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米俵に空いた穴

アメリカ国防総省にて



ペンタゴンの名で知られているこの五角形の巨大な建築物は、冷戦時はソ連の衛星から常に監視され、核ミサイルの照準に捉えられていた。


そして911同時多発テロの際には、アルカイダにハイジャックされた旅客機が突っ込んだ。


米国軍事の中心に位置しながらも、その力は文民によって行使されている。


「ハリー中佐、なに偽りなく話して欲しい」


そしてその一角、窓1つもない部屋の中でハリーは椅子に座らされていた。


「なに偽りも?まるで裁判だな」


「私が裁判官に見えるか?」


スーツ姿でビーチサンダルを履いた男は、そう言って笑った。


「じゃあ何だ。ラングレー(CIA)か?それともNCIS(海軍犯罪捜査局)か?」


「CIAは尋問の時、コーヒーとドーナッツなんて用意しない。大量の水は用意するがな」


攻撃された後、横須賀に辿り着く前に艦が持たなくなり、舞鶴の海上自衛隊基地へ避難した。


ハリーは事情聴取を受ける筈だったのが、突然シーホークが飛来し、空軍基地まで強制連行されて本国行きの飛行機に乗せられた。


「まあ俺の所属はどうでもいい。あんたの王国を踏み潰して、どっかに行っちまった奴の正体だ」


サンダル野郎はイージス艦の写真を並べ、日本地図を広げた。


「奴は……攻撃しようとした途端にレーダーから消え、滑空しながら艦に着地した。何かで投石機を造ってた」


イージス艦の上部構造にベッタリと付着した黒い液体が、おそらく投石機を構築した素材なのだろう。


「この黒い液体だろ、タールみたいなやつ」


「あぁ、レーダー上では鳥程度のサイズだった。採寸が合わない」


艦を覆い尽くす程巨大な投石機を、何処で造り出したのか。


「相手は金属の塊じゃないんだ。デカくてもレーダーじゃ小さくしか映らない」


「何故こいつが金属で出来てないと決めつける?」


サンダルは口を滑らせたことに気付き、視線を反らした。


「金属の翼を空中で分離したかもしれんだろ。分かったような口振りだな」


冷めたコーヒーを飲み干し、息を整えてから怒鳴った。


「貴様何を隠している!答えろ!私の部下39人を殺し、2人を半身不随にさせた敵の正体を!」


「今は無理だ。だが、ここに答えがある」


手渡された航空券には、ベルリン行きの文字が印刷されていた。


「ようこそ陸軍広域調査部隊 AWSUへ」


このサンダル野郎、最初からスカウトする気でいたのだ。


「アシカは陸地でも器用に歩けるらしいな、期待している」


ドアノブを捻り押す直前、ずっと気になっていたことを質問してみる。


「なあどうしてサンダルなんだ?」


「水虫だから」


「……………………」


「冗談だ。ポーランドで作戦行動中に毒針が刺さって腫れたんだよ、靴に足が入らない」




潮外高校にて



友達がいない人間は、いないことを悟られない為に寝た振りをしたり、トイレに引きこもったりするらしい。


だが私はそんな事をしない。


なぜなら、友達は居るからだ。


(なお佐々木は悠牙のクラスを訪ねたことは、一度たりともない)


そして私は周りの目など気にしない。


1人で本を読み、文学に浸る方が馬鹿なクラスメイトと会話するより休み時間を有意義に過ごせる。


「あいつまたキモい本読んでるよ」

「うわきっも、陰キャきっも」

「童貞なのにそういう本をばっか読んでるから、童貞なんじゃね」


何故ブックカバーを着けているのに、本の内容が判るんだ。


主人公のラッキースケベが4人目のヒロインに炸裂している場面だったが、内容が頭に入って来なかった。


「別に、いい、じゃん、なに読んでも、大体そういう偏見は」


ブツブツと無意識に独り言を呟いているせいで、隣の席の大人しい眼鏡女子は顔を歪め机をずらした。


悠牙がこう嫌われている理由は色々あった。


だが一番の理由は、何もしなかったことだ。


高校に入った時、既に中学校の際に構築されたグループのお陰で集団の輪に入れず、去年の文化祭では役割を与えられなかった。


その癖に、後ろ指を指してあいつは何もしないと言いやがる。


(何か手伝おうかの一声も掛けず、勝手にハブられたと思い込んで皆よりも早く帰るのだから、当然の結果でもあった)


