櫻の樹の下には
櫻の樹の下には私が埋まつてゐる!
これは信じていいことなんだよ。何故って、今まさに埋められているからね。穴を掘り、その中に私の死体を投げ入れ、土を私に被せて穴を埋める作業をしている私の弟。その様を見つめる半透明の私。櫻の樹の下には私が埋まつてゐる。これは信じていいことだ。
私の祖父は莫大な富を築いていた。その祖父が先日亡くなった。85歳、大往生だった。例に漏れず私は遺産相続がらみのいざこざに巻き込まれた。あんなに仲の良かった弟が罵詈雑言の嵐を私に浴びせてくる。私の嫁と弟の嫁は髪を掴みあって互いを罵る。また、見知らぬ輩が祖父の親戚を名乗り、何人もこの屋敷を訪ねてきた。そんな毎日に嫌気が差していた昨日の夜。ついに私は弟に殺された。まったく、金の魔力とは恐ろしいものだ。
何故私の魂が半透明のままとして現世に残っているかはわからない。気が付いたら私は半透明になっており、何かに触れようとすると私の手はすり抜け、私の声は誰にも聞こえないらしい。今現在、必死の形相で穴を埋めている弟を擽ろうとしているが、指先は弟の体内に消えていっている。
弟は私を埋め終え、自室に戻って就寝した。私と同じく現世に残っている奴が沢山いるのではないかと考え、夜の間に屋敷付近を探し回ったが、どうやら半透明な奴は私一人だけのようだ。半透明の祖父が居れば、遺産の分配も上手くいくのになあ。にせ親戚を簡単に追い返せるのになあ。
私が行方不明になったことにより、警察の者と探偵がやってきた。この昭和の世の中では探偵などという職業が流行っているらしい。探偵という職業は明治時代から続いているらしいが、非常に怪しい職業である。私の行方を調査しに来た探偵の容姿も非常に怪しく、長く伸ばした髪を後ろで一纏めにしていた。胡散臭い者を見る目で探偵を眺めていると、ふと目が合った。探偵はこちらを見て微笑む。どうやら私が見えている。
探偵は私と会話し、櫻の樹の下の私を掘り起こした。尤もらしい後付け推理を行い、弟の罪を暴いた。事件終了後、探偵は私に説明してくれた。古今東西、探偵とは霊と会話できる者が就く職業らしい。従って、探偵小説で必ず犯人を暴くことができるのは、文章に書かれていないところで霊と会話しヒントを得ているからなのだと。私は体が徐々に透明になっていくのを感じながら、ぼんやりと思った。もう探偵小説は読まない。