【part0】友達はヤンキー
盗んだバイクで走り出す―――――行く先も、解らぬまま―――――
「くらーい夜のトバリィの、なーかーでーーーーーえええ~っとぉ」
3人目を投げ飛ばし、手をパンパンと払う彼の学ランのポケットから流れるのはいつもの尾崎。
「頼む!!もう勘弁してくれ!!俺たちが悪かった!!」
半ベソをかきながら許しを請うているのは、ウチの高校の3年生。
「おめーら二度と小森くんの視界に入んじゃねーぞ。間違っても入ったら俺が物理的に視界から消してやるから覚えとけ」
ちなみに僕が小森くん。
「わ、わかったよ。じゃあな」
すごすごとその場を去ろうとする、さっきまで僕を囲んでいた3年生。
「あ、ちょっとまて」
呼び止めるのは――
「トバリーってどういう意味?」
小笠原 昂大17歳。ケンカはめっぽう強いがあまり頭は良くない高校2年生。自他ともに認めるヤンキー。
でもヤンキーと言っても所詮は現代っ子。
短ランはさすがに恥ずかしかったみたいで、少し小さめの学ラン。髪は今風のツーブロックリーゼント。煙草は体に悪いからアイコス。
あとなによりおかしいのが、なぜか僕と友達。
「トバリ―じゃなくて帳だよ。この間も聞かれた気がするけど」
3年生の代わりに僕が答える。今だ!とばかりに逃げていく3年生。
「あれ、そうだっけか」
ハハ、と彼はヤンキーらしからぬ照れくさそうな笑顔。
「帳ってのはさ、部屋を仕切るような感じで吊り下げられた布のことだよ。布に顔を突っ込んだら優しく包まれて何も見えなくなっちゃうね」
「小森くん、一緒に暗い夜の帳、突っ込みたくない?」
つっこみたくない。というか、それ多分バイク盗むよね。
「それはおいといて…、こうちゃん、いつも助けてくれてありがとう。どうして僕はこうも絡まれやすいんだろう…」
「いいっていいって。ダチじゃねーか」
今度はニカッと笑うこうちゃん。
僕は暴力は嫌いだ。ヤンキーなんか最たる例として嫌いだ。
今のご時世ヤンキーは絶滅しただなんて聞くこともあるけれど、理不尽な暴力を振るう奴や、周りの迷惑を考えず好き勝手に振舞う奴らはごまんといる。
そして僕はなぜか、そんな奴らと関わりを持たないよう生きているにも関わらず、ことあるごとに目をつけられてしまう。そんな自分も嫌いだし、やっぱりヤンキーみたいな奴らは大嫌いだ。
それでも小笠原昂大だけはどうしても嫌いになれない。
学校の教員やクラスの皆は彼をヤンキーだと言うけれど、なんなら本人も「俺はヤンキーだからよ」とか言ってるけれど、どうしても僕は彼と奴らが同じに思えない。
この話は本人にもしたことがある。
本人曰く、「俺は本物なんだよ」とのことである。こうちゃんのいうことは基本的に簡潔でわかりやすいけれど、たまに理解が及ばない。
「今度またうちに遊びにおいでよ。最近新しいゲームを買ったんだけど、それがとっても面白いんだ。やってみない?」
「おお!レースのやつか?パワプロか?」
「RPGだよ」
「撃ち合うやつか!」
無論ロケットランチャーのことではない。