂みがガサリと揺れた。
「お、お前、こんなとこで何してんだ?」
大声を張り上げながら怒り心頭で現れたのは、先ほど別れたはずのメイグス。
「ハジメ、何してるとはよく言えるもんだなァ!? 逃げれねぇからに決まってんだろ!」
「はぁ……!? だってお前、さっき離れて行っただろ?」
「ああ、そうだ! だがな、ある地点から先に進めなくなった! 無理して越えてった連中は全員死んじまったよ! そんで戻ってきてみりゃあ化け物じみた連中が暴れてるわ、かと思えば陰気な喋りに興じてるお前らも居るじゃねぇか。 お前らのイザコザに俺たちを巻き込むんじゃねぇよッ!!!」
メイグスは唾を派手に撒き散らしながら、思いの丈をぶちまける。
「いやいや、俺にキレるなって! 悪いのは全部領主だろ!?」
「うるせぇ! それに、聞いてりゃお前──って何すん……だ……?」
この時、尚も怒り散らすメイグスの顔面を後ろから引っ掴む者がいた。 メイグスはそちらを向くなり、急におとなしくなる。
「そろそろ黙れ……。 俺様を苛立たせんな……!」
「あッ、ああ……す、すまない……」
「この状況はテメェらのヘマによるものだってなァ? ブチ殺すぞ……!」
「やほ。 知った顔が勢揃いじゃんー。 ハジメとユハンは数時間ぶり?」
メイグスを半ば投げ捨てるようにして前に出たのは、ハジメの見知った二人。
「ラフィアンに、レイシ……? お前らも取り込まれたのか?」
「あァ!? だからここにいるんだろうが! 下らねェこと聞くんじゃねぇよ!」
「あーコワ。 こんなに元気になるなら、ゲニウスに治してもらわなくて良かったかなー?」
「レイシ、そろそろ看過できねェな……。 一回殺されとくか?」
「無理だと思うけど、やりたいならやりなー? でも、この状況を片付ける方が先でしょーよ」
「えっ、と……なんだって?」
急に現れたかと思えば、レイシはおかしなことを言い始めた。 ハジメは一瞬、彼女の発言への理解ができなかった。
「耳くそ詰まってる? もっかい言おっか?」
「こいつは馬鹿なんだからもっと分かりやすく言えよ。 俺様たちが領主のクソを消してきてやるってことをよ」
「……!?」
ラフィアンの発言は、ハジメの思考を殊更に混乱させるだけだった。
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作者の執筆力に繋がりますので、ギモン・シツモン・イチャモンなど、良いものも悪いものもどうかご意見よろしくお願いします。