表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/65

俺の名前はマサシ・タツノ

 単刀直入に言おう。

 俺、マサシ・タツノは脇役だ。

 自らを更に評価するのなら、名脇役と言ってもいい。

 チームリーダーのシグレより目立とうとはしないし、チームの高嶺の花であるエミーシアさんにも自ら近づこうとはしない。日々陰ながらのサポートでチームを援護する。

 俺はこの生活が嫌いじゃない。いや、むしろ気に入っている。

 正直な話、チームリーダは荷が重いし、エミーシアさんに至っては美しすぎて近寄ることすらおこがましい。

 そんな俺の日常は、今日も当たり前に始まっていく……はずだった。


********************


「おーいマサシィ! クエスト手伝ってくれないか!?」

「え? って、おおおい!」

 気付けば、同じチーム『エンドレス・ロード』に所属している仲間ニックが、俺目掛けて猛突進してきていた。

 避けることも出来ずに、無様に受け止める。

 受け止めた俺は尻もちをつき、自分の胸に男を抱き寄せるという、なんとも恥ずかしい格好になってしまったものの、受け止めたニックは怪我せずに済んだので良しとした。

「ふふ」

「くすくすくす」

 そんな俺の背後で声がしたため、首だけそちらに向けてみると――。

「こんにちは、マサシくん」

 そこには、上機嫌なエミーシア嬢が連れの女性と二人立っていた。

「はっ! は、早く起きろ! ニック!!!」

「ぅえ? なんで……って、あああええエミーシアさん!」

 その言葉と共に急に立ち上がり、姿勢を整えるニック。時すでに遅しである……。

「こんにちは、ニック」

「一体どうしたというのだ?」

 エミーシアさんと一緒にいた女性が話しかけてきた。

「え……っと、あの……あなたは…………」

 人の顔を覚えるのは得意な方である俺だが、彼女の名前は頭に一切湧いてこなかった。

「あぁ、彼女はエイダ・ケイトリン。昨日、隣のエリアから来たばかりなんです」

「なるほど、道理で……」

「挨拶が遅れてすまない。名前は彼女が紹介してくれた通りだ。得意とする戦闘スタイルは武術であり、扱う武器はスピア、つまり槍だな。広範囲の攻撃が可能だ。よろしく頼む」

「ど、どうも。俺はマサシ・タツノです。戦闘スタイル? は……、まあその時によって色々と……。よろしくお願いします」

「ふむ。色々……とは?」

 と、エイダが問い掛けてきたタイミングで、

「マサシィ!!! 時間がないんだ! そろそろ行こうぜえええええい」

 ニックが待ちきれず奇声を上げた。

「あら? 後30分でチームのミーティングでしょう。今からどこへ?」

「だからこそ、その30分でやらなければならないクエストがありましてっ!」

 エミーシアさんに対して気前よく答えるニック。

 そこで彼女から、思いもよらない提案が持ち上がった。

「あらまぁ……。なら折角だから私達も一緒に行きましょう」

「「えぇぇ」」

 そこで奇声を上げたのはニックだけではない。

 もちろん。

 他の誰でもない、俺もだ。


********************


 俺は謎の緊張感に追い詰められていた。

 それは他でもない。俺の背後を歩く人物達のせいだろう。

 1人は、ニック……、まあ彼は古い付き合いだ。別にどうでもいい。

 問題はその他2人――。

 エミーシアさんと、エイダ。

 この二人を後ろに連れ歩くだけで、すれ違う人の誰もが振り向く。

 もう百発百中と言っても過言ではない。

 それも仕方がないと言えば仕方がない。

 エミーシアさんは我がチーム髄一の高嶺の花だ。それは我がチームだけの話ではない。この辺りに拠点を置くチームの中で、これ程までに目を引く人物はそうそういないだろう。

 故に、彼女がエミーシアさんであるということを誰もが知っている。

 そして誰もが、彼女が基本は単独行動が多いことも知っていた。

 そのエミーシアがパーティーを組んでいる!? パーティーリーダーは誰だ!?

 そして自然と俺へと視線が集中するわけだ。

 その痛い視線に更に拍車をかけるのが、もう一人の彼女。エイダだ。

 エイダはこの辺りでは新参者の為、見知っている人間はほとんどいないが、彼女の見た目が自然と人を引き付けるのだ。

 すっと伸びた背筋に、華やかさを秘めた顔つき。露出はそんなに多い方ではないが、それでも衣服から出ているその肌は、陶磁器のように白く透き通っている。そんな彼女の消え入りそうな見た目に、更に拍車をかけているのが、頭部にきっちりと結われている髪の毛だ。髪は燃える様な赤色で、それが腰下まであるものだから、歩くたびになびき存在感を放っている。

 そりゃあ、誰だって振り向きますよ……。

 だって、彼女めちゃくちゃ綺麗ですもん……。

 そして、パーティーリーダーの俺を見て……、え? なんであんな脇役みたいな奴がこんなとんでもない美人2人をつれて歩いてんの? 何? 世界滅亡でもすんの? って思ってるんでしょうよ。

 ええ、ええ。分かりますよ。

 そんなこと他の誰よりも、俺が一番思っていますとも……。

 能天気そうにその2人の横を歩くニックが、少しだけ羨ましかった。


 辺りの痛い視線を他所(よそ)に、クエスト受注所へと辿りつく。

 クエスト受注所は、いつもならあらゆるパーティーが右往左往しているそれなりに賑やかな場所だが、今日に限っては俺達の声が受注所内に響き渡るほど閑散(かんさん)としていた。

 そのことに違和感を覚えながらも、ミーティングまでの限られた時間に追われていた俺は、特に気に留めることもなく話を進めた。 

「ニック、受けるクエストってどれだ?」

「えーと、大蜘蛛退治のやつ」

「あーこれかー。この人数ならそこまで難しくもなさそうだな。よし、じゃあ俺は回復に専念するよ」

「あら? マサシくんは回復も出来るんですか?」

「あーまぁ、みんなのサポートするのに覚えておいて損はないかなー…って」

 エミーシアさんの素朴な疑問に答える。

「なるほど。では私が先陣を切ろう」

「よろしくお願いしまーす!」

 ニックは周りのメンバーに頼りまくる気満々だった。

 クエストを受けるためにはまず手続きが必要だ。

 と言っても、その方法は至って簡単。

 あらかじめ俺達に配布されている手元の端末でクエストを選択し、パーティーを設定。

 それを持ってクエスト受注ゲートをくぐるだけ。


 すると、目の前に指定されたクエストのフィールドが出現する――――。

 俺達4人は、そこへと吸い込まれるように一歩、また一歩と進んでいった。


ここまで読んで下さりありがとうございます。

これから一体どんな話が展開されていくのか、3話辺りから一気に流れが変わりますのでご興味持たれた方は、よければそこまでお付き合い下さいませ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