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5.いじめられっ子に協力するよ!5

「あ、あなたは…?」

 お母さんは目を丸くして、セレス君を見ている。


 私は少し額に汗をかきつつ、セレス君を紹介しようと口を開きかける。でも、セレス君は自分から花が咲いたように話し出した。


「初めまして!私はセレスちゃんです!白井セレスです!のどかちゃんとは同級生で仲良しなんです!実は〜家が爆発しちゃって〜!今夜だけでもお泊まりしちゃ駄目ですか?」


 目をうるうるさせながら、セレス君はお母さんにズイッと顔を近づけた。両手は神様にお祈りするみたいに組んでいる。


「えーっと…その…」

 お母さんは困ったように私に視線で助けを求めた。あと、「どういう事よ!?」って怒りも伝わって来る…ような…


「お母さん、突然でごめん!あ、例のアカウントの件にセレスちゃんは関係無いからね!?っていうかもうアカウントも消せたから!今日転校してきたばかりだし。で、じ、事故で家が無くなっ…ちゃったから…」


 お母さんはしばらく黙り込んだ後、笑顔になって手招きをした。

「大変だったわね、どうぞセレスちゃん」


 セレス君はぱあっと顔を輝かせて、「ありがとうございます!」と涙をヒュッと引っ込めた。いや引っ込めない方が良いんじゃないの…?


 私もホッとして、ひとまず二人で私の部屋に行く。セレス君は鞄を床に置くと、私のベッドにばふっと飛び込んだ。


「あ〜ふかふか!良いなー!僕ソファで寝てるから羨ましいー!今日僕ここで寝たい!」

「え!?ちょっと、シングルベッドだよ?狭いし…いや、…まぁいっか私は床に…」


 なんで二人並んで寝るなんて考えてたんだ…流れ的に私は床だろう。


「何でよ、のどかちゃんも僕と一緒にベッドで寝ればいーじゃん」


 セレス君は一つしかない枕をずらし、側にあった平べったいぬいぐるみを枕の隣に置いた。


「えー!?いや、駄目でしょ、駄目!か、仮にも男女だし…」

「大丈夫!のどかちゃんのお母さんも僕を女の子だって思ってるし、怪しまれないよ!」

「そういう事じゃ…」


 伝わらないぃ!!

 私はセレス君を異性として意識はしてないけど…でもさ、さすがに、中学生(セレス君は分からないけど)の男女二人、付き合ってもいないのに二人で一緒に寝るなんて…


「落ち着かない…」

「ぶーぶー!!僕寝相悪くな…あ、いや前にアユリちゃん蹴飛ばしちゃったな」

「アユリちゃん?」

「僕の友達!」


 セレス君、友達いたんだ…なんて失礼な事を考えながら、私はクローゼットを開けて予備の布団を確認していた。


 その間にセレス君は、ちょこちょこ部屋の中を動き回っている。構わないけど、ちょっと恥ずかしいなぁ…


「ねぇ…引き出しとかやたら開けないで…ねっ!?」


 セレス君が手に取り見つめていた写真を取り上げ、私は自分でも驚くほどの速さで引き出しにしまう。

「何すんのー!」

「それはこっちのセリフだよ!勝手に開けないでよ!」

「それさ、あの恵那と由梨乃だよね」

「……」


 セレス君が見ていたのは、いつかプリクラで私と恵那、由梨乃三人で撮った写真だった。


「仲良しー!とか、冗談?それラクガキで描いたののどかちゃんじゃないでしょ。多分あの一番調子乗ってる恵那。ムカつくねー!」


 セレス君はまだ私の部屋を探検しながら、私に背を向けて恵那の文句を言っている。確かに分かる、私だって…信じられない。


「…いつから…こんな事になっちゃったんだろう。私は、誰にも悲しまれる事なく…死んで行く。なんとなく想像してた事が、現実になりそうだよ」


 机に手をつき、私は泣き出してしまった。


「死にたいのに…悲しいよ…。せめて、私、誰かに…悲しんで欲しい…なんて、わがままだよね…」


 きっとセレス君は私が死んでも悲しまない。

 そんな気がするのだ。お母さんもお父さんも、もちろん恵那や由梨乃も。


「いや?ハナちゃんは?ハナちゃんは悲しいんじゃない?」


 セレス君がベッドで横たわりながら、両手を組んでウンウンと一人で頷いている。


 私もハッとした。ハナ…ハナなら、私が死んだら悲しんでくれる?というか、私が死んでも分かるかな?


「のどかちゃんは寂しいんだねー。そんなに死後を悲しまれたいなら、さっき言ったアユリちゃんを紹介しよう!」


 セレス君はベッドから起き上がると、ポケットからスマホを取り出して誰かに電話している。私は何となく机の側にある椅子に座りながらそんな彼を見ていると、すぐに話は終わったようでスマホをぽいっとベッドに軽く投げ置いた。


「明日の放課後に遊ぶ約束したよ!学校帰りに僕ん家に行こ!」


 唐突な展開に、私は何だか緊張して来た。


「あ、アユリちゃん?に、会うの?」

「うん!大丈夫だよ良い子だから!パパと暮らしててお金持ちな女の子!可愛いよ!」

「はぁ…」


 そして今更、私はある事に気がつく。


「セレス君、スマホ壊れたよね!?」

「え?あーうん、二台目!」

「二台持ってるの!?だからあの時平気で…」

「お願いすればもっと貰えるよ!」


 もっと貰える…?

「セレス君…もしかしてあの廃墟…元携帯会社とか…?」

「廃墟?ああ僕ん家?違うよ!」

「じゃあなんでそんな…。まぁいいや…」


 セレス君はお金持ちで、スマホを沢山持ってる。オッケー!もう深く考えるのはやめよう!



 結局その日はセレス君はベッド、私は敷布団で床に寝た。


 朝になって気づく。私の判断は正しかった。

 セレス君はあり得ない体勢で、もし一緒に寝ていたら私が床に落ちていた事は明らかだったから。


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