【part2】あ、僕は小森くんでいいんだ
「ダン!大丈夫か!」
10m先で、大柄な戦士がゆっくりと体を起こし、こちらに戻ってくる。
「なかなかいいパンチ持ってんじゃねーか…」
「…あんた大丈夫なの?ヒールいる?」
はじめは他人事のような様子だった神官のリリーナもさすがに心配そうにしている。
なんせ2m近い大男が高校生のパンチ1発で10m吹き飛んだのだ。ただごとではない。
「いらねーよ。それより、どうなってんだ。強化魔法の類か?」
「魔力は感じなかった…一体…」
魔法使いのシンイチロウは未だに信じられないようだ。
僕だって未だに信じられない。
「喧嘩得意なのは知ってだけど、こうちゃんそんなに化け物地味てたっけ…?」
「いやー、なんかこっち来てから体が軽いんだよな」
「体が軽いとパンチ力は増すの?」
「おい坊主、お前どこの出身だ」
戻ってきたダンが聞く。どうやら喧嘩を再開する気はないようで、安心した。
「凪高。地元は南中」
多分出身校のことではない。
ヤンキーはなんでいつもお前どこ中だよって聞くんだろう。
「ナギコー?聞いたことがない。名前は」
「小笠原昂大」
「オガサワラコウダイ?長いな」
「番長でいいぞ」
「バンチョーか」
ダンはずいと一歩こうちゃんに近づくと、あろうことか軽く頭を下げて言った。
「番長、先の非礼を詫びよう。1発だが受ければわかる。相当なやり手だな。ガキ扱いして悪かった」
「かまわねーさ。ガキなのは事実だからよ」
はじめは粗暴な男かと思ったけれど、さすがは勇者ご一行の戦士、武人だ。
「願わくば、またリベンジさせてくれねえか」
「おう。お前いつもはあの斧使うんだろ。次は獲物アリでもいいぜ」
「敵わねえな番長、だがそれは俺の流儀に反する。戦いは常に正々堂々だ」
「まっすぐなのは嫌いじゃねえな。ダンっていったか。覚えたぜ」
あれ、なんかこの人たち通じ合ってない?
「ダンは脳まで筋肉でできてるから、強い人好きなのよね~。番長大変よ。この人自分が勝つまで付きまとうんだから」
「特訓に付き合わされるのは俺達だぞ…勘弁しろ番長…」
どうやらこういったことははじめてではないらしい。というか番長で定着しちゃうの?すごく自然に番長って呼ばれてるけど。
「番長、君のことはまだよくわからないが、どうやら悪人ではなさそうだね。僕は白の勇者ハルフミ。このクラウドラインの森を中心に担当している」
白?担当?なんだが僕の知ってるゲームとは少し違うけど、こうちゃん勇者に番長って呼ばれちゃったよ。
「おっと、そういえば君の名前は聞いていなかったね。失礼した」
勇者ご一行が皆僕のほうを見つめる。
「小森くんだ!俺のダチ!手出したらぶっ飛ばすからな!」
私のために争わないで。
「小森です。この世界はわからないことばかりで…、色々と教えていただけると助かります」
「コモリクンか」
「コモリだな」
「コモリクンね」
「コモリクン…」
あ。僕はコモリクンでいいんだ…。
「なんでも聞いてくれ。こちらからも聞きたいことがたくさんある。ひとまず、街に戻って食事にしよう」
ゾロゾロと歩き出す勇者ご一行。
「飯だってよ!行こうぜ小森くん!」
無邪気に喜ぶこうちゃん。
たしかに、お腹は減っていた。
他に頼れる人もいないし、ついていくしかないよね。
小森くんは番長と勇者ご一行のあとを追った。