2.いじめられっ子に協力するよ!2
翌日の放課後、私は屋上に恵那と由梨乃を呼び出した。
「は?」
「意味分かんないんだけど」
恵那と由梨乃は私を睨む。私は怖くなって、二人から目を逸らした。
「も…もう無理。お金ないよ。行くなら割り勘にして…お願い」
「マジかよ〜。じゃあアンタは援交中学生ね〜」
恵那がスマホの画面を私に見せてきた。
するとそこには、いつのまにか作っていたらしい私の…出会い系サイトのプロフィールページ…?
『H大歓迎♡優しくしてね♡』と書かれ、私のメールアドレスと顔写真、誕生日まで…
「ちょっと!」
「まだ公開してないよ。でも今から公開しちゃいまーす!」
「のどか不潔〜!きゃはは!」
「…何で…何でこんな事するの!?」
恵那からスマホを取ろうとしても、由梨乃に妨害されて上手く行かない。
恵那はスマホ画面を指でタップしながら、「よし!」とガッツポーズをした。
「出来た〜!」
「うっわ!ヤバ!援交女だ〜!!」
由梨乃が押さえていた私からパッと手を離し、私は勢いあまって床に倒れ込む。
「痛いっ…」
「友達なのに…金出してくんないんだぁ…」
泣き真似をする恵那に、私は再び立ち上がって問いかける。
「何でっ…恵那と由梨乃はお金出した事ないのに…!私だけ、いっつも私ばっかり…」
「えー!今まで金出し続けてて文句言わないからさぁ、てっきり良いんだと〜」
文句言わない…。
…確かに、脅されるまで文句は言わなかった。だって、友達だと思ってたから…
「…とにかく、さっきのページ消してよ!」
「じゃあ金出せよ。あ!良い事考えた!金ないなら援交で稼げば良いじゃん!」
「賛成!そのサイト中学生の女の子とヤりたいおっさんとか多いらしいし〜!」
二人のその言葉に泣きそうになりながら、恵那からスマホを取ろうと必死に抵抗する。二対一の結果最終的に私は突き飛ばされて、再び尻餅をついた。
「のどかほんっとドジだよな〜!援交オヤジとヤってる時もドジらないように気をつけなよ〜!」
二人は走って屋上から出て行った。
私は出会い系サイトに登録されたショックと恐怖から、そこから動けずにいた。
「…!?」
ブブブ、とスマホが震える。
恐る恐る画面を開いてみると、一通のメールが来ていた。
『のどかちゃん、今夜Hしませんか?○○ホテルがお互い近そうなので、夜九時に待ち合わせしませんか?』
「…嫌っ!」
知らない人からのメールだった。恵那が私の名前で登録した出会い系サイトからだろう。
「…えっ…?」
よく読んでみると、「お互い近そうなので」と書かれている。
「何でこの人近そう、なんて…」
まさか。
私は有名な出会い系サイトで自分の名前を検索にかけた。
すると、さっき恵那が登録していた私のプロフィール画面が出てくる。
「…嘘でしょ…」
画面をスクロールしていくと、私の誕生日やメールアドレスの下に…私の住所が書かれていた。
「そんな…こんなの、私だけの問題じゃない…!!」
涙が溢れてくる。どうしよう!?
…今度こそお母さんに画面を見せたら信じて貰えるかな?
「もう嫌だっ…」
私は学校から飛び出した。家まで走る。
早く知らせないと、自分ではこのページはどうにも出来ない。
家に着くと、急いで中に入る。
玄関にはお母さんの靴…良かった、家にいる。
「お母さんっ!助けて!」
リビングに駆け込むと、お母さんは驚いた顔でキッチンにいた。
「びっくりしたわね…何よ、どうしたの?」
「これっ…友達に、出会い系サイトに登録されちゃったのっ!例の話で、カラオケ行くのにお金は出せないって言ったら…」
息を荒くしながらスマホの画面を見せると、お母さんの表情はみるみる怒りを帯びて…私の頬に平手打ちが飛んできた。
衝撃で本日何度目かの尻餅をつく。
わけが分からなくて混乱したまま、お母さんを見上げた。
「あんた…どういうつもりよ!家の住所をネットに…しかもこんなサイトに上げるなんて!援交って…こうまでしてお金が欲しいわけ!?」
「…え」
あれ…何か、勘違いされてる…?
