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3.いじめられっ子に協力するよ!3

 社長室のようなセレス君の部屋。

 私はボロボロになった椅子に座る。元は革張りの豪華な椅子だったんだろう…今では腰掛けた途端にギシィッと不安になるくらい軋んだ。


 セレス君は社長用のデスクみたいなものに腰掛け、足をブラブラさせながらガサゴソとデスクの引き出しを漁る。


「はい、これ食べて良いよ」

「え?ありがとう…」


 投げ渡されたのはチョコだった。セレス君は私に渡したものと同じ板チョコをバリバリ食べながら、私を見下ろしている。


「で、やっぱり死にたい理由はいじめ?」

「……うん。あと…家族も私を信じてくれなくて、悲しくなっちゃった」


 話しながら涙が出そうになる。私が死んでも、悲しむ人なんかいないんじゃないか。


 私はセレス君に、いじめの内容と両親に取られた対応の全てを話した。

「酷いね!ムカつく!でもさでもさ、のどかちゃんは今すぐにでも死にたいの?」

「え?うん…そう…」

「もったいない!!!」


 セレス君はデスクから飛び降りると、私に顔を近づけてきた。


「わっえっ?!」

「何で復讐しようとか考えないのさ!もったいない!自分を辛い目に遭わせた奴らを、同じように辛い目に遭わせてやらなきゃ!そしたら死ぬの!ね!?」


 復讐…?

「…無理だよ、そんな気力も勇気もない…。特に、お母さんとお父さんにはそんな事出来ないよ…」

「僕が協力してあげるよ!」


 セレス君はそう宣言すると、自分の胸にバン!と手を当てた。

「協力?」

「うん。最初は自殺の協力だけするつもりだったけど、話聞いて気が変わったよ。そんなムカつく奴らをほっといてこっちは死ぬなんて嫌だね!」


 バリッ、とチョコを豪快に食べながら、ウンウン、とセレス君は一人で頷いている。

 復讐なんて、そんなの…仮に一人じゃないとしても…


「嫌だよ…復讐なんて」

「もおお!!じゃあ分かったよ、自殺協力の報酬にういろうを貰おうと思ってたけど変えよう。僕といじめっ子共に復讐する!それが自殺協力の条件だよ」


 ういろう?

 っていうか、自殺って協力が必要なの…?


「自殺の協力って、何をするつもり?私は死ねたらそれで良いから、このビルから飛び降りれたら良いんだけど…」

「だからー!さっきも言ったけどここは僕ん家!人ん家で死なないで!それに、飛び降り自殺は確実じゃないよ」


 再びデスクに腰掛けながら、セレス君は窓を開けた。

「こっち来て。ほら、この一階上が屋上なんだけどさ。ここからでも大して変わらないわけ。んで、下はコンクリだから確かに頭とか思いっきり打てれば死ねるかもね?でもさ、もし瀕死になって命だけは助かったら?」


 窓から下を覗く。予想以上に高くて、ゾッとした。

「のどかちゃんはきっと後悔する。痛い、苦しい、こんな思いするなら自殺なんてするんじゃなかった、辛い、辛い、辛い…そして、ここは人気もない。瀕死の重傷を負いながら君は誰にも助けてもらえないまま、ゆっくりゆっくり時間をかけて死んで行くの。怖くない?」


 アレス君が真顔でそんな事を話すから、堪えていた涙はついにポロポロと溢れてきてしまった。


「じゃ、じゃあ…どうしたら良いの…っていうか…セレス君はここに住んでるんでしょ…仮にそうなった私を助けては、くれないの…?」


「めんどくさい。し、僕の家から飛び降りて死んだ人なんて助けたくない。僕の家で自殺されんの嫌だって言ってんじゃん〜。だから、僕は確実に死ねる自殺の協力をしようと思ってたの!もちろん飛び降りじゃなくてね?」


 いつのまにかチョコを食べ終わっていたセレス君は、次はポッキーを手に取り袋を開けていた。

「ま、それは復讐の後ね。とりあえずそのいじめっ子共の事教えてよ。姿とか名前とか」

「…まだ復讐、する勇気…出ない…」


 ポリポリとポッキーを食べていたセレス君が、ピタリと動きを止めた。くわえたままのポッキーは、まるで煙草みたいな状態になっている。


「……」

「だって、もしやり返されたりしたら」

「のどかちゃんさぁ、死ぬ気あんの?」


 セレス君はガッ!と私の首根っこを後ろから掴むと、開けたままの窓にグイッと押し出した。


「ちょっ!?何するの!?」

「いやいや死にたいんでしょ?」

「でもっ、さっき飛び降りは確実には死ねないって」

「怖いんだ」


 セレス君、怒ってるの…?

 上半身は窓の外で、両手で必死に窓枠に捕まる。そうしないと、本当に落ちてしまいそうだった。


「こ…怖いよ!痛いとか、嫌だし…苦しむんだから」

「死後の世界なんか知らないでしょ?生きてるうちに感じる痛みとか、苦しみとか、そんなもんに怖がってたらさぁ、死ぬ勇気なんか一生出ないよ」


 セレス君は力を緩めぬままで、私は泣きながら必死に呼びかけた。

「でも…今は、確かに、無理、だから、やめて、やだよぉ、セレス君!!離して!!」


 途端、軽くなった私の体は重力に従い…するりと、窓の外に落ちて



 なかった。

「すごい力〜。やっぱり死ぬ気ないんじゃん!」


 窓枠に捕まっていた手が、何とか私の体を支えきっていた。

 それでも一瞬、落ちたような感覚に陥った私は…床にしゃがみ込みながら、セレス君を見上げて睨む。


「酷い!確かに…私は弱虫で…みっともないけど!あんな事しなくても良いじゃない!」

「ほぉ」

「指いったいし!!分かったよ復讐すれば良いの!?」

「うん!」

「じゃあどうやってするの!」

「良いね良いねー!えっと…いや、サプライズにするから、いじめっ子共の情報だけ教えてよ」


 頭に来た私は、恵那と由梨乃の事をセレス君に詳しく話した。セレス君は明日にでも決行するって言うから、早々に話を終えて帰ろうとして…思い出す。


「…うう…帰りたくない…」

「あー、もう真っ暗だもんねー。おまけに親はプンプンだし?うーんうーん、でも復プロのためにはのどかちゃんに学校に来てもらわないと…」

「ふ…復プロ?」

「復讐プロジェクト☆」

「…そっか…」


 だんだんセレス君のテンションにも慣れてきてしまった。

 でもよくよく考えたら…この場所、よく分からないし。帰り道も分からない気がする…!


「もう嫌だあぁ…帰り道もよく分からない…」

「ほらほら!のどかちゃん!どうせもうすぐ死ぬんだから!何にも怖がる事ないよ!ちなみにハナちゃんと君と初めて会ったところまでなら僕行けるから、一緒に行こ!」

 勇気出して、せめて明日だけ登校して!とセレス君から頭を下げられ、仕方なく帰宅する事にした。



「ねぇ、死んだらハナちゃんどうするつもり?」

「…え」

「親の話聞いてると酷いしさー!死んだら僕にちょうだい!飼うから!」

「な、あの廃墟で飼うつもり!!?」

「うん!」

「やめて!環境が悪すぎる!」

「えーっ!」


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