R15 後輩に告白したら可愛すぎた
「ねーえ、真樹君」
「はい?」
「あのさ、私とデートしない?」
「……はい?!」
真樹君はびっくりして目をまん丸にして固まってしまった。
うん、可愛い! じゃなくて、どうしよう……。
勢いで誘っちゃったけど、いきなりすぎたかなぁ。
でも、もう言ってしまったものは仕方ないよね。
「あ、もちろん嫌なら断ってくれていいんだよ? ただ、ほら、真樹君ってば、いつも女の子にモテるから、今のうちに唾つけておこうと思って……」
私はちょっと冗談めかした口調で言う。
「ああ、なるほど……そういうことですか」
真樹君は納得したようにうなずいた。そして少し考えこむような仕草をして、「わかりました。行きましょう」と言った。
「えっ!? ホントにいいの!?」
「はい。僕もちょうど先輩を誘いたかったんです。よかったら一緒に出かけませんか?」
「わーい!! やったー!!」
嬉しい! 真樹君の方から誘ってくれたなんて、夢みたいだ! よーし、いっぱいおしゃれして、可愛くなって行こうっと!
***
今日は淡い水色をしたワンピースを着て、いつもよりも大人っぽい雰囲気を出してみる。
ふふふ、今日はいっぱい誘惑しちゃうぞ。
待ち合わせ場所に着くと、すでに真樹君は来ていた。
「おはようございます、先輩」
「おっはよー、真樹君♪」
今日の真樹君は白いシャツの上にジャケットを羽織り、下には黒のパンツという格好をしている。
シンプルだけどとても似合っていてカッコイイ。
私は真樹君の服装を見て思わず見惚れてしまう。
「ん? どうかしましたか?」
「ううん、なんでもない。それより、早く行こっ!」
私たちは並んで歩き出す。
今日の目的は水族館に行くことだ。
本当は遊園地の方が良かったんだけど、それはまたの機会にするとして、まずは定番中の定番である水族館に行ってみることにしたのだ。
電車に乗って移動する間、私は真樹君の腕にしがみつくようにして体を寄せる。
「せ、先輩……その、当たってますよ」
「当ててるんだよ~。真樹君がドキドキしてくれているのがよくわかるもん」
そう言うと、真樹君は顔を赤くする。
「そ、そんなことは……」
「ウフフ、照れてるんだ。可愛い~」
「……」
私の言葉を聞いて黙ってしまう真樹君。
あれれ? なんか反応薄くないかしら? もっと恥ずかしがってくれてもいいと思うんだけどなぁ……。
よし、それじゃあ次の作戦に移ろう。
「ねぇ、真樹君。手つなごっか」
「へっ?! 手をつなぐって……」
戸惑っている様子の真樹君の手を握ってぎゅっと握る。
すると彼は驚いた顔でこちらを見つめてきた。
「ちょっ……先輩!?」
「ほら、こうして手をつないでいればはぐれることもないし、一石二鳥じゃない?」
「まあ、確かにそうですけど……」
「それにさ、私たち付き合ってるわけだし、これくらい普通だよ」
私は彼の耳元で囁きながら微笑む。
すると、彼も諦めがついたのか、私の手に自分の手を重ねてくれた。
「わかりました。それじゃあ、これでお願いします」
「うん! よろしくね!」
真樹君の温もりを感じられて幸せな気分になる私だった。
***
それからしばらく歩くと、目的地に着いた。
そこは海の生き物たちの住む世界をイメージした大きな水槽があるところだ。
私はガラスの向こう側に広がる光景に目を奪われる。
「わぁ、綺麗……」
大小さまざまな魚たちが自由に泳ぎ回っている姿はとても幻想的だ。
「ほんとですね」
隣を見ると、同じように水槽に見入っている真樹君がいた。
「ねえ、真樹君」
「はい?」
「あのさ、もし私が人魚の生まれ変わりだって言ったら信じる?」
「えっ?」
真樹君は少し驚いているようだった。
無理もないよね……。突然こんなこと言われても困っちゃうだけだろうし。
でも、本当のことを話したい気持ちもあったから、思い切って言ってみた。
「実はそうなの。前世では人魚だったんだよね。だから、今でも海とか水辺が大好きなんだ」
「そ、そうなんですね……。でも、どうしてそれを僕に?」
真樹君は困惑しているようだ。そりゃそうだよね。いきなりこんなこと言われたら誰だって驚くはずだもの。
「んー、なんとなくかなぁ。もしかしたら信じてもらえないかもしれないけれど、真樹君ならわかってくれるような気がしたから」
「なるほど……」
真樹君は顎に手を当てて何か考えている。そして少しして口を開いた。
