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4.いじめられっ子に協力するよ!4

 セレス君と別れた後、私は何とか両親を説得してみた。

 二人共私が嘘をついてるわけじゃないと分かってくれたけど、じゃあ何でもっと早く言わないと責められた。


 …言えなかった。私は今までお母さんもお父さんに本音なんて言えた事がない。思い切っていじめられたのを告白してみれば、嘘だって言われるし。


 本当に心を許せる家族って、私にはハナしかいなかったんだな…。


 明日登校したら恵那と由梨乃にページを消して貰うよう頼め、そして確実に消して貰え。それだけ言われて、私は翌日を迎える事になった。


 セレス君はどうやって復讐しに来るつもりなんだろう…。

 悶々とそう考えながら、私は重い足取りで学校に向かう。

 かと言って家の中もギスギスしていたくないんだけど…。


「おっはよー!のどか!どうだった?」


 教室に入るなり、ニヤニヤしながら恵那が声を掛けてきた。

「……」

「無視ー?ひどーい!」


 由梨乃も寄ってきて、わざとらしく泣き真似をする。私は二人に何も言えずにいた。というか今ここは教室の中、出会い系サイトに不本意でも私が登録された事をクラスメイトには知られたくない。


 黙って無視を続けていると、また何かされないか心配だった。でも先生が入ってきたおかげで、恵那は舌打ちをしながらも私から由梨乃と離れていき、助かった。


 先生は「ホームルームを始める前に、みんなに伝えたい事がある」と切り出した。


「突然なんだが、今日うちの学校に転入生が来たぞ!さあ、入りなさい」


 本当に突然の知らせに、教室がざわつきだす。

 転入生か…。仲良くなれたら良いなぁ…あっ、私もうすぐ死ぬから意味ないか…。


 そんな事をぼけっと考えていると、何故か見覚えのある不思議なステップで教室に入ってきたのは…



「初めましてー!白井セレスです!よろしくねー!」


 ええええええええええええええ!!?

 セ、セレス君!!?セレス君!?


 あ、もしかして昨日言ってた「サプライズ」って…これ!?


「かっわいい!よっしゃー美少女転入生来たぁ!」

「俺メアド交換して〜」

「しっろ!良いな〜」


 よく見たらセレス君はスカートをはいている。ただでさえ女の子みたいな姿なのに、スカートなんてはくから知らない人にとってはもう女の子にしか見えないだろう。

 私は男子達を憐れみつつ、セレス君に視線を移した。

 すると彼はにっこり笑う。はあ…何だか不安になってきた…ような…。


 休み時間、セレス君は男子達に囲まれていた。

「セレスちゃん彼氏いんの?」

「放課後遊び行こうぜ!」

「食いもん何が好き?」


 質問攻めにあっているセレス君が心配になって、それとなく声を掛けて教室から出られないかと席を立つ。

 でも私の肩は恵那に掴まれ、驚いて振り返ると…恵那は私を睨みつけていた。


「屋上で飯食おーよ、のどか」

 恵那の背後には由梨乃もいる。ちらっとセレス君を見て助けを求めてみる…と、奇跡的に向こうもこっちを見ていた。


「ねえねえ僕も混ぜて〜っ!」

「え?あー…転入生、セレスちゃん?か」

 恵那と由梨乃はヒソヒソと相談している。私をいじめるつもりだったから、他人は入れたくないんだろう。

 その間に不思議そうにこちらを見つめる男子達を、セレス君は笑顔で手を振り退散させた。すごい…。


「駄目〜?」

「…ううん、良いよ」


 恵那の作り笑顔。これはセレス君を仲間に入れようとしているか、私と同じようにいじめるつもりか、今日は私をいじめないつもりか…。



 こうして私、セレス君、恵那、由梨乃の四人でお昼ご飯にする事になった。

 腰を下ろして弁当箱を開け始めると、恵那は早速動く。


「実はさ〜セレスちゃん。新入りのあんたにこんな話も何なんだけど、あたしと由梨乃、のどかにいじめられててさ〜」

 !?

 まさか、こんな嘘をつくなんて。

 セレス君を仲間に入れる気なんだ…。


「えーそーなの」

「うん。だから仕返し手伝ってー!」

「やだよ」

「え」


 当然の答えだ。けど、そこまではっきり言ってくれるとは思ってなかったから…嬉しい。


「僕は復プロにきたんだから」

「は?」


 それ言っちゃうの!?

 いや、伝わってないけど!

 セレス君はきょとんとしていた恵那と由梨乃をパシャパシャッ!とスマホで写真に撮った。


「ちょっ!」

「何すんだよ!?」

「プロフィール画面に登録する写真をって言われたから撮っただけだよ」


 プロフィール画面?何の話だ?

