第1章 学園編 始まり
2025年12月10日。地球に大厄災が起きた。異世界から魔王がイギリスに転移してきた。突然の事だった。その報せが入った頃にはイギリスは血の海になっていた。最初は何が起こったか、全く理解できなかった。自称魔王なんて笑っちゃう。僕も友達も何かのドッキリだと思った。仮に本当の事であっても誰かがどうにかしてくれる。そう思っていた。
1ヶ月後には大西洋を渡った魔王軍がアメリカ軍を壊滅させ、さらにロシアもほぼ制圧したとの報せが入った。敵の数が多すぎて銃では大した損害を与えられなかったらしい。また核兵器によっていくらか倒せたが、勢いに乗る魔王軍は止まらなかった。ついに日本にも上陸した。魔王は九州から北上を進めている。僕も今は北海道に避難している。そろそろ覚悟も決めた。
あと最近、人間が魔法を使えるようになった。僕もそりゃあ驚いた。指の先から火が出たんだからね。身体能力も驚くほど変わってしまった。
今日は奇跡的に捕らえられた魔族を尋問することができた。そしてここから全てが変わった。魔王軍は魔王、魔族、魔物がおり、魔物は魔王と魔族の出す魔力から生み出されるもので、知性はない。魔族は物理攻撃に強く、魔法でないと倒すのが難しいらしい、それこそ核兵器でもないと。ここからが本題だ。私の考えだが、彼らは魔法を多用し魔力を放出している。その残滓を僕ら人間が吸ったことにより、体に魔力が取り込まれ、小さな魔法が使えるようになったと。そこで一つ考えついた。魔族の一部を人間に取り込んだらどうなるか。
実験を始めた。そしてついに完成した。魔族の心臓は魔力を製造する器官で、それを液体化し注射する。完成には魔族1人分の体を費やした。そして僕の体の半分は魔物化した。実験に失敗は付き物だからしょうがない。でも僕は人間のときは比べ物にならない程の力を手にした。指先から出るライター程度の火は、車を丸ごと焼き尽くすような炎になった。拳は岩をも砕く。そして、強力な《能力》が宿った。僕は《生命操作》。生物の生命力を増やしたり、減らしたり、他にもできることはあるが、ここでは割愛しておこうかな。
残された魔族は残り3人、100人しか強化できない。現在北海道に逃れた者は600万人程。そこから選りすぐりの戦士を選ぼう。魔王軍はすぐそこまで迫っている。急ごう。
100人の能力者によって魔王軍を日本から撤退させた。新たに得た魔族から能力者を生み出そうと思ったが問題が起きた。注射してすぐに体が全て魔物化してしまった。定かではないが、既に人間に魔力が浸透してしまっていて、体が拒絶したと考える。
これ以上魔族に対抗できる人間を増やせないことが分かった。しかし嬉しい事に、魔物を取り込まなくても能力が発現するものが出てきた。魔族を取り込んだ者には敵わないが、大きな戦力になるだろう。
「.....とまあこんなことがあり現在になったわけだ。この方は研究を自分の体で続けた結果、亡くなってしまった。日記もこれ以降は消失してしまったらしい。
次は訓練だから遅刻するなよー」
今読んだのはとある科学者の日記みたいなものだ。人類を救った英雄なんてかっこいいなぁ。それに比べて俺はFクラスなんて..... 。まあ《黎明能力》もないししょうがないか。
黎明能力とは100年前、魔族を取り込んだ際に発現した能力をいい、自然発生的に発現した通常の《能力》と区別されている。
理由としては二つ。
一つ目は黎明能力は遺伝するからだ。本家筋、長男に発現しやすい。しかし必ずしも子どもが黎明能力を持って生まれてくるとは限らない。何代にも渡り、初代能力者以降発現しない家系もあり、逆に3人兄弟のすべてに発現することも過去にはあった。
そしてもう一つは純粋に強いからだ。通常の能力とは比べられないほどに。
通常の《能力》は遺伝ではないというのが今の考え方だ。しかし発現した場合、その能力は似た傾向があるのは事実。実際、俺のじいちゃんは破格の能力の2つ以上の魔法を複合できる《混成魔法》。父さんは普通は魔法は同時に発動できないが、それを可能にした《二重魔法》。そして俺も父さんに似たような能力だ。
俺のいる名古屋魔導学院はA〜Fクラスからなり、Aクラスは黎明能力者が存在するほどの優秀なクラスだ。
黎明能力者は途轍もなくレアだから大半は無能力者で僅かに能力者がいる。しかしこの学年だと、生徒400人に対して黎明能力者が6人と能力者が50人程度だ。黎明能力者は通常、1つの学年に1人いるかいないかであることから考えると、かつてないほど黎明能力者が揃った学年である。
「いっけね!次、戦闘訓練だった!」
あの入学から半年たったがまだ慣れないことだらけだ。