「またなんかブツブツしてる」

「マジやばくね、クスリとかやってたりして」

「陰キャ君にそんな度胸ないっしょ」

「…………………………どうでもいいけど、そろそろ授業」

「あっマジだ、モモまじめー」


休み時間終了のチャイムと共に、ダルそうにしながらテーブル学内集会を解散させ、バラバラに席へ座った。


百は、周りとの温度差について行けなくなっていた。


グループ内の話題を作る為に、人を馬鹿にする根性が気に食わなかった。


気に入らないなら放っておけばいいのに、敢えて大声で聞こえるように話す。


態度が大きい癖に、やることは陰湿な連中ばかりでイライラする。


確かに、あの陰キャにも非はあるが、それにしたってやり過ぎだ。


いじめという、どの社会にも存在する問題が自分の周りで蠢いている。


クラスは彼をいたぶる時だけ一致団結し、それ以外は険悪な雰囲気になっていた。


去年の文化祭の時、男子と女子でちょっとした揉め事が起き、それが今になっても尾を引いている。


彼はそんな空気が嫌で、関わらないようにしていたのだろう。


悪いとは言わないが、悪手であった。


「食糧管理法では、国から配給された食糧を転売した場合には厳罰に処すとあります」


「じゃあ先生、親戚とかに分けたりしたら駄目ですか?」


「現行法では、配給された食糧で金銭的利益を得た場合とされています。物々交換は禁止されてないけど、まあ結構グレーな感じかな」


社会生活学科では、様々な制度について教えることになっている。


例えば、民間保険制度についての説明、クレジットカードの作り方、生活保護の受け方等々。


大事なことだが、説明出来る人が少ないことを学校で聴けるのだ。


しかし周りを見てみると、大半の人間が寝ているか小声でお喋りをしている。


午後からの県が行う教職員向けのいじめ防止セミナーで、短縮授業なった影響なのか皆受かれて授業に身が入っていなかった。


自分はまだ大人ぶったませガキだが、この授業の意義は理解していた。


「来週小テストですから、全員きちんと予習しといてください」


授業終了のチャイムは、居眠りをしていた者達への目覚まし時計となり、ため息やあくびが教室へ響き渡った。


「ねえモモは今日も街まで行く?」


「いや、最近金欠だから」


「あっそ、じゃあサナ誘おうかな」


百は足早に教室を去り、学校裏の駐輪場に向かった。


教室から出る直前、彼がサッカー部の集団に囲まれているのが見えた。


ほぼ脅しのような行為に彼は縮こまり、今にも泣きそうだった。


だが私にできることはない。


こうしていじめてる連中の仲間入りをしながら、見てみぬフリをした。


百は自転車を持っていなかったが、トタン屋根の駐輪場へ行く必要があった。


皆友達とお喋りするのが楽しいのか、駐輪場には誰も居なかった。


「藍いる?」


ショートカットが似合い背丈の低い彼女は、花が咲くように表情を変え、百へ抱き付き猫のように喉を鳴らす。


二人は青い空の下、巨大でアートチックな雲を眺め、思いを巡らせていた。


「あついね……」


「最高記録だってさ、温暖化の影響かな?」


「日焼けしちゃうよ」


百は藍の足へタオルを被せ、白くて細い足を紫外線から守った。


自分には誰にも言えない秘密がある。


同性が好きなことが、罪なのかと毎日考える。


そんなことを考えながら彼女と接するのがとても辛く、そんなことを思う自分がとても辛い。


昔に比べ、同性愛への偏見は減っているが、まだ完全にではなかった。


さっきまで話していたクラスメイト達にバレてしまうのが怖い。


きっと馬鹿にされ、嫌悪されてしまうから。


親は早く結婚して孫の顔を見せてくれと言う。


その期待がとても怖い。


少しだけストレスで、おかしくなりそうだった。


不安で不眠症になりかけている。


彼女を払いのけ、クラスの男子と肉体関係でも持ってしまいたい。


でもそれは嫌だった。


剃刀の刃を首に当てて切れば、痛いのだろうか?苦しむのだろうか?


