6.いじめられっ子に協力するよ!6
翌日。学校の屋上。
「教えろよ早く!」
恵那はセレス君に叫びながら、セレス君の持つスマホを指差す。
「はいはいわかったよ〜」と、セレス君はスマホではなくポケットからメモと思われる紙を取り出し、手渡そうとした所で恵那にひったくられる。
「乱暴!」
「うるせぇ!」
恵那と由梨乃はスマホに何か入力し、アカウントが削除出来たのかホッとため息をついた。
「お前ら…絶対許さねぇからな」
恵那は私とセレス君を睨み、IDとパスワードの書かれていたであろうメモをビリビリに破り捨てた。
セレス君は「行こ」と私の手を取り、その場から去ろうと歩き出した。
恵那と由梨乃は私達を最後まで睨みつけたまま、動かずにいる。きっと何か復讐を考えてるんだ…。
「…もし、恵那達が何か仕返しを」
「のどかちゃーん?君はもう死ぬんだよ?何にも怖くないって!大丈夫大丈夫」
生きた心地がしないまま放課後を迎える。恵那と由梨乃と接触したのは屋上でのあれ以来で、帰る時も近寄られすらしなかった。…多分、セレス君が側にいてくれたからかな。
「さーてと!アユリちゃんに会おーう!」
セレス君はるんるんしながら私の手を引き、例の「セレス君宅」に向かう。…改めて外から見ても廃墟だ。本当にアユリちゃんもここに来るのかな…?
「ただいまー!アユリちゃーん?いるー?」
割れたガラスの自動ドアだったもの(多分)を通り、セレス君の後を追う。相変わらず暗くてほこり臭い…ああでもそういえば、セレス君の部屋だけは綺麗だったな。
階段を上がり、セレス君の部屋の前に着く。セレス君が扉を勢いよく開けると、中には…ソファで眠っている女の子がいた。
「寝ちゃってるや。アユリちゃーん、のどかちゃん連れて来たよー。アーユーリーちゃーん!!」
セレス君の呼びかけに反応して、アユリちゃんは目をこすりながら体を起こした。そんな彼女を見て、私は目を丸くする。
確かに可愛い。私と同い年くらいにみえるその子は、茶髪に長いツインテール、斜めに切り揃えられた前髪、綺麗な青い目…すごくおしゃれで可愛かった。
「んん…おはよー、ごめん寝てた。昨日の夜パパが激しくって…」
「そっかー。よく分かんないけどお疲れ様!」
パパ?!激しい!?
何だかいけない話を聞いている気がする。私が固まっていると、アユリちゃんはこっちを見てにっこり笑った。
「あなたがのどかちゃん?かわいー。あたしはアユリ。セレスの友達だよ」
「アユリちゃんはパパがいっぱいいるんだよ〜!」
パパ が いっ ぱい!!?
私は気まずさ百パーセントになって来て、今日は帰ろうかとそっと後ずさりした。
「あ、わ、わた、私は、これで…」
「やだー!まだ友達になったばっかじゃん?ね?のどか♪」
アユリちゃんが私に駆け寄って来て、私を抱きしめる。あ、アユリちゃん、お、おっぱいが大きい…苦しい。足を絡められ、恥ずかしさと混乱とで手足をバタバタさせて暴れるしか出来なかった。
「た、助けて!セレス君!」
「良かったー!二人とも仲良しになったね!じゃーいい加減座ってよ、おやつ食べよー!」
アユリちゃんに抱きしめられながら私は引きずられ、ソファに座らされる。アユリちゃんはポッキーを口に咥えると私の方を向いて笑った。
「ポッキーゲームしよ♪」
「しっっしないよ!しないからね!でっ、セレス君!今日の目的は?」
残念そうにポリポリとポッキーを咀嚼するアユリちゃんを無視して、私はセレス君に問いかけた。
「あ、そっか。アユリちゃんはのどかちゃんが死んだら悲しいよね?」
唐突な発言に驚き、横に座るアユリちゃんを見る。
「悲しいよ。せっかく仲良くなれたのに」
仲良くなれた…?いつ?