「おい消せよ……?」


 恵那がセレス君のスマホ画面を覗き込む。すると、すぐに顔を真っ青にしてセレス君からスマホを奪おうとした。


「ざけんな!今すぐ消せよ!」

「何でそんなに怒ってるの?」

「あっ!おい!あたしのまで!!」


 由梨乃も画面を見てギョッとしている。

 何があったのか、私もセレス君のスマホ画面を覗いてみた。


「…これ…!」


 そこには、私が恵那に登録された出会い系サイトの…恵那のプロフィール画面と、由梨乃のプロフィール画面があった。


「何で嫌ならのどかちゃんにも同じ事したの?昔自分の嫌な事は人にするなって教わらなかったの?」


 セレス君は純粋に分からないという風に首を傾げている。恵那と由梨乃は無視して、良いから返せ!と器用に逃げ回るセレス君からスマホを奪い取ろうとしていた。


「えい」


 セレス君は自分のスマホを床に叩きつけると、そのまま上履きを履いた足でバリン!と踏み割った。


「あ!?」

「何してんだよ!!」

「だってしつこいんだもん。恵那ちゃん、君が作ったのどかちゃんのアカウントにログインさせてアカウント消させてくれるなら、今登録した君と由梨乃ちゃんののIDとパスワード教えてあげるよ」


 踏まれたスマホはとても動きそうにない。セレス君はポケットからメモを取り出して、ひらひらと振ってみせた。


「…チッ!てめーのスマホ壊れてんじゃねーか!」

「あ!そうだった!のどかちゃんスマホ貸してー!」

「ていうかどこであたしと恵那の情報を…」


 私はセレス君に言われるがままにスマホを渡す。するとセレス君は恵那の顔を見て、「ほら、早く」と急かした。

「…あームカつく!これだよ!」

 恵那が見せてきたスマホ画面のID、パスワードを入れて私のスマホで出会い系サイトにログインする。

 すると、やはり私のプロフィール画面が出てきた。


「早くあたしらのも教えろよ!」

「…いや、明日教える」

「は!?今教えろよ!!」


 恵那がセレス君の胸ぐらを掴む。セレス君は怯まず、真顔のまま淡々と話す。

「だってのどかちゃんは一日登録されっぱなしだったんだよ。なら、君達も一日援交中学生体験しなきゃ。味わえ、のどかちゃんの苦しみを」


 恵那は睨んでいた顔を今度は不安そうに歪めると、セレス君を離してふらふらとよろける。そして悔しそうに私を見た。


「…お前が復讐のために仕組んだの?こいつ、お前とグルなんだろ」

 冷たい響きの声に怖くなり、一瞬泣きそうになる。セレス君を見ると、普段とは違って真面目な表情で私を見つめていた。その視線を受けて思わず背を伸ばし、深呼吸をすると…恵那をキッと睨む。


「セレス君は私の友達だよ。あんた達なんかとは違う、私のために一緒に戦ってくれる…。もうあんた達の顔なんか見たくない。明日にはあんた達のアカウントも消せるように教えるから、それ以降は二度と私に関わらないで!」


 恵那と由梨乃は驚いた顔でこちらを見つめている。私はというと、これだけの事を言うのにもかなり勇気が必要で、額には汗が滲んでいた。


「そーゆー事だから!バイバイ!」


 セレス君は二人に手を振ると、私の腕を掴んで屋上から出た。そして人気のない教室に入ると、私は疲れてへたっと座り込む。



「怖かった…」

「お疲れ!良い感じだったよ?」

「そうかな…?っていうかセレス君、何でスカート?」

「これはねー、女の子の格好の方が奴らとのどかちゃんに近寄りやすいかなって!」


 そう言いながらくるっと回り、スカートをふわっと見せつけてきた。…うん、確かに違和感がない。


「明日は…二人にアカウントを消させてあげるんだよね」

「そーだねー。何か帰り道怖いなぁ、僕のどかちゃん家に泊まりたい」

「…え!?」


 突然の提案に、私は驚いて聞き返す。

「私の家に…泊まりたい…?」

「駄目?僕ん家遠いしさ〜暗いから、命を狙われたらひとたまりもないよぉ」


 セレス君…勇気があるのかないのか、よく分からないな…いや私よりはあるんだろうけど…

「私は構わないけど…例の件でギスギスして…あ、でもアカウント消せたし、良いかな」

「ちゃんと学生証もあるから怪しくないよ!ねっ!」

「…わ、分かった、お母さんに聞いて…いや、直接一緒に帰っちゃおうか。有無を言わさないためにも」


 嬉しそうに小躍りするセレス君を見て、私はホッと息を吐く。安心してなのか、不安でかは…自分でもよく分からない。



 ただ、今回セレス君のおかげで恵那と由梨乃に初めて抵抗が出来た。

 明日もまだまだ不安がいっぱいだけど…頑張ろう。

 セレス君もいるし、大丈夫だ。

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