「正直なことを言うと半信半疑といったところです。でも、先輩は嘘をつくような人ではないと思います。なので、先輩の話を信じたいとは思っています」
「ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ」
私は真樹君にぎゅっ!と抱き着く。
「せ、先輩!?」
真樹君はびっくりして離れようとする。
だけど、私は離さないように腕に力を入れた。
「ちょっとだけこうさせて。嫌?」
「いえ、嫌というわけではないんですけど、その……」
「えー、何それー。いいじゃん別にー」
「……仕方ありませんね」
観念してくれたみたいで、真樹君は私を抱きしめ返してくれる。
ふふ、真樹君ったらホントに優しいんだから。
しばらくそうやって二人で寄り添いながら、海の中を眺めていた。
***
「お腹すいちゃいましたね」
「うん、もうお昼の時間かぁ」
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。
水族館を出た私たちは、近くのレストランに入って食事をしていた。
「このパスタおいしい!」
「本当ですか? よかったです」
そう言う真樹君の前にはハンバーグが置かれている。
「真樹君ってハンバーグ好きなの?」
「はい。子どもの頃から好きですね」
「へぇ~。覚えておこうっと」
「あとは甘いものも好きです」
「あれれ、それって私に合わせてくれてるの~?」
「そ、そんなことは……あります」
「あ、認めた」
「うっ……」
図星だったようで真樹君は黙り込んでしまう。
そんな彼が可愛くて、私はクスッと笑ってしまった。
「フフ、真樹君可愛い♪」
「可愛いなんて言われても嬉しくないですよ」
「ごめんごめん」
拗ねている真樹君が可愛い。
いつもクールな感じなのに、こういう一面もあるんだなぁって思う。
「そういえば、真樹君ってずっと彼女さんとかいなかったんだよね?」
「ええ、まあ……」
「もしかして、私が初めての恋人?」
「そうですね。先輩以外に付き合った人はいません」
「へへ、そっか……」
改めて言われるとすごく照れる。
なんか顔が熱くなってきたかも……。
「どうしました?」
「べ、別になんでもないよ! ただちょっと暑くなっただけだもん!」
「……そういうことにしておきます」
真樹君は苦笑いする。
まったく、からかいがいのある後輩だこと。
……よし、今度はこっちの番だ。
「ねえ、真樹君」
「はい?」
「私のこと、名前で呼んでくれないかな」
「名前で、ですか?」
「うん、だめかな?」
「いえ、べつに構いませんけど……」
「じゃあ、お願い」
「わかりました……」
真樹君は深呼吸してから口を開く。
「……美優先輩」
「はい!」
「……これでいいでしょうか?」
「うん!……でも、もう一声かな」
「これ以上何を言えばいいんですか?」
「それはね――」
私は真樹君に顔を近づける。
そして耳元で囁いた。
「これからは『美優』って呼び捨てで呼んでほしいな」
「っ!?」
真樹君の体がビクッとなる。
「ほら、早く言ってみて」
「……み、美優」
よし、声が上ずってたけど、ちゃんと聞こえたぞ。
「ん、よくできました」
頭を撫でると真樹君は恥ずかしそうに俯いていた。
その姿がまた可愛らしくて、私はニヤけそうになるのを抑えるのに必死だった。
食事を終えた私たちは、クレープを買うことにした。
「うーん、どれにしましょうかね」
「真樹君は何にするの?」
「僕はチョコバナナのやつにしようかなと」
「じゃあ私はイチゴクリームのにするね」
「先輩はそれでいいんですか?」
「うん。だって、その方が美味しいじゃない?」
「たしかにそうかもしれませんけど……」
「それに、こうして半分ずつ分け合えばいろんな味が楽しめるしね」
「な、なるほど……」
真樹君は納得してくれたみたいだけど、なぜか少し考え込んでいるようだった。
しばらくして、真樹君は自分の注文したものを持ってきてくれた。
「はい、先輩」
「ありがとう」
「あと、これは僕の奢りです」
「えっ、いいの?」
「もちろんです。今日は僕の方がいろいろとお世話になっていますから」
「……わかった。ありがたく頂戴します」
私は真樹君から受け取ったクレープを食べる。
「あ、おいしい……」
甘さ控えめでちょうどいい感じ。
生地もふわふわしっとりしていて食べやすい。
これならいくらでも食べられちゃうかも。
「真樹君はもう食べた?」
「いえ、まだです」
「それなら、はい」
「えっと……」