「出来たよのどかちゃん!悲しんでくれる人!」
「え?」
セレス君は満足そうに笑いながら、アユリちゃんを指差した。
「アユリちゃんがのどかちゃんの死を悲しんでくれるよ!良かったね!」
……あ、やっと、やっと分かった。
セレス君は、私のために、私が死んだら悲しむ人をつくってくれたのか。
…なるほど。…かなり予想外だけど…嬉しい、かな…。
「なんでのどかは死ぬの?」
アユリちゃんはジュースを飲みながら、素朴な疑問というように私を見た。
「…いじめられて、誰も味方がいなくて…生きるのが、嫌になったの」
アユリちゃんは「ふーん」と気の抜けた返事をすると、悲しそうな顔をした。
「そっかー。いじめて来た奴らに復讐は?」
「……とりあえず、したよ。今はもう、死んで終わり…」
「え、もう良いの?死んで?」
セレス君は意外そうな顔をする。だってもう、復讐は終わったじゃない、貴方のおかげで。
「カラオケのお金のは?」
「もう良い」
「その他諸々は?」
「もう死にたい。向こうからの復讐も怖いし」
部屋が静まり返る。やがてセレス君はソファから立ち上がると、何か液体が入った瓶を取り出した。
「はい。これで楽に死ねるよ。痛くなく苦しくなくね」
瓶を手渡され、私は今になって手が震える。隣のアユリちゃんはそんな私を見つめながらぼーっとしている。
「…ねぇ、私の死体は?」
「大丈夫、ちゃんと処理するから。誰にもバレないように」
「ハナは…」
「僕が飼っちゃ駄目だって言ってたじゃん、アユリちゃんも無理だろうし。犬ぐらいはあの家もちゃんと飼うんじゃない?」
そっか、もう私は、何も心配しなくて良いんだ。
「……まだ死なないの?」
横のアユリちゃんが苛立だしげに口を開いた。
「あーあれか、死ぬのが怖いのか。んもーしょーがないな、手伝ってあげる、ほら!」
アユリちゃんに瓶を持った手をグイッと押され、私の口に謎の液体…毒薬が注ぎ込まれた。
「うっ!ちょ、と、まっ…うう!!」
「早く死ねよ!!!」
アユリちゃんは私をソファに押し倒し、グググと力を入れて瓶の中身を私の喉に流し込む。
何で、いや、確かに死にたいよ私は。
でもこんな強引に、しかもアユリちゃんは私が死ぬのが悲しいって
「あ?ちゃんと悲しいってば!悲しんだよ!だからもう良いでしょ!?いじめられて味方がいなくて、悲しいじゃん!で?悲しむあたしがいるからあんたはもう死ぬ!でしょ?」
分からない、まるで、私にもう、早く死んで欲し
「はーっ死んだ!セレスも手伝ってよー!」
「だってアユリちゃんだけで何とかなったじゃん。良かったねのどかちゃん、無事に死ねて」
アユリちゃんはのどかちゃんの死体を抱きしめ、嬉しそうに笑いながら問いかける。
「ねえ、もーいい?食べてもいい?」
「良いよぉ」
「やったぁ♡何にしよー♡のどかは可愛いからやっぱり甘くするかな?よし!クッキング〜♪」
人間であるのどかちゃんをどう甘いものにするのか、僕には分からない。
まぁいっか、のどかちゃんは無事に死ねたんだよね。
救済されたんだから、後はどうしようが僕達の勝手だよね!
「あ、そういえばのどかの親に復讐は?」
アユリちゃんは思い出したように僕に聞いて来た。
「今更聞かないでよ〜!忘れてた!でももうのどかちゃん死んじゃったし。本人も精神ズタボロだったし〜。思ったより弱い子だったよね。それに、親がいないとハナちゃんがぼっちだし!」
「そっかー?分かった!」
僕はつまんない奴には興味無いんだ。
ばいばい、のどかちゃん。弱虫。天国に行けると良いねー!
アユリちゃんに分解されようとしているのどかちゃんを見送った後、僕は伸びをしてソファに横たわり、昼寝を始めた。
いじめられっ子に協力するよ! 完
いじめられっ子に協力するよ!はこの6話で終わりです。
次は誰がセレスとアユリの元にやって来るのか。
彼らに待つのは生か死か。
全てはセレスとアユリの気まぐれで決まってしまうのかもしれません…