事故..
小汚い男は凄い形相の男4人と女1人に睨まれても平然としていて、数分間沈黙が続いた。
何もわからないかのように口を大きく開け脳に酸素を沢山運ぶ。声を少し出し、涙も少し出た瞳を擦った。
苛立たししげに鷹志が舌打ちをした。
口を開きかけたがそれを遮るように蒼羽が鷹志の前に手を伸ばした。
鷹志が止まったのを確認すると男に向き直り口を開く。
「お前、どこから来た?
名は?」
聞くと人差し指で自分を指し他の6人を見回した後、ヘラっとしたように軽い口を開いた。
「どこから来たかは知りませんよ。
俺はずっと1人で生きることに精一杯だったので。
名も無いですぜ。そもそも名はそんなに大事ですか?」
そう言われ小汚い格好と言葉を思い蒼羽は目を伏せ
「そうか…
そうだなぁ…
お前がどんな場所で育ったかは想像くらいはつく。
俺も似たようなもんだからなぁ…」
呟くように言うと男は食いつくように腕を掴みキラキラとした目で蒼羽を見た。
「同じなの!?うそだろ!?
本当だとしたらそこまで小綺麗になるのになにしたんだよ。」
冗談を言うように軽い言葉に一切の重みも想いも感じられず蒼羽は呆れたように鷹志の方へ寄った。
蒼羽は親はいたがこの街に来てからそれまでの記憶は思い出さないようにしている。
辛い思いをしたことだけを曖昧にしか思い出さないように。
「俺は、お嬢様に拾われたんだ。
お前みたいに汚かったよ。俺も…」
目を細め柔らかい雰囲気を出しながら言った。
瑠架が小さく
「ドブで産まれたんかと思ったもんなー」
と、真顔で蒼羽を見ながら言った。
蒼羽が人差し指を立てて自分の口元に持ってきた。
「恥ずかしいな…
内緒で。」
そう言うと少し場はなごみ横目で小汚い男も釣られて無邪気な笑顔になっているのが見えた。
その姿に昔の知り合いを…幼き自分が大切にしていた者を思い出し、目を伏せた…
蒼羽は溜息を1つつくと男の頭に手を乗せ微笑んだ。
「俺が拾ってやる。
俺はお嬢に拾われてここまで来た。
その俺が拾うってことはお前は、お嬢様に救われたんだ…
次はお嬢様を救え。
その手伝いくらいはしてやる。」
そう言われ嬉しそうに男は大きく頷いた。