頭を色々な方法が血液と一緒にぐるぐる巡って、何も分からなくなった。




大阪 難民居住区にて



「許可のないデモは法律で禁じられています!直ちに解散しなさい!」


「シャラップ!!!ウルセヒッコメ!」


アスファルトをひっぺがし投石を行い、ゲバ棒と火炎瓶で武装した群衆が怒号やら罵声を飛ばす。


それに対峙する機動隊と、その動乱を少し離れた場所からこそこそと見張る公安の刑事。


そして、その更に背後からデモ隊でも警察でもない集団が、誰よりも周囲に目を光らせていた。


「おお凄い、まるで学生運動だ」


「中核派の連中だよ、難民に教えてんのさ。ビラ配りでもやってればいいものを」


京大で活動を行っていた彼らは、新たな革命の燃料を求めて難民を味方に付けていた。


日本赤軍や学生運動の下火によって、支持を失ったかと思えば、今度は人権保護に目覚めたらしい。


数週間前、居住区からはみ出る形で建てられたバラック小屋へ、役所の職員が立ち退き要求を行ったのだが、その際職員が暴行を受け全治2ヶ月の大怪我を負った。


ここまでは良くある話なのだが、問題はその後だった。


何処かの馬鹿な右翼が、愛国心を拗らせて難民グループに報復を行った。


報復が報復を呼び、憎悪が憎悪を呼んだ。


デモの参加人数はねずみ算式に膨れ上がり、負傷者で近隣の病院はベッド数は足りなくなった。


「まさかこんなくだらない理由で、武装公僕たる我々が出る羽目になるとはな」


陸上自衛隊 特殊作戦群 第305中隊


それが彼らの所属組織だった。


「公安の連中が嗅ぎ回ってる、見つかるなよ」


「交戦規定(ROE)は?」


「犬に食わせとけ」


2台の乗用車から隊員が素早く降り、全方位を警戒しながら外国製の突撃銃を構え進む。


表の混乱に紛れながら、裏路地を足音どころか、ブーツのクッションを踏み締める音すらも消し、目標へ向かって前進を続ける。


「赤城は裏から、加賀はバックアップを」


隊員は互いにコードネームで呼び合い、女の好みから出身地まで知っていた。


一心同体であり、チームワークが最も重視される職場である。


元は商店街だった事もあり、保護区内はシャッター付きの家が多くあった。


それが防壁となって侵入を拒んでいる。


裏口の扉は一見すると木製だが、中に鉄板が仕込んであり、ガサ入れを想定した造りになっていた。


「開きそうか?」


「駄目だな、情報通り外からは開かん」


ドアノブが取り外され、外からは開けられない造りになっていた。


「バールでも無理だな。予定通りテープで行こう」


テープ状の細長い爆薬を用意し、扉の爆破準備を行う。


「発破」


爆破で火花が散り、鉄の扉が吹き飛ぶ。


「ミヤマ敵や敵!」


仲間へ警告を発する男に向かって胸に2発、頭に1発撃ち込む。


銃口に取り付けられたサプレッサーは、銃声をくぐもらせ、マズルフラッシュを目立たなくさせる。


壁に滴る水のようにゆっくりと、そして時に速く動く。


向こうもこういった事態に慣れているの、最初に警告を発した男以外は沈黙を貫いている。


ひっそりと息を潜め、ただ武器を構えて待ち続けている。


屋内戦に置いて待ち伏せ側は圧倒的優位であり、突入側は出血を強いられる。


ハンドサインで指示を出すと、閃光手榴弾を投げ入れ、強烈な光と共に部屋へ突入した。


一見しても何も誰も居ない部屋だが、ベッド下や倒れた机の裏に敵が潜んでいた。


それを一瞬のうちに、何処に隠れているかを予測をつけ、引き金を引かなければならない。


赤城は突入から1秒すらも経たずに判断した。


ベッドの綿が飛び散り、スプリングが飛び出る。


机から顔を出した敵の頭を撃ち抜く。


全て一瞬だった。


「こちらアルファ01、敵2名を射殺、どうぞ」


「こちら、キロ01 3名射殺。制圧完了」


情報通り室内には5人の男女が、怪しげな物を製造、保管していた。


「火炎瓶に鉄パイプ爆弾、全共闘時代の悪しき遺物だ。見ろこいつを、老人だぞ」


シワだらけの死体の胸ポケットからは、古い銘柄のタバコがパッケージを覗かせていた。


「ヒカリだ、こんなの吸ってる奴が未だにいるんだな」


一本取り出し、手のひらに乗せてみると妙に重かった。


タバコを折って、中に入っている物を確認すると、タールのような物がぎっしりと詰まっていた。


「何だこりゃ、葉っぱが詰まってない」


これほど粘り気が強くて隙間がなければ、煙を吸うことすら叶わない。


ニコチン中毒者がやることではなかった。


「あったぞ、パナマ文書発見だ」


「懐かしいなそれ、発覚したのは何年前だったかな?」


分厚いファイルの中には、科学記号と無数の数字が殴り書きされ、四足歩行動物が書かれた資料の隅っこに、DARPAと書いてあった。


「マジか…マジか……」


DARPA略さないで言えば、アメリカ国防高等研究計画局、インターネットの原型を作った組織と述べれば、分かりやすいだろう。


「反社極左内ゲバ革命ごっこ遊びテロ集団が、米国の最重要機密を持ち出したっていうのか!?」


「お喋りはやめだ。機動隊に敗走したデモ隊が戻ってくるぞ」


まだ調べ残りはあるが、後は府警に任せて撤収することにし、一切の痕跡を残さず撤収した。

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