俺の名前はマサシ・タツノ
単刀直入に言おう。
俺、マサシ・タツノは脇役だ。
自らを更に評価するのなら、名脇役と言ってもいい。
チームリーダーのシグレより目立とうとはしないし、チームの高嶺の花であるエミーシアさんにも自ら近づこうとはしない。日々陰ながらのサポートでチームを援護する。
俺はこの生活が嫌いじゃない。いや、むしろ気に入っている。
正直な話、チームリーダは荷が重いし、エミーシアさんに至っては美しすぎて近寄ることすらおこがましい。
そんな俺の日常は、今日も当たり前に始まっていく……はずだった。
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「おーいマサシィ! クエスト手伝ってくれないか!?」
「え? って、おおおい!」
気付けば、同じチーム『エンドレス・ロード』に所属している仲間ニックが、俺目掛けて猛突進してきていた。
避けることも出来ずに、無様に受け止める。
受け止めた俺は尻もちをつき、自分の胸に男を抱き寄せるという、なんとも恥ずかしい格好になってしまったものの、受け止めたニックは怪我せずに済んだので良しとした。
「ふふ」
「くすくすくす」
そんな俺の背後で声がしたため、首だけそちらに向けてみると――。
「こんにちは、マサシくん」
そこには、上機嫌なエミーシア嬢が連れの女性と二人立っていた。
「はっ! は、早く起きろ! ニック!!!」
「ぅえ? なんで……って、あああええエミーシアさん!」
その言葉と共に急に立ち上がり、姿勢を整えるニック。時すでに遅しである……。
「こんにちは、ニック」
「一体どうしたというのだ?」
エミーシアさんと一緒にいた女性が話しかけてきた。
「え……っと、あの……あなたは…………」
人の顔を覚えるのは得意な方である俺だが、彼女の名前は頭に一切湧いてこなかった。
「あぁ、彼女はエイダ・ケイトリン。昨日、隣のエリアから来たばかりなんです」
「なるほど、道理で……」
「挨拶が遅れてすまない。名前は彼女が紹介してくれた通りだ。得意とする戦闘スタイルは武術であり、扱う武器はスピア、つまり槍だな。広範囲の攻撃が可能だ。よろしく頼む」
「ど、どうも。俺はマサシ・タツノです。戦闘スタイル? は……、まあその時によって色々と……。よろしくお願いします」
「ふむ。色々……とは?」
と、エイダが問い掛けてきたタイミングで、
「マサシィ!!! 時間がないんだ! そろそろ行こうぜえええええい」
ニックが待ちきれず奇声を上げた。
「あら? 後30分でチームのミーティングでしょう。今からどこへ?」
「だからこそ、その30分でやらなければならないクエストがありましてっ!」
エミーシアさんに対して気前よく答えるニック。
そこで彼女から、思いもよらない提案が持ち上がった。
「あらまぁ……。なら折角だから私達も一緒に行きましょう」
「「えぇぇ」」
そこで奇声を上げたのはニックだけではない。
もちろん。
他の誰でもない、俺もだ。
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俺は謎の緊張感に追い詰められていた。
それは他でもない。俺の背後を歩く人物達のせいだろう。
1人は、ニック……、まあ彼は古い付き合いだ。別にどうでもいい。
問題はその他2人――。
エミーシアさんと、エイダ。
この二人を後ろに連れ歩くだけで、すれ違う人の誰もが振り向く。
もう百発百中と言っても過言ではない。
それも仕方がないと言えば仕方がない。
エミーシアさんは我がチーム髄一の高嶺の花だ。それは我がチームだけの話ではない。この辺りに拠点を置くチームの中で、これ程までに目を引く人物はそうそういないだろう。
故に、彼女がエミーシアさんであるということを誰もが知っている。
そして誰もが、彼女が基本は単独行動が多いことも知っていた。
そのエミーシアがパーティーを組んでいる!? パーティーリーダーは誰だ!?
そして自然と俺へと視線が集中するわけだ。
その痛い視線に更に拍車をかけるのが、もう一人の彼女。エイダだ。
エイダはこの辺りでは新参者の為、見知っている人間はほとんどいないが、彼女の見た目が自然と人を引き付けるのだ。
すっと伸びた背筋に、華やかさを秘めた顔つき。露出はそんなに多い方ではないが、それでも衣服から出ているその肌は、陶磁器のように白く透き通っている。そんな彼女の消え入りそうな見た目に、更に拍車をかけているのが、頭部にきっちりと結われている髪の毛だ。髪は燃える様な赤色で、それが腰下まであるものだから、歩くたびになびき存在感を放っている。
そりゃあ、誰だって振り向きますよ……。
だって、彼女めちゃくちゃ綺麗ですもん……。
そして、パーティーリーダーの俺を見て……、え? なんであんな脇役みたいな奴がこんなとんでもない美人2人をつれて歩いてんの? 何? 世界滅亡でもすんの? って思ってるんでしょうよ。
ええ、ええ。分かりますよ。
そんなこと他の誰よりも、俺が一番思っていますとも……。
能天気そうにその2人の横を歩くニックが、少しだけ羨ましかった。
辺りの痛い視線を他所に、クエスト受注所へと辿りつく。
クエスト受注所は、いつもならあらゆるパーティーが右往左往しているそれなりに賑やかな場所だが、今日に限っては俺達の声が受注所内に響き渡るほど閑散としていた。
そのことに違和感を覚えながらも、ミーティングまでの限られた時間に追われていた俺は、特に気に留めることもなく話を進めた。
「ニック、受けるクエストってどれだ?」
「えーと、大蜘蛛退治のやつ」
「あーこれかー。この人数ならそこまで難しくもなさそうだな。よし、じゃあ俺は回復に専念するよ」
「あら? マサシくんは回復も出来るんですか?」
「あーまぁ、みんなのサポートするのに覚えておいて損はないかなー…って」
エミーシアさんの素朴な疑問に答える。
「なるほど。では私が先陣を切ろう」
「よろしくお願いしまーす!」
ニックは周りのメンバーに頼りまくる気満々だった。
クエストを受けるためにはまず手続きが必要だ。
と言っても、その方法は至って簡単。
あらかじめ俺達に配布されている手元の端末でクエストを選択し、パーティーを設定。
それを持ってクエスト受注ゲートをくぐるだけ。
すると、目の前に指定されたクエストのフィールドが出現する――――。
俺達4人は、そこへと吸い込まれるように一歩、また一歩と進んでいった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
これから一体どんな話が展開されていくのか、3話辺りから一気に流れが変わりますのでご興味持たれた方は、よければそこまでお付き合い下さいませ。