私が差し出したものを見て、彼は困惑している様子だった。
「えー、何それー。その反応はないんじゃない?」
「す、すみません。まさか本当にしてくるとは思わなかったもので……」
「せっかくだから一緒に食べよ?」
「はぁ……。わかりました」
真樹君は観念したように私の手にあるクレープを一口食べる。
「ど、どうかな?」
「……おいしいですね」
「よかったぁ。はい、もうひとくちあげる」
そう言って私はさらにひとくち食べてから渡した。
「……いただきます」
それから何度か行ったり来たりしながら、お互いにクレープを食べていく。
もしかしてこういうの初めてだったかな。
真樹君が顔を赤らめて食べる姿にきゅんとなった。
「よし、次行こう!」
「はい」
私は真樹君の手を掴んで歩き出す。
こんな風に男の子と遊ぶのは初めてかもしれない。
すごく楽しい。
今までの私では考えられなかったことだ。
でも、それもこれも全部真樹君のおかげである。
私を変えてくれて、そして今も楽しい時間を過ごさせてくれる彼には感謝してもしきれなかった。
***
「そろそろ帰りの時間ですね」
「そうだね……」
二人でたくさん遊びまくって、電車に乗って帰路についている。
車内には私たち以外誰もいないため、真樹君と二人きりだ。
「ねえ、真樹君」
「はい」
「今日は楽しかったね」
「そうですね」
真樹君は微笑む。そして少し間を開けてから言った。
「実は僕も先輩と同じことを考えていました」
「同じこと?」
「はい。僕も先輩と一緒に出かけられてとても幸せです」
「ふふ、ありがとう」
真樹君の言葉を聞いて胸の奥がきゅっとなった。
きっとこれは嬉しいって感情なんだと思う。
「先輩」
「ん?」
「僕のことを好きになってくれて本当にありがとうございます」
「こちらこそだよ。私を選んでくれてありがとね」
私たちはお互いの顔を見て笑い合う。
すると真樹君が何かを思い出したかのように鞄を漁り始めた。
「そういえば、先輩にプレゼントがあるんですよ」
「え、そうなの!?」
「ええ。といっても大したものじゃないんですけど」
真樹君はそう言いながら小さな箱を取り出す。
綺麗にラッピングされたその小包を私に差し出してきた。
「はい、これどうぞ」
「あ、ありがと……」
まさか真樹君からもらえるとは思っていなかったから驚いた。
だけど同時にすごく嬉しくて心が躍っている。
「今ここで開けてもいい?」
「どうぞ」
「じゃあ遠慮なく……」
ドキドキしながら包みを開けると、そこには髪留めが入っていた。
「わぁ、可愛い!」
花の形をした飾りがついているピンク色のヘアピンだ。
これを真樹君が選んでくれたのかと思うと、それだけで幸せな気持ちになる。
「気に入ってもらえましたか?」
「うん! すっごく気に入ったよ。大事にするね!」
早速つけてみる。
鏡がないからどんな感じなのかわからないけど、真樹君の前ではつけた姿を見せたいと思った。
「どうかな? 似合ってる?」
「……はい。とても素敵ですよ」
真樹君は優しく笑ってくれる。
そんな彼の笑顔を見ると私まで嬉しくなってくる。
「ねえ、真樹君」
「何でしょう?」
「真樹君はさ、私と付き合い始めて後悔してない?」
「どうして急に?」
「だって、私ってちょっとわがままだし、嫉妬深いし……」
「確かに最初は驚きましたけど、今は全然大丈夫です」
「ホントに?」
「ええ、本当です」
真樹君は私を見つめてくる。
嘘偽りのない瞳が私を捉えていた。
「僕は先輩のことが好きで、先輩も僕のことを好きだと言ってくれています。だからそれでいいんです」
「真樹君……」
「それに先輩が嫉妬してくれているのは、僕にとってはとても嬉しいことですから」
「……真樹君はやっぱり優しいな。疑ってごめんね」
私は真樹君に抱きつく。
「謝らないでください。先輩は悪くありませんよ」
彼は私の背中に手を回して抱きしめてくれる。
「僕も同じです。先輩はいつも明るくて前向きで、周りを引っ張っていく力を持っています。そんな先輩のことを尊敬しています」
「……そっか。じゃあ、おあいこだね」
「そうですね」
私たちは顔を合わせて笑う。
こうして笑い合えることが幸せだと感じる。
これからもずっとこの関係が続くといいなって思った。
「ねえ、真樹君」
「はい」
「これからもよろしくね」
「はい、こちらこそお願いします」
私は彼から離れ、手を差し出す。
真樹君もそれに応えて握り返してくれた。
そしてどちらから言うでもなく、私たちの唇は重なった。