「違うよ!私の友達が勝手に私の住所を…」
「またそれ?いい加減にしなさい!今すぐこのページを消しなさい!」
「だからっ!友達が登録したから出来ないの!」
お母さんは舌打ちをするとスマホを私に投げ返し、どこかに電話を掛けた。
「もしもしあなた?のどかが家の住所をネットに…」
…お父さんだ。お母さんは会社にいるお父さんに電話を掛けた。
お母さんは怒った表情のまま、受話器を私に押しつけた。
お父さんなら…お父さんなら、私の話を信じてくれるかもしれない!
「お父さんっ!私友達に勝手に個人情報をネットに上げられ…」
「お前は何をやってるんだ!」
開口一番、私の言葉を遮ってお父さんが言った。
「お前だけの問題じゃないんだぞ!早く消せ!」
「いや…だから、友達が勝手に上げたものだから私にはどうにも……」
それ以上何も話せなくなった私は、お父さんの怒りの声も遠くで聞こえる騒音に思えた。
声が出ない。何を言っても無駄。
私に味方はいない。
そう悟った瞬間、私は受話器を床に投げ捨てた。
「のどか!?」
お母さんの声を背中に受けつつ、私は家を飛び出した。
「ワン!」
庭からハナが駆け寄ってくる。一瞬後ろを振り返って、でもお母さんが追いかけてきたのを見て再び走り出した。
あてもなく走る。
昨日ハナと散歩した道、セレス君と出会った道。
私は無意識に、そんな行き慣れた道を駆け抜けていた。
しばらく走り続け、さすがに息も切れてきて立ち止まる。それでも現実から逃げたい…家に戻りたくない私は、よろよろと歩いた。
ふらふらと、知らない道に入る。辺りの空気は鬱蒼としていて、まるで映画で見たスラム街みたいな…怖い雰囲気だった。
その中でもひときわ目を惹くビルがあった。
と言っても…廃ビルのようで、窓は割れ、壁は落書きでいっぱい、見るからに長い間放置されている。
「…高い…」
…ここから飛び降りたら、死ねるかな。
そんな考えがぼんやりと浮かぶ。ふらふらとした足取りのまま、私は廃ビルに吸い込まれて行くように入って行った。
案の定中もボロボロで真っ暗。階段は残っていて、崩れないか少し心配になりながら上がって行く。
ぼー…っとしたまま上がっていたため、いつのまにか最上階に来ていた。この先は…屋上?
屋上へと行くための扉は、釘と木材で雑に留められ閉ざされている。それでもボロボロだから開かないかと押したり引いたりしてみても、やっぱり開かない。
「…何で」
怖いのを我慢してここまで来たのに…。
足が疲れ、階段の踊り場にしゃがみ込んだ。
ふと、階段に目をやる。
…ここからでも飛び降りたら、死ねる…?
足に力を入れ、何とか立ち上がる。冷たい空気の中、階段を見下ろした。
すると、誰かが来る足音が聞こえた。
驚いて固まっていると、見覚えのある白い姿がひょこっと階段の下から顔を出す。
「あれ!のどかちゃんじゃん!」
「…え?セレス君…!?」
階段の下から私を見上げるのは、昨日初めて会ったばかりの…セレス君だった。
「何でここに…」
「いや、ここ僕ん家だし」
「ぼ、僕ん家!!?」
思わず聞き返す。家?この廃墟が?
「のどかちゃん死ぬ気ないんじゃなかったの?僕ん家さあ自殺の名所らしくて、よく飛び降り自殺しようと人が来るの。だから屋上への扉を閉じたんだ」
この雑な留め方はセレス君だったのか…
「死ぬ気…。…死にたくなったの」
「急だねー!」
「…もう、死にたいよ」
セレス君が階段を上ってくる。何となくそのまま動かずにいると、私の手を握った。
「へ」
「死にたいならもっとおすすめしたい事があるからさ!僕とお話ししよ!」
にっこり笑うセレス君を、呆然と見つめる。
「…おすすめ?」
「うん!ほらほら早くー!」
もしかして…。セレス君は、私を説得しようとしてる?
「わ、私、本当に死にたいの!説得しようとしても無駄だから…」
「説得?」
セレス君が不思議そうに振り返る。
「のどかちゃん死にたいんでしょ?」
「…うん」
「別に止めないよぉ」
にんまりと笑うセレス君に、私は再び呆然としてしまった。
…でも、それで良いんだ。何で私は驚いてるの?止められたくないから、ああ言ったのに…。
「僕の部屋だよ!」
セレス君に連れられて着いたのは、その部屋だけ電気のついた…人一人の部屋にしては広めな、ドラマでよく見る会社の社長室みたいな部屋だった。




